ついそう
「おい、リカちゃんがいる車はまだか!?」
焦る俺は胸元で目を閉じじっと集中するセナに叫ぶように問う。
「待ってください、もうちょっと…、もう見えてくるはずなんですけど……あっ!あそこです!!」
そう言ってセナは目を開くと同時に俺たちのタクシーの斜目右、追越車線を走るバンを指差した。
「あれです!あの車にハクリューさんが乗ってます。そしておそらくリカさんも」
「間違いないのか!?」
「はい、ハクリューさんの反応はあの車から感じ取れます」
あの中にリカちゃんが……
「運転手さん、右斜前のバンの中に連れ去られた俺の大事な人が乗っているんです。どうしてわかるか理由は言えないんですが……」
「あの車か、どうする?」
どうするったって、本心を言えば体当たりでもなんでもかまして今すぐあの車を止めてもらいたい、けれど、そんな事したら運転手さんの車は……けど今この一瞬でもリカちゃんが何をされているか……」
考えれば考えるほど俺の呼吸は荒くなり、どうすればいいのか判断がつかなくなる。
どうする?運転手さんに任せるか?それがいいのか?判断を決めあぐねる俺が弱気になり、全ての決断をハンドルを握るドライバーに譲ろうとしかけた時、
「なんでもいい、最初に頭に思い浮かんだ事を言え、決断はそれからだ」
タクシードライバーが叫ぶ。
頭に浮かんだ事……
「あの車を、止めてください。今すぐに……」
方法はわからない、けど、今俺が1番求めるのは、目の前の車を止め、中のリカちゃんを救い出す事。
それをドライバーに告げると、
「修理代は払えよ」
そう言ってタクシーを加速させ、バンの手前に出るためバンの横を通り過ぎかけた時、
「待ってください!!」
セナが叫ぶ。
セナの声はドライバーにも聴こえているのか、何も話しかけてないドライバーも加速を止め、バンの横を並走させる。すると、
スモークガラスで中が見えなかったバンの窓が僅かに開く。
そして中からは男の腕につままれたスマートホンが出てくる。
何故?
俺はその黒く光るスマートホンの画面に注目し……
「いた!!」
手のひらサイズの黒い画面に反射されるリカちゃんの姿を視認した。
そして窓の僅かな隙間から見えるのは……フロントシートに男が二人、後部座席はおそらくスマートフォンを落とした男が一人……
良かった、リカちゃんはまだ何もされてない。そして相手は合計3人か……
それを確認出来た瞬間、時速70kmで走るバンの窓からスマートホンが落ち車体の外側後部へと流されていく。
やっぱりリカちゃんのスマホか……
地面に衝突し、音を立てて砕けるスマートホンを見た後、俺は
顔を前方に向ける。
男に気づかれないように、落ちるスマホに驚いただけと思わせるために。
男はリカちゃんの連絡手段を断つ目的でスマートホンを路上に捨てたんだろうけど、おかげで車内の様子が見てとれた。
「どうだ?中は見えたか?」
運転席からは見えない角度だったためドライバーのおじさんは俺に確認を取る。
「見てました。そして、まだ無事みたいです、少なくとも大きな怪我はなく衣服は着ている状態です」
「そうか、なら安心だな。ならバレないようにもう少し後ろを
つける」
後をつけるったって……
運転士さんに何か考えでもあるのか?
このまま追走を続ければあっちに俺たちの存在がバレるんじゃないのか?
けど、今俺にはこの状況の打開案が浮かばない……
「安心しろ、もう少ししたらチャンスは訪れる、それまでまて」
ドライバーはそう言ってバンから僅かに下がった位置でタクシーを走らせる。赤信号や右左折など突然の変化にも即座に対応できる絶妙な距離感で。
運転手さんにも何か考えがあるのか?けど今は話しかけない方がいい。それくらい集中してくれているのがわかる。
俺緊張でがゴクリと唾を飲み混み喉を鳴らすと、
「このまま行くと3つ先の信号が赤になる。無理やり無視しなければ完全に動けなくなるタイミングだが…」
どうやら運転手さんにはこの道の信号のタイミングがわかるらしい。
毎日この道を走っているんだから、信号のシーケンスのタイミングを把握しているんだ。だからこれまで完全な動きでバンにあっという間に追いつく事が出来た。
しかし問題は止まったバンにどうやって乗り込むかだ。ドアの鍵が開いてるとは思えないし、窓を割って乗り込むにしてもその間にバンは発信して相手にさらなる警戒心を与えてしまう。
車が止まるだけでは何も手を打たないぞ……
「鍵なら大丈夫です空いてます」
俺は思案にふける横でセナが俺の考えを汲み取ったように言う。
「大丈夫ってなんでそんな事わかるんだよ」
「ハクリューさんは車内でも動いていました。バレないようにとても慎重に。そして、ハクリューさんは私がハクリューさんの動きを感じ取れていることを知っています。彼ならきっとこの状況を打破する万全の状態で私達がくるのを待ってくれているはずですから」
セナの口調は確信めいている。一瞬の疑いもないほどに。
いつもは嫉妬する俺だが、今はセナのハクリューへの信頼がありがたく感じる。
今はセナの言葉を信じるしかない。
責任などは関係なしに、リカちゃんを助けると言う共通の目的を達成するために、お互いを信頼しあうしかない。
何よりハクリューに期待を裏切られた事は一度もない!
まぁ気に食わないところもあるが……
「よし……乗り込むぞ」
「ハイ!」
「オイラも行くど」
「わかってる!」
胸元のセナ、バッグの中のヤドランにタイミングを伝えた後、
俺はタクシーの運転手に話しかける。
「運転手さん、次バンが止まったタイミングで俺たちもあっちに乗り込みます。」
「乗り込むったって、どうやるんだ?鍵が掛かってたらどうする?」
「えっと、車の鍵は空いてます、絶対に。だからそのまま乗り込みます」
「なんでそんなことがわかるんだ?」
俺の言葉に当然のように疑問を投げかけるドライバー。
その疑問からは同じく真剣味が伝わる。
失敗すれば次はない、その意味がのせられている。
「信じてもらえるかわからないんですけど、俺には特殊能力があります、その力で知る事が出来るんです、人形と喋れる程度のほんと些細な力なんですけど」
「……やっぱり喋ってたんだなそのフィギュア。AIや最新の端末じゃなく」
やっぱり運転手さんにも聞こえてたんだな、セナの声。
「はい。俺を介せば他の人も話せるみたいで」
「まぁ、細かい話は後だ、次の信号だ、用意しろ」
そのドライバーが指差す信号を視界に捉えた瞬間、信号のライトは黄色に変わる。
それと同時にバンは減速し始める。
いよいよやる時がきた。
ここからは俺の行動がリカちゃんの今後の幸せ、果ては人生までを左右する。絶対に失敗は許されない……やれるのか?
「健太郎さん、必ずリカさんを助け出しましょう!」
「ッ……当然だ!」
蔓延とはこびる不安に陥りかけた俺だったが、セナの真剣な目を見て、失いかけていた気合いを取り戻す。
今は迷っている場合じゃない!セナの言う通り、助け出すしかないんだ、俺達で!
覚悟を決めた俺は隣で停止しかけるバンを見据える。
一瞬だ、一瞬でやる。
そしてタクシーとバンが隣り合う形で動きを止め、運転手さんが皆側のドアを開くと同時に車外へ飛び出した俺は間髪入れずにバンへと詰め寄った。




