ダイニング
「え〜っとメニューは……」
あまり食べる気はないが、一応クリップボードに挟んである羊皮紙のような紙に書かれたメニューに目を通してみると、そこには筆記体英語でかかれた文字の下にカタカナでるびがふってある。良かった、これなら読める。
けどこれわざわざ英語で書く意味あるのかね?
「え〜っと料理はデミグラスソースのふんわりオムライスにお洒落なズッキーニグラタン、プチチーズフォンデュ、キュウリロール、クラムチャウダー、なんか違うな。もっとこうつまみみたいなの欲しいんだけど……」
メニューの下の方に行くと、
「おっ、あった!」
英語でappetizerとかかれたおつまみ欄。カタカナなかったらわからなかったわこれ。
「え〜っと、アボカドティップ、プチチーズピンチョス、サーモンアボカドトースト、バーニャカウダ、カナッペ、……なんだなんだ、これ、全部横文字じゃん。もっとこう『なめろう!』とか『キュウリの一夜漬け!』みたいなの欲しいんだけど……とりあえず料理はパスして飲み物行くか、あのお姉さんがいうにはスッキリしたのがオススメだって話だったけど」
俺は若干不安を抱きながら机の上の開いた本を模したドリンクメニューと手元の料理メニューと取り替える。
そして開かれたページのメニューを見てみると、
「アルコールは……ワイン、ロゼ、カルアーミルク、カシスオレンジ、モヒート、マティーニ、ラストキッス、楊貴妃、キティ……、おいおい、殆ど聞いたことない飲み物ばっかじゃん、それに最後は人名みたいなの混ざってきてるし、謎だぞ」
なんか変だな。俺はふと気になって周囲を見回してみると、なんとそこには女性だけの集団や向かい合って座るリーマンの男女や私服のカップル達が、テーブルの上のお洒落な料理を囲んで会話を楽しんでいる。俺が普段居酒屋で見慣れたよれよれのスーツを着崩したサラリーマンもいなけりゃ、酔っ払いのバカ笑いした声も聞こえてこない。
「これ俺がくるところじゃないよ……」
よくよくみると店内も、電球色のランプかコンクリート打ちっぱなしの壁をオレンジ色に照らしてる部分と影とでコントラストを活かしたムーディーな空間になっている。
これ、ダイニングカフェって奴か、初めて来た。すっかり居酒屋に案内されるもんだとばかり思ってた。
女性に縁のなかった俺は飲む時は大衆居酒屋ばかりでこういう洒落乙な空間とは殆どと言っていいほど縁がなかった。
故にわからなかった。
適当に何か頼んでとっとと店をでよ。そう思ってメニューを適当に見ていると、
「わぁ〜、お洒落な食べ物ばかりですね!!」
「そうか? なんか気取っててきにくわんけどな……って、おい!お前、出てくるなって!?」
セナがいつの間にかカバンから出てきてテーブル上のメニューを除きこんできてる。
「バレるだろうが!」
「大丈夫ですよ! 健太郎さんの私物って事にすれば!」
「私物って……何? お前ずっとテーブルの上にいるつもり?」
「はい。それが何か?」
「何かって、お前、こんな所でお人形さん持ち込んで一緒に料理食べてるってそれもうハードコアすぎるだろ?」
「いいじゃないですか、そんな趣味の人がいても!」
「俺もヤドランとの一件以来他人の趣味には何も口を出すべきではないと思うようになった、けどな、自分の場合は別だ、俺はあくまで世間体を気にするぜ、一人の真っ当な社会人としてな」
俺はきつくセナに言い聞かす。確かに俺は30超えて童貞で、女の子の手さえ握ったことがない。
でもだからこそ、アニメとかフィギュアとか、そういうサブカルチャーな趣味に走るわけにはいかないんだ。例えそれがどんなに魅力的だとしても、真っ当な人間だと思われたい、そのフリをしていたい。
「嫌です!!私も一緒に食べます!!」
「なっ……」
しかし今宵のセナは強情だ、こいつ、スターバックスの時もそうだったけど、お洒落風なものの事となると引かない所がある。そういやその後買ってやった香水投げられたな。
だんだん腹立ってきたぞ、
「駄目だ! お前明後日ディズニーランド行けるんだから今日は大人しくしろよ?!」
「はっ? 絶対嫌です!!」
クソ〜、いっそ無理やりカバンに突っ込んでやろうか……
俺がそう思った所で、
「健太郎、良いじゃないか、セナを置いてあげても」
ハクリューがカバンからニュッと頭を突き出して言った。
「ハクリューまで……」
「セナはこういう所で食事をした事がないんだ、それに女性のわがままを聞いてあげるのは男性の甲斐性なんじゃあないかい?」
「はぁ……女性って言ったってフィーー」
「健太郎!! おでもハクリューに賛成だお!! こんなに頼んでるのに無我にしたらセナがかわいそうだお」
くっ、ヤドランまで参入してきやがった、食い気味に……
こうなるともう駄目だ、このフィギュア・お人形連合は何か硬い絆で結ばれてるようで、言い合いになるとすぐに組んで俺を責め立てる。まるでラグビー選手のスクラムのように強固な一丸となって。
もはや俺の突破力ではどう動かすことも出来そうもない……
「わかったよ、ハクリューには最近お世話になってるしな」
俺が、そう言うと、パアァァァ!
怒りで赤くなりかけていたセナの顔が見開かれた瞳と共に急に晴れ渡っていく。
はぁ、そんなに嬉しいもんかな、わからんな、女心ってのは。こんな気取った所よりも居酒屋でジョッキ持ってる方が楽しいのにさ。
「いいか、動くなよ? それだけは約束してくれ?」
「はい! 一緒に食事が出来ればいいので♪」
「食事ってお前食べれないじゃん」
ピクッッ……!
ん? セナの眉間が一瞬ピクッと動いたような……まあ気のせいだろう。とにかく何か食べるか、セナと言い合ってたらちょっとお腹減ってきたよ。
「とにかく何か注文するけど、俺の分だけでいいんだろ?」
「え? 駄目ですよ、私の分もお願いします」
「はい? なんで?」
「いいから!! 私の分も注文!!」
「はい……」
セナの剣幕に怯んだ俺は何故か食べもしないセナの分まで注文する事になってしまった。
なんでや!




