総務線
いつものように、取り留めのないyoutube動画を見ながら夜更かしをし、いつの間にか眠りに寝ていた俺は、事前にセッティングしておいたいつもと違う時刻のアラーム音に頭を叩かれるような感覚で目を覚ます。
だるい、めんどくさい。全身に蔓延するこの素直な感情に身を任せて重い瞼を閉じたくもなるが、昨夜のリカちゃんとのラインを思い出すと、俺は身体を捻りベットに両手をついて腕立て伏せの要領ね半身を持ち上げる。
「おはようございます」
俺がそのまま半身を起こしベットに腰掛けるように姿勢を替えると、先に起きてたセナが話しかける。
「ん、おはよう」
俺は瞼を擦りながら間延びした声で返事を返す。
「健太郎さんアラームがなってもなかなか起きないんでこのまま眠ったままなのかと思っちゃいました」
「危なかったよ」
「まあ、その時は私が健太郎さんを画鋲でさして起こしてたんで、安心して寝ててもらっても良かったんですけどね」
怖いこと言うな……けどまじでやりそうなのであの時自分で起きて良かったと、数分前の自分の決断を心の中で称した。
「でもいいのかよ?」
いつもと変わらぬ様子のセナを見て、俺はふと気になった事を尋ねてみる。
「何がですか?」
「いや、お前昨日リカちゃんとの買い物嫌がってたじゃん、今日行って大丈夫なの?」
それは……
セナは一瞬逡巡するかのように言葉尻に沈黙を置いたかのように見えたが、俺の思い過ごしだろう、すぐ笑顔になってこう言った。
「健太郎さんが一人でニヤついたり変なこと言ったりしてるのが気持ち悪かっただけで、リカさんとのお買い物を嫌とは言ってませんから」
うぐっ……俺は寝起き早々再び物凄い恥ずかしさでセナの顔を見ていられなくなり、布団にくるまろうとするが、
「ほらほら、起きてください、リカさんとのお買い物に遅れちゃいますよ」
そう言われて俺は塩をかけられたマテ貝のように布団から出させられるのであった。
一応ホルスターにジャケットを羽織り、トートバックにセナと2匹を入れて家を出る。
歩いて二十分くらいで幕張駅に着くので約束の時間の10分前には駅に着くように家を出るのだが、駅前の通りの踏切を越え、幕張駅の南口が見えたところに既に俺を待っているリカちゃんの姿を確認する。
「あ、お兄さん!おはようございます」
エスカレーターの前で俺と同じくらいのタイミングで俺の姿を確認したリカちゃんは笑顔で挨拶をしてくる。
それまで歩いていた俺は急ぎ足でリカちゃんの方へとかけよるが、改めて近くでリカちゃんを見て俺はドキリとする。
Vネックの花柄ワンピースはスラッとしたリカちゃんの長身のシルエットを浮かび上がらせ、街で歩いてたらあまりのスタイリッシュさに男女問わず思わず振り返ってしまうレベルだろう。
底が厚くなっている白いサンダルは彼女のお淑やかな性格を表しているように思えてくる。
「ごめんまったーー」
そして、薄化粧をしているのか、それとも明るいせいか、俺の知ってるリカちゃんよりいくつも大人びて見えるその顔からは高校生なのに大人の色気のようなものも混じり、俺は顔を上げた瞬間、ついチー牛的ウブさのせいで、微笑を浮かべるリカちゃんの瞳とあいかけた目を晒しながら話しかける。
挙動不審に思われてんだろうな。
「いいえ、私もちょうど今きたところです」
「そっか」
しかしリカちゃんは優しい声色のまま話を続けてくれるので、俺も再び彼女と目を合わせると、リカちゃんの瞳は変わらず笑みを浮かべており、自分にひいていない事を確認できた俺はようやく彼女と目を合わせながら話をする事が出来るようになる。
自分に自信のない俺は女の人が微笑みを浮かべてくれていないと安心して目を合わせることが出来ないめんどくさい存在なのである。
少し会話を交えた後、遅れてきたくせに暑いのでホーム行こうと申し出て、傍目からは二人はホームへ移動し、停車していた幕張駅発の総務線急行に乗り込む。
中はクーラーがガンガンにかかっており、熱気を帯びた身体を一瞬で冷やしてくれるこの世の楽園のような快適さである。
「ふいー、気持ちいい。外暑くて死にそうだわ」
「ごめんなさい、わがままで付き合って貰っちゃって」
「ああ、いいよ。家にいてもやる事なかったし。それより今日はどこ行くの?」
俺は何気に気になっていた事を聞いてみた。
「実は防犯グッズを買おうと思ってるんです。空き巣の件で、お父さんが私に買えって言ってきちゃって。私はいらないって言ったんですが部活でいつも夜道を歩くから必要だって」
なるほど、俺は首肯する。確かに女性の夜道は危険だ。仕事帰りに夜道を歩いてると若いOLさんとかを目にするとみんな周囲に警戒を張り巡らせながら歩いてるのが見ててわかる。それに昨日、リカちゃん家の周辺も夜になると薄気味悪いくらいに暗かった。リカちゃんのお父さんが心配する理由もわかる。
「けど防犯グッズって何買うの? ブザーみたいなやつ?」
「はい、キーホルダーのように携帯できて、音がしっかりしたものがいいのかなと」
それでわざわざ実物を見に行こうとしてるんだな。俺は都内まで探しに行く理由がわかった。どうせ買うならしっかり品定めしたほうがいいだろうし。
「けど俺なんかついてっていいの? 俺防犯グッズのお店とかよく知らないよ?」
「それは気にして貰わなくて大丈夫です。昨日、いくつかネットで調べて見て良さそうなお店が何軒か見つかりましたので」
そう言ってリカちゃんはスマートフォンの画面を見せてくれる。
画面の中に写っているのは白いライオンのキャラクターが中央に描かれてそれを取り囲むように英語のロゴがデザインされている。
読むと BODY GARD AKIBA
「あー、秋葉原にあるんだ」
「みたいですね、あれ? どうかしましたか?」
俺はまた秋葉原に行くのかと、この間の暴漢男の事を思い出してつい苦笑してしまう。というかセナと出会ってからやたら秋葉原に行く回数が増えたな。
「いや、なんでもないよ、確かにアキバなら色んな防犯グッズありそうだよな」
「お兄さんはよく行かれるんですか、秋葉原?」
「よくっていうか、最近行く機会が何度かあったって感じかな」
「それってどんな理由ですか?」
どんな理由か、素直に喋るフィギュアに引っ張られてと言うわけにもいかないしなぁ、女子高生相手に友人に合コン組んでもらったっていうのもなんだか気がひける。なので俺は、ちょっと口では説明しにくいかなっとだけ言っておく。
「やっぱりお兄さんはそっちの趣味に……早くしないと……」
ん? 聞こえない程度のか細い声でなんかボソッと言った気がするけどなんだろ?
「リカちゃん今なんか言った?」
俺は気になり、リカちゃんに確認するが、
「いえ、何も」
リカちゃんは笑顔で答えてくる。どうやら俺の勘違いらしい。
それから少し経つと電車に乗り込む人も増えてきて、乗車率100%と言った具合のところでドアが再び閉まり、総務線は動き出す。
早めに電車に乗っておいてよかったな。
クーラーの効いた車内の中、俺たちを載せた電車は秋葉原へ向かった。




