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第11話 北部戦線異常なし

魔王様! 我ら鳥人軍団は魔大陸へと赴きとうございます。

北大陸人共も何やら動きがありますし、何より我々を呼んでいる気がしてならないのです。

魔王様! 魔王様! どうかあの声の主、いえ我らが女神の元へ行かせてください!


――この後、女神の教会を建てて留まらせる魔王様

『定期連絡! 本日も北部戦線異状なし!』


 偵察気球からの連絡だ。


 都市の上空には無数の気球が浮かんでいる。


 偵察用は1機のみだが基礎研究用のために条件や材料違いの気球が120機浮かんでいる。


 工場の真上だと墜落事故の危険があるので城壁の上を囲むように飛ばしている。


 一面銀世界となった工場都市。


 あのスタンピード以降、南下してくる魔物――というより活動する魔物はいなくなった。


 束の間の平和を享受した工場長達はその間に次への備えと当初予定の飛行船建造計画を同時に進めていた。


『報告! 南部の森で煙が上がっています!』


 それは火炎放射部隊が南の蜂の巣を燃やしているからだ。


 工場長は自然や周辺の魔物を刺激しないように資源開発をするという消極的開発方針から、魔物がいるのなら積極的に殲滅するという積極的な方針へと切り替えていた。


 それはつまり僅かに有った自重を止めたということだ。


 今現在は可能な限りすべての魔物を倒すという自重しない方針になった。



『報告! 旧中継拠点を奪還しました! 今晩は黒山羊の肉を食べられますよ』


 鉄道の開通と同時に使わなくなった中継拠点に黒山羊の魔物が住み着いていた。


 今後、鉄道に壊滅的な影響があるとして睡眠中に砲撃を開始して倒したのだ。



『報告! ワームとクモの掃討作戦は成功しました! みんな喜べ今日から毎日ワーム酒を飲めるぞ!』


『やったぁぁぁぁ!!!!』


『こら無線連絡で遊ばない』


『はい工場長』『了解工場長』『山羊肉どうしますか工場長?』


『肉は傷まないように冷凍してから運んでくれ。アルちゃん山羊って料理したことある?』

『あら、山羊ですか。それは初めてですがお任せください。美味しい手料理を作ってみせます』


『工場長無線で遊ばない』『……無線の私物化よくない』『山羊持ち帰ります!』


『あ、はい』


 魔物狩りによって嗜好品である魔酒が手に入る。


 魔力回復ポーションの試作品をゴーレム達はいつからか魔酒と呼んでいる。


 倒せば酒が飲める。


 その影響でゴーレム達は率先して魔物の討伐をするようになった。


 工場長はレギオン以外の魔物は柔らかいので軽機関銃よりさらに銃身が短い短機関銃を開発した。


 銃身が短いという事はエネルギーがあまり乗らないので射程は50メートル程度となる。


 それでも量産性の良さから主に南部の守備部隊に配備されている。


 不眠不休で魔物狩りをするゴーレムによって南部に残っていた魔物は一掃された。






『定期連絡! 北部戦線異状なし!』


 籠城戦から1か月、北部では巨大な塹壕線を構築している。


 さらに鉄道を通らせて補給兵站体制を整えていく。


 そうして北部の広大な土地を要塞化していく。


『こちら工兵部隊。雪と氷で塹壕を作れない。爆薬と人員の追加を要請』


『了解。直ちに手配する』


『こちら第三防衛ライン! 塹壕維持ができない! 水に浸かる水に浸かる!』


『了解。直ちに排水装置とコンクリート工事を手配する』


 塹壕は掘るのも大変な労力が必要になるが、維持するのも大変だ。


 第一次大戦中も塹壕に対する認識が国によって違っている。


 例えばドイツは深く掘った塹壕に鉄筋コンクリートで補強して強固な陣地を作っていた。


 対して連合国は堀の浅い即席の塹壕に木材で補強する程度がほとんどだったという。


 工場長は泥による機関銃の故障を嫌いコンクリート舗装の塹壕を作らせることにしていた。


