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第7話 装甲列車

かつて初代勇者が切り開いた港湾都市は半島の中心付近にありました。

そこで長い年月をかけて半島の付け根の部分にグレートウォールと呼ばれる長大な壁を築き上げました。

現在ではグレートウォールの内側に都市があり、冒険者たちは壁の外で魔物を倒すことで経済が成り立っているのです。


――グレートウォール

 東の鉱山を奪還してから数日。


 対岸のレギオン達はせり上がった跳ね橋を器用に上り折り重なることで球を作っていた。


 その球は見る見る上方向へ大きくなり、そのまま倒れれば反対側のせり上がった橋に届きそうだ。


 それは体が小さいが足が長く数も多い、進軍に必要な道具を自らの体で作る工兵レギオンと呼ぶべき種だ。


 工兵レギオンがハシゴとなって橋の上までの道を作る。


 さらに足場となって工兵レギオンのタワーを作る。


 いまレギオンの橋を架けて南部への道が開かれようとしている。


「オーライ! オーライ!」


 そこへクレーンで吊るされたゴーレムが近づく。


「こんにちはぁ~。燃えろ!!」


 そして一緒にクレーンで持ち上げた火炎放射器をレギオンの塊へと放射する。


「ひゃっはー! 燃えてしまえ! 燃えてしまえ!」


 火炎放射器と言われればガスを噴射するイメージが強いが、実際は液体を放射している。


 燃える液体、それもジェル状の――こびり付いたら取れないような液体だ。


 もちろん酸化剤を配合しているので水を掛けようが土を掛けようが火が消えることはない。


 これこそが冷凍放射器が存在せず、火炎放射器が兵器足り得る理由だ。


 火炎を免れて川に落ちたレギオンが怒り狂って川を渡りきろうとする。


「大砲! 撃てぇ!」


 しかし大砲と散弾銃で武装した部隊が鉄の雨を降らせてそれを阻止する。


 橋の支柱にも足場が組まれているし、上から火炎を撒くこともできる。


 渡河というのは守りが強く攻めづらい。


 守るだけなら何とかなる――今のところは。






 工場長は考える、先ほどのレギオンとの戦いはほぼ一方的に勝てた。


 これなら安全と言って良い。 本当だろうか?


 むしろ総計100いや、500体は倒したのに数が減ったようには見えない。


 偵察気球からの報告だと荒野の向こうからまだまだ集まってくる。


 ハチの魔物のように万単位いるとすればいつまで防戦できるかわからない。


 せめて、都市北部一帯は確保して壁を盾に籠城戦をする、そのぐらいは必要なのではないか?


