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族・月と太陽の交差点に潜む秘密  作者: ジャポニカダージリン
第2章
50/117

常識

 リカちゃんを家の前まで送り届けた俺は、庭の柵の前でそのまま彼女と別れ、元来た道を戻る。

 帰り道はやけに足取りが軽く感じる。

 なんと明日はリカちゃんの買い物に同行することになってしまった。

それもリカちゃんの方に請われて。

 デートなのか?あの感じ、そう思っていいのか?

 リカちゃんにはずっと前から異性として意識してきたのを必死に隠してきた俺は、実はお互い両思いだったのではとご都合主義な感情が確証に先立って結論付けようとする。今、男としての俺は飛び跳ねたいくらいにウキウキに心をふわつかせているのだが、ここは何度も女性に期待を裏切られた続けた百選錬磨たる否モテ男の俺。捻くれた考え方をするようになってしまった超自我が弾む心に急ブレーキを掛ける。

「期待するな、相手は俺を男としてみてないから故の買い物のお誘い。つまり兄のような存在として俺を信頼しているに過ぎない。そんな純粋な気持ちを裏切っていいのか?」

 そう考えると俺はとんでもない約束をしてしまったのかもしれないな。

 理性に心を絆された後、冷静な頭になって考えてみれば、これはかなりリスキーなお誘いである事に気づく。

 恋愛感情をJK相手に対して抱いている三十路。

 客観的に考えるとかなりキモい。付き合える可能性微レ存とさえ思っている時点で犯罪級にあってはならないことだろう。

 もし明日リカちゃんの方から告白されてしまったら……mmm、苦しいがその時は大人としてしっかり断らなければ、断り切れるのか?

「ハァ……」

 俺は考えがまとまらず、胸につかえている鬱憤を吐き出すように大きなため息を吐くと、


「何をそんなにバカでかいため息をつく事があるんですか」


 ジャケットの表の胸ポケットから頭をひょっこり飛び出させてセナが言う。

 これはセナが自分も外の景色を観たいってんで胸ポケットの底とホルスターがツーツーになるようにあらかじめ改造してあるためなのだが、


「ん、お前には関係ないよ」

 しかし今セナに話しても栓なき事。

 というかいちいち答えるのも面倒なので俺はぞんざいな返事をする。


「良かったですねリカさんとデートが出来て」

 しかしセナは何やら皮肉めいたような口調で勝手に話を続けようとする。

 言ってることと感情がちぐはぐな感じだ。

「馬鹿、デートとかじゃねえよ、ただリカちゃんが一人で買い物するのもあれだから俺も付き合うだけで」

「だったら何で健太郎さんさっきからそんなに嬉しそうなんですか?」

 なんだ、セナのやつ、やたら絡んでくるんな。

 それになんか挑発じみてるっていうか、冷やかすような口調だ。しかしここは冷静に対処せねば、熱くなったら負けだ。

「そりゃ、妹みたいな子に買い物付き合ってって言われれば兄としては嬉しいだろ、頼られてるような感じでさ」

 そういや韓国の男性って恋人にお兄ちゃんって呼ばせるんだっけか? そうなると俺がリカちゃんにお兄さんと呼ばれているのも何か特別な関係があるようでときめいてくるな。

 などと、セナをはぐらかしながら別の考え事をしてまたニヤついてしまったのをセナは見逃さなかった。

「気持ちわるいですよ」

「ウッセー、見てんじゃねーよ、それにお前には関係ないだろ!」

 セナのその一言で冷静さを必死に溜まっていた心のダムは脆くも決壊、俺はキレることによってセナを黙らせようとするが、

「見たくなくても見えるんですよ!ドアップで。健太郎さんの気持ちの悪い独り言と一緒に!さっきから一人で駄目だよリカちゃんとか、まいったなーとか、浮かれるのは誰もいない時にしてくださいよ、気持ち悪い」

「あぅっ……」

 グサグサグサ。

 浮かれてセナの事全く考えてなかったせいで俺は道すがら一人であーだこーだ言いながら妄想で一人芝居を行なっていた。

 それをセナに俺の羞恥心への配慮ゼロで指摘される。剣山で神経を思いっきりさされるような痛烈な恥ずかしさで俺は一瞬ほとんど何も言えず絶句してしまう。

「お前、そんな酷い事よく……」

 すっかり勢いをなくした俺は、かすれかすれなんとかこれだけの声を絞り出すが、セナの勢いは止まらない。

「健太郎さんはリカさんを以前からお慕いしているのは知っていますが、健太郎さんはリカさんとそう言った関係になれると本気で思ってるんですか?」

 そういやこいつ、ヤドランから以前、俺がリカちゃんに恋心を抱いてるの聞いてるんだった。

 それを思い出した俺は最初からセナをはぐらかすことなぞ出来なかったのだということを悟り、大人しく観念する。

「思ってない、けど心が勝手に期待しちゃうんだもん。…」

「駄目です!先ほど健太郎さんが言ったようにきっとリカさんだって健太郎さんを異性として考えてるわけじゃないでしょう。いいですか?お互いのためにも健太郎さんはくれぐれも誤った勘違いを起こさない事。リカさんは妹、それに右も左もわからぬうらわかき女子高生、いいですね?」

 セナは人差し指を天に、厳密には俺の顎に突き刺しながら言う。

 厳しい……心で想うだけでも駄目なのか。

 セナのやつは非常に世知辛い事を言いながらモップのように、俺の心に溜まった淡い想いを隅々まで叩き落としていってしまう。

 世知辛い、何て世知辛いフィギュアなんだ。

 セナとも気まずくなり、俺達はお通夜のような空気で行ききたみちを歩き、家の玄関をくぐる。

 その後、トイレでハクリューにセナの愚痴を聞いてもらったんだが、ハクリューも返事に困っているようだった。

 そりゃそうだよな、セナ間違った事言ってないしさ。

 トイレから出てスマホを見ると、LINEに着信マークが入っている。

 開いてみると先程登録したリカちゃんからだった。

 リカちゃんからは明日楽しみですとキャラクター調のヒヨコが走り回っているスタンプが送られてきて微笑ましい気持ちになるのだが、俺は素直に喜ぶ気持ちにもなれない。

 絵文字も何もつけずに、俺も楽しみだよ。とだけ返すが、数分経っても既読がつかない。

 あれ? 流石に無愛想すぎたか、ラインを送ってから既に十分が経過している。

 俺は例の如く何度もラインを開いて確認し、十回目のラインを確認しようとアプリを開いた瞬間、

私も。と短文の後、ヒヨコが羽で隠した目元の片方の羽を開いたり閉じたりしてこちらを恥じらいながら見るモーションのスタンプが送られてくる。

 な、何じゃこれは、どう言う意味合いが……

 どんな意味があってヒヨコが照れてるのかはわからん。

 しかしこれだけは確実に言える。セナに注意されてなければ確実に俺は、この恥じらうヒヨコで勘違いしていただろう。

 しかし、親鳥の気持ちになれば、ヒナが恥ずかしがるのは当然のこと。ヒヨコはあくまでヒヨコ、なのでリカちゃんのスタンプの意味をしっかり理解できた俺は、雄鳥寝ながら、明日も早いから寝ます、とロゴが入っているスタンプを送る。

 するとおやすみなさいとすぐに返事が来る。

 どうやら正解だったらしい。

 女は存在してるかどうか知らんが『正解』のラインにはすぐに返事を返す生き物なのだ。

 俺はそれを見て安心して風呂へ向かった。

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