 その作業を効率よくするための機械も作っていた。


 それはディーゼルエンジンを搭載した乗り物――つまり自動車の試運転を開始したということだ。


「これが車ですか」アルタは興味津々に見て回る。


 彼女はすっかり体調がよくなり、そして冬服を作ることができたので外を出歩くようになった。


 それでも冬服にしては薄着ということもあり基本は室内で開発や研究をしている。


「スカスカの鉄筋……車輪は分厚いゴム?」とカル。


「まだ試作だからね」


 試作品は自動車というにはお粗末である。


 それはフレーム構造の車体にフォークリフトなどで採用されているノーパンクタイヤを取り付けたものだ。


 空気を入れるエアタイヤを製造する技術がない中で苦肉の策ともいえる。


 トレッド部の溝も作れなかったのでタイヤチェーンを巻いてある。


 今は雪積もる銀世界。


 どのようなタイヤだろうとチェーンを巻いた方がマシだ。


 そう判断したのだ。


「とにかくこれが動けば土木作業が結構捗るはずだ」


「ふふ、それではエスコートしてくださいね」


「はい、お姫様」


 そう言ってアルタの手を取り、何かの映画で見たエスコートの仕方を思い出しながら乗せる。


 そして試作機に搭乗する。


「それじゃあエンジン始動」


 ディーゼルエンジンが力強く唸り、アクセルを踏むとゆっくりと前進する。


 まだトランスミッションは完成していない。


 簡単なクラッチがあるぐらいだ。


「あらあら! うふふ、すごいですね!」


 そう言って体を寄せる彼女に少しドギマギする工場長。


 すぐに気持ちを切り替えて、直進、曲がる、止まる。


 その後はバックや八の字蛇行など試してみた。


「一通り試したから運転はこの辺でいいだろう」


「ふふ、完成したら私も運転してみたいです」


「ああ、その時はまた一緒に乗ろうね」


 その後、「僕も僕も」というゴーレム達が乗って運転を始める。


 そして――。


「ギャッ!? ぶつかった!」


「だからアクセルとブレーキを間違えるなと何度も――」


「進めと止まれが同じところにあるのは欠陥だと思います!」

「そうだそうだ!」

「目の前の欠陥を放置する人類がオカシイ!」

「そうだそうだ!」

「僕らゴーレムに合わせた設計を要望する!」

「そうだそうだ!」


「ぐぬぬぬぬ……」


 こうして人類並みの器用さがないゴーレムに合わせてブレーキは足踏み、アクセルは手動レバーという変わった方式となった。


 このアクセルレバー形式はフォークリフトなど低速で安全な走行が求められる工場で採用されている。


 これをリーチ式と呼ぶ。


 ついでにブレーキはペダルを離すと動く仕組みになっており、パニック時に離したら必ず止まる。


 リーチ式フォークリフトを導入している工場では知っていることだが、車の運転が好きな現代人には到底受け入れられない操作システムだ。


 工場長は思う、あれ? これがこの世界のスタンダードになるの? マジで嫌なんだけど……。


 どの世界でも一度出来上がったモノを強固に支持する保守派というのが存在する。


 アクセルとブレーキを最初から分離してしまうとソレに慣れ親しんだ人々が変化を拒絶する。


 工場長は今後ゴーレム労働組合というアクセルレバー至上主義者たちとの不毛な論争を永遠に続けることになる――かもしれない。


 それから数日後にはショベルカーが塹壕工兵部隊へと供給された。








『定期連絡! 北部戦線異状なし!』


『了解さん』


『工場長、第五弾薬工場が稼働しました』


『やっとか。生産した弾薬は防衛ラインの備蓄庫に順次送ってくれ』


『了解!』


 工場都市では銃火器の増産体制に入っていた。


 1分間に500発程度の生産能力。それは1日で70万発以上になる。


 1年間365日とするなら年間2億発を越える。


 まさに比類なき火力。



 …………。



 果たしてそうだろうか?