 軍事はわからないが本能が北部一帯を奪い返せと言っている。


 そうしないと北部で異変があったときに全く対応できない。


 そのような北部奪還の方法を考えていると後ろから呼びかける声がする。


「工場長、蒸気機関車の準備が完了しました」とゴーレムが言いに来た。


 作業班による仕事が終わったようだ。


「わかった。すぐに行く」


 工場長は頷いて南門近くの車両製造工場へと向かう。


 北部も重要だが南部の炭鉱も取り戻さないといけない。


 備蓄のコークスと木炭の生産によって高炉は安定的に稼働している状態だが、大量の鉄を生産出来ない。


 つまるところ炭素の供給不足だ。


 だから北部の前に炭鉱を今日取り戻す。 そう決めていた。




 工場に着くと物資を積み込んでいる最中だった。


 改修した蒸気機関車は全面を薄い装甲で覆ってある。


 その見た目は四角い箱に大砲を取ってつけたと言えるもので、煙突だけがこれが蒸気機関車だと主張している。


 それは装甲列車。


 あまりにも物々しい車両は線路を走る要塞と言っていい。


 だが急ピッチで製造したので大砲は屋根の上に溶接しただけ、貨物列車に板を張っただけなど粗も目立つ。


 動力車両以外にも衝突することを前提として、先頭車両は雪かき車のように先端にブレードと呼ばれる板がついている。


 そしてどの車両も10トン以上の重量になる。


 それでも1000馬力の蒸気機関は最大で7000トン以上の物資を運ぶことができる。


 そうなると重量の問題がでてくる。


 鉄の車輪と鉄のレールの僅かな接触面積には最大で50トンの重量をかけられると言われている。


 それ以上だとレールが歪むし安全上から50トン以下の方が好ましい。


 そういった制限があるが車輪の数が10ならば500トンは車両に乗せられるともいえる。


 これは貨物列車の最大積載量に近い値だ。


 それが10両編成ともなれば5000トンは運ぶことができる。


 馬力との兼ね合いからもこれが最大積載量だ。


 乗せる物資はそれよりはるかに少ない。


 それでも1000トンもの物資を積む。


 そう装甲列車で炭鉱まで一気に行くのだ。


「これなら勝てそうだな」


「ハッ! 必ずや奪還して見せます!」


「ああ、期待しているよ。何かあったら無線で連絡してくれ」


「ハッ! 了解です!」


 工場長は前線に行かない。 それは戦地では足手まといだからだ。


 鉄と爆弾が飛び交い、引火する可能性がある大砲と弾薬が満載の車両。


 工場都市の歩く中枢ともいえる工場長が乗れるものではなくなっていた。


 何よりも次の戦いのための作戦を考えなければいけない。


 それは英雄たちが前線で戦いに明け暮れる夢物語から、司令部が後方で誰よりも深く考える現代戦へと変わろうとしていることを意味する。


「出発進行!」


 鋼鉄の列車がゆっくりと進む。


 攻撃部隊を乗せるだけ乗せてゆっくりと進む。





 ◆ ◆ ◆





 木々の狭間を縫うように10両編成の列車が突き進む。


 目指すは炭鉱。 倒すはシールドアント。


 その異様な光景は列車を知っていればわかる。


 その装甲には取手が付いている。


 内側にではない。 外側についている。


 外側に横一列に取り付けられた手すりにゴーレムが一面へばりつく。


 その数、片側に200名、両側併せて400名。


 落ちないように簡易ハーネスで固定して、足元にも同様の手すりがある。


 さらに屋根の上には急ごしらえのスミスガンと砲兵たちが陣取る。


 砲兵と供給者、計100名。


 それはまさにタンクデサントならぬ、トレインデサントと呼べるものだ。



 タンクデサント――第二次世界大戦中のソビエト連邦では戦車に比べて輸送車両の生産数が低かった。 そして対戦車攻撃から戦車を守るという名目から戦車の各所に取手が付けられて歩兵を随伴するようになる。 利点が多い反面、欠点も多く現代戦では的でしかない。 だがしかし、長距離攻撃の手段が限られている時代なら欠点は限りなく低くなる。



 炭鉱のシールドアントも異変に気付く、何かがくる。


 列車は炭坑の直前で急ブレーキをかける。


 鉄が摩擦して火花が散り、鉄の焼ける臭いがする。


 巨大なアリの魔物、シールドアントの群れの只中に装甲列車が突撃する。


 その質量により線路上にいたアリは吹き飛ばされ、あるいはひき潰される。


「キシャアァァァ!」


 周囲にいたアリたちは本能的にシールド状の頭を向けて防御姿勢をとる。


 そのままちょうど山間の炭鉱の中央付近で止まる。


 周りはアリの魔物の群れ。


 囲まれている。


「大砲撃てぇ!」


 その号令と共に装甲列車の上部に溶接した大砲――スミスガンがキャニスター弾を放つ。


 無数の鉄が放たれる。 シールドは硬く、ネジやボルトを弾く。


 しかし体全面を覆うことはできないので、軟らかい部位を貫き一面に土埃がたつ。


 バタバタとアリが倒れる。


「砲弾装填! 撃てぇ!!」


 次はキャニスター弾ではなく鉄の塊を火薬で発射する。


 轟音。


 それはまさに質量兵器。


 それがシールドに当たると、そのまま消し飛ばす。


 1発で1,2体しか倒せない。 効率は悪い、けれど砲弾はシールドに効く。 それなら銃は?


