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第9話 洞窟クモ

あんた!

いつまで寝ているの!

そんなんじゃマヌケモノになっちまうよ!!


――日常あるある

 

 燃え盛る鉄鉱山、洪水で崩れる銅鉱山、鳴りやまない水車、爆風が注ぎ込まれる高炉。


 無数のゴーレム達の気楽な会話と作業音。


 自ら作り上げたとはいえ気が付いた時には爆音の中でずっと開発を続けていた。


 そしていつの間にか騒音の中での活動に安心していた。




 今は静寂が支配する洞窟の中――予備の松明の『パチパチ』という音だけが鳴いている。


 静寂がこれほどまでに心をか細くするとは思ってもみなかった。


「わーくらーい、しずかー」


 おっとコアのみだけど、一体やかましいのがいたよ。


 今の装備は左手に松明、右手に鉄のハンマー、そして頭にはいつものヘルメット。


 そしてヘッドライトみたいにゴーレムコアを取り付けている。


 そう、さっきから《ヘルメット》がしゃべっているのだ!


 洞窟は二手に分かれていたが片方は壁を登らなければいけない――つまり風の通り道と化している。


 もう一つはモノが先に進んだ方向で、そよ風が流れ込んでくる。


 つまり実際は一本道という事だ。


 だからモノを追いかけるように奥へ奥へと進んでいる。


「あ、見てみてーきれ―」とヘッドライトがしゃべる。


 よく見ると洞窟の壁や地面など岩肌がキラキラと青く輝いている。


「これは青い結晶だな――そしてコイツはたぶん危険な鉱物だ」


 青い宝石として有名なのはサファイアだろう――あとはアクアマリンやブルートパーズなど美しく価値がある宝石は多い。


 ここまでは無害で価値のある宝石の話。


 しかし『美しい鉱物には毒がある』というように天然の鉱物はけっこう危険だ。


「危険危険―!!」とはしゃぐ不死のゴーレムコア。


「危険だがちゃんと使えば有用な資源だ。出来るだけ持って帰ろう」


 これが本当に危険物なのか調べないとわからない。


 だから慎重にそして知的にこの鉱物を採掘しないといけない――そうハンマーで!



 ――――――


 ――――


 ――



 おっとチェストがいっぱになるまで青い結晶を採ってしまった。


「工場長―ひまー」


「わかってる。そろそろモノを探しに奥へ行こう」


 最弱にして有毒の魔物――マヌケモノはいかなる魔物にも襲われず、そしていかなる人間にも危害を加えない。 日向ぼっこと力比べが好きな変な魔物。 その性質から益虫ならぬ益魔物と分類されている。 しかし事故により谷底なり川底なりで死ぬとたちまち周囲一帯を『死の大地』へと変えることから扱いに困る迷惑な存在でもある。 比較的おとなしく乱獲されても日向ぼっこをしている――そうした姿から付いた名前がマヌケモノ。 精霊教会が魔物を軍事利用するのは精霊の意思に反すると公表するまであらゆる戦場で使われていた――。


 ――というのは物知り博士アルタ談。


 益魔物としてできるだけ近くにいたほうが安全だが落盤で死ぬとその時点でこっちの人生の終わりだ。


 合流したいけど合流したくない――ああ、何という矛盾。


 とりあえず探しつつも珍しい鉱物を見つけたらそっち優先でいいかな。



 ◆ ◆ ◆



 それなりに進んだら出口の光が見えてきた。


『コォォォォォジオォォォォォォ』と風が鳴る。


 そして流れ込んでくる風に乗って甘い香りがする。


 洞窟を抜けるとそこは開けた場所だとすぐに分かった。


 ――ここは谷だ。


 川によって削られたのかそれなりの深さの谷となっている。


 そして標高が下がったのかこの谷間には森が形成されている。


 向こう側の切りだった崖の上の方には青い花と銅の鉱脈が見える。


 そして一番近くの木の枝にマヌケモノがぶら下がっている――その姿まさにナマケモノ。


 どうやら果実の木らしくさっきからモノが果物をムシャムシャと食べている。


 風に乗った果物の匂いに誘われてきたようだ。


 それにしても――。


「甘くておいしそうだな――その果物!」


 やはり食事というのは大切で特に糖質というのは欠かせない栄養だ。


 雑草と魚では賄えられない脳細胞の栄養素――ブドウ糖。


 それが目の前にあるならばとりあえず大量に集めよう。



 ◆ ◆ ◆



 それなりに集まった。


 その間にモノも木の上から移動して岩の上で日向ぼっこしている。


 集めたはいいがコレは本当に食べられるのだろうか?


 さすがに猛毒の果物だと取り返しがつかない。


 猛毒魔物の食レポはあてにならないし――どうしたものか?




 考え込んでいると「コージョーチョー」と後ろからドスの効いた声。


「うお――ッ!? ビックリした! なんだアルタ君か」


「なんだアルタ君か、ではありません。せっかく階段を作ったのにどこにもいなくて心配したんですよ」


 どうやらお怒りモードのお母さん。


「いや、すまない。モノを探していたらこんなところまで来てしまった」


「そうでしたか――あれ、この果物はマルムですね。甘くてとてもおいしいですよ」そう言いながらほとんどをインベントリにしまってくれた。


 どうやら毒はないようだ。


「――それでは一つ、シャキ、シャキ。……うん美味しい」


 この味はリンゴだな――ああ、久しぶりのリンゴだ。


 なんか涙が出てきた。




 ――。 ――――。



 『カタ、カタカタ』と洞窟内でも聞こえた音がする。


 ――なぜ?