 これは言い換えると1分間に500発以上を撃つなら備蓄を溶かしていくということだ。


 それはたった500名の機関銃歩兵が1発撃てば減り続けることを意味する。


 これを足りると言っていいのだろうか?


 つまるところどれほどの人員でどれだけの規模の防衛をするか――つまり国境線の長さが問題になる。


 この地は山脈から大湖まで50キロメートルもの幅がある。


 そこに塹壕を作るのは別に問題はない。


 そこにどれだけの守備部隊が必要かが問題となる。


 仮に1メートル1人だとすると単純計算で5万名もの守備部隊が必要になる。


 縦深、という横の広がりではなく縦の深さによる防衛力、を保つならさらに増員する必要がある。


 縦深防御として最低3ラインの塹壕線を並行するように作るとしたら、15万名だ。


 さらに東西南北側すべてに同じだけの防備を割くのなら60万名となる。


 付け加えて都市の防衛に1万名を守備として擁するなら総計61万挺の軽機関銃が必要になる。


 そして最前線が1分間に200発撃つのなら――それは恐ろしいことに分間2000万発の生産能力が必要ということになる。


 これは狂気だ――そして物理的に不可能だ。


 だから工場長は考える。


 いかに少ない弾薬と人員で防御すればいいのか――。








『定期連絡! 北部戦線異状なし!』


『工場長、大豆と小麦の出荷が始まりました』


『本当か! ならば新しい料理を――大料理大会を開催しよう』


 そう言って始まったのが第五回食生活改善推進強化委員会。


 この2か月の間に何度も挑戦していたが食糧の安定供給が課題となり挫折していた。


 すでにギルドの一室にはこたつが用意されている。


 そして審査委員である工場長、錬金術師、モノ、カルで囲んでいる。


「それではこれが新しい商品だ」と工場長が言う。


「これは固い小麦粉の糸ですか?」


「その通り、小麦粉を細い麵にして、それを大豆油で揚げたものだ」


 それはインスタントラーメンの成りそこないである。


 インスタントラーメンは1963年に発明されその製法は翌年に公開している。


 それは製法を独占するより社会全体で共有するべきという考えに基づいている。


 ゆえに製法はネット上に公開されているが工場長は料理に興味も関心もなかったので知らない。


 鶏ガラのスープは何とかなるが、卵やかんすいの知識がないので軟らかさや弾力を持たせることができない。


 それはつまり――。


「お湯でほぐれて、まずくはありませんが――」


「モ~ッぺ」駄目なようだ。


「……カチカチで焦げてる」


「それ以上言わなくていい。知ってるから」


 未だ料理未満である。


「ふふん、それでは私とカルちゃんの研究成果、豆乳の試飲会としましょう」


「お! こっちはいけそうだな」


 大豆を水に浸けてすり潰し、煮詰めた汁を漉した飲み物――別名ソイミルク。


「うん、美味しい」


「モッケー!」良いようだ。


「ふふ、それはよかったです」


「ふふん、頑張った。むっふー」


 最近余裕が出てきたので錬金術師アルタによって着せ替え人形かのように素体が変わっていき、彼女の子供時代のような顔つきの女の子になっていた。


 金髪緑目、違いがあるとすれば常にジト目ということだ。


 工場長はずっと兵器開発に没頭しており、代わりにこの母娘が飛行船の素材開発――とついでに料理開発をしている。


「モモガ、モムモム、モシュ!」


 そう言って今度はモノが謎の液体を取り出す。


「……モノさんこれは何?」


「さっきはこれが飲める酒だっと言ってました」


 それは口噛み酒。


 モノの唾液からできた酒である。


「パスだ」

「パスですね」

「ああ……アセトンで消毒しないと……」


「モッキー―!!」とおかんむり。


 その後もトリ鍋料理、パンの改良品、発酵食品(全滅)など料理研究の発表会は続いた。