「デサント兵射撃! 撃てぇ!」と隊長が叫ぶ。


 両側面にいたデサント兵たちが片手に持っていた拳銃を四方に放つ。


 爆竹のような音が鳴り響く、シールド以外に当たればアリは倒れる。


 シールド以外なら銃も効く。 もし銃も大砲も効かなければ後退して逃げるという選択肢もあった。


 だが倒せるのならすることは一つだ。


「散開せよ! 蹂躙せよ!」と隊長が指示を出す。


 デサント兵がハーネスを外し装甲列車から降りて、散弾銃の弾を込める。


 屋根の上からはグレネードを放ちさらに攻撃を加える。


 シールドアントの自慢の盾は防御力はある。


 しかし連続攻撃と爆発により身動きが取れない。


「車両のハッチを開け!」と隊長が言う。


 号令によってハッチが開く、それは装甲列車の貨物車両、本来は資源を積み込む専用車両だ。


「いくぞぉ!」

「おおぅ!!」


 1車両には武装した奪還部隊100名と物資が積まれている。 それが10両編成。


 総計1000名の完全武装した歩兵が展開する。


 散弾銃ではシールドを貫けない。


 しかし最も接近して至近距離から軟らかい部位を狙えば問題ない。


 一気に近づいて盾の合間に銃口を突き付けて引き金を引く。


 爆発音が鳴り響いた後には前列のシールドアントは倒れる。


 そこからは散弾銃を撃ち、弾込めのために一旦下がり、後列が前に出て銃を撃つ。


 シールドアントもただやられるだけではなく、その大アゴで切り裂く。


 しかし切り裂くために顔を上げると銃弾を浴びてすぐに倒される。


 拠点の真っただ中に突如現れ炭鉱を奪った魔物の群れは、同じく拠点の真っただ中に陣取った鋼鉄の要塞に為すすべなく倒される。


 地上の異変に対して炭鉱にある入口からさらにアントが向かってくる。


「手榴弾を投げろぉ!」


 兵たちが手榴弾を投げ込む。


 そして爆発。


 坑道は崩れていない――だがアントは倒れた。


「やりました!」


「よし、残りの地上の敵を倒せ!」と隊長がいう。


 その後は銃と爆弾による攻めの一手と倒れてもすぐに素体を交換して復活するゴーレムと劣勢のシールドアント。


 まさに為す術なくアリ共は全滅した。


 アリの魔物は炭坑の奥からやってきた。


 坑道の出入口を塞いだところで相手はアリの魔物。


 すぐに別の出口を作って終わりの見えない戦いになる。


 そこで工場長は苦肉の策をゴーレム達に指示していた。


 あまり褒められたものではないそれは毒ガス兵器の投入。


 運び込んだ物資の中に塩素ガスボンベが含まれている。


 毒ガス兵器が注目されたのは第一次世界大戦でドイツ軍が使った塩素ガス兵器だと言われている。


 それは空気より重いため塹壕に篭る敵に効果的だとされたからだ。


 しかし実際には独特のガスは遠目にもすぐわかり、対策も容易ということもあり効果は限定的な兵器だった。


 その塩素ガスを炭鉱の入口から注入する。


 シールドアントはもともとガスの充満していた空間から這い出てきた。


 しかし通常のガスは軽いので入口をシールドで蓋すれば下へ漏れることはなかった。


 なぜ他の入口を作らずにいたのか。


 それは絶大な魔力を持つ女帝スライムやレギオンの群れを恐れて地下から出てこなかったからだ。


 一次的とはいえそういった脅威がないことが地上へ出てきた理由となる。


 暗く狭い洞窟内で防御力の特化したシールドアント。


 隠れてやり過ごすだけならば他のどの魔物よりもしぶとい。



 しかし予想外の攻撃にさらされている。



「ギギ……? ……ギッ!!?」


 空気よりも重く、下へ下へと巣の底にある女王の部屋へと向かう塩素ガス。


 やがて呼吸器へと入ったガスは呼吸器官を損傷する。


 痛覚がないので異変に気付いた時には急に体が動かなくなる魔蟲たち。


 数時間もしないうちにアリの群れは殲滅した。


 その後、十分に時間が経ってからランタンを照らしてゴーレム達がアリの巣穴を探索する。


 女王を含めてすべて倒されているのを確認した。


 魔物の脅威がないと判断して無線連絡をする。





『工場長! 炭鉱を奪還しました』


「本当か! よくやった。手はず通りに炭鉱の復旧にあたってくれ」


「了解です!」


 ふう、とため息をつく。


 これで南部の重要拠点はすべて奪還した。


 残る懸念は北部の虫だけだ。


 先行して持ち帰ってきた盾付きのアリ。


 あの盾の部分を貫通する程度の武器が必要だ。


 あの素早い動きに鉄を切り裂く刃、ショットガンでは心もとない。


 例え倒せたとしても近距離では物量差で食い破られるだろう。


 あの硬い外骨格の魔物を相手するなら、それを貫通する武器が必要だ。


「それじゃあ、開発を始めるか」


 北部奪還のために専門でもない現代兵器の開発を始める。



装甲列車とか列車砲はロマンがありますが実際は……という兵器です。

あらかた南部は終わったので残り半分は北部のレギオン戦になります。

今までより現代戦に近づく予定です。

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