雰囲気?
ひとしきり続いた花火もいよいよ大詰めを迎える。
遠くで女性アナウンスがラストの宣告を告げると、地面から噴出する花火と共に色とりどりの打ち上げ花火がガトリングガンのように次々と絶え間なく打ち上げられる。
スターマインだ。
それは正にラストスパートと呼ぶにふさわしく、惜しみなく打ち上げられる花火は最後に残り全ての力を出し尽くそうとするような疾走感があり、その勢いがかえって祭りの終わりを感じさせて人々の心を打つ。
その感動から、この輝きが永遠に続いて欲しいとつい願ってしまう。
しかしそこはもののあはれ、しばらくして全ての花火が弾け終わり、今まで明るかった空に再び静寂が戻る。
都会のひかりで夜空にはもうもうと硝煙が残っているのがわかる。それをぼーっと眺めていると、
「終わっちゃいましたね」
隣に座るアリスが呟くように言った。
「だな、けど凄かった。ずっと心奪われっぱなしだったよ」
「ですよね?あー凄かった!!今年も見れて良かったよ花火!やっぱ夏はこれって感じ!!」
嬉々としてそう言うアリスの言葉尻からは若い女の子らしい自が出ていて、隠のものである俺の横なのに本当に感動してるのがわかって俺も嬉しくなるな。
「江戸川花火は毎年ここで見てるのか?」
「えっ?はい、家が近くなんで小さい頃から家族とほぼほぼ毎年見てますよ!見れない年もあったりはしたんですけど……大体毎年見てますね!」
「そっか、じゃあ良かったな今年も見れて」
「はい!これも健太郎さんのおかげだよ〜、お母さんも仕事で忙しいし友達は誰も捕まらなくて……けど勇気を振り絞ってよかったです!」
アリスはそう屈託のない笑顔を向けてくる。
そっかそっか、こんな俺でも誰かの役に立てたんだと思うと嬉しくなってくるな。こっちがお礼をいいたくなるくらいだぜ
「ま、いいってことよ!スライムみたいな俺でよければわざわざ勇気なんぞ振り絞らなくてもいつでも駆けつけるぜ、例えアリスの雑用の為であってもさ」
俺は得意になっていつもの自虐ジョークをぶち込んだ。
これは手応えありだ。
この感触だといつも通りアリスは爆笑して空気は一気に俺の土俵へと入りこむ、そう、何を言っても笑いが生まれる爆笑確変モードへと。
ーーそう思ったのだが、何故だか隣のアリスからは笑いの声は聞こえてこず……
おかしいなとふと見ると、
「健太郎さん……」
あれ?吐息のような声で俺の名を呼んだアリスは何故か尊敬するものを見るような眼差しを向けてて、その目はそこはかとなくぼやんととろけてしまっているような。
き、気のせいだよな?もしかして本気にしちゃった……?
焦る俺だがとろんと俺を見つめるアリスに即座に何て返したらいいのか分からん。
何かうまい返しうまい返し……
「あ、流石に仕事中は無理だから!!平日は17時……残業も考えて18時以降でお願い!!」
言った瞬間、心に何かチクっと刺さったような気がした。
ジョークを交えたつもりだったけど、俺自身が何故だか心から笑えない、そんなぎこちないわだかまりを感じた瞬間だったが、
「も〜そんなのあたり前じゃないですか!!じゃあ18時以降は覚悟しておいてくださいね!!」
「は、はい……」
ほっ、どうやら今回のジョークはちゃんと通じたらしい。
アリスは元の笑顔でさらなる冗談を返してくる。
「……」
しかし、さっきのわだかまりを引きずっているせいか、うまく言葉を返せなくなってしまう俺。
二人の間に沈黙が流れる。
これは果たして花火の感動の余韻なんだろうか……?
「そ、そうだラーメン!!ラーメンに行こうぜ!早くしないと混んじゃうだろ!」
沈黙を嫌がった俺はとっさに、ここへの道すがらアリスと帰り寄ってく約束をしたラーメン屋の事を思い出し、さっと立ち上がりながら言うと、
それでアリスもはっとしたらしく、驚いた顔をして、
「そ、そうですね!早く行かないと!」
と慌てて立ち上がる。
それにしてもさっきのはなんだったんだ?
今まで体験した事のない雰囲気に今でも焦りで心臓がばくばくとはぜる俺。
も、もしかすると若いからジェネレーションギャップとやらで俺のジョークがジョークとして受け取られなかったのだろうか?
リカちゃんだと絶対笑ってくれる流れだったんだけど……
とにかく今後は若い子と話す時は気をつけよう。
「あ、ちょっと待って!」
あっぶね〜、
俺に背をむけ先に進もうとするアリスに無意識について行きかけた俺だったが、すんでのところで足元に置いてあるバッグに気付き、中にいるセナとヤドランに話しかける。
「じゃあ行くぞ」
「お好きにどうぞ」
「だ、だを……」
セナからはあいかわらずそっけない返事、ヤドランからは驚いたような呆れたような返事、
なんだってんだ一体。
感動的な花火の後に嫌なムーブ押し付けてくるセナには一言言ってやりたいところだが、アリスを待たせるわけにも行かないのでチャックを閉めて封印。
そして俺たちは土手を降り、元来た道を戻って行く。




