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第2話 いつもの採石場

石灰岩のモース硬度は3です。

2の石膏より硬く、4のガラスより軟らかい。

硬貨でこすると傷をつけられるくらいの強度です。


――いろんなモース硬度その2

 ギルド風木板リストによる管理は結構気に入っている。


『ボウガンの開発』『ボウガンの訓練』などの新しい武器関連が完了したら木板を外す。


『木酢液の備蓄』『食糧一か月分』などの備蓄関連が完了したら木板を外す。


 数日前から始まった物資集めは今日ようやく終わった。


 そうして最後の木板『樹木から樹脂を集める』を掲示板から取り除いた。


 後には板を打ち付けた釘穴がいくつも空いてるだけだ。


「アルタ君――首尾はいかほど?」


「はい、ゴーレム100体ほどが先行してワームの駆除剤を散布しているので合流するころにはワームもいなくなっているはずです」


 ワームの駆除剤――つまり木酢液のことだ。


 これのおかげで山脈の資源調査を安全にできる。


 調査する場所は南北を分断するほどの大山脈。


 アルタさん情報によると全長は2000㎞を超え、幅も50㎞はあるらしい。


 今回の遠征ではそのごく一部である山手線一個分の捜索を予定している。


「それでは銅を探しに出発!」


「はい、必ず見つけましょう」とキラキラのアルタさん。


 この遠征で絶対に銅を見つけ出す!



 ◆ ◆ ◆



「おいっちに! おいっちに!」


「はぁ……はぁ……」


「あまり無理をしないでください」


「だ……大丈夫だ。問題ない……」


「いいえ――少し休息にしましょう」


「そこまで言うなら休もうかなぁ」


「ええ、そうしましょう。ではこちらに椅子を置きますね」と至れり尽くせりのスキル《インベントリ》持ち。


 インベントリは便利だが入れられる容量に制限がある。


 おおよそ10(立方メートル)程度だ。


 今回の遠征は最初よりも大量の物資を運んでいる。


 そのほとんどが水になる。


 チェストによる力業で水車を動かしているのだからしょうがない。


 道なき道を踏破するためにゴーレム達は二体一組となって、肩に木の棒を担ぐ駕籠方式で物資を運んでいる。


 ということはどうやら鉄器時代から江戸時代になったてことだ。


 こっちの世界ではチェストやインベントリを活用して荷物運びをする者たちを総じてポーターという。 元の世界だと底辺というイメージがあるがこっちの世界だと地位が高い。 なんでも体系的な魔法が確立する前の時代――無からモノを出すというのは『精霊の御業』に等しいからだ。 そんな歴史的な背景があるから神殿の高位の神官あるいは巫女としての地位が約束されていたという――その名残だそうな。

 原始的な時代が終わり魔法文明が発達しはじめると、インベントリ持ちは権力者たちの信用を勝ち取れば《王の金庫番》、《軍の生命線》そして《錬金術の秘匿者》となる。 つまり錬金術師アルタが偶然スキル《インベントリ》を持っていたのではない。 《インベントリ》のスキルを持っていたから高名な錬金術師に弟子入りできたという事だ。

 しかしそういった高位になれるのは優秀な人材だけで、それ以外はどこかの組織の()()つまりポーターとなる。 ちなみにポーターですらない一般人は消耗品だ。 これだから野蛮人の発想は恐ろしい!


