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族・月と太陽の交差点に潜む秘密  作者: ジャポニカダージリン
第1章
16/117

次は、田町、田町

香水を買った健太郎とセナは昼食を取ることにする。向かうのは原宿から少し離れた田町。何故?田町にはあれがあるから。

「ありがとうございました、またの御来店お待ちしております」


コロンを買って渡してからのセナはやたら喜んでた、大事そうに箱を抱えて。高級な香水もセナの身体のサイズだとめちゃめちゃ割安になるな。それにしても腹が減った、急がねば。

俺達は東京は田町にあるラーメン二郎三田本店に向かう。女連れで行くような場所ではない気がするけど知ったこっちゃないね、もう充分セナには付き合ってやった、昼飯くらいは好きなものを食べさせろ。

だから俺はセナの「どこに向かってるんですか」って質問に「田町」とだけ答え、「どんなところなんですか?」って質問には「天国みたいなところだ」突き放し気味に答え後はスルー。セナは電車内でさっき買った香水を惚れ惚れと眺めてニヤついていたかと思うとハッと思い出したかのように俺の携帯をいじってる『次は、田町、田町』しばらくして山手線内のアナウンスがながれ、俺は下車の準備に入る。

来たか……ここまで来るのにだいぶ遠回りと手痛い出費をしちまったが、俺にとって東京はここが本命。

田町駅から繋がる歩道橋を降りるとセナが「私、すごく気になります」とかどこぞのヒロインみたいなこと言って指差すから俺はチッと舌打ちして慶応通りに入っていく。名前の通りここは慶応大学生と、仕事帰りのサラリーマンの為に存在しているような街並で無数の飲食店がひしめきあっている、が、俺はそいつらにはわき目も触れず肩で風邪きり通りの中央をズンズン進んでいく。

「うわー、美味しそうなお店がたくさんありますね」


「ああ」


「目移りしちゃいますね」


「しっかり見とけ」


「あ、あそこのお店キーマカレーが美味しいらしいですよ!!」


「そうか」


「むぅ〜。もう行くお店決まってるんですか?」


「ああ」


「何やさんですか?」


「つけばわかる」


「健太郎さんなんだかロボットみたい……」


「ロボットかもしれん」

これまでの心身ともにの疲労で焼き切れた俺の脳のワーキングメモリは今やラーメン二郎の事しか考えることができなくなってしまっている。故にルンバのような動きで目的地へとカクカク進んでいく俺はセナの言葉を全て一言で片付ける。

慶応通りを抜けて、目の前を突っ切る大きな道を渡る。右手に見える慶応大学に沿ってゆるい坂を登って行くと、人っけのない雰囲気のところに突然長蛇の列が現れる。キタキタキタ、来ましたよ!!

ラーメン通なら必ず一度は聞いたことがある、東京発祥、今や全国中にその名を轟かすラーメン二郎、その三田町本店。

「健太郎さん!人が沢山並んでます」


「着いた」


「なるほど、ここが天国のようなところ……ラーメン屋さんですね」


「違う、二郎だ」


「??」

そう吐き捨てた。看板のラーメンの文字を見て何か間違ってる私?って顔してるセナを無視し、獲物を締め付けるヘビのごとく店を取りまく長蛇の列の最後尾に並ぶ。

くぅ〜今だけはわかる、ディ○二ーランドの長蛇に足繁く並ぶ世の女子達の気持ちが。大変だけれど並びたい。だってこの衝動は抑えられないんだもん。

このラーメン二郎とは一言でいうとインパクトにステータスを全振りしたような感じのラーメンだ。その特徴はガツンと来る豚骨ベースの濃厚スープにうどんのように太いちぢれ麺が肩までしっかり浸かっていて、その上にもやしと『ぶた』と呼ばれるごつごつのチャーシュー、大量のニンニクが麺が見えなくなるほど器いっぱい乱雑に盛られている。そこに美しさといった概念は存在しない。そのあまりに雑な見た目から影ではブタのエサと揶揄されることもあるのだが、そんな事俺達は気にしないね。むしろ褒め言葉をありがとうだ。

この二郎、人を選ぶ。初めて食べた時大体の人は大雑把な味付けに嫌気がさすんだけど、そこで二郎に嵌ってしまう人は何故か時間が経つとふと『前のは勘違いかもしれない』と再び足を運んでしまい、その時は前回ほど不味く感じなくなる。そして、時間が経つとまたフラフラと何かに惹きつけられるようにやって来て、その味に満足して帰って行く。こうなると脳は二郎の虜に陥ってしまい、腹が減ると『二郎、二郎や』と、二郎を求める思考回路が出来上がってしまうある魔力を秘めた食べ物なのだ故に我々はこれをラーメンではなく『二郎』と呼ぶ。そしてこの二郎の虜になってしまった人達は巷ではジロリアンとよばれ、彼らが足繁く通う為に二郎にはいつも長蛇の列が出来上がる。


待つ事数十分。入り口近く、店内の夢中で麺をすすってるジロリアン達をみて、フッ、いよいよか……次のジェットコースターを待つような興奮と緊張が混じった感じの心境でふと横に目をやると、そこには黒烏龍茶だけがズラリと並べられた自動販売機が置いてある。

黒ウーロンか、最近お腹周り気になってきたけどどうしてもこれを止める事ができないな……と少しネガ入ってると

「健太郎さん、とても美味しいラーメンなんですね!皆さん夢中で食べてます」


そんな能天気な事言ってくるセナをチラと一瞥してから

「ああ。もしかしたら、お前は食べる事が出来なくて幸せだったのかもしれないな」

と前のメタボ気味の男性の背中を見つめながら俺が遠い目すると


「??」

セナはまたしても何言ってるのかちょっとわからないといった困惑顔。その時ゾロゾロとヘビの頭が動き出した。ネガッてる場合じゃないな。

俺はフゥっと息を吐き、気持ちを切り替え

「いよいよ店内へご入場だ、いくぞ!」


「ハイ!」



ついに光のステージが幕を開けた。

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