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族・月と太陽の交差点に潜む秘密  作者: ジャポニカダージリン
第2章
83/117

スピード

俺達を乗せたタクシーは市川駅を離れ、国道14号線・千葉街道を東に進む。


あんちゃん、この道をどれぐらい走ればいいんだい?」


「えっと…」


『しばらくはこのままで、出来るだけスピードを出すようにお願いします』


「し、しばらくこのままで、必要な時があればいいますんで、それと出来るだけ早くお願いします!!」



運転席のドライバーの質問に戸惑う俺にセナがバレないように耳打ちし、俺はそれは腹話術の人形のようにドライバーに告げる。

目的地も告げず不審な動きをする俺に多少の違和感を感じているだろうが、ドライバーは追求するわけでもなく了解してくれる。

大人対応助かるぜ。

とにかく今は1秒でも早くリカちゃんに追いつきたい、途中何度も赤信号で停車するのがもどかしい。

こうしている間にもリカちゃんは……

焦りでいてもたってもいられなくなり、俺は俯き、後部座席の床を踏む自分のスニーカーをじっと見つめながらリカちゃんの安否に思いを馳せる。


「兄ちゃん、何か急いでいるみたいだが、大丈夫かい?」


「え?あ、はい」


俯く俺を気遣ったのか、正面を向くドライバーが背中越しに話しかけてきて、俺はなんとか返事を返す。


「どう言う理由があるのかわからないが、女だな?」


「え?あ、はい、まぁ…?」


「そうかい」


女なのだろうか…?リカちゃんは女だから女の問題と言えば女なのだが、返答はこれであってるのか?

俺は前で妙に納得しているドライバーに対して自分の返答が正しかったのか一瞬迷ったが、考えるのをやめた。

そして車内に沈黙が流れた後、正面の信号は青から赤に変わり、車の行列は前から順に動き出す。


「兄ちゃん俺はな、後悔してる事があるんだ」


タクシーが動くと同時にドライバーの口も再びアクセルをふかす。

うるさいな、今はドライバーの自分語りを聞いてるような状況じゃないのに。

そうは思いつつも、必死な俺を乗せて無茶な要求に答えてくれている親切なドライバーさんだ、なので邪険に振る舞うのもなんなので一応話だけは聞く事にした。


「そうなんですか」


「ああ」


俺の渇いた返事にコクリと頷くドライバー、そして落ち着いた口調で語り出す。


「女はな、プライドの塊だ」


なんのこっちゃこの緊急時に……俺の緊張感が伝わらないのか?

意味不明なドライバーの唐突な女語りに俺の感心はますますマイナスに突入する。

そんな俺の心境もお構いなしに、ドライバーは話を続けていく。


「にいちゃん、今好きな女いるだろ?」


「えっ、まぁ、はい……」


「だったらな、真剣に向き合ってやれ。どんな女も男に対して見つめ続けているものがあるんだ、何かわかるか…?」


なんだろう、金?容姿?タクシードライバーの意図がわからないが、少し気になる問いかけではあるっが、今は真剣に考える気になれない、なので俺は脳内に浮かんだありふれたフレーズを答えることにする。


「さぁ、優しさとかじゃないですかね」


「そうだな」


正面を見つめながらコクリと頷くドライバー。

なんだ、浅いな。

そんな事ソクラテスの時代よりずっと先に男が見つけ出してきた答えじゃないか。

俺は期待外れの回答に、この親切なドライバーをつい心の中で卑下してしまう。

こんなものか、っと…

そんな心を見透かすようにドライバーは言う


「けどな、その優しさってのは大抵男の独りよがりにすぎないんだよ」


「まぁ、そうですよね、気遣いとかまめさとか、そう言うの出来る男ってあんまいないですもんね」

俺も30だ、モテた事なくてもモテる男の条件ってのはなんとなくわかる。

顔以外でモテる人間ってのは大抵気遣いに敏感すぎるくらい敏感だったりする。

鈍感な俺からしたらうぇっと吐き捨てたくなるようなあざとい優しさも、女からしたら白馬にまたがる王子の微笑みのように感じていたりするに違いない。

ま、俺には出来ないけどね。

しかし、俺の回答はどうやら満足いくものではなかったらしく、正面を向いたままのドライバーは、


「気遣い?まめ?若いな兄ちゃん」


と述べる。

イラっ、なんか今鼻で笑われたきがするぞ、顔は見えないけど。ま、別にいいや、こんな所でタクシードライバーに笑われようが俺のプライドは一ミリも傷つかん。

ここは適当に流して早く会話を終わらせるのが吉だな。

ってか運転の方に集中してくれ!!

一刻も早くリカちゃんに早く追いつきたいんだよ!

そう思った俺はスピードを上げてもらえるようドライバーに促そうとすると、


「見てな兄ちゃん」


俺が問いかけるよりも先に、ガクンッ!!

急にタクシーがスピードを上げ、俺は慣性でシートの背もたれに引っ張られように背中をつけた。


「うわ!」


タクシーはグングンとスピードを上げる。メータが見えないからわからないが、80,90,いや多分100kmは出てるぞこれ、


「運転手さん!急いでとは言ったけどこれはちょっと!」


「言ったろ、俺には後悔があるって」


「えっ?ああ、さっき言ってた」


「だからちゃんと届けてやる、じっとしてろよ」


何を言っているのか意味不明だが、これはありがたい。

ドライバーがスピードを上げてからは不思議と赤信号に引っかかる事はなくなり、俺達を乗せたタクシーはグングンと前の車を抜き去っていく。

左は右へ、ドライバーがハンドルを小刻みに切り返しながらタクシーを駆る。


『近いです、もうすぐ見えてきますよ!』


セナが俺に耳打ちする。

何故だかわからないがセナにはハクリューのいる場所を肌で感じ取る事が出来るようだ。

脈が波打ち心臓の鼓動が聞こえてくる。


(待ってろよリカちゃん、今行くからどうか無事で居てくれ……!!)

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