表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
族・月と太陽の交差点に潜む秘密  作者: ジャポニカダージリン
第2章
43/117

マティーニ

 セナはテーブルの向かいに俺と対座するように足を伸ばして座っている。

 ハクリューとヤドランはカバンの中でいいらしい。ま、あいつらも食わないからな。

「で、セナは何にするんだ?」

 俺は正面のセナにメニューを見せて話しかける。

「健太郎さんが決めてください」

「え? 自分のは自分で決めろよ」

「いいじゃないですか、決めてくださいよ」

「嫌だって。俺お腹あんま減ってないしよくわからんメニューばっかだもん」

「……もういいです」

 セナの要望を拒否るとセナは黙ってしまう。しかもなんかちょっと不機嫌っぽい。 なんで?

「わーったよ、俺が頼めばいいんだろ、頼めば」

 とは言うものの、ピザとパスタ以外わからんのばっかだな。あ、クラムチャウダーは聞いたことがあるぞ。確か早見さんが前好きだって言ってたな。さすが早見さん、助かりました。

「すみませーん」

 俺がそう声を出して誰か呼ぶと黒のベストに腰にソムリエエプロンをつけたイケメンのお兄さんがやって来てくれる。

「はい、いかがいたしました?」

「あの、ご注文いいですか?」

「はい、かしこまりました」

「このクラムチャウダーっていうのと、マルゲリータピッツァを、それとドリンクは……」

 あれ? セナドリンクはどうするんだろ? まあ水でいっか。そう思ったところでセナが、

「ドリンクはマティーニをお願いしますね」

 あ、ドリンクは自分で選ぶんだ。

「ドリンクはこのモヒートっていうのとマティーニをお願いします」

「かしこまりました、ドリンクは別々にお持ちしましょうか?」

「あ、いえ、一緒に持ってきてください、それと取り皿は二人分お願いします」

「かしこまりました」

 そう言うとお兄さんは軽いお辞儀をして厨房の方へと向かっていく。ふぃ〜なんとか注文できた。

 正面に正座してるセナに気づいてただろうけど何も触れないようにしてくれるのがありがたい。

 少しするとお兄さんは緑色葉っぱが沈んでる液体の入ったタンブラーグラスと、透明の液体に無着色の梅干しのような実が入った三角形のカクテルグラスを持ってきてくれた。

「ドリンクでございます」

「あ、ありがとうございます」

 俺が両手を伸ばしてそれを受け取ろうとすると、

「コホン」

 ん? セナが咳してる。フィギュアでもむせることがあるのかな?

 構わず俺がグラスに手を伸ばそうとすると、

「コホンコホン!!」

 また咳をしてくる。凄いわざとらしい感じの。なんだ? なんか言いたいことがあるのか?

 俺は手を止めてセナの方を見るもんだからウェイターのお兄さんは「どうされました?」って顔してる。

「健太郎さん、私の分は私の前に置いてもらえるように伝えてください」

 そうセナが言うもんだから、

「はぁ? 何言ってんの?」

 俺がそう言うと、ウェイターのお兄さんが「どうかされました?」と不安げな顔して俺に言ってくる。ヤバ、つい声出しちゃったよ。

「あ、いえ、気にしないでください」

 俺は誤魔化すように急いでグラスを受け取ろうとするけど、


「ちょっと? 何無視してるの?」

 あぁ、鬱陶しい! 何にこだわってんだよ!!

 声が出せないもんだから俺は心の中で叫ぶ。イラつきを抑えながら。

 しかしこのままセナを蔑ろにするとまたまた不機嫌になるのは火を見るより明らかだ。

「あの、すみません、モヒートはこちらに、それと……」

 クッ、恥ずかしくて言えない、『マティーニは目の前のフィギュアに』と。お兄さんにどんな顔されるやら……いよいよ俺の変人具合も磨きがかけられつつあるじゃないか。

「ちょっと、早く言いなさいよ!!」

 俺がまごついてるとセナの口調はどんどん荒々しくなってくる、あぁ、あああ……


「あ、あの……マティーニはめ、目の前の子に……」

 言った。言ってしまった……は、恥ずかしい……顔を両手で覆いたくなる。

 もう俺、このお店にはこられない。


 しかし、俺の奇妙な行動にも、このウェイターさんは変な顔一つせずに、ニコッと品のある笑顔を作ると俺に言われた通り「こちら、マティーニでございます」とセナの手前に出してくれる。

