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族・月と太陽の交差点に潜む秘密  作者: ジャポニカダージリン
第1章
22/117

これでいいのだろうか……

セナの条件を確認し終えた俺は店に戻り、ようやくホルスターがズラリと棚に立てかけてあるレーンへと足を踏み入れる事が出来た。

内心先ほどセナに言われた一言が気になる俺であるが、カバンから顔を出すセナは終始無言で俺と目を合わそうとせず、怖くてまともに話しかける事すら出来ない。

なんなのなんなの?今朝は可愛らしく笑っていたあのセナは何処に行っちゃったわけ!?


「健太郎さん、これなんかはどうでしょう??」

俺が悶々とした思いを胸に抱きながら、うつろにホルスター郡を眺めていると、やっと口を開いたセナが指さしたのは、他のタイプよりも一際サイズの大きいポーチが横向きに取り付けられているものだった。


「おおいいじゃん、これならスマホも中に入りそうだな!」


「はい!こうして縦にスマートホンを立て掛ければ周囲に人がいる時などはこうやって健太郎さんと連絡・・が、取れそうです」


あ〜なるほど、セナのやつそんな事考えていたのか。

インスタでもしたいのだろうと思っていたけど、結構考えてんだな。

確かにいちいち人の少ない所に移動して話しをするよりはこっちの方が楽ではあるな。

けどなんだろ、妙に距離感感じるぞ。なんかこれまで俺がフラれてきた女性達とのデートの最後らへんに感じるあの感覚と似てるな。ま、考えててもしょうがない。


「まぁ、いいんじゃないかなこれで」

そう言って俺が目の前の棚にぶら下がっているポーチ型ホルスターを棚から外すと、


「あの〜、本当に私、ここに入らないと行けないんでしょうか……?」

っとセナがここに来てこれまでの約束を反故ほごにするような事を言い始める。

嘘だろ?


「え、なんで?さっき入るって言ったじゃん」


「それはそうなんですけど、やっぱりカバンの中でもいいんじゃないかなって……」


「えぇ……なんだよそれ……」

俺はセナのわがままを聞くとだんだんと腹が立ってくる。

嘘だけはつくなってのが生前のじいちゃんの口癖だった事もあり、普段冗談やおべんちゃらは言っても嘘だけはつかないように決めている俺は、人のこういう都合のいい嘘を聞くと毎回ガッカリさせられる。

香水の時だってオブジェの助けはあったが、セナが少しでも嫌がるようなら最初に言ったとおり3つの香水を買ってたと思う。

けれど、こういう場合、無理強いをしてもいい結果にならない事も知っている。一番大事なのは相手が納得する事だと思うから。


「そっか、うん、わかった。じゃあやめとくか」

そう言って手に持ったホルスターを棚にかけようとすると、


「えっ!?でも、それじゃあ健太郎さん、カバンを何処かに置き忘れたりしたら……」

もおおおお、なんなんだよコイツ、さっきからやるだのやらないだの。

俺にはコイツが何をしたいのかはっきり言って全くわからん!!プッつんしそうだ。

が、キレたらダメだ!!

ここで本気でキレれば俺は圧倒的な体格の差を利用してセナを恐怖を持って屈服させてしまうという確信がある。

しかし、しかし。ああああぁぁぁ!!


俺は怒りのぶつけどころがわからないまま、両目を力一杯閉じ、咆哮するように口を大きく開け天を仰ぎ見る。

すると、ん?だんだん頭の中が真っ白になってきて遠い過去の記憶が映し出されてくるーー


ーピー、ピー、ピー、


「ハァハァハァ……クッ、ワシはどうやらここまでのようじゃ、ハァハァ、だが、死ぬ前になんとしてもこれだけは、クッ……」


「親父……!!それ以上喋るな!!おい、看護師さん医者を!!早く医者を呼んでくれ!!!」


病室の中、身体中チューブに繋がれた老人がベットに横たわり、何かを呻いている。

そのベットの前で叫んでいるのは……親父?

あぁ、そうだ、これって確か俺が8つの時に病院でじいちゃんが亡くなった時の記憶だよ。じいちゃんがなんて言ってたのかよくわからないまますっかり忘れてしまっていたな……


酒とギャンブルばかりして家族を困らせていた爺さんが俺はハッキリ言って嫌いだった。

いつも家族に馬鹿にされているその姿があまりにカッコ悪くて。

そのじいちゃんの命の火が今にも燃え尽きようとしている。


「健太郎!!ハァハァッ、そこにいるか健太郎!!?」


「う、うん、いるよ?」


「親父!喋るな!!」


「お前は黙ってろ!!ウッ……もて、モッテくれワシの身体……!!」


どうやら記憶の中の爺ちゃんは必死に俺に何かを伝えようとしているようだが、なんだ……??


「いいか、健太郎!!これだけは忘れるな、ハァハァハァ……女は天使!!女は太陽!!決してその光を曇らせなな!!!!!」


ピーーーーーーーー


「親父!?親父ーーー!!!」


「先生!!こっちです!早くーー」


親父が泣き叫び、看護師が大声で医者を呼び、遠くから白衣を着た男が駆けてくる所で俺の記憶の中の映像には霞がかかっていく。

そして、目を開けて下を向くと、不安そうな顔をしたセナが俺を見上げている。


気づけば俺の心は凪のように穏やかになっていて……うん、そうだよな。


「やっぱり買うのはやめよう、セナ、お前はバックの中でいい」


「えっでも……」


「いいんだ、俺が気をつければ済むだけの事だし、頭が吹き飛べばそれだけの事。お前を苦しませるよりはよっぽどマシだ」


「えっ……」


なんでだろ、怒りで恐怖の感覚が麻痺してしまったのかな?今は不思議とそう思えて来て、歯の浮くようなセリフが自然と出て来てしまう。


「よし、じゃあ出るか」

そう言って棚にかけたバックに背を向けようとすると、


「わ、私、やっぱり大丈夫です!!ホルスターの中で、それにほら!!この中こんなに快適そうで、よく考えたら自分だけの空間じゃないですか!これ、これにしましょう!」


と、セナがカバンから身体を目一杯乗り出して、今かけたホルスターを必死にパタパタ動かしている。


あれ?いいの……?

ってか本当によくわからんコイツ……

セナの不可解すぎる言動に怒りを通り越して呆れ果ててしまう俺だが、

セナがいいというならホルスターを使うに越した事がないので、俺は再びホルスターを買う事に決めた。

まぁお互いwin win ならそれが一番じゃんね?


ふと気づけば、

レジでバーコードを打たれるホルスターをキラキラした目で見つめるセナからは、先程の妙な距離感は完全に消え失せていた。

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