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族・月と太陽の交差点に潜む秘密  作者: ジャポニカダージリン
第2章
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帰宅

 通りを抜け、三田駅の改札を通って山手線内回りに乗り込んで空いていたシートに座り、両手に抱えたボストンバックに顔を埋める。

 情けねぇ、早見さんにあんな風に思われてたなんて。女ってコエ〜、もう早見さんと顔合わせられる自信ないよ。

「はあぁ〜〜〜」

 俺は特大の溜息をつく。唯一の救いは明日からの大型連休。それを思い出しなんとか僅かな余裕を取り戻すと、カバンの中から、

「災難だったね、健太郎」

 ハクリューがニュッと首を出す。


「ほんとにな、ってかハクリューお前気付いてただろ?」

「何がだい?」

「早見さんが怒ってるの、それであの時」

 俺はハクリューが昼間会社で言いかけた事を思い出して指摘する。

「ああ、それか、早見さんの表情が一瞬曇ったからね、それでもすぐに笑顔を作って健太郎と話せてたのは流石だと言わざるを得ないな」

「なんで教えてくれないんだよ? おかげでスゲェ恥ずかしい思いしたじゃんかよ」

「すまない、彼女があそこまで怒っているとは気づかなかったし健太郎も上機嫌だったからこのまま休暇に入って早見さんの怒りが自然に収まるのを待つ方がいいと思ったんだけどまさかあんな事になるとは……」

 ハクリューは珍しく反省したように頭を垂れる。

 それを見て俺もコイツをそれ以上責める気にはならない。まあ、ハクリューに落ち度全くないしな。それよりもだ、

「もういいよ、ところでセナは?」

「さあ、どうだろうか……ずっと俯いてるようだけど」

 俺が気になるのはセナだ、セナも早見さんの怒りに気づいてたんだ。

それで食事中それとなく仄めかすような事を言ってたんだな、クソ、気づいてないの俺だけかよ。とんだ同化だぜ、ちゃんと言ってくれればあそこまで傷つく事もなかったのに……

俺は遠回りな言動をするセナに小言を言ってやろうと鞄の中体育座りで俯いているセナに話しかけるが、


「……」

 セナは俺に返事をしようとしない。

まあ当然だよな、こんなダサいやつと会話なんかしたくないだろう。

しかし言わねば気が済まん、が、まずは謝ろう、まずはこいつの機嫌を取ることが遠回りに見えて最良の選択なのだ。

「セナ、悪かったな食事台無しにして、それとありがとな」

 謝罪のついでにお礼も言っておいた。実際セナがあの時机を叩いてくれなかったら俺はどうなっていたかわからない。

 お金を払わず店を飛び出してに無銭飲食をおかしていたかもしれん。あの時はそれくらい動揺していた。


「いいえ……」


顔は合わせずコクリと頷きながら返事だけするセナ。

いや謝罪して欲しいのはこっちなんだけど……

しかしこれ以上はやめといた方がなんか良さそうだな、感謝を述べてもセナの背中からはどんよりとした空気が漂ってくる、ここで小言を言ってもいい事はおきないだろう。

なので俺はバッグのジッパーをそっ閉じし、スマホを開いて帰りの電車を過ごすことにした。


「ただいま〜」

「お帰り、ご飯は?」

 幕張駅でおり、這々の体でなんとか家まで辿り着き、家の階段を上がろうとするとリビングでテレビを見ていた母親がドアを開けて話しかけてきた。

「いい、食べてきた」

「そうならそうと連絡入れなさいよね?」

「はいはい、次から気をつけるよ」

「ったく、そうだ、優子がアンタに話あるってさ」

「俺に?なんて?」

「さあ」

「優子は?」

「今お風呂入ってるよ」

「そか、じゃあ後で聞いとくわ、とにかく疲れてるから」

 そう言って母との会話を早々にうち切り、自分の部屋は入る。


「あ〜疲れた……」

 自室に入り俺は部屋着に着替えると床に置いたボストンバックのジッパーを開けてベットに寝転がる。

 はぁ、今日はショッキングだったな。けどもうお盆休みだ、嫌なことは寝て忘れてしまおう。

 しかし、しばらくベットに寝転がったままでいてもどうにも落ち着かない、

『冗談やめてよあんな馬鹿!!』

頭の中でいくら振り払っても早見さんに笑われた事がエンドレスで思い出されてくる。

それに連動して彼女に笑い論を語った事、いつでも力になりますとのたうった事、あの時のことやこの時の事や、これまで自分が早見さんにとっていた行動が具体性を伴って恥ずかしい事だったんだとわかり、どんどん焦りと不安が込み上げてくる。

 くぅぅぅいかん、いかん、いかんぞ、どうやっても自責の念を振り払うことが出来ん。そうだ、お笑いを見て気分を変えよう。そう思い目を開けてふと思う。

 そういやセナはどうなったんだろう?

