自虐
「さっ、この後どうするよ?」
リカちゃんが見えなくなった後、meringueの看板の手前でセナに話しかける。
リカちゃんを引き留めることが出来なかった恥ずかしさを紛らわせるように不自然なくらいに声を張り上げながら。
セナはジャケットの胸ぽけから俺の様子を伺うような神妙な顔立ちで俺を見上げてくる。
きっと俺に気を使ってるんだろう、俺は恥ずかしさを気取られないように努めて陽気に振る舞いながら言う。
「いやー、リカちゃんを引き留める事出来なかったよ」
「ごめんなさい。私が追えなんて言ったから……」
しかしセナはションボリと肩を降ろして俺に謝ってくる。
どうやら俺のなけなしのから元気は意味をなさなかったようだ。けれどセナに『ああ、そうだ、お前の言う事を聞いたからだよ!』などと責める気持ちにはとてもなれない。
セナを責めた所でリカちゃんとの関係が戻るわけでもないし、結局リカちゃんを追う決断をしたのは自分なんだ。
それにセナも俺の事を考えて言ってくれたわけだしな。
なので俺はセナを励ますようにから元気で自虐を試みる。いっちょう笑わせてやるか。
「いや、俺がいけないんだよ。俺みたいな情けないのに妹みたいに思われて喜ぶ人いないよな? はは、馬鹿だよな〜俺」
「そんな事……」
けれどセナは笑うどころか、頑張って否定しようとしてくれる。若干の戸惑いを見せながら。
いかんな〜、俺を励ましてくれようとしてるんだろうけど、そのフォローが余計に惨めな気持ちにさせますよ。こういう時は素直に笑ってくれた方が気が楽なんだけどな。
「はぁ、いいんだってお前は気にしなくて。きっと俺は何したって女の人に嫌われる星の下に産まれてんだ、セナの言うこと聞いていようがいまいがどうせいずれはリカちゃんに嫌われてたよ……彼女もいつまでも俺を無条件に尊敬してくれる子供じゃないんだからさ」
俺はセナの罪悪感を取り払ってやるために以前から自分が心の中で思っていた事を話す。認めたくない現実を。そう、リカちゃんはもう大人、いつまでも俺みたいなのを相手にしてくれるわけがないんだ。
そして今日、分不相応に彼女に近づいたもんだからその事実が浮き彫りになった。それだけの事なんだ。
けれどそれを話してもセナが元気を取り戻す様子は見られない。
「ごめんなさい……」
そう言って歯を食いしばり、俯くセナはさっきよりも苦しみを押し殺しているように見えた。
いいって言ってるのに。
たくっ。泣き出したいのはこっちだってのにさ。
「そうだハクリューとヤドラン!」
慌ててたもんだからハクリューとヤドランを店のテーブルに置きっぱなしにしてた事を思い出した俺は、何を言っても聞いてくれなさそうなセナは放っておいて先に彼らとバックを取りに戻ることにした。
「あっ、お帰りなさい! どうでした?」
店に入るなり女子大生の店員さんが俺に話しかけてきた。
俺は何も言わずにただ首を左右に振る。
「そうですか……ごめんなさい、私のせいで……」
今度は『そうだよ、あんたのせいだよ!』っと怒鳴りつけたくなる衝動が心の底から浮かんでくるのだが、やはり今更何を言ったって栓なき事。
「いいんだよ、趣味を認められなかった、それだけの話なんだから」
っと、俺は大人対応で店員さんを振り切り、自分たちが座っていたテーブルへと戻る。
「悪いなヤドラン、一人にして」
俺はテーブルの横に転げているヤドランを起こしながら謝る。
「別にいいお。それよりリカちゃんとは仲直りできたを?」
「いや、駄目だった。ってか余計に怒らせちゃったよ……」
心配してくれるのはありがたいけど、何度も聞かれるの辛いなこれ。なんだか目頭が熱くなってくるよ。
気合を入れないとな。
「だお……きっともう少ししたらリカちゃんも頭を冷やして健太郎の話を聞いてくれるようになるお」
「そっか、そうかもな。それに期待するよ……」
ヤドランにそう言われて、ほんの少しだけ心が軽くなる気がした。こういう時、こいつの慰めは心に沁みてくるんだよな。
「チェッ、俺にもお前みたいにど忘れが出来たらこんなに苦しまなくて済むんだけどな」
「健太郎、酷いこというお。さっきのはとりけすお」
「はは」
俺は恥ずかしさを隠すためにヤドランと軽口を叩きあったところである事にふと気づく。
「それより、ハクリューはどうしたんだ?」
テーブルにいるのはヤドラン一人でハクリューがいない。どっかに隠れてるのかな?
「だお? 健太郎が連れ帰ったんじゃないんだお?」
ヤドランは言う。一体どう言う事だろう?
「ハクリューはさっき健太郎とリカちゃんがセナを引っ張り合ってる時にリカちゃんのカバンの中に落ちちゃったんだお。てっきり健太郎とセナが連れて帰ってくるものだと思ってたお……」
なんだって……?!!




