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族・月と太陽の交差点に潜む秘密  作者: ジャポニカダージリン
第2章
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優子のお願い

「お兄ちゃんごめん、ちょっとお願いがあるんだけど!!」

 拝むポーズで俺にお願いしてくる優子の髪はしっとりと水気を含んでいる。風呂から出たばかりでまだドライヤーをかけていないらしい。

 何をそんなに慌てているんだコイツは。


「帰ってきたばっかで悪いんだけどさ、リカ家まで送っていってあげてくんない?」


「えっ? リカちゃん今うちにいるの?」


「うん、もう十時回ってんのに一人で帰すわけにも行かないでしょ?」

 全く予想していなかった展開に、俺の心臓は急に鼓動を強めだす。いけない、いきなりリカちゃんはいけないぞ!

 リカちゃんこと井上リカは近所に住む優子の幼なじみで、小さい頃から優子と一緒によく面倒みてあげてたもう一人の妹のような子だ。しかし今や彼女も花の女子高生。もともとお人形みたいに可愛らしい子だったけど、最近、大人の色気も備わってきて、俺にとっては大変危険な存在になってしまった。

 リカちゃんも俺が世間一般的に見て駄目な男だってのがわかってくる年齢だろうし、彼女に対して必死に押し隠しているこの気持ちがバレればリカちゃんだけでなく妹の優子にも絶縁されてしまう事間違いなし。

 だから俺にとってリカちゃんは今は繊細な爆弾のように危険な存在なのである。彼女に非は一切ないんだけどさ。


「それよりなんでお前はリカちゃんほったらかして風呂入ってんだよ?」

 とりあえず俺はこの緊張をはぐらかすため優子を非難することにした。


「リカが食器片付けようとして頭にお水こぼしちゃってさ、風邪ひくといけないからってお風呂すすめてくれたの。私はいいって言ったんだけど」


「ほー」

 この話からもわかるけど、リカちゃんはめちゃくちゃいい子なのである。

 もしかしたら聖女か何かの生まれ変わりなのかもしれない。

 しかし今はそんなことより、早くこの心を落ち着かせなくては。震えるなハート! 静まれビート!!

 俺は一層高鳴ろうと心臓をなんとか落ち着かせようと長く息を吐いて精神統一試みようとするのだが、


「優子、やっぱりいいよ、健太郎さん疲れてるだろうから一人で帰るね……あ、お兄さん!」


「んぐ、ゴホッゴホッ……リカひゃん」

 俺の精神統一も虚しくリカちゃんは急に部屋の入り口までやってきて目があっちゃったもんだから俺は思わずむせった上に噛んでしまう。バレる、バレる。


「お久しぶり……って程でもないですね」

 

「そ、そうだっけ?」

 リカちゃんに会ったのっていつだっけ? 俺のショートした頭は必死に最後にあった日を思い出そうとするが、ぼんやりとして正確に思い出は事が出来ない。だいぶ前だったような……


「もう、3週間前にあったばかりじゃないですか」

 麦わら帽子のつばを口に当てながら眉を八の字に曲げて睨んでくるリカちゃんを見て俺は焦る。

 3週間……そうだ、思い出した!セナを買い物に連れて行ってやる前に家の前であったんだ。


「ご、ごめん、最近仕事で忙しかったんだよ……」

 俺はなんとかごまかそうと苦し紛れの言い訳を言うと


「クスクス、冗談です」

 そう言ってリカちゃんは帽子に顔を埋めながら悪戯っ子のように笑うのだが、か、カワエエ〜……チクショウ、可愛すぎるぞこの子。俺は一回り以上歳下の子供にからかわれたっていうのになんとも心が喜んでしまっている。井上リカ、末恐ろしい子。

「お兄さんはさっきまで仕事だったんですよね……?」


「まあ……」

 本当はセナと食事だったんだけどどうにも言い出しづらくて俺は歯切れの悪い相づちを打つ。

「……ですよね。疲れてるいるのに無理言ってすみませんでした!私は大丈夫なので気にしないでください」

 そう言ってリカちゃんは深々とお辞儀をして去ろうとする。

「いやいや、駄目だろ、夜なんだから」


「えっ、でも……」

「ちょっと待ってて、すぐ用意するから!」

 俺は扉を閉め、すぐに用意にかかる。


「セナ、ちょっと出かけるぞ」


「ハーイ」

 しぶしぶ返事をするセナをバックに入れようとトートバックに手をかけたところで俺は立ち止まる。

「健太郎さん?」


 リカちゃんをちょっと送っていくだけなのにバック持ってくのはおかしいよな……

「セナ、あれを使う」

「あれって? なんですか?」

「ホルスターだ!前買ったのが押し入れにあったよな!」

「えぇっ、あれ使うんですか?」

 セナはやはりホルスターに入るのを嫌がっている様子。セナの要望に応えて可変式の取手をつけてスマホも見れるように改造してあるんだけど。

「そうだ、ちょっと送っていくだけなのにトートバック持ってたら怪しまれるだろ?」

「いやです」

「おい、セナ、わがまま言わないでくれよ」

 困った。やたら清潔好きなこのフィギュ様はこんな時でも俺の願いを受け入れようとしてくれない。


「だって健太郎さん、リカさんの前でカッコつけたいだけじゃないですか!!」


 グッッ……

 それは痛烈にフカブカと俺の胸に突き刺さる。

 セナの放った一言は図星だった。

 なんだかんだ理由をつけてセナを囃し立てたが、結局俺は井上リカという異性の前でいい格好をしようとしていたのだろう。叶うはずもない想いに突き動かされて。

 けど今ので俺は我に帰った。

 ……馬鹿だよな、相手は女子高生だぞ?


「そうだな、悪かった。いつものバックで行こう……」

「あ、いえ……」

 もーどっちなんだ!

 けどリカちゃんを待たせてる手前セナといつまでも無意味な押し問答しているわけにもいかないのでトートバックに再び手を伸ばすと。


「ですけど、夜中は昼間よりもヒッタクリが多そうですし、不注意な健太郎さんについてくにはこっちの方がいいのかも……」

 セナは俺が床に置いたホルスターの前でそんな事を言い出す。

ふむ、セナの言ってる事も一理ある。


「確かに俺もそっちの方がセナを守りやすいけど、セナはいいのかよ?」

「はい! 健太郎さん、ホルスターで行きましょう!」

あれ、そんなに嫌がってないな?

セナの真意はどうあれとにかく合意が取れたので俺は以前買ったホルスターを思わぬタイミングで装着することになり、セナを胸元にセッティングし、上からジャケットを羽織って部屋を出た。

 リカちゃん待たせたな。保安官がおうちまで無事送り届けてやるぜ。


「待たせたな、準備出来たぜ」

 よし、いつもの調子だ。

 さっきよりも心臓は落ち着いている。

 余裕出ちゃった俺はジャケットのポッケに両手を突っ込みながら階段を降り、優子と話しながらこちらに背中向けてるリカに力強く言いはなつ。

 

「お兄さん。すみません。急がせてしまって」

 リカちゃんはサラサラの黒髪をなびかせながら振り向き、二人の目が合う。帽子で隠されてないリカちゃんの顔は少し見ぬ間に一気に大人びたようで、形容するなら『美しい』以外に見当たらなくて、


「は、はひっっ……」

 その魅力にたじろぎ、やっぱり噛んでしまう俺なのであった。



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