「では失礼します。料理は後ほどお持ちしますね」

「あ、はい」

 そう言ってウェイターさんは軽いお辞儀をして颯爽と他のテーブルへと歩いていく。カッケ〜、なんてスマートな振る舞いなんだ、全然恥ずかしさを感じない。惚れちゃうぜ。

 俺がウェイターさんにウットリとした目を向けていると、


「コホン」

「ん?」

「ドリンクが来ましたね」

 セナが話しかけてくる。

「そうだな、じゃあ飲むか」

 俺が目の前のモヒートに手にとって飲もうとすると、

「ちょっと健太郎さん、あれがまだですよ?」

「あれ?」

 俺はそのまま聞き返す。なんの事だろ?

「ほら、あれですよあれ! 飲み物を飲む前の」

「わからん、あれってなんだよ、ちゃんと言えよ」

「むぅ〜……」

 セナの表情はちょっと曇る。なんだ? 俺が不思議に思ってると、後ろの方から「かんぱ〜い!!」との威勢のいい声と、それと同時にカキンカキンとグラスを打ち合う音が聞こえてくる。

 どうやら俺達より後に入ったOLの人達が先にドリンクを注文したみたいだね。

 何が楽しくてあんなハイテンションで乾杯するのかな……あっ!

そう思ったところで俺は気づく、


「あぁ、乾杯か!」


 そう言うとセナは、もう、鈍感なんだから……と耳が痛くなるような事を言ってくるので俺は「ああ、乾杯な、乾杯!!」とはぐらかすようにセナのカクテルグラスに適当にモヒートグラスをぶつけてやる。

 一人でおままごとしてるみたいで恥ずかしい〜。


「むぅ〜。健太郎さん、ちゃんとエスコートしてくださいよ」

 乾杯をしてモヒートグラスを口に近づけたところでセナはいう。


「エスコートって俺にそんなもん期待しちゃ駄目だって、そんな経験ないもん」

「それでも頑張ってくださいよ! 男の人なんですから」

 ああ、それでセナはさっきから様子がおかしいのか。ププ、こいつ一丁前にこのお店の雰囲気に浸りたがってるんだ、一端のレディーすか。けどこれを馬鹿にするとセナがキレるのは流石の俺でも分かる。だから合わせないといかんぞこれは、上司の自慢話を聞くときのように忍耐強く。


 とは言ってもいざエスコートってなると何すればいいのかわからんな、会話とかした方がいいんだろうけど、いざ喋ろうとすると何も話題が思い浮かんでこない。

(あれ? 俺いつもセナと何話してだんだっけ?)

 ゴクリ……そう思うと俺は急に緊張してくる。喉に何かつっかえているように何か適当に言葉を出そうとしても胸の奥に引っ込んでいってしまう。

 気まずい沈黙が二人を包む。きっとセナも気まずく思ってるんだろう。何かないのか何か、そう思って手元を見ると俺はさっきセナのグラスに打ち付けたモヒートを手にもったままだった事に気づく。

 間を持たせるためにとりあえずモヒートをストローですすってみると、あっ、これ凄いスッキリする、中にミントが入ってるのか。

「おい、セナ、このモヒートっていうのスゲェスッキリするぞ!」

「そうなんですか?」

「ああ、中にミントが入ってるんだけど、それとライムと微炭酸とが合わさって口の中がスッキリ爽やかになるんだ、普段は飲まないけど二郎の後だといいかもしれないよ」

「ここ、健太郎さんがよく行く二郎本店の帰り道ですし、いいかもしれませんね!!」

「ほんとだな!これで次の日の胃もたれも怖くないぜ」

「も〜、健太郎さん、せっかくこんないい雰囲気のお店なのにおじさんっぽい事言わないでくださいよ」

「ああ、そっか、すまん、思った以上に美味しくて驚いたもんだからさ」

「クスクス、けど、その素直な所が健太郎さんのいい所ですよね」

 お、セナが笑ってる。そういや俺もなんか緊張がほぐれてきて、普通に会話出来てるよ、ドリンクの効果ってスゲェー、そういやセナのドリンクの中に入ってる梅干しみたいなのなんなんだろ?

