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第5話 浮遊選鉱

ピッチが鉱石を集めるのですじゃ。


だからワシらはナベに大量の水と油を入れて鉱石だけを簡単に取り出すことができたのじゃ。


じゃが、油が高すぎて相変わらず貧乏じゃがな。ふぇっふぇっふぇ。


――油で破産した老人

 岩肌が露出していた鉄鉱山と違い銅鉱山は表土に覆われている。 それを洗い流すために水道橋を作り膨大な水量で洗い流した。 露出した岩石に対して木材と木タールそして少量の木炭を燃料として加熱する。 鉱山一帯は常に蒸気と黒煙が立ち昇り、使い終わった水は砕いた岩を粉砕する水車の動力となる。 大規模な鉱山開発の傍ら一部のゴーレムは青い花を目印に鉱床を見つけるための探索を開始する。



「それなりの量が集まったが――予想通り含有量が少ないな」


「そうですね。しかしこれほど少ないとは知りませんでした」と無表情に驚いてみせるアルタさん。


 目の前には数日間の成果である銅鉱石の山。


 この銅鉱石の一部を取り出して錬金術で錬成と分離を何度か繰り返して、純銅とその他に分けた。


 ここから黄銅鉱の銅含有率を逆算していくと――鉱石の約30%が銅になる。


 いえーい! 黄銅鉱が1トンあれば300kgの銅が手に入る!!


 しかし世の中というのはそう上手くはできていない。 この《黄銅鉱》を含んだ岩石――銅の鉱脈には黄銅鉱が数%しか含まれていない。 そう黄銅鉱は塊で存在していなかったのだ。

 こういうことだ。 山のような銅鉱石およそ100トンを砕いて粉にして『謎の装置』で分離をすると約1トンの《黄銅鉱》が手に入る。 この《黄銅鉱》1トンをさらに『謎の溶鉱炉』で熱すると300kgぐらいのほぼ銅が手に入る。


 つまり100トンの岩石から頑張って300kgのほぼ銅を取り出す計算だ。


 驚異の0.3パーセント!


 オーマイッガ!!



 ――という事で錬金術で精練した後には《純銅》の小石がちょこんと転がっている。


 錬成陣の処理容量と含有率の関係から数百回ぐらい錬成を繰り返すとやっと1トンの銅が手に入るってことだ。


 つまるところ鉄鉱石の10倍以上の時間をかければ何とか錬成できるけど、残念ながらウチのアルタ様は『自給100万ドルの錬金術師』なのでそんなことに時間を割くことはできない。


 ゴーレムの修理に工場のニョキニョキ、それから新しい領土の拡張とマルチ展開するあの人をこの程度の精練に拘束していたら損でしかない。



 やっぱり錬金術での精練は効率が悪い!


 ふー落ち着け。


 だからこそマンパワーじゃなく、マシンパワーで解決しようと決めたんだ。



 ◆ ◆ ◆



「よろしい、化学の力で土砂の処理をしてしんぜよう。アルタ君、この前作った《パインオイル》を出してくれる」


「はい、まだまだいっぱいありますよ」と言いながらオイルを出してくれた。


「浮遊選鉱にこの植物油を使う――」



 ――浮遊選鉱ってのは親水性と疎水性を利用した選鉱方法だ――岩石は親水性。 たとえばその辺の石を水に濡らすと弾かずに馴染んでくれる、これが親水性でありイメージしやすい。

 逆に金属はだいたい疎水性――水はなじまないけど油が馴染む。 例えば鉄のフライパンは油を引かなくても水を弾いてくれるのは経験的に知っている。 油汚れがこびり付くというぐらい金属の調理器具に油はよく馴染む――このことからもその性質を物語っている。

 だからこそアルタの鉄壁のボディを含めて金属部品をサビから守るのに油が使われている。


 ――オーケーやる事は簡単だ。


 まず水で満たした選鉱装置を用意する。


 これに銅鉱石の粉に水を加えて――ドロッドロにした物体を放り込む。


 そのドロッドロでヤバくなった装置に今度は《パインオイル》を少量流し込む。


 そして水車動力で下から空気を送り込み、混ぜ混ぜしながら泡を発生させる。


 ヘドロを入れた洗濯機みたいになっているけど気にしてはいけない。



 このパインオイルを含んだ泡が――。


 《疎水性の金属味の粉》を捕まえて水面に集めてくれる。


 逆に《親水性の岩石味の粉》は水に捕まって底に沈む。


 ――これで1%ぐらいの黄銅鉱と99%のその他を分離できる。




 懸念としてパインオイルを精製したときに『このオイルは本当に銅だけを取り出せるのか?』


 ――と疑問に思い《始まりの街》にいた時にちょっとした実験をした。


 そう、なけなしの全財産である小銭から10円玉を取り出して油が馴染むか調べた。


 研究室レベルの小さな装置をつくり《石を粉砕した粉》と《銅の粉》をあえて混ぜた。


 そして装置で分離できるのか楽しい実験をアルタと二人で行った。


 もちろん10円玉を砕くのは法律違反なので、たまたま財布の中に入っていた銅の塊を代わりに粉砕して実験をおこなうことにした。


 いや~よかった、たまたま銅の塊を持っていてよかったー。


 そして実験の結果、異世界の謎の松から作ったパインオイルでも銅だけを取り出すことに成功した。


 イエーイ!


