既視感
帰り道は俺達と同じく花火を見ていた浴衣姿の人々が同じ帰路を埋め尽くしている。
熱帯夜の湿気と人々の興奮が充満した当たりの空気は祭りの後独特の心地良さと哀愁を醸し出しており、俺とアリスもその不思議な一体感に溶け込んでいる。
二人の会話は少ないが、全然気まずいって感じじゃなくて、その雑踏の中の楽しみを共有している感じだ。
ま、そう思ってるのは俺だけかもしれませんけどね。
とにかく今は変に気を使うのよりこの雰囲気を楽しもう。
そう思って歩いていると……おや?
どうやら俺が空気を読めないのは脳だけではなく、膀胱もだったようで、少し催してきてしまった。
しかも黙って歩いているので紛れるものがなく、どんどん耐えられなくなってくる。これはラーメン屋まで持ちそうにないな……
「すまん、ちょっと催してしまいまして……」
我慢するのがしんどくなってきた俺は素直にアリスに報告することにした。
「あっ?そうなんですか?だったらコンビニごあそこに……」
俺とアリスは道路を挟んだ向かいにあるコンビニをみるが、うげっ……
コンビニのトイレの前にはかなりの行列が出来ている、トイレ数の少ないコンビニだ、あれではいつ順番が回ってくるのかわからんぞ。
俺はヒヤヒヤした顔でその列を眺めていると、
「もう少しだけ我慢できそう?」
アリスが効いてきた。
「あ、あと3分くらいなら……」
「だったら……ちょっと私について来て!」
少し考え込んだ後、アリスが何かを思いついたらしく、
また歩き始めたので俺はその後を黙ってついていく。
アリスは歩道を折れ、脇道に入っていくと、道からは急に人気がなくなり、あたりは静かな住宅街になった。
別のコンビニが近くにあるとも思えない。
まさかアリスは誰もいない所で俺にタチションをさせてくれるというのか!?
女の子の前でいいのかな……?けど非常事態だもんな、そこら辺も理解ある子なのかな?
そんなたくましさをアリスの中に見出しかけていると……
「はい、ここなら大丈夫だと思いますんで!」
そう言って俺達がついたのは薄暗い公園。
あーなるほど、公園か。
そこは住宅街の隅に備え付けられている割と綺麗に整備された公園で、コンビニと違い備え付けられた公園には
誰もいない。
地元っこのアリスだからこそ知っている場所って事だな。
「悪い、ちょっと行ってくる!」
「はい!私はそこで待ってるんで!」
「悪い!」
公園は割と広く、トイレらしき建物は一番奥にあるので俺はアリスを入り口に残し、半内股の駆け足でトイレに直行する。
トイレに近づく程催しは増してくる。近いぞ……!!
公園の中央を横断し、建物の前の階段を登る。
近くで確認できた男性シンボルのマークが貼ってある方の入り口に入り、セナ達の入った鞄を小便用便器の上にある段になっている所に置くとすぐさまチャックをおろし、溜めた力を一気に解放する。
「ふぃ〜!」
なんとか間に合った。あと数秒遅れてたら大惨事だったよ。コンビニで待っていなくてよかった〜。
アリスに感謝だな。
それにしても……
なんとか小水を漏らさずにすみ安心して用を足しながら周りのコンクリート打ちっぱなしトイレの景色をみてある事を思う。
やっぱり以前にも同じ事があったような気がするんだよな。なんだろ?このトイレも多分来たことがある気がする……
初めての場所のはずなのに。
不思議とまた懐かしいような感覚に襲われるがそこで小水が尽きたので、考えるのをやめ、カバンをとって手洗い場手へ向かう。
紙が切れていたのでジャケットの端でちょちょいと手を
ふきながらトイレを出た。
ま、何はともあれ危機は乗り越えた。
この後はアリスとラーメンか。楽しみだな〜
そんな事を考えながら段差を降りていると……
「健太郎さん……?」
「ん……?」
急に名前を呼ばれた気がして振り向くと、そこには、ここにいるはずもないリカちゃんが驚いた表情で俺を見ていた。
「リカちゃん……?」
一応は返事をするが、なんでリカちゃんがここに……?
意味がわからない。
リカちゃんから視線を逸らしあたりをみまわすが他には誰もいない。
友人やデート……とかではないみたいだ。
再び視線をリカちゃんに戻すが、
何を話していいかわからない。
それはリカちゃんも同じであったようで二人の間に気まずい沈黙が流れる。
すると、
「じゃあ」
そう言ってまたさっと形のいいおじぎを済ませると、リカちゃんは再び俺に背を向け、俺の前から去る仕草をする。
「あ、まって……!!」
俺は走り出した。
頭の中には昼間の光景がフラッシュバックするが……とにかく謝らないと。
何かが完全になくなってしまう前に。
そして気づくと俺はリカちゃんの右腕を掴んでいた……!!