『定期連絡! 北部戦線異状なし!』


『それでは不肖アルタによる発音練習として歌います!』


『いえーい!』『パチパチ』『モッモー!』


『工場長! 無線連絡が取れない隊から不満が出ています! 早急に対策を願います!』


『あ~それじゃあ塹壕ラジオでも作ってみるか』


 塹壕ラジオとは第二次大戦中にラジオを聞くためにその辺の物資を使って作った物である。


 発明者は不明だがイタリアに上陸した米兵が作ったと言われている。


 木片にコイル、カミソリの刃といった材料で作られた鉱石ラジオの一種である。







『定期連絡 北部戦線異状なし』



『こちら西部防衛ライン、湿地帯が氷漬けになって移動困難! 至急対策を求む!』


『こちら司令部。新しい乗り物を製造中なのでしばし待て』


 湿地帯にある石油プラットフォームへの移動はポンツーンに動力を乗せた乗り物を使っていた。


 氷に阻まれて移動できなくなったので、新たな乗り物が必要になった。


「――という事で完成したのが足回りをアルキメディアン。スクリューにした水陸両用車」


「すごい……おっきいです」


「うわーおっきい」


 東西冷戦期に米国とソ連で宇宙競争が繰り広げられた。


 広大な国土のどこかにソユーズ宇宙船のカプセルが落ちても救出できるように開発されたのがZILと呼ばれる足回りがドリルの車両だ。


 これにより戦車が通れないインフラが存在しない湿地帯や沼地から雪原や湖の奥地までどこへでも移動できるようになった。


 工場長はインフラが存在しない都市周辺ではドリル推進移動の方が合理的であると判断したのだ。


 その見た目は巨大なドリルを二つ並べた箱である。


「とにかくこれで雪原でもどこでも移動できる!」










『定期連絡 北部戦線異状なし』


 真冬の3か月間、多少の問題はあるがそれらは解決が可能な小さなものだった。


 そして時間が経つにつれて銃火器が揃い。


 それが安心感を生んでいた。









 ――工場都市から北へ150km。


 高度1000メートルの気球からでは見えない地点にレギオンのコロニーがある。


 とにかく北へ攻め入って大規模攻撃をするという作戦案もあったが、防備なしの状態で攻め入って全滅したら立ち直るチャンスが無くなる。


 そう考えて万全の防御を固めることにした。


 そのコロニーでは女王レギオンが平時に1日1000個の卵を産む――有事にはさらに多く産める。


 それは10日で1万となり90日で9万の兵隊レギオンが生まれる。


 3か月とは失った兵力が癒えるには十分な時間だ。


 総数1000万体のレギオンは春が訪れるのをただ待つのみである。


本編の弾薬生産力2億発とか言うと実世界の生産力とか気になる今日この頃。


という事で第二次大戦中のまずは大日本帝国、小銃用弾薬年間生産量は約4~5億発。

約2倍というと少なく感じますが他にも多種類の弾薬を製造していますので目安程度にとどめておきましょう。

そして石油禁輸措置で潤滑油の質が悪いので職人が手作業で薬莢を作っていたと思われます。

誰か詳しい人来て!


続いてはドイツ、年間40億発前後。

ほぼ日本の10倍ですね。

それでも弾薬が不足したらしいのでやっぱり全然足りませんね。


最後にリアル生産チート国家アメリカ。

小銃用弾薬の年間生産量は250億発!

頭おかしいですね。道理で二正面作戦できるわけです。


ドイツを100とすると10の小人が600の巨人に勝負をしています。


日本さぁ……。


道理でユーラシア大陸の東と西で印象の違う戦争になるわけです。

兵站を軽視とか、大艦巨砲主義を止めてればとかそういう話じゃありません。

全兵器ではないので戦力数値とは番いますが、なんだろう……自殺願望?

以上、実世界の弾薬生産量でした。

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