緊張
「それで、先程のお話なんですが」
来たっ。
運ばれてきたアラビアータにフォークを刺しながらリカちゃんが尋ねる。
リカちゃんが知りたいのは俺が昨日このお店に『誰』と来たかってことらしい。
しかし素直に答えるわけにもいかない俺はさっきと同じ曖昧な返答しか出来ない俺はパートナーとだけ答えた。
「パートナーって仕事のですか?」
「仕事っていうか人助け?」
俺がセナと一緒にいるのは無理やり結ばされた契約のせいなんだけど、その契約を結ぶことを決めたのは必死なセナを助けてやりたいって気持ちからだから人助けになるだろう。じゃないと悲しすぎる。
「それってボランティア活動か何かですか?」
「ボランティア活動って程のものでもないんだけどさ。俺に助けて欲しいって言ってる奴がいてさ、で力を貸してあげてるんだよ」
「そうだったんですか。それってどんな事なんですか?」
言われて俺はふと考える。
なんなんだろう?
セナは皆に声を届けて欲しいって言ってたけど、具体的何をするかは結局聞かずじまい。
本来存在してるものがどうたら言ってたけど、そもそもフィギュアや人形の声が聞こえる人間なんて俺だけしかいないんだろうからどう頑張って説明したところで信じてもらえるわけがない。怪しまれて嘘つき扱いされてしまうのがオチだろう。
まだ幽霊が見えるって方が信憑性があるよ。
「なんだろう、物事の証明、みたいな?」
「まぁ、その人は数学か何かの学者さんとかなんですか?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「だったら事件性のある刑事さんや弁護士とかですか、もしかして探偵さんとか……?」
「そういうのじゃないんだって、もうちょっとオカルト的な」
「オカルトって、幽霊だったり精霊とかですか?」
「まぁ、そんな感じかも……」
俺は弱々しく首肯する。
「……お兄さん、もしかして変な宗教とかにハマってませんか?」
リカちゃんは俺をじっと見つめながらいう。その双眸は真剣味を帯びている。
ですよねー
「いやそういうんじゃないんだって!そいつが言うには俺の耳にしか聞こえない『音』があるらしいんだって、でそれを証明する手伝いをしてるんだよ」
俺は焦りながら必死に弁明を試みる。信憑性を増すためにセナの言う『声』を『音』に言い換えて。
「つまり、その音は実際に存在していて、それは今はお兄さんの耳にしか聞こえないってことですか?」
そうそう。さすがリカちゃん、理解が早い。
どうやら俺の話が通じたみたいだ。宗教とかと誤解されると不安にさせちゃうからな。
緊張から解放された俺はずっと握りっぱなしだった右手のフォークに気付き、それをアラビアータに突き刺し口に運ぶ。
「そっかー、ありがとうございます!やっと理解できました。それでお兄さんだけお人形さんとお話しする事が出来るんですね!」
「そうなんだよ、なんの因果かそいつらに協力する事になっちゃってさ、優子には怪しまれるし困りものなんだよーー」
はて、俺はアラビータを口に入れたところで自分が今何を言ったのか思い出し、噛まずにそれを丸々飲み込む。
「あの、リカちゃん今なんて……?」
恐る恐る見上げるようにしてみたリカちゃんの顔は深刻そのもので。先程まで浮かべていた笑みはつゆとも感じられないほどの変容ぶりだった。
しまった、のせられた……
今のはリカちゃんのカマカケだったんだ。
俺がセナと話してるのにずっと気づいてて。
リカちゃんは困ったような、しかしどこか決意めいた表情でいう。
「お兄さん、目を覚ましてください」




