表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/119

第10話 自励式電磁石界磁型ブラシ付き分巻型直流電流発電機――なげーよ!

ゴーレムと戦うとき


貴方が戦士であれば


倒すのは簡単ですがコアを傷つけるのは難しいです


貴方が魔法使いならば


岩を砕くのは難しいですが、コアを壊すのは簡単です


――冒険者へのアドバイス


 ついにこの日が来た。


 材料集めに東へ南へついでに地下へ。


 これでやっとモータが作れる。


 アルタに頼んで部品は全部錬成済みだ。


 本人は工場の整備に行ってしまったので一人で――。


「がんばるぞー」と意気込むヘルメット――そういえば一人じゃなかった。


 謎のしゃべるヘルメットが今回の助手だ。


 けど手が無いからあまり役に立たない。


「よし、銅線マキマキの時間だ」




 モーターというのはとても種類が多い。


 あまりに多すぎるので現場で正式名称を使うことは滅多にない。


 大抵は開発品番とかプロジェクト名とかで呼称する。


 これから製造するモーターの厳密な名称を付けるとしたら――。


 『自励式電磁石界磁型ブラシ付き分巻型直流電流発電機』ってところだろうか。


 ――いやっなげーよ!!


 だけど正式名称にこだわらないおおらかなのが電気エンジニアの良いところ。


 作るのは直流モーターってだけの話だ。


 その中でも主流といえるのは永久磁石を用いた直流モーターになる。


 昔子供たちの間で流行ったミニカーに使われているモーターと同じだ。


 残念ながらこの主流であるモーターはまだ作れない――磁石が無いのでしかたない。



 もし永久磁石モーターを作るのなら磁石の製造から始めなければいけない。


 そのためにやる事は、内に秘められた力に目覚めて雷魔法を習得するしかない。


 頑張って習得したら――



『我、契約せし紅雷の精霊よ、轟雷の拍手を以て、容赦なく敵を撃ち負かして破壊せよ! サンダー・ボルト!!!』


 ――といった感じの事をしてMPならぬ精神をゴリゴリ削れば磁石ができる。


 残念ながらどれほど魔物を倒してもそんな秘められた力は覚醒しなかった。


 魔法が発動しないのならしかたがない。


 この脳細胞を働かせて代わりの物を用意してあげる。


 そう《コイル》を作ればいい。



 コイル――丸い鉄の球体にネジを3本そしてU字型の磁石を2つ、最後に謎の目玉がないのでゴーレムコアをはめ込めば完成である。 あとは電気ショックを鉄に浴びせれば磁化した鉄が磁石になる。



 ……もちろん冗談だ。


 コイルはもっと簡単で鉄の棒にエナメル線をグルグルに巻き付ければ完成――ホントに簡単すぎて困ってしまう。


 それはつまりこういうことだ。


 永久磁石を探し回る必要はないし、天然の磁性鉄を掘り当てる必要もない。


 もちろん嵐のなか凧揚げをして雷に打たれる必要も無いし、雷魔法を覚える必要もない。


 鉄の棒に銅線を巻きつけただけだ。


 なんて低労働力なんだ! 素晴らしい!!


「うーん、磁石が電磁石?」と理解しようと頑張るヘルメット。


「そう、磁石の代わりに電磁石を使う。そして電磁石の電力をモーターからおこなう」


 この自分自身で電磁石の電力を作る方式を自励式。


 外部の電力で電磁石を動かすのを他励式という。


 まあこれでモーターの一番外側であるステーター(固定子)のコイルができる。


 しかしモーターというのは回転する軸があり、その軸側にもやっぱりコイルが付いている。


 だからその次の工程はモーターの内側であるローター(回転子)の開発も必要になる。


 といってもやる事は一緒でコイルと謎の部品を作るだけだ。


 ちょっとステーターコイルより多く作っていい感じに重ねる謎の構造になる。


 けどまあ地味に頑張ればなんとかなる。


「よーし、がんばるぞい」



 ◆ ◆ ◆



 一日中コイルを巻き続ける作業。 何度も何度も繰り返し巻き続ける。 ステーター側はただ巻くだけでいい、ローターコイル側は――横から見ると歯車みたいな形の鉄心に少々複雑に巻いていく。


「98……99……100!」とヘルメットがカウントをする。


「やっと100巻きか――まだまだ先が長いな」


「100から先はいっぱいでいい?」


「それならもう一度最初からカウントしてくれ」


 その後も銅線を手作業で巻き続ける。


 そうして翌日にはステーターとローターができあがった。


「やっとできた……」


 やったよついに文明人らしいものができたよ。


 工場の保守が終わったアルタがやってきて「これがモーターですか?」と聞いてきた。


「いや、まだ完成じゃない。これからローターの先端部分の《整流子》を作る」


 整流子――モーターが回転するのは固定した電磁石から磁力が発生し、それに回転するコイルが反発するからである。 つまりローターコイルは回転角度によりN/S極が変わらなければならない。 そこで整流子にブラシを擦りつけて回転により流れる電流が変わるようにする。 つまり電流の方向を切り替えるスイッチのようなものである。



