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族・月と太陽の交差点に潜む秘密  作者: ジャポニカダージリン
第1章
34/117

ゲームセンター事件③

「どうしてあの男は何もせずにクレーンゲームの台からピッコロさんを落とす事が出来たんだ?」


「それはだね、実際には両手を巧みに使っていたからなんだ」


「巧みにって、俺が見てる限り、両手はずっとガラス台にくっついたままだったぞ?」


「それが健太郎や他の人が騙されてしまう1番の原因なんだ」


「どういう意味だ??」


「じゃあ僕が見たものを一から説明させてもらおうか」


「頼む」

トイレの方へチラと目をやるが、誰かが出てくる気配はない。大きい方なのかな??トイレの出口への警戒は怠らずにハクリューに男が使ったトリックとやらの説明をしてもらう。


「そうだな、まず、初めに、あの両手は偽物だよ」


「なっ、あのガラス戸にくっつけていたやつが?!」


「ああ、ひどく精巧に作ってあってパッと見本物に見えるけどね、下から見てみるとあの手の指先は全部同時に握るか開くかの二通りの動作しかしていなかったよ。けれど、周囲を騙すにはそれくらいの動きで充分だろう」


「確かに、クレーンゲームで人の指先の動きをしっかり確認した記憶なんてないな」


「だろう?このゲームで人が注目するのは指先よりもアームの行き先なんだ。まず犯人は偽物の両手をガラスにくっつけて、両手は動かしてない事をアピールする。監視カメラからも背中越しに犯人は物欲しげに台の中を覗いてるようにしかみえないはずさ」


「なるほど」


「そして、その間、犯人は紫色の細い釣り竿の先の様なものを静かに景品取り出し口の中に入れていった」


「竿の先の様なもの?」


「これは健太郎も仕事柄何度か見た事があるんじゃないかな?さっきホームセンターに糸を買いに行ったら時に置いてあるのをチラと見かけたけど、釣り名人って名前だったかな?」


「そうか、あれを使って!!」

釣り名人とは、工事現場などで隙間がほとんどない壁の空間などに電気ケーブルを通す時等に使われるもので、釣りの竿先のように柔軟でかつ頑丈な素材で作られた細長い棒をいくつも連結させて狭い空間の中を柔軟に通していって飛び出してきたその先にケーブルをくっつけて引っ張り入れるケーブルの通しとして使われる工具だ。

俺が所属してるのは建築設備課で建物の電気ケーブルの設計も担当業務の一つだから昔は現場の工事の様子を見に行った時とかに職人さんが器用に細い隙間にその棒を入れてケーブルを通してるのを見たりした。


「そうか、あれを使えばわけなくフィギュアのところまで棒を進めてく事ができるな。」


「ご名答。そして、あちらさん、ご丁寧に、景品取り出し口のフタと同じ色の物を用意してきた。保護色になるから周囲からは棒を入れ込んでる事が非常にわかりづらくなるんだ」


「錯覚か……けど、どうやって釣り名人を入れてくんだ?両手は……そうか!!」


「そうさ、犯人の両手は初めからブカブカのシャツの内側にあるんだ。丸められた釣り名人の棒を固定するようにしてね。後は、偽の両手をガラス戸につけて、ズボンの小さな穴からゆっくり棒を通していけば……」


「それで手をつけたまましばらく動かないようにしてたんだな。けど一度ゲームをしたように見えたけど、何でだ?」


「あれもカモフラージュさ、準備が整った後、コインを入れる時だけ素早く右手を出して後は適当にプレイすれば後でピッコロさんが落ちても周りからはなんら不自然に見えないからね。こうして一回のプレイでまんまと景品を取り出して行くのがあちらさんの手口なのさ」

そうだったのか、超能力とかじゃなかったんだな、犯人はマジックみたいに周囲の目を欺いてピッコロさんを落としたんだ。そうとわかれば後はあの男がトイレから出てくるのを待つだけだけど……

