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第7話 ワニス

エナメルが欲しいだぁ?


ああ、釉薬のことか。


それなら陶磁器に使ってるこれでいいだろう。


なにぃ!? 樹脂を溶かしたものだとぉ!


ふざけたこと言ってんじゃねぇ!


ぶっ飛ばすぞぉ!!


――口より手が速い頑固職人

 なんとかそれなりの銅線を作ることができた。


 しかしこの銅線ではモーターは作れない。


 メッキ加工をしていない裸銅線でモーターを巻いてもショートするゴミでしかない。


 だから塗装してエナメル質のメッキを施した《エナメル線》に加工する必要がある。


「今日はエナメル線の開発だ」


「ところでエナメルというのは何ですか?」と見知らぬ単語に興味を持つ錬金術師殿。


「ああ、エナメル質とは主にワニスという樹脂を溶剤で溶かした液体を乾燥させたものだよ」


「ワニス……ニス……塗料の一種という事ですか」


「そういう事――まずは錬金術でワニス製造装置をつくる」


 ワニスというのは《プラスチック樹脂》と《謎の溶剤》を混ぜてグツグツ加熱すると溶剤で樹脂が溶けだしてワニスが出来上がる。


 問題はこの材料が両方とも手元にないってことだ。


 しかたがないので手元の材料で《プラスチック樹脂》と《謎の溶剤》を作らないといけない。


「もしかして街で集めた《樹の樹脂》を使うのですか?」と察しがついたようだ。


「イエスその通り、代用品としてその《天然樹脂》でワニスを作る」


 人工的に造った合成樹脂つまりプラスチックはまだない――だから天然樹脂で代用する。


 謎の溶剤もといクレゾールも同じように代用品を使う。


 その名も《パインオイル》だ!!


 いえーい!


 またまたコイツの出番だ。


 これで樹脂を溶かしてワニスを作る。


 松の木というのは有用な化学物質を含んだとても優秀な木ってことだ。 パインケミカルと呼ばれるぐらいには技術が確立されている。 適切な植林と伐採をすることにより半永久的に枯渇しない再生可能資源という側面から脱石油時代に注目されているホットな分野でもある。 唯一の欠点は全需要をまかなうために膨大な土地を植林しなければいけいことだろう。 ま、お邪魔物のせいでここで再生可能パインケミカルを実現するのは不可能に近いけどね。

 残りの懸念材料はこの松が《イセ松》という謎の松ぽい何かでほんとに溶剤として使えるのかという点だろう。 こればかりは実際に使ってみないとわからない。



 ――たとえ失敗しても問題はない。


 前回爆発したとはいえメチルアルコールという溶剤も精製している。


 なんてことはない――黄銅鉱が見つかったときからずっと溶剤の精製はしていた。


 オーイエ―それじゃあワニスをちゃっちゃと作ろう。



 ◆ ◆ ◆



 1mほどの大釜に《樹脂》と《溶剤》を入れて、ミキサーで撹拌する。 大釜の下から木炭で加熱して液状のワニスを製造していく。 大釜は圧力鍋みたいにフタをしており、ミキサーの軸から蒸発した水分が噴出しないように木製のパッキンで密閉している。 しかし性能が不十分ゆえに所々で蒸気が噴出している。



 ――やった! やった! 出来た!


 ちょっと小ズルい方法ではあるがワニスのようなものを作ることができた。


 アルタが「最後にもう一度確認しますね」と言いながら《インベントリ》で大釜の内側に出入口を作りワニスを少量だけ取り出す。


 そしてワニスを取り出せたら入念に調べた。


 ちょっとした裏技としてなけなしのスキルを活用したのだ。


 装置を止めずに中身の変化を知ることができるのはとっても便利!


 確認が終わったらまた容器の中に放り込む――それの繰り返しだ。


 思うような反応が起きなかったら溶剤を足したり、あるいは全部排出して総入れ替えして実験をつづけた。


 実験室レベルの容器十数個で何度も反応と条件変更を繰り返して――今は大型の容器で大量生産をおこなっている。


 もっと時間がかかるのかと思ったけど丸一日でそれなりのワニスができた。


 久しぶりに徹夜したぜヒャッホー!


「よし、この調子でエナメル線を作るぞ!」


「ダメです。おおよその製法は判りましたので今日はもう寝てください」


「え……いやーなんかテンションがいい感じでハイハイだからもう少し――」


「寝てください。工場長が健康であることが大事なのですから――」


「あ、ハイ……」


 しかたがない――お母さん諭されたで今日はもう寝ることにする。


 しかしベッドでも寝る前の妄想もとい明日の計画を考えることはできる。


 ワニスができたということは次はエナメル線の製造か――出来るだろうか?



