天秤
「どうしたの、リカ?」
先ほどから注文が届いたラーメンに橋すらつけず上の空なリカを見て、タルトが声をかけた。
「え、何が?」
それまで健太郎との先程の光景を何度も思い返していたリカはドキッとして答える。
やば、私とした事が……リカは内心焦る。
「健太郎さんの事、考えてただろ……」
タルトは気丈を装いつつもいつもより少し固い笑顔を浮かべながら言う。
「ううん、全然!」
「……ならいいけど」
「あ、ラーメン冷めちゃうから食べなきゃ、いただきまーす!」
タルトとリカは付き合っている。
今日でちょうど2ヶ月になる。
それまで何度も断ったが、それでも好きだと言い続けてくれるタルトにリカが折れる形で二人は付き合う事になった。
心に決めた人がいたリカであったが、冷静に考えれば目の前のタルトは学年一の美男子、ひいきぬきにしてもテレビに出てもおかしくないくらいの容貌、それに加えて性格も優しい。
今だって健太郎さんの事を考えていた自分を気付きながらも深く聞かないでくれている。
絶対に面白くないはずなのに……
「それにしても、リカのラーメンすごい量だね、ラーメンに全部トッピングなんて」
「え、あっ、ほんと!!」
「はは、リカ店員にいわれるままに全部トッピング頼んじゃうんだもん」
「だ、だってお腹空いてたんだもん……」
目の前のラーメンを見てリカはハッとする。
どうやら、注文中も健太郎の事を考えていたため、ラーメンの事を少しと考える余裕がなかったらしい。
やばい、自分とした事が完全に冷静さを失っていると思うと共に、このままじゃタルトに悪いと思った。
タルトつき合い、クラスの皆からもお似合いと祝福され、心から満足していた。これが自分の幸せなのだと。
けれど、優子の話を聞いて、いけない事とわかっていても健太郎の目を覚そうと思い、二人で出かけることにした。それは以前からもおこなっていたことだし、健太郎なら何も起こらないと思っていた。
なのにあんな事になるなんて……
リカは拉致された車に健太郎が乗り込んできた時の事を思い出す。
必死で悪党とたたかって命懸けで自分を守ってくれた健太郎。
あんなの女ならときめかない女はいない、そう思う。
けれど、昨日の健太郎ときたら……
リカはラーメンに息を吹きかけるフリをしながらため息を吐く。
「熱いから気をつけてね?」
「うん、ありがとう……」
ラーメンをズズっとすすった後、タルトは美味しい?と優しい顔で語りかけてくる。
リカはうんと返事を返すと、それまで待っていてくれたらしいタルトも箸を手に取り、ラーメンをすする。
それを見て改めてタルトの優しさに対する感謝の念がリカの中に込み上げてくる。
この人はほんとに優しい。
タルトくんなら絶対に私を幸せにしてくれる。
将来有望だし金銭面も問題ない。
うん、私は間違っていない。健太郎さんは確かにずっと好きだった人、けれど、告白をするのが遅すぎた、何度も私の好意をむげにした鈍感男、だから今更告白したって振り向いてあげるもんですか……
けど……一歩前進かな……だから、もう少し待ってみようかな……
リカはタルトと雑談をしながらも同時に思う。
今の健太郎さんと付き合ってもきっと上手くいかない。私が苦労させられるのは目に見えている。
言っとくけど私は倍率100倍の眉目秀麗女、はっきり言って今の健太郎はランク外。
そんな男を甘やかすなんて私のプライドが許さない。
健太郎さん、もし私と付き合いたいならあなたは絶対に自分で乗り越えなければならない大きな問題がある。
それが解決しない限り、今健太郎さんを取り巻く環境は一生変わらない。
「リカってほんと美味しそうにラーメン食べるよね?」
「え、ほんと?」
「うん、見てるこっちが幸せになってくるよ!」
「えー、うそ、やめてよ恥ずかしいから」
タルトに話しかけられて少し動揺するが、タルトの幸せそうな顔を見ながらリカは思う。
男ってやっぱり馬鹿、どいつもこいつも女性の表面しか見ていない。
だから、いつも女が合わせる羽目になる。
ふとリカは頭の中でセナの事を思い浮かべながら思う。
セナちゃん……彼女なら健太郎をどうにかしてくれそうな気がするな。
同じ女として、直感でリカにはわかった、セナちゃんもきっと私と同じ……
リカは腹黒い自分にうんざりしながらも染み付いてしまった性格なのだからしょうがないと割り切り、ラーメンを啜り続ける。
ここまで登って来れるなら真剣に相手してあげる、けど、私が待ち続ける保証は何処にもありませんから。
好きな男でもリカは容赦しない。
いつでも相手を選ぶ立場にいられるのは自身の魅力を自覚した美人の特権なのである。
腹黒のリカはタルト、健太郎を含め、目につく全ての男を天秤にかけながら日々を過ごしているだけなのだ。




