挨拶
「初めましてリカさん、でよろしいんでしょうか?実際はこれで二度目になるんですけどあの時はちゃんとした挨拶が出来ませんでしたから」
セナはニコリとリカちゃんに話しかけるとリカちゃんは、何も言わずににコクコクコクと3回頭を縦に振り、セナも優雅に肯首する。
「私はセナ・フォン・グローリア、健太郎さんに秋葉原で拾っていただいたフィギュアになります」
「は、はい!」
「拾われたと言ってもそれはあくまで物理的な表現で、本当は健太郎さんだけが私の声を聴くことが出来たから、必然に出会うことが出来たわけなんですよ、これは運命っと表現したら宜しいのでしょうか」
「う、運命……」
そう言ってリカちゃんは得意げに語るセナと俺をまんまるに開いた目で交互に見つめる。
あー、かなり驚いてるな、これは、
「あー、なんだ、そんな大層なもんじゃない、ゲーセンでたまたま条件が重なって落とせただけだから。偶然ってやつだよ」
と俺がフォローを入れると、
「あ、ちょっと健太郎さん、割って入ってこないで……」
セナが静止にかかってくる。
「うるさい、お前はいちいち大袈裟なんだよ。見ろよ、リカちゃん驚いてるだろ?こいつとはほんとたまたま一緒になっちまっただけだから、たまたま」
「はぁ……けど、どうして健太郎さんはその、ずっとセナさんと一緒にいるんですか……?」
リカちゃんはそう質問する。
うーん、どうしてか、実は俺もよくわかっていないんだよな。
なんかセナと最初は出会った時に声を届けてとかなんとか言ってたけど、実際俺にもそれがどういう意味なのかよくわかっていない。
アメリカの大統領にでもなって俺のフィギュアは喋るんですとかでも発言すればいいのかと悩んでしまっている状態だ。
けれど、物理的に離れられないはっきりとした理由はある。
それも脅迫に近い。
「なんかさ、このセナと離れすぎると俺の頭が吹き飛ぶみたいなんだよ、物理的な意味で、だから常に身近に置いておく必要があるんだよ、ほら、だからこうやってベストの内側にはホルスターをつけて運んでるって事」
そう言って俺は自作の特性ベストをヒラリとめくり、胸元のホルスターを見せてあげると、
「そ、そんな物騒な事って……本当ですか?」
「ハイ、本当ですよ!実際はもっと酷い事が起こっちゃいますけど!」
リカちゃんに訪ねられ、ふふッと笑いながら答えるセナ。
いや、何が笑えるのか心底わからないからそれ、
こいつどこまでサディストよ?
「まぁつまり、そういう理由でセナとは常に同行厳守なわけで、まぁ……うん、可哀想な人なんだなって笑ってくれれば嬉しいかな……」
俺は自虐めいた笑いでリカちゃんのの目を見ると、
「そんな、笑えません!!ちょっと、セナさん!なんでそんな酷い事健太郎さんにするんですか!?」
と、本気で怒ったようにセナに厳しく意見してくれる。う、嬉しい……この子のこういう優しさが、俺は心底好きなんだ。
癒される……救われる、あれ、おかしいな、目から涙が……
「酷い事って、これは私が決めたことではなくて……」
「じゃあ誰が決めたんですか?」
「それは……はっきり言えません……」
「言えないって事は、知っているんですね?じゃあ誰かに脅迫されてるんですか?どうなんですか?」
「そ、それは……」
い、いかん、俺が涙腺崩壊を堪えている間に何やら二人の間でバトルが勃発しそうな雰囲気になっている。
これ、止めた方がいいよね?ちょっと怖いけど、いけ、健太郎!勇気を出せ!
「ま、まぁ、リカちゃん落ち着いて……」
「健太郎さんは黙っててください!!」
「はい……」
なけなしの勇気を振り絞ったがリカちゃんに睨まれ秒で仲裁を諦める俺。こわ……
初めて見るリカちゃんの知られざる一面をみてこれまで天使のように見えていた少女が一瞬で恐怖の対象に変わってしまい。
リカちゃんも女だったんだなと一瞬で目が覚めたような気分になってしまう俺。
女の人怖い……
バックのハクリューとヤドランに助けを求めようとチラと視線を送るが、2人とも完全に動きを止めて普通の人形状態になっている、ちっ、こいつらそうなんだよな、いつも俺のピンチには知らぬふりしやがる……
「セナさん?」
「は、はい……」
「健太郎さんの頭が吹き飛んでしまうなんて私は絶対に許せません。ええ、絶対に許しませんから!ちゃんと理由を説明してください!」
「うっ……、うぅ……」
リカちゃんに睨まれ、セナは身体を震わせている。
これは驚いた。
いつもは俺にマウント取りたい放題の暴虐無人のセナがリカちゃんの前ではいつも責め立てられている俺と同じ状態ではないか。
はっきり言って気持ちいい。まるでリカちゃんが俺の敵うちをしてくれてるようで今では頼れる姉貴のような存在になっている。
内心いつまでもこの光景を見ていたい俺なんだが、このままだとセナ、なくな……しかも、その後の八つ当たりが俺にくる、絶対に、俺はそう確信したので、
「その、なんだリカちゃん……なんかセナには使命があるみたいなんだよ、モナドやら別次元やらの俺達の世界の常識とは異なる世界線からの、で、俺も何度も聞いたけどはっきりした事は教えられない決まりみたいなんだよ、だから、これぐらいで許してあげてくれないかな?」
っとセナのフォローに入ると、
「そんな、いいんですか?健太郎さんはそれで、健太郎さんって言っちゃあなんですけど、おっちょこちょいじゃないですか!!ふとした拍子にセナさんと離れでもしたらどうするんですか!!」
と結構ショッキングな事言ってくるリカちゃん。
そんな風に思っていたのか……うん、わかってはいたけど、うん、これはちょっと辛いな。別の意味で涙腺が崩壊しそうだぞ。
「いや、そのためのホルスターなんだよ、それにさ、悪い事ばかりじゃないよ?」
「何がですか!?」
ギロッと目をひん剥いて睨んでくるリカちゃん、怖いけど、頑張れ俺……!!
