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幕間 東へ

ノノノメ ノノノメ

ノノノメ ノノノメ

ノノノメ ノ・

いいことを思いついた!

こんな滞在日数を記録している場合じゃない!!

 

「――という事で現状を打開する方法を思いついた!」


「唐突ですね。それで一体どうするのですか?」と土くれのゴーレムが疑問を呈する。


「それは……乗り物――それも飛行船を作って脱出する!」


「飛行船?」


「ああ、飛行船というのは空気より軽いガスを溜めて空に浮かぶ乗り物の事だ」


「つまり比較的安全な空を飛んで人がいる場所まで移動するという事ですか?」


「そういうことになる――」


 それから飛行船の簡単な原理と必要なモノについてざっくりと説明した。


 要するに大量の鉄と大量の燃料と大量の機械が必要ってことだ。


 できればゴムや石油が欲しいところだけど、ないものねだりしてもしょうがない。


 多少研究に時間がかかっても手に入る物を代用して作り上げる。 そんなところだ。


「――という事で、ざっと5年計画で順序だてて作っていこうと考えている。最初は資材集め、2年目はエンジンの開発、3年目は燃料の解決、4年目はテスト飛行、そして5年目に脱出だ」


「私には到底不可能な気がするのですが……」


「ああ、普通ならまず不可能な目標だ」


 それには同意する。


 そもそも資源があるのかもわからない。


 だけど――。


「だが! 君がいればそうともいえない!」


「ふぇ!?」と驚く錬金術師。


「君の力と君のゴーレム達がいれば不可能じゃない!」


「そ、そうでしょうか?」


「ああ、あの錬金術を見た時から考えていたんだ。不可能を可能にする力を秘めているそんな気がしてならないんだ!」


「錬金術を真理の探究以外に使うのは好まれませんが、うーん。そ、そこまでいうのでしたら……そのか、勘違いしないで下さいね。まだ信じ切ったわけではありません!」


 と、どこかのツンデレヒロインみたいなセリフをいう異世界人。


「3年、いえ2年です。2年間だけあなたに計画に付き合います。それまでは脱出計画に積極的に参加します。しかしそれまでに具体的な方策が見つからなければ――」


「わかってる。そもそも資源地帯を見つけられなければ絵に描いた餅だ。だからまずは資源――それも鉄を探すことから始めよう」


「鉄ですか、鉄となると東の山脈になら多少は採れると思います」


「だろうね。鉱物というのは基本的に山脈とか地形の変わり目が見つけやすいからね」


「それでは鉄を見つけたら錬金術で錬成すればよろしいのでしょうか?」


「最初はそうなると思うけど、それだとずっと錬成するだけで前に進まない。だから道具や装置を作って錬成の時間を短縮する」


「道具と装置ですか……?」


「ああ、つまり溶鉱炉を作って鉄を溶かすとか単純な工程をできるだけゴーレムに任せるんだ。そうすればより高度な事に錬金術を使えるだろう」


「ああ、なるほどそういう考えがあるのですね」と一応は納得してくれたようだ。


 伝え聞く古代の錬金術師たちはその能力を未知の探索や不老不死あるいは真理の追究に費やしているようだ。


 そのせいなのか、組織的に生産力を向上させるという観点が抜けている気がする。


 まあ、どこかの中世の宗教なんかは組織的に技術が発展しないように弾圧していたりもする。


 だからもしかしたらワザとそういう方向へと仕向けているのかもしれないな。


「わかりました――それでは溶炉の材料集めから始めるのでしょうか? それとも炉の材料を掘る道具作りから始めるのでしょうか? あれ道具の材料の原料が……えっと?」


 誰もが陥る堂々巡りが始まったようだ。


 オーケーそれじゃあ科学的な考え方を提示しながら進めるとしよう。




 ◆ ◆ ◆




 鉄を手に入れるなら高炉が必要で、高炉を作るには耐火レンガが必要になる。


 という事で廃墟となった都市を一軒一軒見て回って、暖炉に使っているレンガをはがした。


 これがそのまま高炉用に使えるとは思わない、けど耐火レンガの原料にはなるだろう。


 相当風化しているのか手で剥がすことができた。


「持ってきたー」「ほーいほーい」とゴーレム達が割れたレンガを積み上げていく。


 各地から持ってきたレンガを一カ所に集めるとそれなりの量になった。


「それではこちらのアイテムボックスに収納しますね」


「これが噂の何でも収納できる――うわ!? 本当にどんどん入っていく!」


 とても面白い!


 一体どういう原理なんだ?


