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第1話 始まりの街

始まりの街――古代魔法王国の建国者たちが集い王国を興した地とされている。


いくつもの争いと戦乱から遷都し、その後は交易の拠点として栄えたとされている。


滅亡後に三代目勇者が活動の拠点とするべく目指したがついに見つけられなかった。



今では冒険者で賑わう貿易拠点を総じて《始まりの街》と称している。


――始まりの街その語源

 《始まりの街》そこは周囲を固い城壁で守られた城塞都市。 遥か昔に滅んだかつての都には石とレンガの建造物しか残っていない。 しかし目を凝らして調べるとそこにはかつての名残が残っている。



 久しぶりに戻ってきたが相変わらず何もないところだ。


 これが人の営みがあれば多少はマシなんだけど――石の廃墟だ。


 この街は周囲を城壁で円形に囲った街だ。


 そして中央には川が流れ南北を分断している。


 橋なんて都合のいいものはとうに崩落している。


 それでも城壁をよじ登って遠回りすれば北側に行ける――つまりメンドクサイ。


 栄えていたときは《始まりの街》と直球なネーミングが付けられていた。


 そんな廃墟でも使えるところがある。


 まず城壁――これはかなり頑丈に造られてさらに魔法という錬金術の親戚のような力が付与してある。


 次にお城――同じく丈夫に作られて街の中心にある。 人員が300体の我々では手に余るので放置している。 ちなみに滅亡の時にめぼしい物資は全部使い尽くしたらしく何もなかった。


 宝箱の無い廃墟なんて価値は無い!



 そして最後は冒険者ギルド。


 ドラゴンにでも襲われる想定なのかあるいは冒険者同士の乱闘対策なのか知らないが、とにかく頑丈な造りでいまだに原形を保っていた。


 このギルドは河川に沿った繁華街にある。


 予測だが刈り取った魔物や資源を運河で他の都市に運んでいたんだろう。


 だから中央の河川の近くに陣取っている。


 なかなかいい場所なのでココを拠点にしている。


「つまり今は工場長ではなくギルドマスターってことになる」


「それではギルマス今後の方針ですがいかがいたしましょう?」とノリノリのアルタさん。


「そうだな――まずは遠征用の食糧集めだ。それから魔物除けのアイテム(木酢液)と鉱山開発の準備をする」


 やることリストを作り、木板に書き込み、それをギルドの壁に打ち付ける。


 班分けしたゴーレム達にそれぞれ指示を出し、目標が達成出来たら板を取り外す。


 とってもわかりやすい!


 後はゴーレム達がやってくれるからとってもラクチン――最高だ!



 ◆ ◆ ◆



 食糧と材料調達の指令を受けたゴーレム達が忙しく動き回る。


 これで物資が集まるのならいい事なんだが――。


「とってもヒマだ~……」


「それでしたらずっと療養生活でしたのでリハビリとして散歩でもしてきてはいかがでしょう」とサビサビが提案してくれた。


 付きっきりで看病してくれたのは――そうだ何かお礼を考えよう。


 例えばそのサビサビの体を何とかするためにサビ止油を作るのはいいかもしれない。


 そこで掲示板に打ち込まれたお仕事リストから油が手に入りそうなのを適当なのを選んで見て回ろうと思う。


 えーと、『畑を耕す仕事:危険度 低』、『森を調査する仕事:危険度 高』


『工場設備をつくる簡単なお仕事:危険度 中』


 なんで簡単なお仕事の危険度が『中』なんですかね?


 まあいいや。


 まずは『畑を耕す仕事:危険度 低』から見ていこう。



 ◆ ◆ ◆



 異世界に来て最初の一ヵ月。 衣食住を確保するために畑を耕すことにした。 そのために城壁のすぐ内側に野菜畑を整備し、管理をウッドゴーレムに任せていた。



「――お、すこし芽がでてるな」


 一区画丸ごと畑にしたそこは緑の線が何列にもわたってできていた。


「あ~人間さんだ~、水やりしましたよ~」とウッドゴーレムが言ってきた。


「ああ、そのまま畑仕事がんばってくれ」


 この畑では苦労して集めた野菜たちを育てている。


 主にニンジンの味がする雑草、キャベツのような雑草、そして大豆のような雑草。


 最後にイネのような雑草。


 う~ん、どれもマズい。


 野性味あふれる雑草たちだが畑で懇切丁寧に育てればおいしい野菜になってくれる――だったらいいな~と期待している。


 というのもこれらは元々ここで栽培されていた野菜とかが野生化したものだと考えられるからだ。


 この立派な城壁で外界から守られた地元産の野菜たちだ。


 農業は専門外だからうまくいく保証なんてない。


 それでも雑草を抜いてこまめに水を与えればおいしく実ってくれるんじゃないかと淡い希望を抱いている。


 残念ながら油の原料にはまだなりそうもない。


 しかたがないから次に移ろう。



 ◆ ◆ ◆



 お次は街の中央に流れる川での魚釣り。


 といっても釣りの才能なんてないから例によってワナを仕掛けて放置している。


 人が存在しない川では魚が大繁殖するのだろうか?