「なあセナ?」

「はい! なんですか?」

「そのマティーニの中に入ってる梅干しみたいなのはなんなんだ?」

「これはテーブルオリーブといって、オリーブの実を塩漬けにしたものです。お酒のお口直しに食べるんですよ」


「へ〜、美味いのか、オリーブって? 俺の認識ではオリーブってオイルくらいしか使い道がないようなものなんだけど」


「はい。地中海に近い土地ではピッツァに載せたり、ピクルスにしたり、サラダに入っているも一般的なんですよ」

 なんでそんな事しっとんねん。俺は心の中でそう思うが、変な事は言わずに相づちだけ返す。

するとセナはご満悦な表情を見せながら、


「日本の人たちにはあまり馴染みがないですけど、ギリシアの人達とオリーブには古来から密接なつながりがあって、昔アッティカでアテーナ様がポセイドン様との力比べでギリシアの人々にオリーブの木を送られてからずっと人々はオリーブを平和の象徴として生活の一部に取り入れてきたんです。その生命力の強さから勝利、命、知恵とさまざまな〜」


 あちゃ〜、始まっちゃった、セナのうんちく、そうだ、こいつ何か語り出すと長いんだよ、めんどくさいな〜もお……

 ま、本人が楽しそうだからいっか。

 

 俺はペラペラ喋るセナの話を右から左へスルー。

 適当に相槌をうちながらボケーっとしてると、

「男は年収1000はないとね!」

 後ろのOLさん達の方から聞こえてくる。

「学歴もないと駄目! 早慶以上は当たり前よね!」

「やっぱ会社持ってないと!」

 そんな感じの男論でキャイキャイ盛り上がってる。

 ケッ、港区女子ってやつか、男は心だろうがよ。

 腹立つな〜こういう男をアクセサリーかなんかと勘違いしてるような人達って。

 俺は一人、勝手にちょっと不機嫌になりかけたところで、


「お待たせしました、マルゲリータでございます!」

 さっきのイケメンのお兄さんが料理を持ってきてくれた。

 お兄さんは目の前で鮮やかにピザに切れ込みを入れると、それをテーブルに置いてくれる。取り分けようのお皿もちゃんと二人分だ。

「ありがとうございます」

「どうぞごゆっくり」

 俺が感謝すると、お兄さんはそう言ってまた別のテーブルへ去っていく。その店員の背中を見送っていると、


「うわ〜! 美味しそうですね、健太郎さん!!」

「だな!」

 セナはいつのまにかオーディンとロキの決闘まで展開していた神々話をやめて目の前のピッツァに夢中なご様子。トロっと溶けたモッツァレラチーズにバジルが乗ったそのピッツァは確かに旨そうだ、ヤバ、お腹空いてきた。

 俺はお兄さんがカットしてくれた1ピースのピッツァを小皿に乗せて先にセナの前に置いてやる。

「ありがとうございます!」

「いいよ」

その後俺の皿にピッツァを載せてとって、

「じゃ、食おうぜ!!って言ってもセナは食べられないんだっけ、悪い……」

 ヤバ、テンション上がってついうっかり酷いことしちまったか? 俺は恐る恐るセナの様子を伺うがーー


「大丈夫ですよ、こうやって健太郎さんとお食事出来てるだけで!」

 そう笑顔で言ってくれる。

 良かった、セナさん寛容。

 少し悪いなと思いながらもピッツァを手でつまんで食べて見ると、うん、美味い、生地がフワッとしててチーズも潤沢で、美味しいぞ、ここのピザ!!

