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第2話 油田防衛

氷魔法ってあるだろ。

使い手があまりいないのはイメージと違ってほとんど効かないんだよ。

たぶんありゃ体の内側から火の精霊様が助けてくれるからだな。


――氷魔法は衰退しました

 

 深夜、辛うじて都市南部の工業地帯を守ることができた。


 工場長はその後も休みなく方々に走り回り被害状況を確認した。


 この頃になると各地の生産拠点から脱出したゴーレム達とも合流することができた。


 報告を聞き、喫緊の課題を洗い出す。


 備蓄資源量を確認すると最も少ないのが燃料だとわかった。


 すぐ横に油田がある関係からどうしても疎かになっていた。


 それでもおよそ7日は持つ。


 つまり7日以内に南の炭鉱を解放しなければならない。


 ――違う! 7日目では供給が間に合わない!


 石炭をコークスに変換する最中に燃料切れで高炉が止まってしまう!


 高炉の停止こそ最悪の事態だと考える。


 一度でも止まれば高炉に熱衝撃が発生して炉壁が割れる。


 修復にどれほどの時間がかかるかわからない。


 唯一直せる錬金術師アルタは寝込んでいる。


 彼女にはもう無理はさせられない、そう考えている。


 工場長はしばし考え込む。


 都市の外に打って出るにもより強力な武器が必要だ。


 それを揃えるには時間が必要になる。


 タイムリミットを先延ばす方策が必要だ。


 考えれば考えるほど必要なモノが増えてくる。


 そこで高炉の稼働時間を延ばすために石油施設を確保することにした。


 襲ってきているのはスライムの残党。


 何とか防衛できている。


 そしてすぐに行動を開始する。


「ありったけの物資を集めるんだ!」


「ハッ! 了解です!」と近くにいた隊長が答える。


 かき集めた物は溶接機の部品と液体酸素工場から持ってきたガスボンベ。


 それらを運ぶ荷車を用意する。


「荷車は大体10台ぐらいか」


「警備隊のコアも無事だったので連れ出すことができます」


「よし、それじゃあ半分を今まで通り警備に残りの半分を油田防衛に充てる」


「ハッ!」


 壁上警備をしていた警備隊300名と都市内の戦闘部隊500名を回収して、改修して半分の400名を抽出する。


 だが相変わらず装備は貧弱で壊れていなかったエアライフルと連弩が数丁そして携帯テルミット弾1発。


 あとはパイクが100本程度である。


 モノ達モーアー族は深夜になり休んでいる。


 人と違い持久力が無いのだから仕方がない。


 襲ってきているスライムは事前の報告からロケットや既存の兵器が効かないと聞いている。


 それでも行くしかない。


 荷車一つに最大1トンの積載量。


 それが10台、最大10トンの溶接機の予備の部品とボンベを荷車に乗せて西へと向かう。




 ◆ ◆ ◆





 ――油田施設


 油田は拡大を続けていた。


 当初は坑井と備蓄タンクそして、いくつかの蒸留塔だけだった。


 その後、研究所でゴムやプラスチックの製造に成功するとそれに合わせて量産プラントが追加されていった。


 その結果、石油関連施設は石油コンビナートと呼ばれる複合設備群へと成長していた。


 コンビナート――ソビエト連邦が基礎原料を共有しながらも異種産業である企業群を有機的に結合した産業集約的形態。 現在では石油コンビナートを指す言葉だが自動車や電化製品なども存在する。