 とにかく面白いぐらいよく捕れる。


 味は野菜よりはるかにマシ――唯一の楽しみでもある。


 さてこの川魚から魚油が採れると思われる。


 だがいわゆる臭気というか匂いが嫌だ。


 一週間の軟禁もとい療養生活に感謝のお礼をするのに魚臭いってのは嫌すぎる。


 そう建前はお礼なのだから嫌がらせをしてはいけない。


 だから別の案だな。



 ◆ ◆ ◆



 街の外には調査部隊というゴーレムの一団が出ている。


 本来は壁の向こう側の人の捜索だが早々に魔物に返り討ちにあったので形骸化している。


 集団で行動すれば襲われにくい――という事で今はランクの低いキノコや果物捕りを仕事にしている。


 しかし魔物が徘徊する森を強行する事から難易度・高の危険な任務になっている。


 食べられる野菜が見つかることは稀で大抵は薬士様用の怪しい材料を採ってくる。


 今回の調査についでに特定の木材を持ってきてもらうことにした。


 どうやらちょうど戻ってきたみたいだ。


「開門―!!」と城壁の上で警備していたゴーレムが言い。


 ソレを聞いた門番が施錠を外し、城門がゆっくりと開いていく。


「うーん……」


 めぼしいものは果物ぐらいだろうか。


 あとは魔石が少々。


「ところで人の痕跡はあったか?」


「なにも見つけられませんでしたー」とハッキリと答えるゴーレム。


 ですよねー。



 では木材が手に入ったことだしアルタ工業に製品を発注するとしよう。


「アルタ君、油を手に入れるためにこの水蒸気蒸留装置をつくってもらいたい」


「このまえの蒸留装置とだいたい同じですね。……爆発しませんよね?」と現代科学に疑惑の目を向ける錆の錬金術師。


「そこは大丈夫だ。水蒸気を扱うから爆発の心配は限りなく低い」



 水蒸気蒸留――主にアロマオイルやハーブ水を作るのに使う装置。 水に溶けない植物油を分離して抽出する方法。 水を入れた容器を熱して沸騰、出てきた水蒸気を植物に吹き付ける。 そうして水蒸気にオイルを含ませることで熱による性質の変化を抑える。 そのオイルを含んだ水蒸気を冷やして液化したオイルを集める。

 簡単なプロセスのため原理さえ知っていれば家庭用の調理器具の組み合わせでも自家製ハーブオイルを作ることもできる。



 ――言ってしまえば蒸し器の食材を無視して水蒸気をどうにかして集める装置をつくればいい。


 まあ形はいつもの蒸留器とだいたい同じになるんだ。


「まあ、蒸気にあたっていれば爆発はしなさそうですね」と納得してくれたのかニョキニョキを始めてくれた。


 さて松の木はまたの名をパインという。


 DIYでおなじみのパイン材のことだ。


 そのパイン材から水蒸気蒸留で手に入れたオイルを《パインオイル》という。


 つまり油が手に入った。


 いえーい、《パインオイル》ゲットだぜ!



 ◆ ◆ ◆



 昨日作ってくれた蒸留器に水と松を入れて熱する。


 半日経過して《パインオイル》と思われるものが手に入った。


 そこでちょっと実験。


「アルタさーん。財布を出してくれる?」


「こちらですね」と元の世界から持ってきていた財布をインベントリから出してくれた。


 中には小銭が少々入っている。


 さて水と油が同じ粘度で透明のときどう見分ければいいのか?


 触ればもちろんわかるし舐めてもわかる。


 水とは疎水性つまり混ざりにくいので二つを合わせてもわかる。


 この疎水性か親水性かは『水と油』以外にも『水と金属』でも同じである。


 金属とは疎水性――つまり水を弾くのだ。


 実験としては10円玉に一滴たらせばわかる。


 そして油なら同じ疎水性からよくなじむ。


 金属に油を差すのは金属と相性が良くてうすーい膜を作ってくれる――つまり酸化防止の層ができる。


 何のことは無い一般家庭の常識の話だ。


「という事でこれがアルタ用のサビ止め油だ」


「ふふ、ありがとうございます」


よし、この調子で依頼を順番に達成していくぞ!

ウッド{ ▯}「危険度 低ってどんな仕事?」


ストン「 ▯」「摩耗が少ない仕事だね」


ウッド{ ▯}「ちなみに僕らのできる仕事ってランクでいうとどのぐらい?」


ストン「 ▯」「……Fランク」


ウッド{ ;◎}「FランクギルドにSSS冒険者来てください!」


ストン「 ▯」「もしよろしければ勇者が裸足で逃げ出す魔大陸までお越しください」

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