「セナ、美味いぜ、このピッツァ!」

「良かったですね、健太郎さん!」

「ああ、ほんと悪いな、俺だけ食べちゃって」

「いえ、いいんですよ!」

「そっか」

 美味しいピッツァを食べながら、俺もセナも笑顔が続く。

「いや〜それにしてもハクリュー様々だよ、ハクリューのおかげで仕事でミスなくなったもんね」

 機嫌が良くなり、俺はハクリューの話をする。


「はい! でも頑張ってるのは健太郎さんも同じですよ!」

「いや、俺は駄目だよ、ハクリューがいないと何も出来ないもん、上司にはミスして怒られてばっかだし、後輩には舐められるしさ」

 嫌だな、せっかくいい空気だったのに、褒められて素直に受け取れない自分がいるよ。

 言っててちょっとネガッぽい気持ちになった。


「ま、ミス田中の事はいいよ、今はハクリュー様に感謝感謝っと」

 俺は少し悲しくなった気持ちを紛らわせるように冗談気味に空気を変えようとするが、


「そんなに自分を卑下しちゃ駄目ですよ。健太郎さんはいつも頑張りたいって気持ちで溢れてるじゃないですか」

 セナは逃げようとする俺を許してくれなかった。


「いや、気持ちだけじゃどうにもならないものもあるから……ハクリューだってもう近くで見ちゃいられないから俺を手伝ってくれてるんだぜ」


「そんな事ないですよ。健太郎さんだから、いつも頑張ろうとしてる健太郎さんだか、ハクリューさんも力を貸してくれるんです」

 セナは大きなセルリアンブルーの瞳で俺の目を見据えながらいう。真剣だけどどこか優しさの込められた表情で。

 綺麗だな、セナの瞳ってこんな色してたっけ……

 俺は今更セナの瞳がどんなだったかを知って驚く。

 そういや俺セナの事なんも知らないな、今まで全然セナの事しろうとしてこなかったんだな。

「そうなのかな……?」

「はい!」

「そっか、うん、ありがと、俺頑張るよ!」

「健太郎さんはいつも頑張ってますよ!」

「いやいや。もっと頑張るよ!!」

「はい!! けど体調には気をつけてくださいね?」

「おう。よし、飲むか!」

「も〜言ってる側から……」

「ハハっ、明日からお盆休みだから大丈夫だよ!」

 そう言って二人で笑い合って目を合わせてると、あれ? なんだろ? なんかこう脳がぼ〜っとし胸があったかくなるような。

 なんかセナがいつもより可愛く見えてくるような……、いやいやいや、相手はフィギュア、あくまでアニメキャラクターを見て可愛く思えてきたりするあれだから!それにあくまで俺達はパートナー、セナも俺の事人としては嫌ってるはずだから。ないない、ないったらない!!これはこの店の雰囲気がそうさせてるんだ、惑わされるな健太郎!!こえーよ空間効果!!

 けどなんか色々とセナの事気になってくるな。

「なあセナ、お盆休みにどこか行きたい所とかあるか?」

「えっ? ディズニーランドに行くんじゃなかったですか?」

「それ以外にだよ、せっかくの長期休暇なんだからどっか遊びに行こうぜ?旅行でもいいしさ」

「?!?!」

 セナは驚いて目を大きく開いて俺の事見てる。

「か、考えておきます……」

 そう言ってセナは目を逸らす。俯いちゃった……

 ヤバ、やっちまった、また俺の悪い癖で急に距離感を無視するから……これ、LINEと一緒で忙しいからとかなんとかで断られるやつだよな。やっぱこう言う所セナも女なんだろうな、そして俺は女に近づこうとしてはいけないのだ。わかってたのにな、はいはいまた避けられるんですよ。

ちょっと残念な気持ちが浮かんできて、俺は口籠っえしまい、俺とセナの間に再び沈黙が流れる。

 うう、気まずい。そうだ、俺達は何かよくわからないパートナー!!仕事の話をすればいいんだ!!


「セナ、あのさ!!」

 俺は声を振り絞るようにしてセナに話しかける。


「は、はい!!」

 セナのビクッと勢いよく反応する。

 そんなに過剰反応するなよ、傷つくなぁ。


「そもそも俺って何したら言いわけ? なんか初めて会った日に声を届けてみたいな事言ってたけど」


「あ、ああ、そっちですか……」


「ん? そっちって何が?」


「いえ、なんでもないですから!!……そうですね、ずっと話さないといけないと思ってたんですけど、どうしても健太郎さんとはこう言った話をする機会が取れなくて、そ、そう!それで今日もこのお食事の席を設けて貰ったっていうのもあるんです!!」


「そ、そうだよな、うん、そりゃそうだ」

 ほらね、やっぱり。

 そう納得しながらも何故か俺は心の中で何かが急速に冷めていくのを感じた、期待して注文した料理が実際に出てきてみるとイメージとかけ離れていた時のような。

 自虐で俺って冴えないよなって聞いてそうだねって素直に返されてしまった時のような。

そんな自分勝手な期待を裏切られてしまった時の悲しさだ。

 

「……コホン、では健太郎さん、今現代の人々の殆どが信じているものってなんだと思いますか?」

 むむ? 何?落ち込む俺を気づいてクイズをだしてるのか?

そう思ったが目の前のセナは真剣なご様子、なので俺も一応真面目に考えてみる。

要領を得ない質問だよな、禅問答か何かか?