 ――結論、アルタはとっても優秀。





 ◆ ◆ ◆





『ギャァァ…………』


 遠くでワームの雄叫びが聞こえてくる。


 想定よりも数が多いらしく立ち退きにはまだまだ時間がかかりそうだ。


 残念ながら最初にワームと遭遇したところにはめぼしい資源は無かった。


 今は鉄鉱山の水源があった場所より奥に行ったところを調査中だ。


 ワームや他のお邪魔物に遭わないように北へ、東へと進んだ――だいたい10㎞は進んだかな。


 この辺は石灰岩の岩石地帯になっている。


 石灰岩の白い肌を露わにして、岩のあいまには高山植物がびっしりと生えている。


 白と緑の緩やかな傾斜がどこまでも続いている。


 石灰岩というのは炭酸カルシウムを50%以上含んだ岩の総称だ。


 これほど白いという事はかなりの純度だと思われる。


 そうなると目の前には石灰岩というすばらしい資源が横たわっているってことだ。


「アルタ君、そしてゴーレム達よ。目の前に資源があったらどうする?」


「――唐突ですね。しかし使えるのなら拾うべきでしょう」


「拾えばいいのー?」とつつましいゴーレム達。


 そのとおり――あるのなら取って使えばいいじゃない。


 石灰岩を砕いたものを石灰石といい。


 それをさらに粉にして炭酸カルシウムを抽出すればあらゆる開発に使える。


 もっとも有名なのはチョークだ。


 相棒である『ひのきのぼう』を失ったが、代わりにチョークという近代的な物を手に入る。


 それだけなら、そこまで重要性は無いが工業的には最重要なのが石灰である。


 石灰岩と鉄の精鉱を混ぜれば、炉に投入したときに炭酸カルシウムが鉄以外と溶鉱炉内で反応してくれる。


 つまり効率よく不純物を取り除けて品質が上がる。


 ならばやる事はひとつだろう。


「掘削だ! それも大量掘削だ!!」


「そんなに必要なのですか――そうなるとまた火力掘削ですか?」


「いや石灰岩はそこまで硬くないから物理的な衝撃で掘削する」


 そうまずは右手にハンマーそして左手にクギを持ち――。


「とりゃ!」と掛け声とともにクギを打ち込む。


 すると釘が石灰岩に刺さり、何度も打ち付けると奥までめり込んだ。


 あとは釘打ちを等間隔にすれば自然とヒビが入りキレイに割れてくれる。


 もっとも大理石の建築資材が欲しいわけじゃないから端から削っていく。


「確かに鉄鉱石と比較すると軟らかいですね。しかし人力だとやはり摩耗します」


 その通り、つまりクギ打ちをする機械を作らなければいけない


「そこで人力ボーリングマシンを作る」


「また、へんなの作るのかな」「なんだろうね、爆発するのかな」とゴーレム達がヒソヒソしながら変な期待をしている。


「爆発するわけないだろ! ごほん……三脚と滑車それからロープと鉄のパイプでつくるから爆発はしない」


「なんだー」とつまらなそうにつぶやくスリル中毒のゴーレム達。


「それでは石灰石採掘所を開発しますね」とお仕事モードに入ったようだ。


 滑車というのはうまく組み合わせると2倍の距離引っ張れば1/2の力で済むようになる。


 これを動滑車という。


 この基本的な原理を利用してゴーレムの摩耗を抑える。


 ゴーレムは弱い力で継続するのは得意だ。


 なぜなら疲労やストレスという人間的概念がそもそもない。


 あるのは疲労破壊という材料力学的な概念だけだ。


 重りをロープで括り付けてゴーレム達が引っ張り上げる。


 そして手を離すと重りが鉄のパイプを岩石に打ち付ける。


 そうやって割れた石灰石をチェストにしまっていく。


 これで水車がなくても掘削が捗る。


 目指すは段々畑のように地形に沿った掘削がいいだろう。


 そうつまり――『いつもの採石場』をつくる。


 またの名を《怪人たちの処刑場》。


 いい感じに開発が進んだらゴーレムを5色に色塗りして後ろで火薬を爆発させたくなってくる。


 すっげー楽しそう!!



 ◆ ◆ ◆



 ふぅ、それなりの形になってきた。


 まだ掘り始めではあるが木の杭で掘削範囲を決めてある。


 それからお邪魔物が侵入してこないように周囲を有刺鉄線で囲って、いつものトラップを大量に設置した。


 やる事は石灰岩を砕いては投げ、砕いては投げてチェストに収納していく。


 集めた石灰岩は鉄鉱山の破砕機で砕く予定だ。


 さてゴーレムだけでも採掘できるようになったことだしそろそろ――。


「工場長、先ほど先遣隊が青い帯状の地層を見つけたと報告がありました」


「あったよ! あったよー」とはしゃぐゴーレム。


「ちょうどいい、石灰の生産はゴーレムに任せて銅山開発に取り掛かろう」





 ――石灰岩採掘場から少し離れた場所。


 自らの縄張りに入り込んだ獲物を遠くでじっと見つめる魔物達がいる。


 魔物達は採掘場の周りに罠が張り巡らされているのに気づき襲撃することはない。


 そのうち獲物が出てくるであろうその時を待っている。


「グルルルゥゥ……」


 武人でない工場長は駄々洩れの殺気に気付かない。


 生物ですらないゴーレム達も同じく気付かない。


 魔獣はじっと獲物を見定めてその時が来るのを待ち続ける。


ウッド{ ▯}「結局誰も来なかったね」


ストン「 ▯」「そもそも登場人物を極限まで減らしてスリム化してるから誰も来てくれないんだよね」


ウッド{ ▯}「いいや感想欄に『人を増やしてくれ』と連日圧力をかければ作者も折れるはずだ!」

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