そう思ってトイレの方を見ても出てきたのはチェック柄のシャツを羽織った細身の男だけで、犯人はまだ出てこない。

妙に長いなと考えてるとカバンから顔半分出してたセナが、

「健太郎さん、さっき出てきた人です!!あの人が犯人です!」

そう叫んだ。


「さっき出てきた人って、チェック柄のザッ秋葉原って感じの人?おいセナ、今回は犯人はスーツの男だったじゃないか?」


「外見を変えていますけど、同一人物です。きっとトイレの中で着替えたんだと思います!!」


「そんな馬鹿な……」

正直俺はさっきの男のチェック柄がどんなだったか覚えていない。今出口にさしかかっている男のシャツのチェック柄は白と黒だが……


「健太郎さん、早く!!リュックの中にはピッコロさんがいます、リュックに意識を向けてください!!」

とにかく俺はどんどん出口を出てどんどん遠ざかっていくチェック柄の男との距離を詰め、男が背負っているバックパックの方へと耳の意識を集中すると、


「……クッ、オイ!誰も気付いていないのか……」

ほんとだ、かすかにだけどピッコロさんの声が聞こえてくる、早く助けないと!!


「おい、あんた!!」

俺が店を出てスタスタ歩いていく男に叫んだ時、男は俺の方を一瞬振り向いて、走りだした!!そしてめちゃくちゃ早い。


「あ、待て!!」

店員さんを呼んでいる余裕もなく俺も急いで男の後を追うが、男は少し走った後、ビルとビルの隙間の細い路地裏の中は走り込んでいった。

クソ、絶対に逃すわけにはいかない。

俺も迷わず路地裏へ入っていく。

全力で走るなんていつ以来ぶりか、これは早く追いつかないと体力が持たないぞ……

路地裏に入り、角を折れたところでうわっ。ドサーー。

俺が走ってくるのを待ち構えていた男は俺の足に爪先を引っ掛け、俺は勢い余ったままでバランスを取れずに盛大にアスファルトにヘッドスライディング気味に突っ伏した。

そのはずみで肩の紐からかけていたビジネスバッグも5mくらい先へ飛んでいってしまった。良かった、10mも飛んでかなくて。だがセナ達が心配だ、早く拾いにいかないといけないけど……足が痛くてうまく立ち上がれない……


「おい、何だお前は?」

激しく打った足を痛がりながらカバンに向かおうとしている俺に男は質問を投げかけてきた。


「何がだよ?」

俺はカバンへ向かいながらも男の方へ顔を向けて答えてやる。


「何でお前俺を追っ掛けてきてる?店のもんじゃないよな?万引きGメンとかって奴か?」

どうやら執拗に追ってくる俺に興味を示し、男は俺に探りを入れてきているらしい。

しかし盗人に真面目に答えるのも馬鹿らしい気がする俺は、


「だったらなんだよ」

適当にはぐらかすが、


「いや、違うな。お前はそんな鋭い感じじゃない。素人だろ?何で俺を執拗につけ回す?」


「何でって……」

そう答えながらバックの方へ目を向けるとーーッッ?!


「バカ!!」

バックの中からセナが不安そうに顔を出している。


「大丈夫ですか……健太郎さん……??」


「馬鹿、なんで出てきた?!隠れてろ!!」


「ごめんなさい、私、心配になって……」

俺は心配そうにこっちを見ているセナを制してすぐバックの中に戻るよう命令しようとしたが、


「この状況で俺の質問を無視してそのバックがよほど大切らしいな……?!オイ、待て!!」

クソッッ……気づかれた……

俺はバックの紐を即座に掴んで肩からかけるが……


「お前、珍しいフィギュア持ってんな、何のだ??」

最悪な事にこの窃盗犯、セナに興味を持ってしまった。俺は横暴で不信感極まりないこの男にプライベートな事、ましてやセナに関する事を一切話したくない。


「誰が答えるか、それよりもお前がこれまで盗んだフィギュア達をどうした?!」


「俺の質問に答えろ!!!どこで手に入れたそれを?!」


「言わない、どうせ言ったらまた盗もうと考えてるんだろ?」


「どうしても答えないのか?」


「答えないっつってんだろ、しつこいぞ窃盗犯」

……そう答えると男は後ろに背負ってるバックパックを脱いで片手で持ち上げ、外側正面にあるフロントポケットのジッパーを開けて中から長方形の金属の板が箸のように合わさっている物体を取り出した。

