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族・月と太陽の交差点に潜む秘密  作者: ジャポニカダージリン
第2章
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絶望

なんでこんな事に……

私は駅まで歩こうとしていた、そしたら後ろから車が近づいてきた。

エンジン音からして少し大型車だろう。

私は道に敷かれた白線の内側に移動して歩くのを続ける。

考えているのはさっきの事だ。

またしても健太郎さんだ、一瞬奇跡が起こったのかと思ったら、新たな女の子を連れて花火を見ていた。

しかもあんなにも身体をくっつけて。


わかってる。きっとあれは彼女が私に見せつけるようにわざとやったんだ。

きっと彼女も健太郎さんが好きなんだ。

それはいい、それは問題じゃない。問題なのはじゃあなんで2人で花火にいるのって事。

いつからそんなに仲良くなってたの、私と別れた後?

私を怒らせたらもう見切りをつけて次の女の子を誘って遊んじゃうものなの?

反省はしないの?

健太郎の事を考えると沸々と怒りが湧いてくる。


「あーもう!あんな馬鹿、もう知らない!!」


そう叫んだ瞬間、隣を低速で通り過ぎかけていたバンがピタリと止まったかと思うと、急に後部座席のドアが開き、男が2人降りてきた。


「えっ……何?キャッ!!」

フェイスマスクをした男に急に手を引っ張られたかと思った瞬間、身体が中に浮き、考える間もなくバンの車内に連れ込まれてしまう。


え、何これ?

何が起こっているのかわからないが、とにかく車の外に出なければいけない!!

そう思い右手を握る男の手を強引に振り解こうと腕に力を入れた瞬間、


「うっ……」


即座に手を離した男の手が、外へ出ようとするリカの後ろから首もとに周り込んできたかと思うとものすごいちからでリカをシートの方へと引っ張り込む。

強引に臀部を床につけさせられ、リカの華奢な身体は男の両足の間に埋め込まれるような形となりリカは首以外を動かせなくなってしまった。


嘘でしょ!?やめて!そのドアを閉めないで!

かろうじて動く首をひねり、社外から車のドアを閉めようする男を見たリカは。首にまとわりつく腕を跳ね除けようと必死に掴むが、男の力は強く、非力な自分では到底押し除ける事が出来ない。そして、


バタン!!


リカの抗いも虚しく、外の男はドアを乱暴にスライドさせ終えると早々に助手席へと乗り込み、運転席の男に目配せをする。


そんな……


事態を飲み込み絶望的な心境に追いやられるリカ。

すぐ目の前で視界を奪うような太い腕を見て、この後何をされるのか想像すると恐怖で口が震え出し、上顎と下顎の奥歯がぶつかり合ってカチカチと車内に響く。


「よーし、ゲット〜!!」

運転席の男が屈託のない笑みを浮かべながら後部座席のリカのの全身を見るように首を上下に動かし、怯えと解放を訴えるリカの目を見て快活な声を上げる。

それを見てリカは悟る。自分はもう逃がされない。

リカの心情を汲み取った男は更に口角をつりあげると共に前を向き直し、アクセルを入れる右足を前に踏み込むと、車はゆっくりと動き出してしまった。。


ゴゴゴと唸るタイヤの音と徐々に加速していく感覚がリカをさらに絶望的な気持ちに追いやる。

首に強く巻き付けられた腕と平和から一瞬で切り離された恐怖がリカの全身を襲う。。


「君めちゃくちゃカワイイじゃん〜!!」


車が動き出すと、今度は助手席の男が首を後ろに回し、運転席の男と似た笑みを浮かべながらリカに話しかけてくる。


「ヒッ!!」


男に目を向けられたリカの身体は恐怖でピクリと身体が動くと共に、口からは小さな金切り声のような悲鳴が漏れてしまう。


「お前はいいから周りを見てろ!」


舐めつけるように半身をリカに近づけようとする男に、怒りのこもった声で後ろの男が叫ぶと、


「あ、悪い……」


そう言って、助手席の男は慌てて周囲に視線を走らせる。

男達には役割分担があり、周囲に悟られないようにしているらしく、リカを乗せた黒塗りのバンは平然と路地を進んでいく。

誰かに発見される事を願い視線を向けた窓は若干薄暗く、中からは完全に光が遮断される類のスモークガラスである事がわかる。


(もう駄目なの……?)


車が進むたびに、恐怖の度合いは強くなり、リカはとうとう泣き出しそうになるが、


『必死で守ったんだよ、その財布をさ!!』

リカの脳裏に以前聞いた健太郎の言葉が思い出される。

それは、いつか近くの飲食店で聞いた、学生時代のイジメから抜け出した時の話をしてくれた健太郎の言葉であった。


(そうだ、諦めちゃ駄目だ!!)


