山手線
秋葉原駅に戻ると山手線外回りにのりこむ。
昼の山手線内は結構空いてて、シートにも空きがちらほらあって、扉近くにちょうど二人分くらいの隙間があったのでそこに腰掛ける。
肩と肩が触れ合う距離に座り合い、俺の鼓動は一段と高くなる。
やっぱシチェーションが変わると緊張するな。
リカちゃんは何も言わずにに静かに正面を向いている。この沈黙に耐えられん、何か話さないと。
「いや、車内は快適だね、涼しくて」
「ほんと、ちょっと寒いぐらいです」
確かに、利用人数の関係かな?山手線のクーラーは総務線よりも一段と送風も強くて設定温度も低く、半袖では少し寒く感じるくらいだ。
「こんなんで温暖化とか大丈夫なのかな?」
「クーラーがですか?」
「うん、どんどん地球の気温って上がってきてるんだろ? それなのにそんな事気にせず今みたいにこうやってクーラー使いまくってさ、この先どうなっちゃうか不安になるぜ」
「ほんとですね、どうなっちゃうんでしょうか」
「俺思うんだよね、多分、30年後とかには夏の気温は50度くらいまで上がるんじゃないかって。俺が小学生くらいの頃って今みたいな気温じゃなかった気がするんだよ」
「もっと低かったって事ですか?」
「そ、どんなに暑くても37度くらいがいいとこで、今みたいに39度とかにはならなかったんだよ。その証拠に富士山の雪も昔は夏でもあった気がするんだよね」
「ほんとですね、今だと外からでは富士山の永久凍土見えなくなっちゃいましたもんね。もし夏の気温が50度になったらどうなっちゃうんでしょうか?」
「そうだな、まずクーラーを使う量はますます増えて温暖化はさらに加速するだろ? そんで、いよいよ外に出られなくなった人達は地下に住み始めるんだよ」
「えっ、もう外には出られないんですか?」
「そりゃでたりもするけどそれは仕事の為とかだけで、防護服みたいなのを着ながらじゃないと暑くてとても半袖なんかじゃ外歩けないよ」
「えーっ、私そんなの嫌です! 太陽光を浴びたいし今日みたいに外で買い物もしたいです!」
リカちゃんは本気で不安そうな顔をして言う。
嬉しい……俺のもしも話にこんなに本気で向き合ってくれるなんて……リカちゃんの素直な反応に俺の気分もぐんぐん良くなる。
こないだセナに似たような事を話した時は「考えすぎじゃないですか?」とか、「そうかもしれませんね」とか気怠げな返事しかされなくて悲しい思いをしたのに、聞き手が違うだけでこうも変わるものなのか。
「だろ、だから今が気持ちいいからってそのままにしてるとそれは借金の利子みたいなもんで、いずれ取り返しのつかないことになるんだよ」
「関係のない次世代の人達まで苦しむんだからかわいそうですね、種として子孫に負債を残すんですから私たちはもっと視野を広げた行動を心がけれたらいいんですが」
「まあね、そんな事言いながらクーラー使うことやめられないんだから難しいよね」
「ほんとですね。理性と感情がバラバラなんですね」
「そそ、そう思うと何処か人間関係に似てるかもしれないよな」
理性通りに動けたら環境問題も、人同士の争いや浮気や不倫と言ったトラブルも一気に減るんだろうな。
けれど理性はまだ人間の五感の中に含まれてはいない。理性は感情の僕から脱却するまで進化するには時間がかからのかもしれないな。
「人間関係ですか。お兄さんにも何か困っている人間関係があるんですか?」
「というか、そればっかだよ。俺なんて会社では上司から叱られ後輩からも舐められるし、何してもやたら怒ってばっかのやつもいるし訳わかんないよ」
最後のはセナへの当てつけだ。
俺は知っててついリカちゃんにセナに関係する事を話してしまう。
これで少しはセナが反省してくれないかとの想いも込めて。
「それは困りますね。それって、どんな人なんですか?」
俺としては話の流れで特に深く掘り下げられることもないだろうと思っていたのに、リカちゃんは何処に引っかかったのか、セナについて言及してくる。
「それは……」
困ったな、セナってなんなんだろ?
俺は言い淀む。人じゃないし、話したところで信じて貰えるとは到底思えない。
「それは……?」
「ま、いいじゃん、とにかくいろんな人間関係に苦しんでるって事で」
「……そうですね。人は社会的動物ですから、人との協力なしには生きられません。そして人と人の間には必ず折り合いをつけなければならない問題が生まれてくるので生きる事自体人間関係に苦しむって事なのかもしれませんね」
はー、頭いいなリカちゃんは。aを話すとzまで出てくるみたいに話が進んでく感じで。そんな事考えた事なかったよ。
折り合いを定めるのがルールで、法だって言うなら、やっぱり人はそこに苦しみを感じ続けるんだろうな。
こうして俺がリカちゃん見てドキドキする自分を諌め続けているのが何よりの証拠かもしれない。
「あ、そろそろ三田町じゃん」
「ほんとですね」
こうして俺達は田町へ降りた。