あれは……


「どうしても答えてもらう。ただしお前からも頂くけどな」

男はそう言って二つの金属の板を繋いでいる上部の鍵爪部分を親指で弾き、片方の金属板を握ったままヒュヒュっと素早く手首を2度ほど返す。すると中から姿を現したのはーー

銀色の鈍い光沢を放つ刀身、男が持っているのはバタフライナイフだ、あの男、ナイフで俺を脅すつもりだ。しかも、ナイフを使うのにかなり手慣れている。

「そ、それでどうするつもりだ??」


「ああ?!何タメ口聞いてんのお前?」

クソ、こいつ、刃物で脅してどんどん自分の立場を優位に進めてくる。逆らえばどうなるかを口を使わずに俺に恐怖で想像させて……


「その、この子は……どうしても渡せません……」


「いや、お前の意思とか聞いてないから?」

そう言って男は刀先を俺に向けながらゆっくり近づいてくる、走って逃げ出したいけど、多分、無理だ、さっき転んだ時に膝を思いっきり打ってまだじんじんと痛みが残ってる。そして同時に恐怖で膝が震え出してる。もしこんな状態で逃げて捕まりでもしたらほんとに刺されるかもしれない。なんとか交渉で犯人の気をそらさないと……何か何か、あ、そうだ!!

「そうだ、お金!!お金あります、お金払うので許して貰えないでしょうか?!」


「何?!お前金くれんの?いくら?」

よし、お金に興味を持ってくれた!!


「はい!ちょっと待ってください!!」

俺はなりふり構わず財布を出す。人間、マジで追い詰められた時って金に物を言わそうとするんだな……かなり恥ずかしい……けれど今はそうは言ってられない。とにかく犯人の気を逸らす為にポケットから財布を取り出し、少しでも時間を稼ぐためにゆっくりと財布の中のお札を数えた後、あえて小銭入れの部分の大量の百円玉まで一枚一枚数えようとするとーーバッ。

「あっ……」

男はナイフを持ってない左手で俺の手から強引に財布を奪い取った。そのはずみで大量の100円玉が当たらに散らばった。


「……なるほどな、妙に俺の方をチラチラ見てくるなと思ってたが最初から俺を待ち伏せしてたんだな」


「……」


「ま、いいや、それより、そのカバンの中、見せろ」

クソッ、やっぱりか、こいつは金をやろうと何をしようと絶対にセナを諦めるつもりがない。どうする、他にいい手が思いつかない……後ろに見える通りに誰かいないかチラと目をやるが、誰もいない……


「おい!!何助け呼ぼうとしてんの??刺されてーの??早くカバンの中を見せろや」

そう言って男は俺のみぞおちにナイフを突きつけた。どうする、どうすればいい?ナイフを奪い取る?無理だ、失敗すれば命の保証がない……カバンをゆっくり開けて時間を稼ぐか?けどさっきみたいに強引にセナ達が奪われるかも……どうすれば……

俺の全身からは命の危機の恐怖で血の気がひき、足には全く力が入らない。身体は完全に萎えてしまっている。今すぐに許しを乞いたい。

今、脳が出そうとしている指令は圧倒的強者に屈して獲物を差し出し、命を繋げる事だった。生き物としての自然な行為だ。

しかし、あと一歩のギリギリの所で俺を引き留めているのは、何としても女を他の男なんかには、ましてや脅しなんぞに屈して譲りたくはないという男のプライドだった。

この生物か男かの天秤が静かに深く、ユラユラとどちらに傾くかを決めあぐねているその時、つッッーー?!