 うーん、いやな予感がしてきた。


「そろそろ拠点に帰還しよう」


「わかりました」


 階段ができていると知ってかさっきまで寝ていたマヌケモノはいつの間にか来た道を戻って洞窟へと行っていた。


 なんて自由気ままな――。



 ――――!



 さっきからこの音は――!?


「こ、工場長……」


「気づいたかアルタ君。周囲に魔物がいるな」


 周囲の岩陰や森の奥から1mほどの巨大なクモが現れた――しかも大量に。


 数百匹はいるだろう魔物の群れにぐるりと周囲を囲まれている。


「刺激しないようにゆっくり離れよう……」


 だが喋るヘルメットが「あ! いっぱい虫さんだーー!!」と叫ぶ。


「バカ大声出すなッ!! ――あ」



「キシャァァァァァ」と一斉に襲ってくるクモの化け物。


「きゃあああ」と悲鳴をあげるアルタちゃん。


「キャッキャ」と楽しむヘルメット。


 とっくにいなくなっているモノ。


「とにかく全力で逃げるぞ!!」



 ――――――


 ――――


 ――



 走る、走る松明を片手に洞窟の中を駆け抜ける。


 青い絨毯を一足飛びに越えていき。


 洞窟の奥へと舞い戻る。



 鍾乳石に阻まれた岩陰から動く影。


 岩陰から――。


 天井から――。


 どこからともなく現れる洞窟クモの大群。


「げほ、げほ――なんとか最初の所まで戻ってきた」


 落ちてきた坂には階段が錬成されている。


 先行していたモノが驚いたようすでいる。


 あとはここを登るだけだ。


「アルタ! 可燃物を撒いて足止めをしてくれ!!」


「あ、はひ。今すぐに――インベントリ=アルコール!」


 可燃性のアルコール類を撒いて松明で火を点ける。


 燃え盛る炎がクモの進撃を阻む。


「キシャァァァァァ!!」と三方から鳴き声がするけれど近づいてこない。


 さすがに火には弱い様だ。


「よし、今のうちに地上に戻ろう」


 ビックリしているモノを引っ張って、長い階段を登り切り何とか地上に戻ってきた。


「ハァ……ハァ……疲れた」


「モゥ……モゥ……」


「もう虫ヤダ……」


 それにしても最近体力がついてきたのか前より走れるようになっている。


 明日は筋肉痛だな。





 その後、入口を錬金術で塞いで早々に銅鉱山へと移動を開始した。


「そのコアは――そのままでいいのですか?」とヘルメットを見ながら聞いてくる。


「ああ、全然反省していないから当分はヘルメットに嵌めたままでいいだろう」


「そんなー動けない―」と不満をたらしているが無視だ無視。


 ちょっと教育しないと今後の工場運営が厳しいからな。



 ◆ ◆ ◆



 なんとか銅鉱山に戻ってくることができた。


 鉱山は無事で順調に粗銅を精製している。


 今は戦利品である謎の青結晶を調べるところだ。


「それでこの青い結晶は何なんですか? とりあえずキレイだったので出来るだけ採掘しましたが」


 流石は知的好奇心と鉄で構成された錬金術師殿。


 考えることは一緒だったらしく。


 インベントリに例の鉱物を大量にいれていた。


「これから調べるんだけど――たぶんこれは《カルカンサイト》だ」



 カルカンサイト――和名は胆礬(たんばん)。 青く美しい結晶は水と硫酸銅の液体が結晶化したものである。 天然では銅鉱山の坑道の奥に自然成長するが水に溶けやすい性質から産出量は限りなく少ない。 硫酸銅という毒性の高さから劇物指定されている危険な鉱物でもある。



 ――ぶっちゃけ人工的にいくらでも作れることと、高校生の試験範囲という事から理科の実験教材でもある。


 物資不足の鉄器人にはありがたい鉱物でもあるな。




 ちょっとした実験として蒼きカルカンサイトを炉で加熱している。


「あ、ほんとに青から白い粉になりました」と驚きのジェスチャーをするアルタ。


 白くなるのは結晶を構成していた水《H2O》が蒸発して硫酸銅の粉になったということだ。


「さっき水にも溶けたからカルカンサイトで確定だな」


「あ、今度は黒くなりましたね」


 白い粉から煙が出ながら黒くなっていく。


「これは酸化銅になったな。煙は三酸化硫黄といって水と反応させると錬金術師の必需品である《硫酸》になる」


「それではこの粉に木炭を投入すると――」


「もちろん酸素が取れて炭素と結合して二酸化炭素になる。あとには銅だけが残るはずだ」


 ――という事で青から白さらに黒くなってから過熱して木炭の粉を投入した。


 結果はもちろん純銅の出来上がり。


 いえーい!


 けどこの方法による銅の生産は必要ない。


 もっとスマートな利用法があるからだ。


 そのためにもまずは明日モーターを作る。


 そうともエナメル線があり雲母が手に入った。


 あとは根気と計算と死ぬほど頭を使うだけだ。


 それも問題ない。


 なにせリンゴから糖分を補給して脳細胞が活性化しているのだ。


 モーターづくりなんて楽勝だね。


ゴーレムの計算力


工場長<1+1は?


メット「いっぱい!」


工場長<増えるという概念はあるのか……1-1は?


メット「エッチ!!」


工場長<なんでやねん!!




ウッド{ ▯}「油断してたらまーた化学がやってきたよ」


ストン「 ▯」「本筋の開発で使ったらまとめよう」

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