 だからあとは大型の選鉱装置をつくって、銅鉱石を取り出すだけだ。



 ◆ ◆ ◆



 鉄鉱山の10倍以上の規模の破砕装置群で岩石を砕いていく。 浮遊選鉱機が一日中稼働して10トン以上の銅鉱石を処理して数100kgの黄銅鉱の粉を選別していく。

 あとには大量の廃棄物――スラグがたまっていきダムのような場所に集められる。



「うわー銅の泡でヤバい色になってるな」


「うわー体に悪そうなので、気を付けてくださいね」


「うわー入っていい?」


 と怖いもの知らずの不死のゴーレム。


「いろいろ危険だからおふざけ禁止な」


 つまらなそうに『はーい』と返事をして手順通りの作業を始める。


 不安はあるがそれでも『謎の装置』またの名を浮遊選鉱装置で黄銅鉱を効率よく集めることができそうだ。


 この工程でだいたい20~40%に銅品位が上がる。


 ――最初の数%から比べるとこれだけでも魅力的だ!




 さて次は『謎の溶鉱炉』で黄銅鉱を溶かしてほぼ銅を手に入れる。


「次は……溶鉱炉でこの量を溶かせばいいのでしょうか?」と疑問形で質問してきた。


「産出量が少なすぎるから溶鉱炉を作るより錬金術で精練したほうが速いんだよな~」


「ああ、やはりそうですよね!」


 疑問に思うのもわかる――まさにそこが悩みどころだからだ。


 溶鉱炉が効率よく機能するのは連続稼働するときだ。


 そうでなければ意味がない。


 錬金術というお手軽分離法が確立している世界では稼働、停止、取り出し、修繕、再稼働は無駄が多すぎる。


 結局、溶鉱炉の修繕で錬金術を使うのなら直に錬成したほうがマシだ。


 一日に100kgなら錬金術――。


 1トンを超えたら溶鉱炉による稼働――。


 計画としてはこれでいいだろう。



 ◆ ◆ ◆



 銅がそれなりに集まらないと次の段階には進めない。


 そうなると急速にやる事がなくなってくる。


 そうヒマだ。


 オーケーつまり『謎の溶鉱炉』の実験をしてみたくなった。


「計画は計画として溶鉱炉でうまく溶かせるか実験をしたいな~」


「実験ですか――面白そうですね」と実験大好きっ子な錬金術師。


「お! ノリがいいね。それじゃあ小型の《自溶炉》を作るか!」



 謎の溶鉱炉こと自溶炉――黄銅鉱の主成分が銅と硫黄であることに着目した近代溶鉱炉。 第二次大戦後に確立した製錬プロセスであり現代の主流となっている。 その最大の特徴は鉱石自身の酸化反応熱により、文字通り『自熱で溶解する炉』である。 これにより旧来手法よりはるかに少ない燃料で銅マットを精製することができる。


 ――ヒャッハー! 新鮮な溶鉱炉だぜ!!



 ◆ ◆ ◆



 ピザ窯程度の実験用溶鉱炉には大量の空気をフイゴ送り込む送風口と少量の燃料と銅鉱石の粉を投入する入口が上部にある。 大量の空気と燃料を投入して銅を溶かそうとするが酸化反応がうまく起きなかった。


「く……ダメだったか」


「む~理論から察するに酸素濃度と水分辺りが問題のようですね」と冷静な指摘から自溶炉の問題点が浮かび上がってきた。


 つまり酸化熱反応を起すには大量の酸素――それも高濃度の酸素と発熱を妨げないためにカラッカラに乾いた空気が必要だった。


 今はどちらもない。


 これでは次の工程である謎の溶鉱炉その2である《転炉》を作ることもできない。



 転炉――製鉄所の溶融した鉄に大量の酸素を供給して不純物を取り除くための炉。 この不純物を取り除き銑鉄を鋼鉄に『転換する炉』が名前の由来となる。 銅転炉も基本は同じであり、自溶炉で残った大量の硫化銅をこの転炉によって硫黄を除去して、《粗銅》を精練する。



 青銅器時代にはまだ早かったか……。


 チクショー!


 ふ~落ち着け。


「決して反応していないわけではないのでもう少し設備が整ってからもう一度挑戦しましょう」


「オーケーアルタ、道具が揃うまで違う開発を続けよう」


 しかたがないので当分は普通の溶鉱炉で大量の燃料を燃やして溶かすことにした。


 銅は鉄より低い低温――1085℃で溶ける。


 溶かせないわけじゃない。


 燃料は無駄になるが仕方がない。


「思っていたよりも早く開発が終わりましたね。これから《始まりの街》に戻りますか?」


「う~ん、僅かといっても錬金術で《純銅》が手に入ったことだし、このままモーターを開発しよう」


「噂のもーたーですね」と電気工学初体験のアルタさん。


 そうだとも道具が足りないのなら作ればいい。


 そのためにも電気を作れるようにならないと話にならない。


 錬金術のお陰とはいえついに《発電機》を作るための《銅線》を作るための《銅》ができたってわけだ。


 すばらしく順調じゃないか!!

認識の違い


工場長<つまり黄銅鉱自身が発熱するんだよ。


アルタ〔 lΘl〕「まあ、鉱物の中に炎の精霊がいるのですね!」


工場長<う~ん……そだね! (あとで化学式の勉強会だな)



◇ ◇ ◇



ウッド{ ▯}「まーた内容詰め込み過ぎてるよ」


ストン「 ▯」「次回は発電機かな? お邪魔物がいないと軽く1000年は歴史をすっ飛ばすからね工場長は」


ウッド{ ;◎}「とりあえず製造工程を乗せとこうか」



製造工程


銅鉱脈《水力&火力掘削》 → 銅鉱石・粗鉱(1%)


銅鉱石・粗鉱《破砕&粉砕》 → 銅鉱石・粉(1%)


銅鉱石・粉 + パインオイル《浮遊選鉱》 → 銅精鉱(35%)


――ここから計画倒れ――


銅精鉱《自溶炉》 → 銅マット(65%)


銅マット《転炉》 → 粗銅(99%)

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