「オイこら?さっさとしろや!!!」

男がみぞおちに押し当てていたナイフをグッと差し込み、刃の先の部分が俺の腹を斬りつけたのが激痛と共に伝わってきた。


「は、ハィーー」

その痛みと衝撃で相手に屈しようと決めた瞬間、ズキン!!急に頭に激しい痛みが走ったかと思うと、キュイィーーンン!!あーきたのか?!最近ピンチになると急に襲ってくるこの感覚、そして今回はーーお、この記憶は確か5年くらい前のーー


「なっさけないわねぇ、このカップルは終わりだね、二度と元どおりにはならないね」

寝っ転がってセンベエ齧りながらお袋が見てるテレビのモニターに映ってるのは……『カップルの目の前でチェンソーを持った殺人ピエロが突然襲ってきたらどうなるか??』というタチの悪い昔流行った海外のドッキリ映像。モニターの中の殆どの男は突然の危機的状況の前に彼女をおっぽり出して逃げ出していた。中には彼女をピエロの前でわざとこかせてから逃げてるようなのもいる。


「良かったね、海外にも健太郎みたいなのが沢山いるじゃないのさ、自分の命可愛さに他の大事なもの投げ捨てちゃってまぁ」


「命あってのものだねだから彼女捨てて逃げだしてしまう奴の気持ちもわからんでもないけど、俺なら命張ってでも大事な人を逃すね」


「へん、あんた、彼女作ったこともないのに言うじゃないのさ。男なんていつも口だけは一丁前なのさ、優子、あんたはこんなのに騙されるんじゃないよ?」

母が息子に投げかけるセリフとは思えんな……


「わかってるよーだ。私お兄ちゃんみたいなんじゃなくてこういう人と結婚するから!」

まだ幼い優子が指差すテレビ画面を見ると、そこには襲ってくるピエロから女性を守るようにして神速のパンチを放ち、ピエロを気絶させているマッチョマンの姿。

こんな奴になりてぇ、いや、俺ならこう振る舞えるはずだ!!


ーー思い出したよ、死んでも逃げずに女を守るってのが俺が求める男らしさだった。だから上司の無茶振りにだって周りの奴らみたいに逃げださずに頑張ってきたんだーー

「わかったよ……」

観念したように俺は肩からカバンの紐をそっと外す。


「わかりゃいいんだよ」


「そうだな、だから」

バッーー!俺は手に持っていたカバンを後方へ投げ捨てた。


「あ、オイ!」

それを見た男はカバンに意識を奪われ、右手のバタフライナイフがおざなりになった。

(占めた!!)

その隙をついて俺は、


「あ、グワッ!!イテッ!!!」

両手でナイフを持った男の右手の手首を雑巾を絞るように握りこみ、その手を思い切り左側のコンクリートの壁に打ち付ける。

その衝撃で男はナイフを手から落とし、俺は即座にそのナイフを遠くに蹴り飛ばした。


「テメェ、ふざけんなよ?!」

男は俺に左ストレートをぶっ放してきたけど、俺も必死にそれを避けーーガバッ。

ボクシングのクリンチのように男に抱き着くが

「クソ、クソ、離せ!!オラ!」

ガス、ガス、ドカ、バキッ!!!

抱き合いながらも男は何度も膝蹴りや肘打ちを喰らわしてくる。何発も何発も……

何度もいい角度で打撃がクリーンヒットして頭はクラクラとし、意識が途切れそうになってくる。

(うっ、意識が遠のいてきた、けど駄目だ、ここで意識をきると、セナが……何とかしないと何とか……あっ!!)

防戦一方で必死に男の猛攻に食い下がっていた時、人が、向こうの通りで杖をついた男の人が路地の出口を横切っていく、早くあの人を呼ばないと……あれ??

