meringue2
「で、注文は何にします?」
「そうだな〜、じゃあこの日替わりランチで」
「日替わりですね!そちらの、え〜っと、リカさんは何になさいます?」
「私も健太郎さんと同じので」
店に入った俺達は昨日とは別のテーブルにつき、注文を取る。
店の雰囲気は夜とは違って少し小洒落たカジュアルな喫茶店って感じでカップルがデートの合間に一息つくにはちょうどいいかんじいい感じだ。
現に学生のカップルと見受けられる若い男女の二人組も何組か食事を楽しんでる。
「そうだ、お飲み物は何になさいますか? 日替わりランチにはドリンクが一品ついてくるんですけど?」
「そうなんだ、じゃあ俺はコーヒーで」
「私はダージリンティーでお願いします」
「わかりました〜……」
どうしたんだろ? 見るに二人の注文を伝票に書き終わったはずなのに店員さんがその場に立ち止まってる。
その場を動くのを躊躇してる感じだ。
なので俺は気になって声をかけてみる。
「あの〜、どうしたんですか? なんか気になることでも?」
「あ、いえ、なんでも! すぐにご注文を厨房に伝えますね!」
そう言ってお姉さんは慌てて厨房の方へ駆けていく。なんだったんだろ?
「あの店員さんと仲がいいんですか?」
店員さんの姿が見えなくなり、俺が視線を正面のリカちゃんに戻すと同時にリカちゃんが訪ねてくる。
「別に仲いいってわけじゃないと思うんだけど。会うのも2回目だし」
「そうなんですか。2回目って事は最初にあったのもお兄さんがこのお店に初めて入った時であってますか?」
「まあそうなるかな」
厳密には路上で声をかけられた時なんだけどそのあとこのお店に来たんだがこのお店ってことで間違いでもないだろ。なので俺はリカちゃんの話に合わせるように首肯する。
「それっていつ頃ですか?」
「ん? 昨日だけど?」
言った後に俺は自分の過ちに気付く。昨日ここにきた事を伝えるとリカちゃんが申し訳ない気持ちになるんじゃないか? このお店を提案したのはリカちゃんなんだから自分のせいで二日連続で同じお店に来て来させてしまったって。
しかし、俺の発言は予想とは違う形で自分の首を絞める形になる。
「あれ、お兄さん昨日はラーメン二郎に寄って帰ったって言ってましたよね? それともお昼にこのお店でランチを食べたんでしょうか?」
「ああ、違う違う、昨日ラーメン食べた後にスッキリしたものが飲みたくなってここに寄ったんだよ。で少しお酒飲んで帰ったの」
「まぁ、そういう事だったんですね! それはお兄さんお一人ですか? それとも誰かと一緒にですか? 例えば女の人とか」
「ぶっ。ゴホッゴホッ」
うっ、リカちゃんの質問は結構答えづらいところをついてきたので俺は飲んでた水でむせ返って咳をしてしまう。
「なんでそんな事気になるのかな? 俺が女の人と夜食事に行ったりするように見える?」
「はい。見えますけど?」
俺としてはそれもそうですね、とかそう言った答えを期待してたんだけど、このリカちゃん、速攻で俺が予想していなかった答えを返してくる。その真剣な眼差しから嘘やたてまえを言ってるわけでは無さそうだけど。
俺は嬉しさよりも逆に不安になってくる。
このリカちゃん、もしかして男を見る目がないのでは? 俺みたいなダメオブダメ男が女の人と食事とか行けるわけないじゃん。
「いやぁ、ありがとね、けど『女の人』と食事なんてないない! リカちゃんは昔からの知り合いだからこうやってご飯も食べれるけど、基本俺は女の人には食事行くほどの縁なんてないから!」
女性のフィギュアという特殊な縁はあるんだけどね。
セナは女性であっても人ではない。なので俺は嘘はついてないはず。
なんだか政治家みたいな事してんな俺。
「そうなんですか……」
そこまで言ってリカちゃんもしぶしぶといった様子で俺のいうことを信じてくれそうになっている。よしよしピンチは脱したみたいだぞ。
勢いを失ったリカちゃんを見て安心した俺は再びグラスに手を伸ばし、冷たい水で乾いた喉を潤そうとするのだが、
「あれ? お客さんいいんですか? そんな事言ったらあの子に嫌われちゃいますよ?」
「なっ……!?」
突然聞こえてきたのはパントリーからコーヒーと紅茶を運んできた店員さん。
「あの子ってどういう意味ですか!!?」
そんな事言うもんだからリカちゃんの消えかけた勢いに再びブーストがかかる。テーブルに両手をついて前傾姿勢になって。怖い……
「お兄さん!?」
「えっと、その……」
初めてリカちゃんに「可愛い」ではなく「怖い」という感情を抱いた俺はその勢いに圧倒されながら俺になんの恨みがあるのかと店員さんを睨むが、
「では、あちらのテーブルの片付けがありますので〜」
店員さんは俺の事はお構いなしに上機嫌で別のテーブルへと行ってしまうそんな、そんな御無体な……
「ほら、あの店員さんの冗談だって! さっきもいったけど女の人とは来てないんだから!」
「じゃあ誰と来たんですか?」
「グッ、それは……」
セナと、とは答えられない。そんな事言うと俺がいつもセナと行動を共にしてることがバレてしまう。そして彼女の中で俺はいつも美少女フィギュアを持ち歩くヤバいやつになってしまう。
そうなると今までコツコツと積み上げてきた俺の『頼れる友達のお兄ちゃん』キャラが砂塵と化すのは必須。最悪ドン引かれて二度と口聞いて貰えなくなるかもしれん。
なので俺は苦し紛れの策に出る。
「それより、ケーキ!!食事の後のケーキはどれにする?! 言ったろ、ここのケーキ有名なんだって。なんでも好きなの食べなよ!」
「話をはぐらかさないでください! ……へー色々あるんですね……」
しめた!メニュー表にある写真を見てリカちゃんの意識がケーキに移った。
リカちゃんは数ページあるカラーのメニュー表をパラパラめくっている。助かった……
「お兄さん?」
リカちゃんはメニュー表に視線をやりパラパラめくりながら言う。
「さっきのお話、ケーキを選んだ後にちゃんと聞かせてくださいね?」
「ヒェ……」
いつも蕩けてしまいそうになる彫刻のように整った顔立ちで笑を浮かべながらもその笑いに寒気を感じる俺であった。