「ほら、今回、リカちゃんの所まで道案内をしてくれたのはセナなんだよ、セナにはハクリューの居場所が感覚でわかるみたいでさ」
「あっ……それで……」
俺がそういうとリカちゃんはハッとした後、みるみる顔を赤らめていく。出来れば言いたくなかった、こんな形でリカちゃんの気分を変えたかなかっが、やむなしだ、背に腹は変えられん……
「って事で悪い事ばっかじゃないんだよ、こいつらのおかげで職場での俺の立ち位置も変わったりし始めててさ、だから、うん、俺はそれはそれでいいかなって思ってるんだよ……」
「そんな……けど、はい。そうですね、お兄さんがいいというのなら……」
そう言ってリカちゃんは一応納得してくれたみたいだ。
ふう……ほんと凄いよな、この子のこの素直さというか切り替えの速さ。
俺だったら納得せずに永遠に引きずり続けるね馬鹿は諦めが悪いっていうからね。
「あの、セナさん……」
落ち着きを取り戻したリカちゃんはセナに再び話しかける。
「はい?」
「さっきはすみませんでした、私を救ってくださった方にあんな態度をとってしまって……あの、本当にありがとうございました」
リカちゃんは俺の胸元のセナにペコリと頭を下げる。
するとセナは満足だったらしく、
「いえ、全然大丈夫ですよ!これでも私、健太郎さんを結構信頼してるんですから」
と胸の前で腕をくみいつもの調子を取り戻している。
「へ、へぇ〜、そうなんですか、それは良かったですね、健太郎さん?」
「ん?あ、あぁ、そうだ、な……?」
なんだろ、どうにも人の感情を読み取るのが苦手な俺はリカちゃんの笑顔を見て一件落着と平手打ちを打ちたい所なんだが、素直に喜べない自分がいる。
もしかしてリカちゃんちょっと怒ってる?
いやいや、こんなセナの調子のりで簡単に腹を立てる子じゃないはずなんだけど。
そう思ってリカちゃんの顔を見ると、端正な顔に美しいほどの笑顔を浮かべて笑っている。
うん、思い過ごしだな。
さぁ、今度こそこれにて一件落着だなと言いかけたところで、
「あの〜すみません?」
「はい?」
パトカーに犯人を載せた2人の警官のうち1人が俺達に声をかけてくる。
「あの〜、事情聴取をさせてもらいたいんでご同行願いたいんですが〜」
と、警察官は申し訳なさそうに事件の当事者である俺とリカちゃんに話しかけてくる。
あー、そっか、これがあるんだ。
俺は秋葉の一件で経験したけど、今度は時間が事件だ、長くなるな……
「あ、はい。それでしたら先に両親に連絡させてもらってもいいですか?」
「ええ、どうぞどうぞ、それと、隣にいるその人は……」
警官はリカちゃんの隣に立つ俺を訝しげに見つめながら尋ねてくる。
いや、俺も被害者だから!
ドライバーのおっちゃん説明してないのかよ……
「あ、この人は私の……大切な人で、同じ事件の被害者で私を助けてくれた人なんです」
あ、リカちゃん駄目だその言い方は、俺はリカちゃんの発言に焦るが、警察は、
「はぁ、えっと、親戚か何かかな?」
と、深掘りはしないでくれる。むしろ、強引に関係を潔白なものにしようとしてくれている感じだ。
他に犯人もいるし人で足りてないのかも。
何にしてもありがたい話だ。
「あ、この子は俺の妹の友人で俺は保護者的な立場で今日買い物に付き合ってたわけで」
「へぇ、で事件の後駆けつけたんだ?」
「あ、いや、一応俺も当事者なんすけど……」
「君も?連れ去りにあって一緒に車にのってたの?」
「あ、いや、俺の場合は攫われたリカちゃんをそこのタクシードライバーに頼んで車を追いかけてたんですけど」
と、タクシーの前でライターをカチカチ鳴らしているドライバーに俺は視線を向ける。
「ああ、なるほど」
「けれどこの人も被害者なんです、私を助け出す際に車の中で犯人に暴行を受けて、あちこち怪我して……」
痛々し視線で俺の手元に視線を向けるリカちゃん。
あ、ほんとだ……、今まで気づかなかったけど犯人とのやり取りで手すり自分の手も当てていたらしく、俺のすりむけた両拳には血が馴染んでいる。気づかなかったな。
「そっか、じゃあ、君も一緒に署まで来て話聞かせてくれる?」
「ああ、はい」
あーマジか、一難去ってまた一難。今度は警察に今回の騒動の一連の流れを説明しないといけないのか、どうしよう……
これはいよいよフィギュアとぬいぐるみのおかげなんて説明できないぞ……
リカちゃんが両親に連絡を入れた後、後から到着したパトカーに俺とリカちゃん、その後ろにタクシーのおっちゃんが車で着いてくる形で警察署まで向かうハメになる俺たちであった。