男性に向かって叫ぼうとするが、男に首を圧迫されて上手く声が出ない。そして杖をついた男性は一直線に進み、ビルの壁に隠されるように俺の視界から消えようとしていた。

(あ、行かないでくれ、ここに俺はいるんだ……)

前方で路地の出口を横切っている男性がまるで別世界の存在のように俺達に気づかずに行ってしまうのを悲痛な表情で見つめていたその時、


ピーピピーッッ!!ピーッ!!ピピピピーッッ!!!


「なんだ?!」


俺のカバンの中から、激しい笛の音が聞こえてくる。


「あれは……」

もしもの時の為にカバンに入れておいた体育教師の笛をセナが必死に吹いてくれている。

その音に気づいた杖をついた男性は、


「おい、お前さんら何やってんだ?!喧嘩か?!」

俺たちの方に進路を変えてやってきてくれた、助かった……


「チッ!!」

男はそれに気づくと俺のクリンチを無理やりほどき、逃げようとするが、


「まて!!逃さないぞお前だけは!!絶対に!!」

俺は男に押さえつけられて倒れながらも男の両脚を抱き込むようにしてホールドし、そのせいで足の自由が効かなくなった男も倒れ込む。

「離しやがれ、このオタク野郎!!」

ドカドカドカッ!!


「あっ!!」

俺は何発も顔面に蹴りを浴びせられ、そしてついにホールドを緩めてしまった。


「どけジジイ!!」

俺の両腕を払い退け、立ち上がって駆け出した男は老人の方へ突っ走っていく、クソ、待て!!


「こいつ、犯罪者です!!しかも女性を食い物にする!!今も俺の彼女が盗まれようとしてるんです!!捕まえるのに協力してください!!」

俺はなりふり構わず杖をついた老人に助けを求める。か弱い老人に助けを求める30代ってどうなの??しかし駄目で元々。と老人を侮っていた俺だが、


「何、本当か?!わかるぞ今のお前さんの気持ち!!わしも昔目の前で他の男に女を奪われた辛い記憶があるでな!!あの時はこわ〜て動けなんだが、あの時の後悔は60年経った今でも胸に燻っておる。あの時の怨み、ここではらさでおくべきか、チェストー!!」

なんとこのお年寄りの男性、俺の必死の訴えを聞き入れてくれ、バシ!バシ!!バシ!!!

男の目・肩・腰に大きく振りかぶった杖の一撃を叩き込んだ。


「ウググ……」

それを喰らった男は、倒れ込み呻き声を上げるだけで一切動かなくなってしまった。なんて爺さんだ……


「ハァハァ、これで勘弁しといちゃる。暫くは動けんじゃろうて。後でアリナミンEXでも飲んでおくんじゃな、それで治るように打ち込んでおいた」

スゲェ、あの状況で男の事を考えて手加減したのか……そうだ、カバン!