「そうだな、科学と数学とかそう言う実学的なものとかかな? 外国だと宗教を信じる人とかも多いかもしれないけど」


「はい、健太郎さんが仰ったように、人々は遥か昔に科学の力を手に入れました。そして、それが人間の素晴らしいところでもあるのですが、現状に甘んじず、受け継がれる文化と尽きぬ好奇心という二本の折れない柱でこの輝かしい文明社会を築き上げてきました」


「ふーん、そなんだ」


「……ですが、その科学という望遠鏡を使って覗かれる景色と言うのは、遠くのオリーブの木が見えて、木は全てオリーブだけだと思い込んでしまうようなものなのです」

 

「ん? どう言う事?」

 妙に比喩チックな言い方だな、よーわからん。

 俺がぽかーっとした顔でセナに言うと、セナは大きな溜息をつく。


「はぁ、つまりですね、今人間は、ずっと世界に存在していて本来見えるものが、見えなくなってしまっている状態に陥ってるんです」

 

「う〜ん、お化けとか幽霊とかそういう非科学的なものの事? それならさもありなんだな、俺信じてないけど」


「いえ、そういうのとはちょっと違います、つまりーー」

 セナがそう言いかけたとき、


「どうも〜クラムチャウダーでーす!!」

 そう言って料理を持ってきてくれたのは、さっき道で俺をキャッチしてここに連れてきてくれた子だ。

 キャッチの仕事は終わったのか。

「あ、お兄さん! うちの料理どうですか?」

「あ、ああ、美味しいよ、ピザのチーズもトロトロでさ」

「でしょでしょ? ウチのチーズ、うちの店長が北海道にまで探しに行って見つけだしたものなんですよ!」

「は、はぁ、それは、凄いバイタリティですね」

「はい、ウチの店長めっちゃ熱いんですよ! それはそうと、お皿が二人分ありますね、あれ……?」

 うっ、ヤバい、セナに気付かれた! 引かれる……


「これお兄さんのですか!?めっちゃ可愛いですねこのフィギュア!なんのキャラクターですか!?」

 意外にもこのお姉さんはセナを見て引くどころかテンション

をあげてきているぞ、若者の柔軟さ半端ないな。

「さあ、なんだろ……たまたまゲーセンで見かけてたまたま落とせちゃったんだけど」


「へ〜、で、お兄さんはそのフィギュアとこうやって食事を楽しんでるんですね!」

「うん、まあ……」

セナの目前、フィギュアにやらされてるとは言えず、俺はちょっと気まずい感じに答えるが、あどけない笑顔を向けるお姉さんは、


「へぇ〜、お兄さんお洒落ですね!」


っとなんとこの状態をプラスに受け取ってくれている。なんてこった、お世辞なんだろうけど嫌な気はしないぞ、ちょっと照れるけど。


「え、お洒落? これが? 引かないの?」


「引かないですよ、若い人でもこういうフィギュア集めてる人って結構いますし、友達もコスプレとかしますし。ちょっとお兄さんのは斬新で驚きましたけど、素敵じゃないですか!」


「へ〜、そうなんだ……」

 最近の若者達にとってアニメとかフィギュアって俺たち昭和産まれ世代の時よりももっと一般的な存在なのかな?

 俺が二十歳くらいの頃はいい歳こいてアニメ見るってのは蔑むべきオタクの代名詞みたいなもんだったんだけど、

「そだ、何か飲まれます? お兄さんグラス空いてますけど?」

「そうだな〜、じゃあ俺もマティーニで」

「フィギュアちゃんと一緒のですね、わかりました〜」

 

 ちょっと心のつっかかりが取れた俺は、若干気になっていたオリーブ入りのマティーニを注文すると、お姉さんはるんるんって感じで厨房の方へと向かっていった。

 元気な子だな、溌剌としてて嬉しくなるな。

 俺が彼女の背中が見えなくなるまで見届けてると、

「健太郎さん、なんだか楽しそうでしたね」

 ハッと俺はセナの声に気づく。見るとセナは俺にジト目を向けてきてる。


「あ、ああ、ごめん、あのお姉さん凄いハイテンションだったからさ」

「むぅ〜、ま、いいですけど。それはそうと、クラムチャウダーですね!」

「ああ、メニューにオススメって書いてあるぜ、ほら」

「ほんとだ! すごく美味しそうです!」

「だな!」

 このクラムチャウダーと言うシチューのようなものが中身をくりぬいた手のひら大の酵母パンの中に溢れんばかりにぎっしりと詰められてて、そこから沸き立つ湯気が物凄く食欲をそそってくる。

