ゲームセンター事件終
警察署で警官に事の成り行きを話す健太郎。
特に疑われることもなく無事署から出る事が出来たがーー
はぁ、疲れたな……
警察署から解放されて時計を見ると既に18時を回っていた。
「遅くなっちゃいましたね」
「ああ、けど無事問題も解決して良かったよ、多分あの人大分気を回してくれたと思うし」
警察官の人に署までくるように言われ、すぐ向かった俺は個室のようなところに案内され、担当の男性の警官に色々と質問された。
住所や職業、犯人を逮捕する事にいたった経緯やその際に何が起こったか。
ハクリューもこの警察官は協力的だし事実だけを話した方がいいって言うから俺は聞かれた事に対してセナ達のことは伏せ、それ以外は全部正直に答えた。
その際、何で設計部の俺が特別な名刺を持ってクレーム対応に向かっているのかとかそういうのは事件に直接関係ないって事で追及はしないでくれた。
しっかりと質問を受けたのは、何故ゲームセンターにいたか?
男はゲームセンターで何をしたか?
その後男と何があったかの三点だったけど、俺はクレーム対応の後ゲームセンターに向かった時に男の不審な動きに気付いてトリックを見破った事、その後男を追いかけ、取っ組み合いに発展した事、その際、ナイフを遠ざける時以外には何も危害を加えるような事はしてないことを話した。
今回のケースは私人逮捕という形になるらしくて、たとえ相手が犯罪者でも不必要に暴行を加えていれば罪を問われる可能性もあったようだ。良かったよ、犯人にケリを喰らわせなくて。
ハクリューに聞いたトリックの話を最初は疑っていた警官も、男のバックパック内から俺が説明した道具がぞろぞろ出てきたので最後は信用してくれた。
「とにかく君が大きな怪我とかしてなくて良かったよ、けれど明日の朝にでも病院に向かえるかい?今は大丈夫でも後に後遺症が出てくる場合もあるから一応精密検査を受けた方がいいと思うけど」
「ありがとうございます、多分大丈夫だと思います、出血も大した事ないし、痛み自体もあまり大した事ないので」
「そうかい、君が望めば怪我の程度次第では刑事告発という形で起訴も出来るかもしれないけど本当にいいのかい?」
「はい、なんかそういうのしんどそうなんで」
「そうかい……けど何かあったらすぐに連絡してくるように、こういうのは早ければ早いほど君に有利に働くから」
警官の人は親切にそんな事言ってくれるけど、お腹の傷も予想したよりも全然あさくて、僅かにお腹の表層がきれて血が滲んでるくらいで絆創膏つけてれば治りそうだし不必要に騒ぐ事でもないな。それよりも、
「あの、男がこれまで盗んだフィギュア達なんですけど……」
「ああ、それなら犯人の証言をとった後、後日ちゃんとお店に返す事になると思うから安心していいよ」
「ありがとうございます、宜しくお願いします」
「それにしても、愛って奴だね、そこまでフィギュアの為に動けるなんて。秋葉原の青年たちもまだまだ捨てたもんじゃないんだな、ハッハッハ!」
「はぁ……」
とにかく、これまでに盗まれた商品は後日ちゃんとお店に戻されるみたいで良かったよ。
「あ、それと最後にお願いがあるんですが……」
「なんだい?」
署を出る前に、俺は警官の人にお願いして課長に事の成り行きを説明してもらった。
どうせ俺が説明しても信じてくれなさそうだからね。警察官の話を聞いてようやく課長も納得してくれた様子で、今日はこのまま直帰しろとのことだ。俺は今日の結果を報告する為に家に帰る前
に、悟空さん達のいるゲームセンターにたち寄ったーー
「そうか、ピッコロもべジータも無事だったんだな」
「はい。また別の日にここに返してもらえるみたいです」
「そっか、良かった。それにしても、健太郎、オメェやるな〜!!今回オラはなんも出来なかったけど2人を取り戻してくれてサンキューな!」
「あ、いえ、運が良かっただけです、俺も悟空さんみたいに強かったらもっと楽勝だったんだろうけど……」
「何言ってんだ、健太郎は十分スゲェぞ。俺達のヒーローだ」
「俺が、悟空さん達のヒーロー……」
「ああ、オラも健太郎に負けねーように頑張らねーとな!」
「いえ、そんな……けど、ありがとうございます!!」
「何言ってんだ、礼をいうのはオラ達の方だぞ?」
「そっか、ハハ、じゃあここら辺で自分達は失礼しますね」
「ああ、またな!!たまには顔見せてくれよな!!」
「はい、悟空さんもお元気で!」
「ああ。セナとハクリューとヤドランもサンキューな!!」
「はい!それでは失礼しますね!」
そうしてオレ達はゲームセンターを後にした。
それにしても俺がヒーローか……
駅への道すがら悟空さんに言ってもらった言葉を何度も思い返していると、
「嬉しそうだね健太郎、まあ君は見事犯人を捉えることが出来たんだ、当然と言えば当然だね」
秋葉原駅までの帰り道、ハクリューがカバンから顔を出して俺に話しかけてきた。
「ああ、それもあるけど……」
「なんだい?何か他の理由があるのかい?」
「その、ずっと小さい頃から憧れてた孫悟空にヒーローって言われたことが嬉しくてさ。俺の中でヒーローってずっと悟空さんだったんだよ」
「そういうことか!確かに、今回の健太郎はヒーローそのものだ。ピッコロさんだけじゃなく僕達も命がけで守り抜いてくれたんだからね」
「そうか……そうだよな?俺って結構凄いことしたんだよな??」
