ハクリューが嫌い
ハクリューのインテリ具合が嫌い。真の自分に目覚めた健太郎は。
パチリ……
俺は憂鬱と共に目が覚めた。また見られてしまった、妹の優子にフィギュアと本気で戯れている衝撃的な姿を。
昨日の夕飯は奇しくもカレーであったが、俺は母親の再三の誘いを頑なに断った。
もう誤解を解く事は叶わない。
昨日の夕飯の家族間の会話がどんなものだったのか想像するだけで怖くてたまらない。
3人は既に起きて何やら話し合ってるみたいだ。
俺は夕飯を断った後、風呂にも入らず眠りについた。
コイツらとは一言も言葉を交えずに。
今は話したくないが、やはり会話が気になってしまう俺は耳に意識を集中する
ーーキーンーー
「どうしようか……」
「あれは健太郎さんが……」
「それはそうだが、彼の気持ちも汲んであげないと。僕ら
にも責任がないわけではないのだから……」
どうやら昨日の事をハクリューとセナが話し合ってる。
チッ、一番悪いのは俺かよ。
確かに悪いのは俺だ、俺があんなに大声で叫んだりしなければ優子が部屋に入ってくる事はなかったんだ。
けどなハクリュー、お前があそこで裏切らなければあんな事にはなってなかったんだぞ?
唯一俺を認めてくれる仲間だと思ってたのに土壇場でセナにつきやがって……
「は〜あ」
コソコソ会話されるのもムカつくので俺はわざとらしいあくびをしながらベットから身を起こすと、
「あ、健太郎、おはよう」
「おはようございます……」
「ダオ……」
と3人が気まずそうに挨拶してくる。
フン、俺が起きちゃ悪いかよ。
「ああ、おはよう」
「健太郎、昨日はその……残念だったね」
「全くな、とんだ災難にあったぜ」
俺は無責任にも話しかけてきてハクリューに皮肉をかましてやると、セナが俺の俺の方をじっと見ている事に気づく。
「んっ、なんだよ??」
「あの、健太郎さん、昨日は優子さんとの事申し訳ありませんでした。けれど、ハクリューさんには怒らないであげてください。ハクリューさんは健太郎さんの事を想って……」
……は?
「いいんだセナ、健太郎が僕に怒るのはもっともだろう、僕はそれだけの事をしたのだから」
「でも……」
イライライラ、
言っとくけど、ハクリュー、お前はそんなカッコいいセリフを言えるような立場じゃないからな?
確かにやると言ったからには昨日のセナとの約束は守るつもりではある。っが、それとこれとは話が別だ。
裏切り者のハクリューとそれを庇おうとするセナ。
二人の茶番めいたやりとりを見ていると怒りが湧いてきて、
「おい、ハクリュー」
「……なんだい??」
「あんま調子に乗るなよな。俺はお前を仲間と認めてないからな?」
「ッ……!!?な、なんて事を!!」
「だ、だお……」
「……あぁ……」
俺の寝起き早々のカミングアウトに三者三様のリアクションを見せる三人。
ケッ、いい気味だぜ。
ここは俺の部屋、言わば俺が王様だ。
王の俺に逆らったんだからそれなりの覚悟はしてもらうぜハクリュー。
そう思い俺がフッと勝者の笑い声を漏らし、ベッドから降り、歯を磨く為部屋を出ようとすると、
「待ってください!!」
「後ろからセナが呼び止めてくる」
「ああ?なんだよ?」
「ハクリューさんに謝ってください!今のはいくらなんでも酷すぎます!!」
っとセナが、俺にハクリューへの謝罪を要求してくる。
うわぁ、やになっちゃうよこういうの。
そりゃお前はいいよな、味方についてもらえたんだから。
けど俺に謝らせるのはおかしくないか?
ほんとは泣きたいのはこっちだってのに……
なので俺は、
「知るかよ」
と、セナの要求には取り合わずに部屋のドアを閉めて洗面所に向かった。
歯を磨き、俺の出社時間は早いのでまだ誰も起きてきていないリビングで朝食を済ませた後、出勤の準備をする為に俺は自室へと向かうわけだが、
嫌だな、あんな感じで部屋を出たから俺が入った時のセナ達の反応は容易に想像がつく。
陰鬱な気持ちを押し殺しながらドアを開け、自室へ入ると、
シーン
やっぱりだ、嫌われものが入ってくるとそれまで盛り上がっていたであろう場所が静まり変えるあの気まずい感じ。
セナ、ハクリュー、ヤドランが円になって向かい合って顔を下に向け、その横を俺がドスドスと通り過ぎて行く。
なんだよ……俺は自室でもはみ出しものかよ。
心の中で舌打ちし、部屋の隅のハンガーラックに向かいかけてあるスーツに手を伸ばしたところで、
「健太郎さん……」
セナが再び声をかけてくる。
はぁ、またですか。また俺に謝れって言うんだろ?