 スープの中に見え隠れしてるのは貝かな?美味そうだ。

「ナイスです健太郎さん!! 私、一度クラムチャウダーを食べてみたかったの!」


「おい、動くなって!!」


「あ!ごめんなさい、つい」

 ほ〜、凄い食いつきだ、いつも俺に注意する側のセナさんが約束を忘れてクラムチャウダーに夢中になっている。

 さすが早見さん。女子力高いぜ。


「凄いですね、健太郎さん! 健太郎さんが選んだ料理はみんな絶品です!!」

 テンションが上がったセナはそんな事を言ってくれる。

 よかったよ喜んでくれて。料理選びは失敗しなかったみたいだ。これも早見さんに感謝だな。


「だろ? クラムチャウダーは早見さんが好きな料理なんだよ、早見さんスゲー『お洒落な女性』って感じだからさ、間違いないと思ったんだよ」


「へ、へ〜そうなんですね」


「そうそう、スゲーよな早見さんって、美人で優しくて、それなのに男性社員よりも仕事できてさ、それなのに俺なんかにも優しくしてくれるしさ」


「そうですねー、早見さんはステキな人ですねー」


「やっぱセナもそう思うだろ? 早見さんが隣で俺ラッキーだぜ、ある意味俺の会社の辛い立場も帳消しかもしれないよな、ハハハ」


「良かったですねー、けど知りませんよ、早見さんだってもしかしたら心の中では無理して健太郎さんに合わせてくれてるのかもしれないんですからね」


「お、おいおい、なんだよ、セナ、捻くれてるな。ナイナイ、早見さんに限ってそれはさ。人ってさ所々のちょっとしたとこで性格を隠しきれないもんなんだよ、けど早見さんからは課長達みたいな腹立つところとか全くないもんね」

 

「そうですか……」


「そうそう、あ、ちょうどマティーニが来たみたいだぜ!」


「どうも〜マティーニでーす」

 またさっきのお姉さんがマティーニを持ってきてくれた。

「ありがとね」

「いえいえ〜、それよりお兄さん何かいいことあったんですか? 凄く楽しそうですけど?」

「ん、まあね、俺の課の隣に凄い魅力的な人がいるんだけどさ」

「えっ、もしかしてそれってお兄さんの好きな人だったりするんですか……?」

「えっ、いやいやいや、好きだなんておこがましい、まあ、アコガレって言うの? 高音の花子さんってやつ?」


「そんな事言っちゃって、自信持ってくださいよ、お兄さんカッコいいんですから!」


「俺が? カッコいい? またまた〜」


「いやいや、ほんとですって、私お兄さんみたいな人いいと思いますよ! 自分持ってるって感じで!」

 えっ、何コレ? グイグイくるじゃん? もしかして俺口説かれてるの? モテ期、俺今モテ期なんですか?

仕事出来るようになるとこんなに変わっちゃうの?

「ちょっと、そんなにのせるとおっちゃん本気にしちゃうぜ?」

そう言ったところでサクッ!

何かが柔らかいものに刺さったような音が正面からしてきたので音のなる方を見て驚愕する、セナのクラムチャウダーのパン生地からチャウダーが漏れ出しているのだ、勢いよく。

 見るとセナはナイフを脇に抱えて座っている。

 何してんだよセナ、訳がわからん。それよりお姉さんがコレに気づいたら大変だ!!

 俺はなんとかお姉さんがこれに気づかないようにお姉さんに別のテーブルに行ってもらおうと会話を打ち切ろうとしたとき、

「ねぇ、アリサ〜、最近どうなのよ〜、いい男見つかった?」

 さっき乾杯してた後ろの席のOLさん達の一人が酔った調子で話してるのが聞こえる。

 アリサか、早見さんも下の名前は有紗ありさだったな。

「どうしました〜?」

 急に静かになった俺を疑問に思ったんだろう、ウェイターのお姉さんは俺に話しかけてくる。

「いや、なんでもないよ、それより次の注文いい?」

 まさかな、それより注文しておねいさんにはやくどこか行ってもらわないと。


「う〜ん、どうだろうな〜」

 しかし聞こえてくる声の方にも意識を割いていた俺の耳は、話しかけられた友達の方の声もキャッチする。

そして気づく。あれ?このまったりとした耳障りのいい声は……


「ちょっと〜、教えなさいよー?」


「どうしよっかな〜」

 間違いない、早見さんの声だ!後ろの席で飲んでる女の人達の中に早見さんがいたんだ!

なんか勢い余って書きまくってしまった気がする。

つ、疲れた……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