 西から順に坑井(生産プラットフォーム)区域、原油備蓄タンク区画、蒸留精製区画、化学工場区画そして精製物の備蓄庫となる。


 それらはできる限り近く、けれども爆発の危険性からある程度距離を離して区画整理されている。


 そして魔物という外敵に対抗するために各鉱山の掘削土砂を原料に3重の防壁で守られている。


 魔物に対して脆弱な防備だが無いよりマシという理由で建設した。


 今、その防御力が試されている。


「第三防壁突破されました!」


「建設現場のフェンスやバリゲードをすべて南側に設置せよ!」


 コンビナートの警備隊長が労働ゴーレムに命じて即席のバリゲードを作っていく。


 スライムの群れはかつてほどの勢いはなかった。


 結局のところ女帝が存在しなければそこまで強くないからだ。


 それでもあの大爆発を生き延びた500匹になるスライムの群れはただひたすらに油田へと押し寄せてくる。


 何よりも特徴的なのは周囲を鉄板とパイプで覆っていることだ。


 これは前の大爆発で飛び散ったタンクや蒸留装置の破片で構成されている。


 カタツムリのようにゆっくりと進み、障害物をすべて乗り越えて油田へと向かう。


 溶剤や炎が効きづらくエアライフルなどの物理攻撃も効果がない。


 その頑丈さとしぶとさが厄介だが、唯一の救いは周囲を鉄板で囲んだ影響か魔法の類は使用しなかった。


 現場の警備隊長は対応に困っていた。


「バリゲードを! さらにバリゲードを!!」


 できる事は侵攻を遅らせるバリゲードの設置と溶剤を撒いて火をつけるという嫌がらせぐらいだ。


 それでも溶剤でゼラチン質が溶け、炎で水分が飛ぶので動きが遅くなる。


 だがそれ以上には食い止めることができないでいた。


「ダメだぁぁ! フェンスが倒れるぞぉぉ!!」


「退避! 退避!!」


 最大で質量1トン近くなるスライムが鉄を纏って這いずる。


 その質量に即席の防壁では抗しきれなかった。


 もはや打つ手なし。


 その時――。


「あ、工場長だ!」


 手をこまねいていたゴーレム達が振り向くと工場長率いる討伐部隊が到着した。


「待たせたな」と工場長が言う。


「お待ちしてました」と答える。


「よし、さっそく準備を始めてくれ!」


 その号令に従って荷車の装置の準備を進める。


 用意したのは溶接機の機器に液体窒素のボンベを取り付けた物。


 それは火炎放射器ならぬ冷凍放射器である。


「準備完了しました!」


「よし、放出するんだ!」


 なぜ冷凍兵器が存在しないのか。


 それは兵器として欠陥があるからだ。


 人が想像するイメージと違い液体窒素に手を入れたり皮膚にかかっても凍結することはない。


 これはライデンフロスト効果という現象によって液体窒素が瞬時に蒸発して空気の膜に覆われるからだ。


 高温に熱したフライパンに水滴を垂らすと踊るように弾く現象と同じである。


 つまるところあまりに対策が容易すぎて武器になれないのが冷凍兵器になる。


 だが相手が鈍足で、表面を熱を奪いやすい鉄で覆い、反撃してこない魔物ならば話は別である。


 最前列の集団が液体窒素により温度を奪われてスライムの表面から凍結していく。


 氷漬けになった同族を乗り越えようとするカタツムリスライムにも液体窒素をかけて凍結させる。


 氷の壁ができてスライム達の進撃が止まり上から更に液体窒素をかけ続ける。


「空になったボンベを運んで新しいのを持ってくるんだ」


「わかりました」とゴーレム達が急いで荷車を引いて都市へと戻る。


 工場長は一通りのスライムを凍らせたことを確認する。


「魔石の取り出しは任せていいか?」と油田担当へ聞く。


「任せてください。そっちが本業です」

「掘削の再開だぁ!」


 そう言ってゴーレム達が火薬を用いてスライムの氷壁を爆破しはじめる。


 これで油田は大丈夫だろう。


「よし、のんびりしている暇はない燃料の供給を再開する」





 ◆ ◆ ◆





 工場長達はスライムを撃退し、石油設備を守り切った。


 そして供給の滞っていた燃料をすぐに工場都市へと輸送した。


 その燃料の中で潤滑油に加工する前の重油を高炉へと運び出す。


 潤滑油は消耗品だが最初期に量産体制にしたことから備蓄が有り余っている。


 だから最近は重油を燃料として供給する体制を整えていた。


 その燃料を高炉へと届ける。


「よーし、それじゃあ高炉への純酸素供給用の羽口から重油を吹き込んで燃料消費量を減らす」


「了解!」と高炉担当がいい供給口に重油タンクを取り付ける。


 高度成長期の日本の製鉄業界では生産量の拡大とコスト削減が至上命題となっていた。 この問題を解決するために高炉への燃料吹込みが考案され高度成長期に急速に普及していった。 しかしオイルショックによって重油のコストが大幅に高くなると一気に衰退してしまった。 現在ではよりコストの安い微粉炭やその他の燃料を吹き込む技術が主流となっている。


 純酸素と一緒に重油が高炉内へ流れ込む。


 ガスバーナーのように下から炙られる。


 あまりにも高温なので近づくことができない。


 それでも間接的な統計から変化を見ることができる。


「どうやらうまくいっているようだな」と工場長が炉の温度と投入する石炭の量を確認しながら言う。


「何か問題があったらすぐに連絡します」と高炉担当が答える。


 そうしてくれと頷いてから次の開発現場へと移動する。


 あまり一カ所にいるほど余裕がないからだ。


 それでも7日分の燃料が10日間には伸びるという計算結果が出た。


 これに木炭の生産を再開すれば当分は高炉用燃料の心配はしなくていい。


 だが問題はまだある。


 次に鉄鉱山を解放しなければ鉄そのものが手に入らなくなる。


 鉄鉱石もおよそ10日分しか在庫がない。


 今までは掘削した資源はすべて高炉に投入していた。


 それが液体酸素爆薬などの新技術により在庫が積み上がるようになっていた。


 それが10日分である。


 次の敵はあのダイアウルフだ。


 だから狼退治の武器を数日で作らなければいけない。


 ――朝日が眩しいな。


 気が付くと朝になっていた。


 さすがに徹夜は堪える。


 そう思い仮眠を取ってから次の開発に移ろう。



 そう考えていた時――。



「工場長! 東と南門から通信です! 今度はスケルトンが大量に現れて城壁にまとわりついています!」


「次から次へと!」工場長は悪態をつきながらもどこか安心していた。


 スケルトンならまだ何とかなる。


 今のゴーレムより弱いのだから槍でも倒せるはずだ。


 確認のために城壁の上へあがると、そこには一面真っ白になるほどのガイコツの集団がいた。


「1、2、3……3万ぐらいはいるんじゃないか?」


「ハッ! 包囲されています!」


 工場長は思う、不眠不休のゴーレムの籠城戦だと? 冗談じゃない!

次回からやっと火薬武器がでます。

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