 いや、研究をはじめたら引き返せない気がする。 ここは諦めよう。


 しかしこの非科学的な現象を利用すればなんかすごい事が出来そうな気がするな。


 うーん、まあいいやこれで運搬コストが下がると考えればそれで充分おつりがくる。


「うふふ、アイテムボックスがそんなに気に入りましたか?」


「ああ、とても面白いよ!」


「でしたらあとで携帯用のものを作ってあげましょうか?」


「そんなこともできるのか! ぜひ、ぜひ作って!」


「ええ、ただし作るのに時間がかかるので、今夜始めたら明日の朝までかかります」


「むしろそんな短期間で出来るの!?」


「はい? これでもかなり時間のかかる方ですが……」


 おおぅ、これだからファンタジーの感覚は謎だ。


 こっちの感覚だと世紀の大発明レベルを一晩で製造すると言っているようなものだぞ。


 しかも設備無しで!


「それでしたらあのゴーレム達を1時間ほどで作れるのは……」


「そんなに早いの!?」


「これでも遅いほうですよ。材料があればすぐできるのが本来ですから」


 ええぃこれだからファンタジーは!!


 ふぅ~、落ち着け。


「それじゃあゴーレムを――そうだね100体ほど作ってもらえる。そうすれば労働力として使えるはずだ」


「そうですね。ある程度は余りの魔石でなんとかなります。あとは集めればすぐに100体は作れますね」


「魔石か、たしか魔物を倒すと手に入るんだっけ?」


「はい、そうなります」


「よし、それじゃあ東の森の魔物と戦うためにも武器を手に入れるか」


「武器ですか……しかしそのための材料がありませんね」


「なーにこういう時の定番武器は木の棒と石と決まっているんだ」


 というよりそれしか思いつかない。


「木の棒……まあ仕方ありませんね」





 その後は近くの樹を錬金術で分解して、いい感じの木の棒を装備した。


 これは今後のサバイバルで大いに活躍するに違いない。


 うむ、相棒と名付けよう。


 とにかく東の山脈まで進めなければいけないので近場のモンスターを倒せるか実戦に赴くことになった。





「うおぉぉぉぉ! でけぇぇ!!」


 現れた魔物は野ネズミを10倍巨大化させたでかいヤツ。


 こえーよ!


「と、とにかく全員で袋叩きだ!!」


 そう言うとゴーレム達がネズミを囲んで棍棒と石で…………うげぇ、これはモザイクが必要だ。


 見た目と違いとても弱い魔物らしくほとんど抵抗なく倒せた。


 そして魔石を取り出すために解体を始める。


「ひぃっ 寄生虫がこんなに!」と女の子な錬金術師がのけぞりながら言う。


 おっとさらにモザイクが必要だぞこれは。


「しょうがない。倒したら即燃やそう」


 そう言ってたき火の準備をして、倒した魔物を燃やし始める。


 あんな光景を見てしまうと肉を食べるのにも勇気がいるな。


 いやそもそもネズミを食べるなんて発想が間違ってる。


 燃える光景を見ていると光る鉱物が見つかった。


「これが魔石か」そう言いながら取り出す。


「はい、そうなります」


 これでやっと魔石1個入手だ。


「それじゃあ森の魔物退治を頑張ろう」



 それからというもの巨大な歩くキノコ、巨大なイモムシ、巨大な……以下略。


 とにかく魔物を倒してゴーレムを増やしていった。


 そして判ったことがある。


 なんとゴーレムの数が増えると魔物達が逃げ出したのだ。


 たぶん集団と戦うよりも逃げる方を選ぶようだ。


 この辺は自然の動物と一緒だな。


 つまり大量のゴーレムがいれば安全に東の山脈まで進むことが出来そうだ。


 いいね。


 じゃんじゃん倒していこう。




 ――数日後。




「なんとか108体は集まったか」


「そうですね。それから食糧も1か月分は確保しました。それでは行きますか?」


 錬金術師アルタがこちらを見て伺う。


「そうだな、さっそく東へ行こう」


 求めるは鉄鉱山。


 さあ、この壮大で無謀な計画を進めるとしよう。






 ◆ ◆ ◆






 大量の機械群が工場都市を埋め尽くしている。


 至る所で燃料を燃やし煙突から排煙が立ち込めている。


 ギルドの寝室、その日工場長は寝ていた。


 その傍らには錬金術師アルタが黄金色の髪をなびかせながら座っている。


 彼女は思う、本当に2年どころか1年足らずでここまで成し遂げるなんて、と。


 そしてこうも思う、あの時から変わらず子供みたいに目を輝かせて本当に可愛い人。


 そう思いながらそっと頭を撫でる。


 けど最近はとても疲れている、この人は争いに不向きなのに――。


 ずっと戦ってばかり。


「うぅ……ん。アル……」


「はい、なんでしょうか?」


「岩山が見つかったぞ……この石でストーンゴーレムを、それにこの粘土はレンガに……むにゃむにゃ」


「あらあら、一体いつの夢を見ているのでしょうか。クスクス……ほんと可愛い人」


 そのエメラルドのような透き通った瞳でずっと寝顔を見つめていた。


「はやく東の大陸まで行きたいですね」


 そう言ってから自分の寝室へと戻っていく。


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