 店を出てからずっと話していないセナの事が気になり、スマホを手に取りながらチラと部屋を見回してみる。ヤドランはぼけっと座ってる。ハクリューは辞書みたいな内線規定をペラペラとめくってるが、セナは見当たらない。

 どうやらまだカバンの中から出てきていない様子。何してんの?

「なあヤドラン、セナのやつ何してんの?」

「さあ、お店を出てからずっと喋ってないお。おいら達も怖くてセナに話しかけられなかったお」

「セナのやつお前にも何も話さなかったのか」

 それにしても迷惑なやっちゃな〜、どれ、俺が様子見てやるか。

「あ、健太郎……」

 俺はセナが気になり、静止しようとするヤドランの声を無視してバックの中を覗いてみると、やはりいる。


「オイ、とっくに家着いてんぞ?」

 俺は声をかけてみるが、


「……健太郎さんも確かに馬鹿だけどあんな言い方はないじゃない……」

 セナはカバンの中で何かぶつぶつ呟いている。しかし声が小さくて良く聞こえない。

 ちょっと気持ち悪いな……


「オイ、聞こえてんだろ?ヤドラン達が怖がってんじゃねーか」


「……」

 返事がない。

 ただの フィギュアの ようだ……

 ちょっと心配だな。


「おいったら!!」

「あーウッサイッッ!!! 今話しかけないでよね、イラついてるんだから!!」

 俺が少し強めに話しかけるとセナは急にキレ気味で返してきた。なんじゃコイツ。


「はぁ? いつまで怒ってんだよ、もういいじゃねーか」

 急に怒鳴られたもんだから俺もつい反射で負けじと言い返しすが、


「はぁ?良くないわよ、アンタあんな酷いこと言われたのになんでもう忘れようとしてんのよ、馬鹿なんじゃないの?!」

 カチーン。コイツ、俺に今一番言っちゃいけない事を言いやがった。俺が一番気にしてることを。


「ウッセー、馬鹿なのはわかってんだよ!!お前こそ毎度毎度すぐ怒りやがって、キレさせる方の気持ちもちょっとは考えろよ!」


「はぁ? 今の文字に起こして見なさいよこの馬鹿!!それに今日はアンタに怒ってるんじゃないわよ!」

っと、思いがけない事を言うセナ。

あれ、そうなの?


「じゃあ誰に怒ってんだよ?」


「早見さんよ、あの女。健太郎にあんな酷いこと言って笑ってる性悪さに腹を立ててるのよ!!」

 驚きだ。どうやらセナは馬鹿にされた俺じゃなくて、俺を馬鹿にした早見さんに腹を立ててくれているみたいだ、なんだかちょっと嬉しいぞ。


「あのー、いつもお前俺の事早見さん以上に馬鹿にしてくるんですけど……」

「私はいいの!私は。それに私は健太郎さんを犬だなんて言ったりしません」

 そんな無茶苦茶な……それに犬とまでは言われてないんだけどなー、犬までとは、それっぽい事は言われてた気はするけど……


「そっか、けどいいよ、俺はもう怒ってないからさ」

「私がよくありません!!」

 言われた本人がやめろと言っても本人以上に怒りを継続させてようとするセナ、強情なやっちゃなぁ。

「なんでお前が早見さんにそんなにキレるんだよ? 自分も馬鹿にされたならわかるけどさ、セナが怒る必要ないじゃん?」

 そう言うとセナは「そ、それは……」と何故か口をつぐんでしまう。

……まあいっか、俺の為に怒ってくれるのはなんだか悪い気はしないぞ、コイツにもあったんだな、情ってやつが。

なので俺は、

「理由はわからんけど俺の為に腹を立ててくれたのは嬉しかったよ、ありがとな」

と今度は素直に感謝の気持ちを伝えると、


「はい……」

 そう言うセナの言葉からはもう怒りを感じない。どうやらセナも落ち着きを取り戻したみたいだ。


「じゃ、俺今からyoutube見るから」

 良かった良かった、これで落ち着いて東京03のライブを見れるぜ。

 俺はそう言って一件落着の体でスマホに手を伸ばしかけるが、


「待ってください」

 ベットに向かおうとする俺にセナが話しかけてくる。何もう。

「何すか? 俺youtubeみたいんだけど?」

「健太郎さんあのウェイターさんととても楽しそうでしたね」

 そう言うセナに悪寒のようなものを感じる。

 気のせい……?

