LINE
ハクリューは今リカちゃんのバックの中。
不運には不運が積み重なるもので、リカちゃんを怒らせた本質的な原因が、俺がセナやハクリュー達を彼女より優先させた事にあるわけで、このタイミングでハクリューを返してとは非常に言いづらい。
「なんで言ってくれなかったんだよ!?」
今リカちゃんに連絡を入れたくない俺は、湧き起こったフラストレーションの吐口を探してヤドランを八つ当たりぎみに責める。
「ハクリューもだけど、あの時はおいらも声を出せなかったんだお……」
そう言えばそうだった。ハクリューが言ったように、リカちゃんの潜在意識下でセナ達を否定してようとする心の動きがノイズとなって俺の前でもセナ達を動かなくさせているらしい。
つまり、どんなに言葉で説明しても、証拠がない以上それを疑われれば疑われるほど、証明からは遠ざかってしまうんだ。
「悪かった。とにかく今はハクリューをなんとかしないとな」
俺は今日登録したリカちゃんのLINEに通話してみるがーー思った通り、やっぱり出てくれない。
なので通話を切り、『ごめん、リカちゃんのバックの中にハクリューの人形が紛れ込んでないかな?』とメッセージを打ち込んで送信する。
初めてリカちゃんに送るメッセージが、振られた男が自分の所持品を取り返そうとしているような内容のものになってしまっているのが、リカちゃんへの絶縁状のように思えて気が引けたのだが、今はそんな事言ってる場合じゃない。
リカちゃんがハクリューに気づいて、万が一にも何処かのゴミ箱に捨ててしまうような事が有れば一生ハクリューを見つけ出せなくなってしまう。
しかし、送ったメッセージにもすぐには既読がつく様子がない。
なので俺は『リカちゃんが怒りたくなる気持ちはわかるけど、ハクリューそのまま持ってて!』
と新たにメッセージを送る。例え既読はつかなくても待ち受け画面に表示されるメッセージを読んでくれているだろうと信じて。
「ハクリューさん、大丈夫でしょうか……」
二通目のメッセージを送信したのを見届けたセナが不安そうに言う。
「私がリカさんに正直に話そうなんて言ったから……」
セナは不安で鼓動が高まる胸を右手で抑えるようにして言う。自分が提案したせいでハクリューがリカちゃんのカバンの落ちてしまったと責任を感じているんだ。
「大丈夫だよ、リカちゃんは怒ってても人の大事なものをぞんざいに扱ったりするような子じゃないから」
俺はセナを落ち着かせるように言う。
そうだ、リカちゃんならきっと大丈夫。心の優しい子だからな。
「今日中に返信が来るかどうかは微妙だけど、なければリカちゃんちまで取りに行くさ。その時ついでにもう一度謝ってみるよ」
「はい……!」
そういうとセナの表情に少し笑みが蘇った。少し元気を取り戻したようだ。
そうこなくっちゃな。セナはちょっと口うるさいくらいが俺も気が楽だよ。
「じゃ、手ぶらでリカちゃんに謝りに行くのもなんだから、何か買いに行こうと思う。セナ、お前プレゼント選びに手伝えよ?」
「わかりました!お役に立てるかどうかわかりませんが、お付き合いしますね!」
「よし、行くか!」
「はい!!」
そう言ってセナをジャケットの内側のホルスターにしまい込み、ヤドランの入ったトートバックを肩にかけて店を出ようとすると。
「あの!!」
さっきの店員さんが出口の扉前で俺を引き止めるようにして声をかけてくる。
「ん? 何?」
みると店員さんは顔を赤らめながら何かを言おうとしている。あれ、この光景どっかで見たような気がするな? 既視感ってやつかな?俺は店員さんの要領を得ない顔を見ながらそんな事を考えていると、
「その……お客さんの名前、教えて貰えませんか……!」
ええっ、俺の名前、なんで?
「健太郎だけど……」
俺は眉を寄せて怪訝さをモロに顔に出しながらも自分の名前を教えてあげる。ここきて変なことばかりしてるからもしかして出禁になっちゃうんじゃなかろうか。
「健太郎さん…。私はアリス。香川有栖です。よかったらこれを受け取って貰えませんか?」
そう言ってこのアリスと言うらしい店員さんは俺に身体を預けるように近づけて俺の手に何か固形の物体を手渡してくる。そして俺の手を握るために俺の目の前で急に俯くような姿勢になった店員さんのサラサラの黒髪からは女の子らしいシャンプーの甘実のを含んだ香りが一気に鼻腔を刺激し、匂いと緊張で思考が停止した俺はその場で動けなくってしまう。
「私でよければお話しお聞きしますので」
そう言いながら店員さんは俺から距離を取ったので、やっと俺の硬直が解けて、ふと手のひらに目を向けると、
「私のLINEIDです、良かったらご連絡ください!」
ええっ、なんで?
さっぱり意味が分からん……
不思議には思ったけど、ここで突き返すのもどうかと思うので、
「ありがと」
それだけ言って紙を財布に入れ、店を後にした。
あービックリした。アリスはなんで俺なんかにLINE IDを渡してきたんだろ。
「良かったですねー健太郎さん」
店を出て階段を降りるとセナが話しかけてくる。
「いや、意味わかんないよ」
一般的に考えると俺LINE IDを教えた相手の事が気になるって事なんだろうけど、俺に限ってそれはあり得ん。
それだけは断定出来る。そういう勘違いの期待を持って何度女性に裏切られた事か。
餅は餅や。ここは同じ女性であるセナに聞いた方がいいだろう。
「セナ、なんであの子俺にLINE教えてくれたんだろ?」
「さあ、知りません!!」
そう言ってセナはそっぽ向く。若干怒り気味で。
なんで?
「そういうところなんじゃないですか? リカさんが怒るのも」
と要領の得ない事も付け加えてくる。意味わからん。ってかさっきまで自分のせいって言ってたのになんだこいつ。
「まあ、いいや、とにかく行くぞ」
「はーい」
そうして俺と何故か乗り気じゃなくなっているセナは慶應道りを後にした。