「あ……健太郎さん……!!大丈夫ですか?!頭から血が……」


「大丈夫だ、それよりセナ、お前のおかげであの爺さんが気づいてくれて助かった。ありがとな」


「お礼だなんてそんな……それより早く手当てを!!」


「いや、今はそれより……」

俺はセナ達の安全を確かめると慌てるセナを制し、助けてくれた老人の方を向き、


「あの、ほんと、ありがとうございました……」


「何、半分はワシ自身の為じゃ、これで心置きなく往生出来るわい。それよりもよう守り抜いたの、お前さんの女を。して、お前さんの女というのは?」


「あ、その、それは……」

あの時は必死でああ言っちゃったけど、セナには彼女どころか嫌われてるし、フィギュアだし、どうしよう……


「うむ、何やら訳ありのようじゃの、答えづらいのなら無理して答えんくて良いわい。なに、目を見ればお前さんが嘘をついてない事くらいわかるでの」

な、なんて出来た爺さんなんだ、これは男の俺でも惚れちまう……なんか、この爺さんに従いたくなってきちゃったよ。これが年の功って奴なのか……


「お巡りさんこっちです!!」

この爺さんのカッコよさに感激してたら、どうやら騒ぎに気づいた若い女の人が警察の人を連れてきてくれたみたいだ


「うむ、どうやらお巡りさんが来てくれたみたいじゃの」

そうして俺とこの爺さんはお巡りさんの方を向く。


「ちょっとちょっと、何?喧嘩?駄目だよ〜君達……ハッ!!貴方は!!」


「久しぶりじゃの福田、変わらず精進しておるかの??」


「も、勿論でございます、緒方さんも変わらずお元気そうで!!!」


「そうでもないわい、最近なぞ腰がいとーてな、以前のようには体が動かんようになってきたぞ。それより、ほれ、このあんちゃんじゃが、あそこで伸びちょる男に襲われてたところをワシがちょいと手助けしたんじゃ、あんちゃんは何もしとらんから丁重に対応してやるのじゃぞ??」


「ハッ、かしこまりました!!」

警察官は誇らしげに目を輝かせ、この爺さんに敬礼している。何者だ、この爺さん。


「じゃあの、後の詳しい事はあんちゃんから聞くと良い、それじゃ達者での」

そうして爺さんは腰を屈めて杖を突きながらどこかへ行ってしまった。一度も後ろを振り返らずに手だけヒラヒラさせて。


「どうかお元気で……」

隣の警官は伸びてる犯人ほったらかしで爺さんが見えなくなるまでずっと敬礼してた。ほんと何ものだったんだろう、あの爺さん……あ、そうだ。

俺は倒れて呻き声を上げてる男の首元まで行き、腰を屈め、

「おい、さっきの質問の続きだ、今まで盗んだフィギュア達はどうした?まさか捨てたりしてねーよな?」


「まだ家に……置いてある。ある程度集めてから売るつもりだった……」


「それを聞いて安心だ。手放してたら今からもう一発お前の顔面にサッカーキックをお見舞いしてるとこだったよ」


「ヒッ、大丈夫です、ちゃんと家に置いてあります……」


「よし」


べジータも無事みたいだしとりあえず一件落着に向かいそうだ。まさか、命を落とす事になりかけるとは……けど、あの時セナ達を渡さなくて良かったな、なんか自分が好きになれたよ。馬鹿な行動だとは思うけど……

そう感慨に浸っていたら、

「君、いいかな?」


「はい?」


「詳しい話を聞くために後で署まで同行お願いしたいんだけど、頼めるかな?緒方さんのお墨付きだから勿論君に迷惑をかけるような事はしないけど」


「これって……」


「任意だけど、事情を知ってる分事件の解決は君が来てくれた方が圧倒的に容易になると思うんだけど」


「ですよね……わかりました」


メンドクサ!!!警察のお世話って、大丈夫か俺?クレーム対応で会社出てきただけなのに……とりあえず課長に電話だ、ホウレンソウはしっかり守らねば。

そうして震える手でスマホを取り出し、俺は会社に電話を入れた。

プルルル、プルル、ガチャ

「はい?」


「あ、課長お疲れ様です」


「ああ、どうだった?」


「それが、クレームの件はどうにかなったんですけど、話すと複雑なんですが、その後色々あって今から警察署へ向かう事になってしまいまして……」


「何だと?!クソ、だから俺は反対だったんだ……いつかはやるとは思っていたがついにやってしまったのか田中……」


あ〜課長絶対何か勘違いしてるよ、どうしよ……


「とにかく、自分は悪い事は一切しておりませんので安心してください、細かい事は警察署に向かった後にまた連絡しますので」


「田中、済まなかったな……お前の気持ちに気づいてやれなくて。牢屋の中で反省してこい。出てくる時には迎えにくらいは行ってやる」


駄目だ、何言っても通じないよこれ、もっと部下を信頼してくれよ課長……

俺は絶対に大丈夫です、牢屋に行くこともないですからと言って電話をきった。


ハァ、こういう時言葉って無力だよな。

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