「あ、ああ、いい子だったな、俺みたいなのにあんなに気さくに話しかけてくれてさ」

「とても可愛らしい娘さんでしたね」

「そ、そうだな、ああいう溌剌とした子は好感が持てるよな」

「健太郎さん、デレデレしてましたもんね」

 なんだ?セナのやつやたらつっかかってくるな。

 なんかトゲあるし。

「そりゃ男だからな。女の人に話しかけられたらちょっとはデレたりするだろ? それがなんなんだよ?」


「知りません!!」

 そう言ってセナはそっぽを向く。

 なんなんだいったい、何を怒ってるんだセナのやつ……

 俺はふーむと顎に手を当てて考える。あっ!

 そうか、セナのやつ一人だけ放置された事怒ってるんだな、それで癇癪起こしてクラムチャウダーに穴開けたんだな。

 けどその気持ちちょっとわかるぜ、


「セナ、悪かった、俺も日々無慈悲な社員共に蚊帳の外のような扱い受けてるからお前の怒る気持ちわかるわ〜悪かった」

「別に怒ってませんから!!」


 セナは怒っていないと言うが、まぁ嘘だろう。あの苦しみと怒りは実際に経験したものにしかわからない。情けなくて非常に受け入れ難い部類の感情だ。

ここは村八分の先輩の俺が大人になってやるか。


「無理をするな!お前をほったらかしにして二人で話盛り上がったのは悪かった。お前は喋れないから尚更気を使うべきだったな、そうだな、もうちょっとお前に注目が行くように話をリードすれば喋れなくともお前もコミュニケーションには参加出来たはずだ、この点は俺に多いに反省点があるな」


「……はい……?」

 セナは怪訝な顔で俺を見る。図星を疲れて恥ずかしいんだろう。


「隠さなくても大丈夫だ、あれ、悔しいよな……信じたくないよな?」

「あの、健太郎さん……?」

 俺は反論しようとしてくるセナを手でせいしながら話を続ける。


「けどなセナ、食べ物に当たるのは良くないぞ、いくら悔しくてもクラムチャウダーに穴を開けるのはちょっと違うんじゃないか?」


「……」

 お、ちゃんと聞いてるな。ま、あんまり攻めすぎるとコイツ本気でキレるからな、これくらいで抑えておくか。俺もちゃんと成長してるのさ。


「けど俺が悪かったよ、次からは俺も気をつけるよ」

 俺はそう言って話を終えにかかる。みろ、今回はセナをキレさせずに済んだぜ。あ〜スッキリした、村八分の俺が言っちゃいけない事言っちゃうけど説教するってぶっとゃけ快楽。

俺は感心しているだろうセナをチラと見ると、


「……それが怒った理由じゃないのに……」

何やらブツクサ言ってる、クソ、聞こえにくいな、まだ納得してないのか、


「なんや?思ってはる事あるならハッキリ言ってみ?」


俺があーん?って感じで聞くと、


「知りません!! 健太郎さんの馬鹿! 犬! 唐変木!!」


 おっふ……セナは早見さんよりも酷いことを叫んでバックからとびでてヤドランの方へ走っていく。

 言ってんじゃん、犬って……

 まあいいや、早くyoutube見よっと。

 そう思い俺は立ち上がり、ベットに向かおうとしたところで突然、ガチャリ!!


「お兄ちゃん!! ちょっとお願いあるんだけど!!」

「うわっ!!」

 優子がノックもせずに部屋の扉を開けてきた。焦りながらセナの方を見るとセナはダルマさんが転んだの容量で駆けているポーズで固まっている。ホッなんとか堪えてる……ってかマジで心臓に悪い。

「優子お前ノックしろっていつも言ってんだろ?」

「あーハイハイ、ごめんごめん」

 そう言って謝ってはいるけど優子はあまり堪えていない様子。これは真剣に部屋の鍵を考えねばいかんな。


「それよりお兄ちゃん、ちょっとお願いあるんだけど!!」

 優子は両手を合わせて拝みながら言ってくる。

うーん、早くゆっくりしたいんだけど……


続く。

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