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族・月と太陽の交差点に潜む秘密  作者: ジャポニカダージリン
第2章
37/117

治らないミス。

「ハァ、もう時間か」


俺は目を覚ますと大きなため息をつく。

気持ちは全然前向きにならない、寧ろ憂鬱だ。

現実から逃げるようにして昨夜もネット動画を流し見して深夜2時までだらだらと起きていた、今が5時半だから3時間半しか寝てないことになる。

こんなに少ない睡眠時間じゃどうせ今日もヘマをやらかすんだろうな。

 ダウン気味な思考の中、俺は自分の軽率な癖を悔やむ。

しかし分かっていてもやめられない。夜一人でお笑いを見て笑ってる時が現実を忘れられる唯一の時間。

 嫌な事を何もかも忘れられるあの感覚がどうしてもやめられない。


「おはようございます、健太郎さん、早く起きてください!!」


「ん……」

 ハァ、いるよ朝から、俺の逃げられない現実の一つ、美少フィギュアのセナがベットのしたから俺に話しかけてくる。

 結構なボリュームで。

「ほら早く!仕事に遅れちゃいますよ?」


「わかったよ!」

セナに急かされ渋々起きはしたが、頭が働かずベットに座ったまましばらくぼーっとしてると、


「昨日もあまり眠れませんでしたか? 健太郎さんなんだか疲れているように見えますよ」

 セナがはてな?っと首を傾げながら聞いてくる。


「まあな、また夜更かししちゃって後悔してんだよ」

「お布団の中でずっと笑ってましたもんね」

「えっ……聞こえてた?」

「はい、お布団の中から時々うめくような声が聞こえてきますから」

漏れてたか、俺の笑い声……

息を殺してセナ達には聞こえないように気をつけてたつもりだったけど意味なかったかー


「もしかして、昨日だけじゃなくてずっと?」

「はい、毎日」

笑顔で頷くセナ。

コクリじゃない!