絶対謝らんぞ俺は、嫌われるならそれでいい、けれど納得のいかないこの事だけには絶対頭を下げんぞ俺は。
そう思いながら、
「なんだよ?」
忌々しげにセナの方を向くと、
「あの、どうか考え治してもらえませんか?本当に、本当にハクリューさんは健太郎さんの事を想っているんです……」
っと不安気な表情で訴えかけてくる。
その顔を見ると俺の固い決意が揺れ動く。フィギュアとはいえ女の憂いた目には物凄い威力が秘められているものなのだ。
気まずくて視線をセナの隣にいるハクリューに移すと、ハクリューは首を落とし、シュンと項垂れている。
うぅ、裏切る事が俺の事を想ってる者のする事なのかよ……?
そう思いながら俺が判断を決めあぐねていると、
「健太郎、オイラ達はこれまでずっと健太郎を見てきたんだお?」
とヤドランまでそんな事を言ってくる。
俺が小5の時、夢中になって楽しんだポケットモンスター。
そのゲームの中で一際手に入れるのが難しく、一際育てるのに時間がかかるミニリューをやっとの思いで進化させて手に入れる事が出来たハクリュー。
その嬉しさのあまりポケモングッズ店に行きぬいぐるみまで購入してしまった。
それが俺が産まれて初めて、自分で貯めた小遣いで買ったものだ。
ちなみにヤドランはお金が余ってたのでついでに買った。
馬鹿そうで一番嫌いなポケモンだったのだがあの時は浮かれていた……
その時の事を思いだし、俺は思う。
確かに、ずっと俺と一緒にいてくれたんだよな……言わば俺の人生で一番付き合いの長い友人だ。
「……たく、わかったよ、さっきの事は謝る。言いすぎた。けどな、ハクリュー、お前が俺を想っていたにせよ、裏切りは裏切りだ、その事だけはちゃんと謝って貰わないと俺も許す事は出来ん」
「もう!またそんなこと言って!!」
俺の言葉にセナがそう、反応するが、
「いや、健太郎の言っている事は正しい。だから謝るよ、悪い事をした」
そう言ってセナの前に割り込んでペコリと頭を下げてくるハクリュー。うん……まぁ、いっか。
こうやって真摯に謝ってくれてる姿を見ると俺を蔑ろにしているわけでもなさそうだ。
「まぁ、俺も悪かった、ほとんど八つ当たりだしな、いいよいいよ、仲直りだ」
「あの、私もごめんなさい、優子さんとの件で迷惑ばかりかけてしまって……」
俺が謝るとセナも優子との件で謝ってくる。そうだよな、思い返せばハクリューよりもセナの方が遥かに俺への迷惑度はデカい。
優子の事はちょっと気にかかるが……
「ま、なんとかなるだろ、フィギュア好きな兄がこの世にいないわけでもないんだし、うん。きっと優子もそのうちわかってくれるさ」
もう弁解不可能な状態になってしまったわけだが、こうなりゃ逆に開き直るしかねぇ。
それがいつになるかわからないが、優子もいつかは『キモい兄でも兄は兄』と理解してくれる日が来るくるだろう。くるんじゃないかな?きっとくる。
なんだか、照れ臭く、しんみりした空気が部屋に充満していてどうしたらいいかわからなかった所、
「健太郎、早く仕事の準備するお!!」
これまでボケっと突っ立っていたヤドランが空気を切り裂く一声を放ってくれた。
助かった……恩に着るぜヤドラン。
空気を読まないのも時には重要だな。
しかし、今更だが馬鹿ってのはどうやって治せばいいんだ?
俺とセナだけで解決出来る問題には思えんぞ……
「ハクリュー、ヤドラン、お前らもこい。一緒に行くぞ。セナ、昨日のホルスターはなしだ!!お前らは会社の鞄に入れ!中で俺の愚痴で盛り上がれ!」
「えっ、それは別に求めていないわけだが……」
「だ、だお……」
「うるさい、この部屋の宿主は俺だ!宿主の命令は?さんはい!!!」
「……」
「……」
「……」
「ハァ、わかってないなーお前たち。『それを言うなら王様!!』だろ?」
「………」
「………」
「………」
「よし、いくぞ!」
そうして俺は3人の……友人達を会社に連れて行く事に決めた。
そして俺はカバンの中に声を発する。
「絶対にバレるなよ!!!いいか、絶対だぞ!フリじゃねえからな!!」




