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族・月と太陽の交差点に潜む秘密  作者: ジャポニカダージリン
第2章
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ベンチ

「はあぁぁぁぁ……」

 周囲に誰もいない田町駅の屋外ベンチに腰をかけると俺は特大のため息を吐く。

 数分前、リカちゃんから返ってきたLINEの内容は思った以上にショッキングなものだった。


『健太郎さんのお人形を持ち帰ってしまってすみませんでした。バックの中のお人形は優子に渡しておきます。それともうLINEを送ってこないでください』


「完全に嫌われた……」

 俺はスマホを片手にガッカリと項垂れる。

 なんで? 俺そこまで嫌われるような事言った?!

確かに俺はとっさにリカちゃんに酷いこと口走った。

 それはいい、それはちゃんと謝れた。

 けど問題はその後だ。怒って店を出たすぐに謝りに追いかけ、リカちゃんの恨言を聞いた後、ちゃんとリカちゃんの質問に答えた。他人じゃなく妹のように大切に思っているという事を。

 するとリカちゃんは怒って帰ってしまった。

きっとあの時、俺はリカちゃんとの距離感を間違えたんだろう。大事な妹の親友とか友達程度で抑えておくべき所を妹などと深入りしすぎたのだ。

 今ならそれがわかるんだけど、対面では咄嗟にそれが出てこない。

 これまで女性と親しくしてきた経験のない俺は女性に対してどこまでが知り合いで、どこから心を許しあえる友人なのかと言った距離感がまるでわからない。

 男というテーブルマナーも何もいらない牛丼屋のような飲食店でしか飯を食ったことのない俺は、女性というリストランテのような存在に対して何をどう扱ったらいいのかさっぱりなのだ。

 だから箸を握り、素直にいつものように全てをかきこもうとするとことごとく女性は俺から遠ざかっていく。

 まあ、顔がねって言われちゃうともうそれまでなんですけど……

 それはさておき、今回はそうならないために努力した。俺にとってはオカンと優子以外で唯一気のおけない大切な女性であるリカちゃんを恋愛の対象として見ないように常に自分を諫め続けた。いつものように嫌われない為に。

 働いている社会人として、お金だって全部出そうとした。

 けれどやっぱり駄目だった。

 『距離感』がわからないもんだから結局何をやっても駄目なんだ。

 音感がないとピアノの鍵盤を自由に弾けないのと同じように、距離感がないと女性に対してどこかで無意識にズレた行動をとってしまうんだ。

 そこらを歩いているお洒落な男性にとってはサッカーボールを転がすよりも簡単に違いない女性の心は、俺には卵を割るより難しいものなのだ。


「もう駄目だわ……」

 俺は一人ごちる。

 早見さん、リカちゃんと二日連続で心を開いていた女性からヘイトを受けるというショッキングな出来事に男としての自信を完全に失ってしまった俺はとにかくひとけのないところを探し、こうして誰もいない広場のベンチを探し当てたわけなのだが、もういっそどこか旅に出たい。

 東尋坊……そんな単語がふと頭の中に浮かぶ。

どこだっけ? 確か傷ついた人が楽になるにはいい場所だって聞いた事あるけど……


「元気出してください!健太郎さん!!」

 突然呼ばれた声に俺はハッと我に帰る。

 そういやずっとほったらかしだった。


「あ、ああセナ、何だよ突然」


「大丈夫ですか健太郎さん? さっきからずっと放心しきったような顔してますけど……」


「いやぁ、別に? どっか旅に出たいとかそんな事思ってませんけど?」

 いいながら気づく。旅に出ようにもセナがいるから俺一人になる事はどのみち無理なのだ。

 早くも俺の一人旅計画が頓挫し、俺はこの迷惑な同居人を恨めしそうな目で見つめながら答える。


「はぁ……とにかく、ハクリューさんは大丈夫そうみたいですね!」


「まあな、それだけは良かったよ」

 そう言いながらまたリカちゃんの事を思い出してしまい、つい口に出しそうになる。

 しかし俺はすんでのところで踏みとどまる。セナに話すな。話せば余計に惨めになるぞ俺!!

 しかし、どうしても気分の落ち込みは隠しきれなかったみたいで、


「リカさんの件はその、え〜っと、その……」

 そう言ってセナは気まずそうに組んだ両手の指先をこねこねさせながら何と声をかければいいのやらと言葉を滞らせる。その気遣いが余計に俺を惨めな気持ちにさせ、俺の目頭あたりがジンジンと熱くなりはじめる。涙腺が緩み出しているんだ。

 ううっヤバい、多分あと数秒で泣くよ俺どうしよう……


「健太郎、ハクリューの事はひとまず置いておいて、この後どうするお?」

 しかし、30歳を超えて泣くという大惨事を救ってくれたのは馬鹿のヤドランの一言だった。

 ふう、こういう時こいつの空気読まない空っぽの性格は助かるぜ。

 

「そうだな、特に予定もないし、ヤドラン、どこか行きたいところあるか?」

 リカちゃんと別れた事で特にこの後の予定も考えていなかった俺はとりあえずヤドランに話をふる。


「おいらはなんでもいいお」

 あっそ。ま、こいつ普段からぼけっと座ってるだけだしな。いつも何考えて生きてんだろうな。


「セナはどっかあるか?」

 

「そうですね〜、健太郎さん、今日は何か予定ありますか?」


「予定? 別にないよ」


「だったら私、あれに行きたいです!!」

 そう言ってビシッとセナが指差した先にあるのは、正面のビルの入り口に貼られた、さまざまな色の花火の写真で賑やかに彩られた江戸川区花火大会の開催を知らせるポスター。

 そういや今日なんだ、江戸川花火。

一緒に行く人なんていないからずっと忘れてたな。

 けど今はセナ達がいるから惨めな気持ちにならなさそうだな。

 

「花火か、いいな」

 

「やったー!!」

 そう言ってセナは今度は両手をしっかり組みながら喜んでいる。目をキラキラさせて。

 ハハ、そんなに嬉しいもんかね。


「けど花火大会まではしばらく時間があるからそれまでどっかで時間潰すか」


「はい!!」

 喜ぶセナを見ているとなんだか自分まで元気が湧いてきたような気がする。リカちゃんにはもう一度謝ってみるか。俺はそう思い直すと右手の携帯をポケットに突っ込みスクッた立ち上がった。

 



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