 ――この辺の原理はまさにフレミングの謎の手と一緒に覚える話だ。


 けど大抵は理論しか教えてもらえない。


 ここからが実務。


 整流子とコイルは合わせて電機子という。


 実際は9~12対ぐらいが複雑に組み合わさっている。


 大量の電機子が増えるってことは整流子がピザのように分割されているってことになる。


 そうしないと平等にフレミングの謎の力が発生しないからね。


 そうなると各領域を薄く絶縁しなければいけない。


 そう薄くて高温に強くて絶縁体で――そして大量に手に入る!


 そんな都合のいい素材が必要だ。


 いえーい! そこで《雲母》を加工したマイカプレートの出番だ。


 この絶縁体を整流子の間に付けて絶縁する。


 ブラシ付きモーターというように整流子にはブラシが必ず付く。


 これはこすれて削れることが前提だから黒鉛つまり炭素でつくる。


「――という事で錬金術でブラシを作ってもらいたいなー」


「ふふ、任せてください」と言って張り切ってブラシを錬成してくれた。


 後は押し当てるバネと電気を通す銅線を付ければできあがり。


「まだまだ先は長いなー」


「大丈夫です。私ももっと手伝いますから一緒に作りましょう」


「僕もいるよー」としゃべるヘルメット――気持ちだけ受け取っておこう。


「よし、それじゃあモーターを作ろう!」


「おー」という合図とともにモーター開発の最後の仕上げを始めるのだった。



 遠くではマヌケモノが「モァ~」と欠伸を立てながら大岩の上で昼寝をしている。



 ◆ ◆ ◆



 翌日になり作業場には一つのモーターができあがっていた。


「ついにできた」


 時間がかかったがなんとかモーターができた。


 ちょっとした冒険はしたがそれでもこの何もない所からモーターを作ることができた。


 素晴らしい!!


「それでは水車でモーターを回しますね」そう言いながらモーターを動かす。


 もちろん先端はどこともつながっていない。


 慎重にモーターから出ている銅線の両端を近づけると「バチバチ」と火花が散り。


 ――電気が流れた。


 原始人生活3か月ちょいでやっと電気を作れた。


 コイツはサイコーだ!


「バチバチだー」と一緒にはしゃぐヘルメット


「電気……カミナリ……」と考え込むアルタ。


「どうしたんだいアルタ君。なにか考え事か?」


「いえ、もしかしたら電気というのは純粋な高エネルギーつまり魔法に近いのかもと思い……つまりゴーレムにとって危険なものかもしれません」


「ああ、その可能性はあるかもしれないな」


 ゴーレムの体は脆い鉱物や樹でできているがコアだけは無類の強度を誇っている。


 しかし弱点は存在する。


 それは魔法と呼ばれる高エネルギーによる攻撃だ。


 ハンマーで叩いても、燃え盛る炉に放り込んでも、強酸のワームの胃液でも壊れないが魔法でなら破壊できる。


 それはつまり魔法のみ干渉することができるってことだ。


 だからこそ錬金術なら魔石に干渉してゴーレムにすることが可能ということだ。


 そういった理由から魔法が効かないゴーレムコアは存在しない。


「ちょっと試しに一個使って電気を浴びせてみるか」


「わーい、もしかして死ねるのー!」と死へ憧れがあるヘルメット。


「ダメです。絶対にダメです」と言い「この子達を人体実験にするなんてダメ絶対」と反対するマザーゴーレム。


 不死の無生物を人体実験というのは……と言いたいところだが正論を突き付けるDV工場長になるつもりはないからここは引き下がるか。


 そもそも貴重な労働力を実験で消費するのは良くない。


「オーケーそれじゃ安全のためにも薄いマイカシートでコアを覆った専用のゴーレムを用意しよう」


 もちろんヘルメットにも透明なシートを張っておく。




 さて――はっきり言って製造がとても面倒なのがモーターである。


 今後のためにもより構造がシンプルで扱いやすい永久磁石モーターが欲しいところ。


 だから次は永久磁石を作る。


 なーにちょっと材料集めればすぐにできるはずだ。

ウッド{ ▯}「モーターはよくわかんない」


ストン「 ▯」「しかたないね。できるだけ専門用語減らしてるし図が無いと解説できない構造だからね」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