ハクリューの言葉を聞いて、今までどこか他人事の様にふわふわしていた自己愛の様な感情が現実味を帯びだし、同時に自信と万能感がもりもりと湧いてくる。俺はヒーロー、俺がヒーロー……
「ただし」
「なんだ?」
「今後は二度とあんな危険な真似をしてはいけないよ、今回はたまたまあの老人が近くを通りかかったから良かったけど、一歩間違えば殺されていたかもしれないんだ」
うっ、確かに……
「けど、あれは不可抗力だろ?まさかナイフで襲ってくるなんて……」
「確かに、僕も相手を甘くみていた。そこまで予測を立てて計画を立てるべきだったと思っている。今後はもっと慎重に物事に当たらないといけないね」
「……そうだな」
ちぇ、せっかくいい気分だったのに結局お叱りかよ。なんかさっき湧いてた自信とかどっか行っちゃったな……
「まあまぁ、ハクリューさん、皆んな無事だったんだから良かったじゃないですか♫賢太郎さんは怪我しちゃいましたけど……あの時の健太郎さんカッコ良かったです」
「あ、そう?ちょっとは見直してくれた?」
「はい」
あれ、セナの奴やけに素直だな。まぁセナを必死に守り抜いたわけだからね、多少は俺の事を見直してくれたんだろうさ、ほんと頑張ってよかったよ。
「あの、健太郎さん?」
「なんだ?」
「あの、健太郎さんが男の人に叫んだ彼女って一体誰の事ですか?……」
あー、言っちゃいましたね、焦ると咄嗟に嘘ついちゃう自分の悪いところが出ちゃったよ。セナも困った顔して俯いちゃってるよ。弱ったな、昨日嫌いって言われたばかりだし早く訂正しないと……
「その、なんだ、気にするな、あれは咄嗟の事で他にいい理由が思いつかなかったんだ、いや、出ちゃうんだな人間って咄嗟の時に口から出まかせが。まぁ、そのおかげで犯人を捕まえる事が出来たんだし結果オーライってやつ??ハハッ、お前が俺の彼女とかあり得ないからな、安心しろよな?」
そう言って間違いを訂正し直すと
ーーピクッ。
ん、なんかセナの指先が一瞬動いた気がするけど……セナは笑顔のままだし気のせいか。
「だ、だお……」
「健太郎、君は本当にとんでもない男だな……超がつくほど……」
お?俺の潔さをみてハクリューが俺の事見直してるよ。気分いいぜ。
それにしても、気づくのが遅いよハクリューさん。どれ、ヒーロー健太郎、今一度こいつらに俺のカッコよさを見せつけてやるか。
「けどな、セナ、安心しろ、辛くともお前との契約は死んでも果たす!強制とはいえお前とはパートナーになっちまったからな。どんなに辛くとも仕事は死んでもほっぽり出さない。それが社会人なんだよ」
「……そんなに嫌??」
「そりゃ嫌だよ、俺の口から言わせんなよ??けどな会社で地獄を見続けてきた俺だからな、耐えてやるさ。ハハハッ、こういうの死中求活っていうのかな??」
どうだ?!お前に嫌われてるのは辛いけど、約束は守るぜ。これでちょっとは見直してくれるか?!
「……本心なの、それ?」
「ああ、本気も本気、昨日ハクリューに学ばせて貰ったからな、お前達に嘘はつかん」
「あっそう。また、そういう無神経な事を平気で……」
あれ?なんかセナの反応が予想と違うぞ?これって……
「お、おい、セナ、どうした?!」
「この馬鹿だけは……どうやら昨日の事全く反省してないみたいね……」
ありゃりゃ?!また出ちゃったよ裏セナさん……なんで??
それより昨日の事って、人を馬鹿にするなって話だよな?一体どこらへんにそんな要素が……
「まて、俺は別にお前の事を馬鹿になんてーー」
「うるさい……あそこに向かいなさい」
そう言ってセナが指さしたのはーー
「クソッ……」
先程俺と窃盗犯が取っ組み合った裏路地……またあそこ?!
絶対にあの場所は行きたくない俺は……ハクリュー、ヤドランに救いを求める目を向けるが、
「だお……」
「……すまない」
2人とも俺と目を合わそうとしない。
この薄情もの!!
なんでこういう時は助けてくれないんだよ?!
「なにハクリューさんとヤドランさんに救い求めてんの?とっとと行きなさいよね、このノロマ」
うっ、今のセナはさっきの窃盗犯よりも怖い……絶対に逆らえない……
「はい……」
もう逃げられないと悟った俺はわけがわからないままゆっくりと人通りのない裏路地の方へとぼとぼと向かっていく。
裏路地に足を踏み入れると、ビルに止まっていたカラス達が大声を上げて一斉に飛び立った。
同時に街路樹で大合唱していたセミ達もピタリと鳴くのをやめた。
まるでここからは鳴かない方が賢明だとでも言いたげに。
昼間の熱気が幾分か抜け、生温くなった夕暮れの空気は告げてくる、登った後には下りがあるのが人生なのだと。
ふざけるな!これじゃあ下りどころか滑落も良いところじゃないか、ちゃんと気をつけてたのに。
しかしボヤいてもしょうがない。どこかに埋まっていた地雷を気づかずに踏んでしまった自分が悪いんだろうから、ちゃんと、セナの話を聞こう、最後まで……
そう観念するとーーミーンミーンミーン、どこかで油蝉が鳴くのを再開していた。
それはどこか、健太郎を励ますような優しい鳴き声に聞こえた。
今回で族・月と太陽の交差点に潜む秘密の一章は終了となります。
二章からはこれまで散々セナをガッカリさせてきた健太郎の成長やこの話の本題にも触れていけると良いと思うのですが、どうなるかはわかりません。
とりあえずここまで読んでくださった皆さん、ありがとうございます。これからもどうか宜しくお願いします!!




