つけ
しまった、アリスの事忘れてた……!!
脳のキャパシティがセミ以下の俺はリカちゃんの機嫌を取る事だけに注意力を全振りして入り口で待たせているアリスの事を完全に失念していた……
そしてこの一番大事なタイミングで不安になった彼女が来てしまった。
「もう健太郎さん、遅いじゃないですか?何やってるんですか!?」
「あ、あぁスマンちょっと……」
「も〜、心配で来ちゃったじゃないですかっ?健太郎さんったらトイレに行ったきり全然帰ってこないんですもん。私をおいて先帰っちゃったのかなって不安になっちゃいましたよ〜」
「い、いや、そんなわけないだろ?たまたまー」
「ですよね?冗談ですよ〜!」
「な、なんだ冗談か、心臓に悪いって……」
ほ、冗談か……けど頼むアリス!今はもう少し待っててくれ!リカちゃんとの話にケリをつけないといけないんだ!!
その後だったら冗談でもなんでも聞くから……!!
苦笑いで答えながらそう心の中で願う俺であるが、そんな想いも虚しく、
「……けど暗いところに女の子が一人でいるのって結構勇気いるんですよ〜?って私なんて誰も襲ったりしないか!?」
アリスは話を終えてくれそうにない。
うぅ、リカちゃんがいるのに……
「い、いやそんな事は……」
俺が引け目を感じているせいだろうか、リカちゃんを気にしているからだろうか、冗談のはずなのに心苦しくなってくる。
しかし悪い事をしたという気持ちもあり、どうしても俺の気を引くような事を言うアリスから注意を晒すことが出来ない。
今アリスを蔑ろにするのは男としてなにか許されない行為のような気がする。
かと言って完全に蚊帳の外にあるリカちゃんをこれ以上一人にする事もしたくない、このままだとどんどん彼女が自分から遠ざかっていくように感じる。
いよいよ苦しくなった俺は不思議な幕に絡め取られているように感じる圧力の中『理解してくれ!!』ッと助けを求めるような目でリカちゃんの方へチラリ視線を向けるが……俺と目が合ったリカちゃんは……ヒェ……
逸らすでもなく、目を細めてただジッと俺を見ている……
君は瞳の奥で一体何を思っているんだ……
その目を見て俺の心が萎むと、俺の視線に気づいたアリスが俺に変わり、
「あれ、貴方って確かお昼健太郎さんと一緒にいた……」
今や話の主導権を確保しているアリスがやっとリカちゃんに注意を向けてくれた。
「……井上リカです」
少し間を開いた後に答えるリカちゃん。
良かった。これでリカちゃんをほったらかしにせずに済みそうだ……
高校生と大学生とはいえリカちゃんとアリスは年齢もそんなに違わない。
きっと話も合うだろう。
そうすれば俺は変にでしゃばらず三人の潤滑油に徹すればいいだけだ。
そう思った俺だったがー
「あ、知ってます!健太郎さんが教えてくれたんで!確か健太郎さんの妹さんのお友達なんですよね〜」
「ええ、まぁ……」
「健太郎さん言ってましたよ、リカさんって頭が良くて性格も良くて、ほんとまるで二人目の自慢の妹みたいだって!」
ッ……なんだ、この胸のざわつきは、アリスが言ってる事は間違ってないんだが、何かしっくりこない。
今そんな事言う必要あるか?って感じだ。
アリスに何か別の意図があるような違和感を感じだ。
そう考えていたら、
「お兄さん……?」
リカちゃんが突然俺に話しかけてくる。
「あ?えっ?はい!」
「……なんだかお邪魔しちゃったみたいですね」
目を細め、ニッコリと笑いながら。
なんでかリカちゃんは急にここで話を終えようとしている。
なんとか引き留めるんだ。
彼女の言葉尻から話の終焉を感じ取った俺は焦りながら、
『あ、いや邪魔なんて全然ーー』
そう言おうとした瞬間、
「全然邪魔なんかじゃないですよ!!ね、健太郎さん?」
アリスが先に同じことを言ってくれた。
ナイスだアリス!!
今は俺よりも彼女の方が説得力がある。
なので、俺も
「おう!」
と力強く答えると、アリスは、
「あ、そうだ、私達今から二人で美味しいラーメン屋さん行こって話してたんですよ〜」
そう言った後ーー
「ね、健太郎さん!?」
そう確認を促しながら突然俺の腕に抱きついてきた。
なんでっ?
「えっ?あ、うん?」
俺が動揺で思考が停止し、とりあえず頷くと、
「あ、そうだ、よかったらリカさんも一緒にどうですか?物凄く美味しいんですよ〜?」
アリスは悪戯っ子のような笑みを浮かべながらリカちゃんもラーメンに誘うが、リカちゃんは
「いえ……やっぱり二人のお邪魔みたいなんで今日はこれで」
そう言って軽いお辞儀をして辞退してしまう。
当然だ……
「ちょっと待って!!」
叫ぶがそれがまるで聞こえてないかのように、俺の声を無視し、リカちゃんは背を向け歩き出す。
俺は引き留めよと動こうとするが、
「行っちゃやだ……!!」
アリスが呟くような声で叫ぶ
「馬鹿いうなよ!!」
俺が怒りを顔に馴染ませながら振り向くとアリスはーー
さっきまでの笑顔が嘘のように、目に涙を滲ませ縋るような顔で俺を見ていた。
俺の腕を掴む手はカタカタと僅かに震えている。
「えっと……」
今にも泣き出しそうなアリスを見た俺はそれ以上リカちゃんの方へ顔を向ける事が出来なくなってしまっていた。
……なんなんだよ一体。