呼吸は苦しく、恐怖に打ちのめされそうになるが、寸前のところでリカは思い留まる。

車は路地を抜け、大通りへと抜けようとしている。

花火大会の為、夜中にも関わらず車通りは多いが、黒塗りのスモークガラスで外から誰かが見つけてくれる事なんてない。

バンは周囲には全く異常を感じさせる事はないはず。


だったら……


目だけを動かし、男の腕に半分奪われた視界の先、連れ込まれる時に離してしまった自分のバックが足元に転がっているのにリカは気付く。

中からは携帯と不意に持ち帰ってしまった健太郎のぬいぐるみが飛び出しており、それを見てリカは思う


(どうして今まで気づかなかったんだろう、バックの中には昼間秋葉原で健太郎と買った防犯ブザーが入っている!!これを鳴らせば信号停止中に誰かが見つけてくれるかもしれないし、後ろの男の隙を作れるかもしれない!)


防犯ブザーの存在を思い出したリカはそれをバックから取り出す為に作戦を考える。

今、動かせるのは目と手と足だけ。

今の状態だと手はバッグに届かない。

だったら駄目だ!!足でバックを手繰り寄せる前に男に気づかれてしまう。

だったら……


それまで掴んでいた男の腕から両手を離し、全身の力を抜いた。


「おっ、ついに諦めたか!!」

それを見た私をはがい締めしている男は声のトーンを上げて訪ねてくる。


「もう、逃げようとしません……だから命だけは助けてください」


そう媚びるように男達に聞こえるようにリカが言うと、


「ねえねえ、今さどんな気持ち??」


助手席の男が下卑た笑みを浮かべながら振り向き、リカの顔を覗き込もうとする。


「わからない。ただ怖いです……殺されたくないです……」


演技だとバレたら駄目。

リカは目を見られないよう、笑みをむける男から視線をそむけ俯くように眼下の男の腕へと視線を落とす。


「なんだよ、なんだよ、面白くないな〜、チッ、女ってすぐ男に尻尾ふろうとするよな」


男の言葉に怒りで頭が沸騰しそうになるが、それを必死に抑える。

(絶対最後まで抵抗の意思を悟られちゃ駄目!!)


今度はそれを聞いた運転席の男が吹き出しながら、


「ちょお前それは可哀想だって!まだ中学生くらいだろ?」


本気度が微塵も感じられない運転席の言葉をうけて、助手席の男も吊られてゲラゲラ笑い始める。


ここだ!!


「プフ……」


リカは自分に乗せられている男達のバカさ加減を利用して自身もその笑いに便乗する。


「あっ?何笑ってんの?」

それを聞いた助手席の男は自分が馬鹿にされたと感じたのだろうか無表情な顔をして再びリカに視線を向けてくるので。


「ごめんなさい、ちょっと笑いが込み上げてきて……」


「あっ?」


リカの返答に怒りを表情を滲ませて問いかける男の顔を見ながら、リカは笑顔を絶やさない。


「だって、二人の楽しそうな姿を見てたら笑いが込み上げてきちゃって、そうよね、冷静に考えればいつも私が他の男とやってる事と大して変わらないんだもんだもん」

リカはササッと前髪を整えると、笑いながら男の目を見ると、リカに見つめられた男はポカンと目を大きく見開いた後、みるみる顔を赤く高揚させていく。



「いやいや、めっちゃやばいってこの子!!可愛い、俺付き合いたい!」

前を向き、男はドライバー席の男に話しかけた後、


「ちょっ、俺と付き合わねえ?」

どこまで頭がおめでたいのだろうか、助手席の男は今度はこれまでよりも大きく身体を乗り出させてリカに顔をよせ、爛々と目を輝かせながら交際を申し込んでくる。

攫った女に今自分が笑われているとにも気づかずに。

コイツはチョロイわね。


「えーっ、セフレとかならいいかも顔は割と好きなタイプだし……」


学校の友人達が話していた知識と言葉を使い、リカが男からゆっくりと視線を逸らすと、

「うぉー、なるなる!!いいすかね神崎くん?ね?」

自分を拘束している男は神崎というのか。半身を乗り出した助手席の男は視線をリカから後ろの男に変え、リカを自分のものにしていいか確認をとっている。


「チッ、好きにしろ、俺が最初にやった後でな」


「アハッ、やめて、やめてって!あはは」

どうやらボスらしい男の言質をとったあと、興奮した男はリカの方へと手を伸ばし、コチョコチョと脇腹を触ろうとする。

その仕草が自分を笑わそうとする行為だという事はわかるので、リカも耐えきれなくなったような体で笑い声を上げると、


「ウヒョー、ノリノリじゃんこいつ、ドエロだぜこいつ!待ちきれなくなってきたー!!」


「おい!前見ろっつってんだろ!」


あまりに度を超えた行動と姿勢に後ろの神崎という男が半分怒りを交えた声をあげ、そこで男は即座に手をリカから引っ込め、前方へと視線を向けなおす。


「あ、悪い悪い……けど楽しみすぎる〜!!」

そう言って助手席の男は前を向き、両足を上げてシートにカカトをつけ、右手を股間の前で上下に激しく動かし始めている。


(行ける!!完全に信じ込んでる!そうよ、私は健太郎さんを乗せ続けてきた女、健太郎さんより遥かに頭の悪いこいつらなら指先だけで油断させる事が出来る!!)


