秋葉原
セナとやってきたのは秋葉原そこは一週間前健太郎が女性とのデートに失敗したばかりの場所なのだが
「秋葉原か。何するんだ?」
通勤ではいつも駅を経由するけど降りるのはセナと出会った一週間前ぶりという事になる。個人的には今は足を下ろしたくない場所だ。
「それは行ってからのお楽しみですよ」
「ふーん、楽しみがあるならいいんだけどさ」
そう言って海浜幕張駅で電車に乗り込む。休日の電車内は平日のようなピリピリ感はなく、まったりとした雰囲気で乗ってる方も爽やかな気持ちになってくる。セナはバッグから顔を出して子供みたいに窓にべったり手と顔を着けて流れる景色を楽しんでいる。あ、京葉線から見える海は綺麗だな、何人かカイトサーフィンやってる。いやー休日最高!心も身体もリフレッシュだね。なんで皆あんなしんどい思いして仕事なんかに向かうんだろうな。私は牛になりたい。
そんなこと考えてると無性に働く虚しさを誰かと共有したくなった俺は相手がいないのでセナに話しかけてしまう。
「セナ」
「はい、なんですか?」
「なんで人って働くんだろうな」
「衣食住を整えるため、でしょうか。特に食べるものがないと動物は生きていけないですから」
「そうだけど、なんで食べ物を食べなきゃいけないんだろうな。セナやヤドラン丸とかは何も食べなくても大丈夫なわけだろ?」
「それは……きっと、美味しいからですよ。その方が楽しいじゃないですか。あー私も特大のパフェを一度食べてみたいです」
やっぱりセナは一瞬悲しそうな顔をした後にそんな事を言う。確かに、食の楽しみを知らないっていうのはそれはそれで少し寂しいものなのかもしれない。
「俺はセナたちが羨ましいよ、そうすりゃ働かずに一日中家でゴロゴロ出来るのに」
「ゴロゴロしててもきっと退屈ですよ。それに素晴らしいじゃないですか働くのって。それぞれが役割を担って色々な人と助けあって住みやすい世界を作り上げていく。そうやって人はよりよい社会を作り上げてきたんですから」
「そうかもな」
セナの言うことはもっともだ。けど俺みたいにたいして役に立たなくて人の黒い感情に晒され続けてるとどうしてもそういうふうに感じられなくなってしまう。まるで、セナのいうようなより良い社会を作るのにお前の居場所はないんだって言われてるようで少し気持ちが沈んでしまうんだ。
「役割……か。俺にも何かあるのかな」
俺はついひとりごちると
「あ、橋があります!!面白いですね二匹の恐竜のカップルが向かい合ってるみたいですーーあれ、どうかしましたか健太郎さん?」
「いや、なんでもない。そろそろ乗り換えだぞ」
東京ゲートブリッジを遠目に東京駅で山手線に乗り換え、俺たちは秋葉原へ向かう。電気街口の改札を出ると改めて先週の事を思い出してしまう。そういやここであの人と別れたきりだ。その後LINEを送ってみたけど既読が付くのに10時間以上とかがデフォになって俺は悟った。距離作られているパターンだと。嫌なこと思い出させてくれたセナにイラつきながら再び何するか聞いてみると「とにかく着いてきてください」の一点張り。仕方なく俺はセナが指差す方向へ誘導され歩いていくと、ここは……
俺と彼女がセナを落としたクレーンゲームのあるゲーセンじゃん。なんでわざわざ。
「おい」
「はい?」
「ここってお前を拾ったところじゃん」
「そうですね」
「そうですねって、なんでわざわざまたここに。俺は今はここにはきたくないの。わかるだろ?」
「いや、ちょっと何言ってるのかわかりませんね〜」
イラ、それ今人気のお笑い芸人がやるボケっぽいけどわざとだな?腹立つな。
「おい真面目に怒ってるんだぞ俺は」
「えへへ、すみません。健太郎さん、あちらに向かってもらえますか?」
そう言ってセナの誘導に乗せられていくとクレーンゲームが置いてあって
「クレーンゲームだけど?」
「はい、じゃあここで前の子に向かって意識を集中してみてください」
「意識を集中ってどうやるんだよ?」
「ヤドランさんに話しかけた時のようにしてみてください」
「ヤドランってまさか……」
そうやって俺は心を落ち着かせて正面のオレンジ色の胴着た某大ヒットアニメドラゴンボールの主人公のフィギュアに意識を集中させると
「オッス、オラ悟空。セナ、久しぶりだな!」
うお、喋ってる!?それに動いてる。なんで?
「はい。久しぶりです悟空さん!お元気でしたか?」
「ああ、オラは元気だ。セナも元気そうだな!」
マジか……悟空じゃん。じゃあ隣にいるのはもしかして
「フン、誰かと思えばセナか。どうやら探していた『声の拾い手』とやらは見つかったようだな」
ピッ、ピッコロさんだ……
「おいキサマ!!」
「は、はい!」
フィギュアなのになんつー迫力。。つい敬語で返事してしまった
「どうやら俺たちの会話が聞こえているようだが盗み聞きとはお世辞にもいい趣味とは言えんな」
お決まりの声で腕を組みながら睨め付けてくるピッコロさんに俺は圧倒され、つい腰を折ってしまう。
「す、すみません!自分はセナに連れてこられてまさかこんな事になるなんて」
焦りながらクレーンゲームの前で何度も上半身を折りたたんでフィギュアに話しかけている俺を周りの人はどういう目で見ているのか。。怖いし恥ずかしいし、とにかくこの場を逃げ出したい。もう帰りたい!
「フン、女のせいにするとはつくづく情けない奴だ。この身体では闘えない事にせいぜい感謝するんだな。」
「あ、ありがとうございます。。」
ほっ、どうやら許されたようだ、
「もー、ピッコロさん!あまり健太郎さんに意地悪しないでください。それよりもベジータさんが見当たりませんが、どなたかが落としていったのでしょうか?」
セナが悟空さんにそう尋ねると、
「それがよ、落としたは落としたんだけどよ……」
悟空さんは少し悔しそうな顔をすると、
「ベジータの奴は盗まれたと言った方がただしいだろう。」
悟空さんに変わりそう言ったのはピッコロさんだ。
話の流れはからどうも穏やかな感じじゃなさそうだぞ、
「それってもしかして」
「ああ、同じ奴だ」
「そんな……あれから店長さんがセキュリティーだって厳しくしたのに」
「どうやら奴には意味がなかったようだ」
「クッ、オラ達が動けないばかりにベジータが奪われちまった。悔しいけどセナ、頼む、ベジータを取り戻してくれ」
「はい!健太郎さんとちゃんとベジータさんを取り返してみせますよ。ねっ、健太郎さん?」
「え!?」
ちょっと待て待て!話に置いてけぼりにされてボケっとしてる間になんか俺が泥棒からベジータを取り返す事になってるんですけど……?
無理に決まってる!
そう思い、急いで固辞するよりも先に、
「ほんとか!?セナ、健太郎!すまねえ、オラ達が不甲斐ないばっかりに。ベジータを頼む!!」
「えっ!?はい…」
悟空さんがすっかりその気になっちゃったもんだから俺はついこの依頼を請け負ってしまった……
「セナと健太郎と言ったか……せいぜい気をつけるんだな!」
「はい!絶対ベジータさんを取り返しましょうね?健太郎さん!!」
た、大変な事になったぞ。。俺はこれが現実なのか妄想なのかクラクラする頭を押さえながら爛々と目を輝かせているセナの野郎を怒りの滲む眼差しで睨みつけるた。
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今回は書くのかなり勇気が入りました。




