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族・月と太陽の交差点に潜む秘密  作者: ジャポニカダージリン
第1章
29/117

一番乗りの出社

健太郎はいつも課では一番乗りにオフィスに着く。

特に大した理由があるわけではないけど、それが自分を守る為になっている実感はある。

今回はハクリューの意見を聞いて少しいつもと違った行動を起こしてみることにした。

「ここが健太郎の勤める会社なんだね」


「そうだ」


「大きいお……」


「そうですよ、健太郎さんみかけによらず凄いんですから」


「一言余計だ。それに俺のやってる事は正直人に自慢できるようなものじゃない。しかしハクリュー、だからと言って仕事中につまらないこと言って俺のペース乱さないように」


「な、何を言うんだ、いつ僕が君に迷惑をかけるような発言をしたんだ?」

 どうやらハクリューは自覚なく俺をイラつかせるような事を口にしているらしい。やれやれ。

 いちいちそれを口にするのも面倒なのでハクリューは無視してビルに入り、警備員さんに挨拶してエレベーターに乗って自分の課のあるフロアへ向かった。


「ほとんど誰もいないお……」


「まだ業務が始まるには時間があるからな。俺はいつも課の中では一番早くくるようにしてるんだよ」


「健太郎えらいお!一番早く来て頑張ってるんだお!」


「へ、人より朝目覚めるのがちょっとだけ早いだけだよ。お前らまで付き合わせちまって悪いな」


「もしかして新入社員とかがやらされるあれじゃないのかい?仕事では先輩社員にお世話になる分、他の人の机を磨いたり花の水を入れ替えたりと、自分に出来る形で貢献する。それを10年ずっと続けているのなら凄いな健太郎は、その気持ちを忘れちゃいけないよ」


「……」

ハクリューの言ってる事は正しい。

 けど俺は何も好き好んでいつも一番乗りでオフィスに来るわけじゃない。課の飲み会の時に課長が酔った勢いで「仕事出来ねーんだったら最悪一番早く出社しろや!!」とか怒鳴ってきて、その圧を跳ね返す事ができずに分かりました!って安請け合いしてしまって以来こうなってるだけだ。課長の機嫌を少しでも損ねないように。

 しかも早くきたからって机拭くわけでもなくyoutube見たりネットサーフィンしたりして時間潰してるだけ。

 けど、今日はなんだかハクリューの言うようにしてみようというきになった。俺は給湯室に干してある雑巾を水で絞って皆の机を丹念にふいた。


「おはよう」


「あ、おはようございます」

机をふいてから10分くらいして、いつものように佐藤さんがデスクにやってくる。俺より一回り歳上の先輩だ。

 課ではこの人がいつもニ番目に早く出社してくるんだけど、この人が異様に早くやってくるせいで俺は始業時間の一時間前には会社につかなくてはならん。

 出社がこの人より遅くなると遅刻でもないのに叱られるし仕事で何かヘマすると皆んなの前でいじってくるしで正直目の上のたんこぶのような存在なのだが、

「?!あれ?田中、なんか机綺麗になってるんだけどお前、ふいた……??」


「あ、はい、特にやることもないのでちょっとは皆さんの為に何かしようかな〜って……」

 そういうと佐藤さんは何やら神妙な面持ちで自分以外のデスクも眺めている。

これは、もしかして怒られるのか?!ハクリューの話間に受けていらんことしたか……

 叱られると思った俺はわざとマウスをカチカチ鳴らしてパソコンのスクリーンに魅入るようなフリをし、これ以上触れないでアピールをしていると、

「ありがとね」


「え?あ、いえ……」

 予想外に佐藤さんが口から放ったのは感謝だった。

そんな大した事してないのに妙に嬉しいな、久しぶりに会社で褒められたかもしれん。


「良かったですね、健太郎さん!」


「まあな、しかしこれは明日からも机ふきしなくちゃならなくなった、正直大変だぞ」


「佐藤さん喜んでくれてるし頑張りましょうよ!それに健太郎さんもなんだか嬉しそうですよ?」


「ま、まぁ感謝されるのは嫌いじゃないが、果たしてこれでよかったのかどうか」


「そうでしょうか?」


「そうだ。おかげで一つやらなきゃーー」


「お前一人でなにボソボソ鞄に話しかけてんだ??」


「あ、いや、これは、その……」

 セナと話してるの聞こえてた?!

朝のオフィスは静か過ぎて小声でも島の対角線上の端にいる佐藤さんまで声が聞こえちゃうんだ。

カバンから意識を晒す何かうまい言いのがれを……


「ふむ、どうやら、このメッシという選手はまたハットトリックを決めたみたいだね、今度は12人も抜いたらしい」


「?!そ、そうだ、今サッカーのニュース見ててちょっと独り言言ってたんですけど、聞こえちゃいましたかね?はは」

 ナイスハクリュー、お前のつぶやきのお陰でなんとか言い逃れが出来たぜ。


「サッカー?お前なぁ、会社ではあんまそういうの……お、メッシまたハットトリックか!!」


「みたいですね……」


「けどこの12人ってなんだ??サッカーって最大で11人じゃないの?」


「さぁ……」

と佐藤さんの疑いを逸らすよう会話を続けていると、


「田中みたいにチームの足引っ張る味方でもいたんじゃないか?仕事だったらメッシでも味方のお前をふりきるのは至難の技だろうがな!」


「あ、おはようございます課長……!いや〜自分のポジションは皆さんの応援みたいなもんで、もしかして12人目って乱入した観客かもしれませんね、ハハ……」


「……はぁ」

 課長のお出ましだよ。クソ、腹立つぜ朝一からつまんねー皮肉ぶっかけてきやがって、おまけにウィットに富んだ俺の返答にため息。

 課の監督ならチームメイトの士気下げてちゃダメじゃない?

 しかしセナ達との会話を考えないといけないな、さっきはハクリューの独り言で助かったけど、会社だと小声でも鞄に話しかけるのが難しくなるな……


 そんな事を考えながらいつものように適当に時間を潰していると、徐々にフロアの人も増えてきて、始業ベル10分前くらいから駆け込み気味で一気に人が増え、フロアのデスクは埋まっていき、時間になって始業ベルがなる。

 さ、今日もやりますか、8割方無心で座るだけの俺の仕事。終業時刻の17時を待ち続けながら。



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