 エナメル線とは銅線にワニスを何重にも塗った銅線のことだ。 やる事は簡単だ――ミシンの糸のように巻いた銅線を一本引き出す。 そしてワニスの容器に上から入れて、滑車のような物を通して容器の上から出す。 そのままだとワニスがしたたる――つまり均一なメッキにならない。 そこで針に糸を通すように銅線を器具――ダイスに通して余分なワニスを取り去る。 これで一定の厚みにできるはずだ。

 ワニスを塗布するだけではエナメル線はできない。 そこで次のメソッドとして焼付炉で熱することで乾燥と硬化をする。 しかし直火焼きにするとせっかくのワニスが炭になる。 だから焼結炉では直火焼きではなく炭化炉のように間接的に炙ってあげる。

 そうしてワニスが乾いたら塗装工程と焼付工程を何度も繰り返す。 最低でも4回以上は繰り返す。

 一筆書きのようにワニスから焼付までを繰り返すからそれなりに横幅の広い装置になるだろう。 しかも最初の一回目は銅線を手作業で張り巡らせなければいけない。 おっとめんどくさいな。



 ――まあ、なんとかなるだろう。



 ◆ ◆ ◆



 エナメル線製造工場では裸銅線を紡ぎとり液体に漬けて焼いて乾燥させることを何度も行う。 ワニスに浸みこんだ溶剤が焼付工程で気化して工場内部は鉄が焼ける臭いとアルコール系の臭いが混ざり合って漂っている。 赤銅色の銅線はワニスを幾重にも重ねていき最後には不透明でガラス質なエナメル線へと焼かれていく。



 ――ついにエナメル線ができた。


 かれこれ掘削から数えて半月は経っている。


 順調だ――とても順調だ。


 しかしこれだけじゃモーターはできない――残念ながら材料不足だ。


 残念ながら手元にないので外に探しに行かなければいけない。


 よろしい久しぶりの冒険というこうじゃないか。


 そのためにもアルタの許可をもらわないといけない。


「モーターの材料探しに外に出ようと思う」


「外ですか……うぅ、あまりお勧めできません。他の選択肢はありませんか?」と引きこもり開発大好きっ子。


 わかる――わざわざ危険地帯に出るなんて馬鹿げてる。


 ひとまず安全な拠点にできる限り引きこもって開発だけに集中したい。


 けれどゴーレムによる探索は限界がある。


 ゴーレムでは欲しい鉱物をピンポイントで見分けることはできない。


「モーターができれば研究の選択肢が増えるんだ――だから一緒に外に出よう」


「はぁ……わかりました。それでは『モノ』を呼んできますね」と渋々ながら冒険に出ることを許可してくれた。


 『モノ』とはあの《マヌケモノ》のことである。


 《()モノ》を()ヌケしたという事でモノと呼んだらそれが定着した。


 そのモノが「モァ~」と欠伸をしながらもっさりとした動きでやってくる。


「ところでアルタ君、モノと一緒なら魔物に襲われずに脱出できるんじゃないか?」


 しばし「うーん」と考え込んでから「たぶんですが即死ですね」とバッサリ切り捨てられた。


「残念ですが魔物には野良のゴーレムやスライムなど毒が無効の存在もいます」


「ああそうだったな――ならあきらめたほうがいいか」


「それに知りうる限り山並みに巨大な魔物もいましたので気付かれずに潰される可能性もありますね――ですのでおすすめはしません」


「げ、ホントに脱出できるのか心配になってきた」


 巨大な魔物か――怪獣だな。


 よし、ネガティブなことを考えてもしょうがない。


 今は目の前の問題だけを考えよう。


 そう、モーターの材料である《きらら》を見つけ出すことだけに集中だ。

本音


アルタ「安全な拠点で研究だけしていたい……」


工場長<安全な後方で開発だけしていたい……


モノ「モゥ……」


アルタ&工場長&モノ「はぁ~~……」






ウッド{ ▯}「ねぇねぇストン」


ストン「 ▯」「なんだいウッド」


ウッド{ ▯}「工場長達が後書きに進出し始めたよ」


ストン「 ▯」「とりあえず工程でも載せて対抗しよう」


製造工程


合成樹脂 + クレゾール溶剤《加熱》 → ワニス


純銅《熱間圧延》 → 銅線


銅線 + ワニス《塗布》 → エナメル(マグネットワイヤー)

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