後ろの男はどういう表情をしているのかわからないが、フロントシートの男達が笑い出し、車内の張り詰めた空気が和らいだのを感じたリカは、車が赤信号で減速し始めたタイミングに合わせ、


「アハハ、コホッ、コホッ……」


「ごめんなざい、ちょっと息が苦しくて、逃げないから力を少し緩めてもらえませんか……?」


そう言って自分の首を固定する男の両腕に優しく手のひらを乗せると、それまで黙っていた男の身体がピクリと僅かに動いたのが分かった。

「ごめんなさい、ほんのちょっとでいいの」

きっとどれだけお願いしても男は私を離しはしない。

けれど、私が屈服したと思い込んだ今なら……


「逃げんなよ?」

想像通り男の腕の力がふっと緩くなるのを感じると同時にリカは一気に男の腕を両手で持ち上げ、クグリ抜けるように即座に顔を下に引っ込める。


「あ、待て!!」


男は逃げ出すリカの右手を咄嗟に掴むが、リカは上半身をかがめてバックの中に左手を伸ばし、必死に中身をまさぐる……

早く!あった!!これだ!

5cm程の四角い合成樹脂性の外殻である防犯ブザ一を感覚で見つけ出すと、即座にそれを引っ張り出し、電池の隙間に挟まっているシールを口で噛み、引き抜き、右手を握る男の方へと投げつけると、



ピピピピピピーー!!



「お、おい、どうした!?」


「おい、なんの音だよ!!」


耳をつんざくような高い音を鳴らし出した防犯ブザーフロントシートの男達は慌てて後ろを振り向き、投げつけられた男も驚きリカの手を離し、足元で鳴り止まないブザーへと手を伸ばす。


今だ!!


一瞬生まれた隙にリカは目の前のドアの鍵を指先で回し、ドアのレバーを持った手でドアを左方向へスライドさせようと力を込めるが……


!!?


カシャ、カシャ、カシャ、カシャ……


ドアは動かない。

動くのはレバーだけで指先にドアのロックが外れる感触が伝わってこない。


「なんで……!?開いて!!開いてよ!!」


焦りで叫びながら開かないドアを右手でバンバンと叩くリカ。

同じく乗用車を隣に停車させている50代くらいのこちら側から漏れてくる異音に気付いたようでチラとこちらに顔を向け、窓を叩くリカと視線が合った。


「助けて!!」


必死に男に叫ぶリカだが、一瞬目が合ったように感じた男は頭をかしげて前を向き直した後、車内でかけているらしい音楽に合わせて首を上下に揺らし始めている。


お願い!!助けて!!

もう一度どドアをたたきながら叫ぼうとした瞬間、それまでけたたましくなっていた防犯ブザーの音が急にやみ、咄嗟に後ろを振り向くと、


ドスンッ……!!


「あっ……」

これまで感じた事のないくらいの激しい痛みがリカの脇腹を突き抜け、リカは呻き声をあげてドアの下にうずくまる。


「かっ、カハッ……」


息が、出来ない……


激しい苦痛に耐えながらどうにか顔を上げると、リカの眼前には岩肌のようにゴツゴツした男の握り拳があり、そこから防犯ブザーがポトリと落ちてくる。眼下のブザーに目をやると、シールが挟まっていた隙間には書店かどこかの破られたポイントカードの切れ端が強引に捩じ込まれている。


「な、なんで……」


「チャイルドロックって知ってるか?」


苦悶の表情を浮かべるリカに男は表情を動かさず続ける。


「たまにいるんだよ、お前みたいに俺達を出し抜いて逃げ出そうとする馬鹿が。そういう奴は二度と家に帰さないようにしている」


それを聞いたリカは戦慄し、顔からは引き潮のように血の気が引いていく。


「うわ〜、出ちゃいましたよモノホンのが……」


「お前神崎さんおこらしたな、あーあ……」


前の男達が何かを言っているがリカの耳には届いていない。

振り向きリカを見る助手席の男の顔には先程の笑みはない。


怖い、怖い、怖い、怖い、怖い……!!


男の口々に飛び交う一言一言の低音が身体を突き刺す凶器のように感じられる。


信号は赤から青に変わり、車はゆっくりと動き出す。

リカは目の前で口を開けて転がっているハンドバックに目をむける。

手を伸ばせば届く距離にiPhoneがあるが、この状況で助けを呼ぶ事なんて出来ない……

怖くて動くことさえ出来ない……

そう思っていると、


私の考えている事を読み取ったように、


「逃げたり暴れたりしたら次はここで死ぬ」


初めて顔をみる男は感情の感じられない窪んだ瞳をリカからiPhoneに向け、スライド式の子窓を僅かに開くととその隙間から拾ったiPhone をそっと落とした。


カシャンと地面と衝突した音が走る車の後部から聞こえてくる。

目を見開き唖然とするこしかリカには出来ない。


口を半開きにしながらリカは思う。

もう、抵抗なんて出来ない……助からない……




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