「マジか……」

俺は額に手を当て、ため息を吐きながら項垂れる。

俺は寝る前に暗い部屋でお笑い動画を見て日頃のストレスを発散するのが日課なんだけど、その時に漏れ出す笑い声をセナに指摘されてしまった。

恥ずかしい。


「健太郎さん?」


「あのなぁ、気づいてたんならもっと早く言えよ?今まで気を使ってたのが馬鹿みたいじゃねぇか」

寝起きの機嫌の悪さも相まって、俺はイラつきマシマシで八つ当たり気味でセナに恨み言を言う。


「え?別に指摘する事じゃないと余ってたので……」


「今してんじゃねえかよ」


「それはたまたま話の流れで言っただけで、そもそも動画を見て笑うのは普通のことですし。気にする事でもないと思うのですが?」

俺が恥ずかしがってるのがピンときてないのか、本気で不思議そうに顔をするセナ。

この無知なフィギュアにはちょいと説教してやらなければならんな。

「あのな、笑い声であっても隠してるものがバレるのはすご〜く恥ずかしいものなんだよ」


「隠してたんですかあれ……」

呆れたような顔をするセナ。

踏み潰したろかコイツ。

俺は忌々しげにセナを睨むと、セナは不思議そうに顔をかしげる。

……ま、いっか。

わざとじゃないみたいだし、黙ってれば可愛らしいセナをみてるとイラつきも薄れてきて、コイツの言う通り恥ずかしがってたのもどうでも良くなってきちゃったよ。


野生の中で外的から身を守るために集団生活を生存戦略に選んだ人は、恥という感情を持つ事で集団の中の自分の立場の危機を知らせるように進化した。

 だから俺はセナ達と話している事は必死になって隠している。

妹の優子にはバレたけど、兄妹なのでどうにかドン引かれるくらいで済んだ。

これがもし会社の人達とかだったら俺は恥ずかしいさのあまり死んでしまうかもしれない。

 30超えた独身男の話相手が美少女フィギュア達って想像しただけでヤバいからな。

けどセナに対しては最近恥とかそういうのもあまり気にならなくなってきた気がするな。


そんな事を考えながらぼーっと壁を眺めていると、

「それよりも準備ですよ、ほら、遅くなるとまた佐藤さんに叱られちゃいますよ!」


「そうだな、急ぐとしますか」

 そう言って俺はしぶしぶベットから降り、朝の支度を済ませてセナ達3人をバックに入れた。

 俺の住んでる家があるここ幕張から会社のある田町までは1時間半くらいかかるので、6時には家を出ないと課で一番のりは出来ないのだ。


「ふぁ〜ヤダヤダ、何で会社に行かなきゃ行けないんだろうな」

 俺は総武線のシートに腰掛けながら、カバンの中に向かって小声で愚痴を吐く。


「働くためじゃないんですか?」

 セナは普通の事だと思いますけどと言ったような目で俺を見てくる。

「そりゃそうだけどさ、俺なんて会社にとってはいてもいなくてもどうでもいい存在なんだよ、むしろ給料を払わなくていいからいない方がマシかな」


「そんな事言っちゃダメですよー、働かないとご飯食べられないじゃないですか?ほら次郎にもいけなくなっちゃいますよ?」


「そうだけどさ……」

セナの言う事は最もだ。

人が生きてくためには働かなくちゃいけない。

人と協力しあって。

けど能力が乏しい俺は十分に会社に貢献する事が出来ない。

だから周囲からは見下され、馬鹿にされる。

誰にも信頼されずに、生存戦略として備わった恥の感情だけが過剰に反応して自分を苛ますんだ。

「けど嫌なんだよ……」


「健太郎さん……」

困った顔で俺を見上げるセナ。

わかってる。全部悪いのは自分だ。

会社に行くのだって自分の意志だ。

確かに辛いなら去ればいいだけ、なのに俺はそこから抜け出さない事を選び続けている。

例え重要な仕事を任せてもらえず干されようと、人前で大声で叱られようと、馬鹿にされようと。

何かが心に引っかかってずっと逃げ出せずにいる。

 

「大丈夫だよ健太郎」

沈黙を破るように話しかけてきたのはセナの横に座っているハクリューだ。


「健太郎は確かに仕事のミスは多い。けれどちゃんと周囲に受け入れられているじゃないか」


「まあな、必死にこびへつらって笑いとってるからな、俺みたいなんが一人いるだけで気持ちいいっちゃ気持ちいいだろうさ」


「むぅ〜、そうなんでしょうか……」

セナはそうじゃないと言いたげに腕を組んで考え込む。

ありがとな、そう思ってくれるだけでも嬉しいよ。


「ま、もともと人間なんて生き物は実害さえなければ自分より下の存在を見て喜ぶもんなんだよ。他人の不幸は蜜の味ってね」


「………」

 そう言うとセナは何も言わなくなってしまった。ちょっと卑屈になりすぎたかな? けど、実際そうなんだから仕方ない。

皆んな俺が媚び諂って笑いをとる時に楽しそうにするんだ……

それよりも話題を変えよう、何か楽しい話を。


「なぁセーー」

俺が黙りこくっているセナに好きなお笑い芸人の話でもしようとした話しかけた瞬間、


「健太郎は今の仕事に満足していないのかい?」

何故かハクリューがさっきの話を引き伸ばす。


「当然だろ? お前も見てればわかるだろ?皆に馬鹿にされて、設計部なのに与えられる仕事は備品管理や使わなくなった書類整理ばかり。どうやって満足するんだよ」


「そっか、健太郎も皆と同じような仕事で活躍したいんだね?」


「そりゃそうだろ、俺だけ戦力外みたいな扱いされ続けるのはやっぱり辛いだろ、いちいち言わせるなよ」

 寝不足も後押しして、当たり前の事をしつこく聞いてくるハクリューに腹がたってくる。

全部俺が仕事出来ないのが悪い。そんな事はわかってる、けど人間だから役割が与えられないと不安になる、馬鹿にされると腹が立つ。


「どうせ楽でいいじゃないかみたいに思ってるんだろ?お前みたいに頭いい奴にはわからねえよ俺みたいな駄目なやつの苦しみなんて」

俺はハクリューを責めたてるように言う。

やり場のない怒りを抑えきれず、ハクリューになすりつけるようにして。

俺も本当は皆と同じように働いてみたかった、入社したばかりの頃は自分のしたミスを取り戻そうと夜中まで残業して必死に頑張った。それでもやっぱりミスして落ち込んで、自分を鼓舞して、けれどまたミスを繰り返して。

時が経つにつれ俺に期待してくれる人は減っていった。新しく入った後輩にもあっというまに抜かれて、いつからか終業時間を待つだけの存在になっていた。

周囲の人とも会話せず、ただただ鬱屈とした感情を持て余しながら。

 

「そうか……分かったよ」

 それだけ言うと、ハクリューはすっとその首をカバンの中に戻っていく。

あれ? 『もっと何で変わろうとしない』とか小言言われると思ってたけど何もないな、なんだよ。

それよりさっきは何しようとしてたんだっけ?

カバンから頭を上げ、天を仰ぐようにして考えてから、(あっ、セナだ! セナに話しかけようとしてたんだ!)

