俺を誰だと思ってやがる、健太郎だぞ??
セナに馬鹿は嫌いと宣言され、どんどんとへんな方へ
「私、馬鹿が嫌いなんです!!」
「なっっっっ」
「あれ、聞こえませんでしたか?もう一度言いますね、私、馬鹿が嫌いなんです!!今度はちゃんと聞こえましたか?」
セナから発せられる唐突なヘイト発言に俺が言葉を失っていると、『あれ、私何か悪いこと言いましたか?』って感じで首をキョトンとさせてから、より語気を強めて同じ事を繰り返してくるセナ。
こいつ、笑顔で何て事いいやがる……
「おい、セナ、人には言っていい事と悪い事がある。確かに俺は頭は悪いが、今のは謝っている相手に言っていい事じゃないだろ?!」
「まぁ、ご自分でご自覚がおありでしたのね……」
セナは口元に手のひらを当て、本気で驚いたような顔をしている。イラッ……
「あのなぁ……」
「なんですか?」
「俺は今謝ってんだぞ?謝るってのは自分の非を素直に認めて反省してるって事だ。それを馬鹿が嫌いで片付けるのはあんまりだとは……」
「それって私に受け入れろって言ってるんですか?健太郎さんの非礼を」
「うっ……」
耐えきれなくなった俺が反論に転じようとするとセナはまた先程の凄みを伴う侮蔑的な目で睨んでくるものだから、俺は怯んで言葉を発せなくなってしまう。俺が怯んだ所を暫く侮蔑的な視線で眺めた後、セナはふぅっと息を吐き出し、再び先程の晴れやかな笑顔を表情に浮かべ、
「だから、健太郎さんはその馬鹿な所を治してください」
と、無茶苦茶な事を言ってくる。
馬鹿を治せだと!?
何言ってんだこいつ……古来から馬鹿は死ななきゃ治らないという諺があるように、
馬鹿は治らないから馬鹿なんだ。それを治せってのは俺に死ねって言っているのと同義だと言う事をわかって言ってるのか?
「ちょっと待ってくれよ、直せる所は直すって言ったけど、それはちょっと……」
「あら?私、何か無茶な事を言ってますか?」
「無茶も無茶だ。俺が馬鹿を治せてたら、とっくに職場で治してる。それが出来ないから今俺はあんな状態になっているのに……」
そうだよ、当時まだ自分を知らなかった俺は胸に希望を抱いて今の会社に就職し、その後自分のおつむが社会では全く通用せず、それでも自分が無能である事を受け入れられず必死になって抗った。何年も。
何度も何度も先輩後輩に頭を下げながら、飛んでくる罵詈雑言にへつらってまで……
「なぁ、だから、それだけは勘弁してくれ、他の事なら直すからさ……」
「いいえ、駄目です。私が健太郎さんに求めるのはこの一つだけ。馬鹿を治してください」
セナは馬鹿を治せの一点張りで俺に聞く耳を持たない。
頭のいい奴らって皆そうなんだよ、駄目なやつらが駄目なのは、自分が変わる努力をしようとしないからだって決めつけて落伍者に不真面目なレッテルを貼りつける。
生来ずっと恵まれた境遇にいるから努力ではどうにもならない世界があるって事を理解出来ないんだ。
馬鹿である俺は断言する。心の底から馬鹿のままでいたいと望む人間なんてこの世には存在しない。ただの一人だってだ!
「なぁ、ハクリュー、お前からも何か言ってやってくれよ……」
と、俺はセナの後ろに佇むハクリューに助けを求めようとするが、
プイッ。
ハクリューはそっぽをむいて俺の訴えを拒絶する。
ハクリュー、お前もか
俺は仲間と思っていたハクリューにも裏切られ、いよいよ、絶望的な気持ちに陥ってしまう。
もう、人間不信になりそう……
「大丈夫だお、健太郎」
俺が絶望のどん底に陥りかけた時、背中からヤドランの声が聞こえてくる。
そうだよ、コイツなら……ド忘れポケモンのヤドランなら……!!
「ヤ、ヤドラン、お前ならわかってくれるよな?」
「健太郎は馬鹿じゃないお?」
「いや、そうじゃなくて……」
「なんだお……?」
駄目だ。
俺が瞳に希望の光を灯しながら振り向くと、このド忘れポケモン、今は見当違いなフォローを入れてくる。
期待した俺が馬鹿だった……俺が求めてるのはそういうのじゃないんだよ。
俺が忌々しげにヤドランんを睨むとヤドランはポカンと口を開けて不思議そうに俺を見ている。
「健太郎さん?」
「は、はい……」
「何か言いたいことはありますか?」
「……」
「無理と言うならこれまで。私は二度健太郎さんとはお話しません。必要最低限以外の事は」
「……」
ガックリと項垂れ、失意のどん底に陥っている俺に、性格凶悪度MAXのセナはそんな選択を迫ってくる。
いかん、頭が真っ白になりそうだ……いっそコイツの提案を受け入れた方がいいんじゃね?いや駄目だ楽な方に流されては一生気まずさが……
「聞いてますか?私の話?もしも〜し?」
「おーい、聞いてるのかな?おーい、おーい、お馬鹿さーん!黙ってちゃわかりませんよ?おー」
「……ったよ……」
「……はい?」
「……ウッセェナ!!わかったっつってんだ!!治せばいいんだろ治せば!!!」
しまった、俺がセナの拷問のような煽りに耐えきれなくなり、とうとうそう叫んでしまった。すると、
「本当ですか!!?」
と、驚きの表情を見せたセナが俺の方に駆け寄ってくる。
俺はセナの嬉々とした目を見て悟る。これまで俺はハッパをかけられていたのだと。嵌められた……もうこうなったらしょうがない。
「わーったよ、やってやる!!その代わりちゃんと付き合えよな?努力は続けてやるから!!」
「はい!はい!!」
ガッ
「キャッ!!」
「見てろよセナ?後悔したっておせーからな!?こうなりゃ俺はクールで仕事の出来るスーパーリーマンにゼッテー産まれ変わってやるからなっ!!?」
セナが嬉しそうに首肯するのを見て得意になった俺はセナを掴み、自分の目線の高さまで持ち上げ、そう言い放った瞬間ーー
ガチャ!!
部屋のドアが突然、一人でに開いた。
えっ、なんで?そして開かれたドアの前に立っていたのは……
「ちょっとアニキ!!さっきからうるさいんだけど!?もうちょっと静かに……あっ……」
妹の優子だった。
「あっ………」
……カチャリ。
俺が蚊の泣くような声を漏らしたあと、ヒートアップした俺に苦情を言いに来たらしい優子が、持ち上げたフィギュアに叫んでいる俺を見て何も言わずに引き返していった。
静かに……
して……もう誰か俺を殺してくれクレメンス……