 それを思い出して鞄の中を再び覗き込んでみると、セナとハクリューとヤドラン3人で何やら話込んでいる。

 何話してるのか気になるけど、こういうときは俺が入っていっても変な空気になるので寝ることにした。

乗車客も増えてきたしね。


 今日も課に一番乗りで着いた俺は、一応あれから毎日続けているダスターで課の皆のデスクふきを行う。

 佐藤さんのデスクには昨日帰り際に貼っておいたポストイットはちゃんと残ってるな、よしよし。

 それを確認して俺は自分のパソコンの電源スイッチを押す。youtubeでも見て時間を潰すか。

 十分くらいするといつものように佐藤さんがやってきた。

「おはようございます」

「おはよう」

「……」

 佐藤さんは挨拶だけすると自分のデスクの前で立ち止まった。ポストイットに気づいたみたいだ。

「田中? これお前だよな?」

「そうですよ、昨日電話かかってきて竹森さんが設計依頼の件で佐藤さんとうちきて話したいって言ってたんで大丈夫って伝えときましたよ。佐藤さん今日午前中オフィスにいますよね?」

「俺、今から現場に向かうぞ?」

 それを聞いた俺の表情は一瞬で凍りつく、すでに竹森さんにはオーケーを出してしまっている。

 けど、悪いのは佐藤さんだよな?だってホワイトボードには何もかかれてないんだから……

「だって佐藤さんホワイトボードには何も……」

 俺は佐藤さんが怒り出す前に咄嗟に理由を述べるが、

「そりゃそうだろ、一旦課によるんだから」

「あっ……」

 俺は絶句する。佐藤さんは一旦ここに来て今からホワイトボードに書いてくんだ、そういえば佐藤さん朝現場に行く時、朝ここ来てからホワイトボードに書いてくの何度も見てる……

「お前さ、なんで予定表確認しないの?」

「予定表……」

 それは会社のパソコン内にある個人の予定を書き込む事が出来る機能。社のパソコン同士はサーバーで繋がっているため、そこに書き込んでおけばその人の予定を自分のパソコンから確認することができる。

 雑務ばかりしている自分は使う事ほとんどないからその存在を忘れてた……

「すみません」

 俺は謝る。顔面蒼白で。

 すると佐藤さんはすぐに竹森さんに電話をするが、突然まだ業務前なので電話には出ない。 

 それを確認して受話器を置くと。

「いい加減にしろよお前!!!」

 凄い剣幕で怒鳴る。キタ。朝一からかよ……

「なんで予定帳確認しなかった?!」

「そ、それは……」

 俺は言葉に詰まる。

 忘れてましたとは言えない。言えばそんな当たり前の事すら出来ない自分により失望されてしまうような気がしたから。

「どうせ大丈夫だって考えたんだろ?! なんで確認しないんだよ?」

 佐藤さんは何十回と言ったであろうその言葉を俺に言う。確認しないんじゃない、確認することを忘れてしまうんです俺の駄目な脳みそは……

 そうとは言えずに俺はすみませんを繰り返す。

「竹森さんもうこっち向かってたらどうするんだよ?」

「す、すみません、どうなってしまうんでしょうか……」

「どうも出来ないだろ、帰ってもらうしか。現場止めるわけにもいかないんだから」

 最悪だ、そんな事になれば竹森さんに迷惑がかかる。

 それでうちの会社の看板に傷がついてしまう。

 元請けであるゼネコンがそういった自分勝手な理由で下請けである強力会社さんを振り回すと、どうせ元請けのする事だからと社の信頼を落とす事になる。

そして不信は円滑なコミュニケーションを削ぎ、業務停滞へと繋がっていく。

 だから社会人は不誠実な行いを忌み嫌うのだ。

仕事は信頼の上に成り立つものだから。

 しかし、俺が何も言えず黙り込こくっていると佐藤さんは、

「まあ、携帯持ってるから今からそっちにかけてみるけど」

 といって竹森さんの携帯に電話をかける。

「あっ、竹森さんですか? 朝早くにすみません、前町組の佐藤です!」

 良かった、どうやら繋がったみたいだ。

 佐藤さんは携帯越しに何度も謝った後、最後は先方と笑いあいながら電話を切ると、俺を瞳孔の開いた目で睨みつける。

「いいか、今後絶対予定表を確認しろよ? 竹森さんだから良かったけどこれが施主さんだったらアウトだからな?」

「はい、すみませんでしたー!!!!」

 俺はまた身体を90度に曲げて大声で謝る。

 それを見た佐藤さんははぁっと大きなため息をついた後、現場へた向かっていった。

 助かった……。良かった、誰にも見られてなくて。

 けど予定表か、ちょっと考えたらわかる事なのにな、なんでそんな事も気づかないんだろ俺。

 俺は今のお叱りで朝からさらにがっくりと落ち込む。

 そして、今日はセナ達は何も言ってくれない。

 今は言ってくれた方が助かるのに、朝あいつらにあんな酷いこと言ったからか。

「もう死にたい……」

 そうひとりごちて俺はデスクの上に突っ伏した。

宜しければブクマ、感想よろしくお願いします!

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