休日にて
休日になり、健太郎は家でゴロゴロしている、そこは妹の優子がドアを開けて入ってくる。
今日は日曜日、朝食を済ませて特にこれといった趣味のない俺は朝からベッドでゴロゴロしながらネトサしてると、コンコン、ガチャリ、妹の優子が部屋に入ってくる。
「ん?なんだよ?USBか?」
と俺が訪ねるが、
「チッ、ウッザ」
と不機嫌に優子は答える。
優子のやつ今舌打ちまでかましやがった、なんなの一体……
「じゃあなんだよ?」
優子の態度に少しムッとしながら俺も尋ねるが、優子は俺の機嫌には全く気にする様子もなく、
「今日もう少ししたらリカくるからさ、お兄ちゃん部屋から出てこないでね。トイレも駄目だから」
そう答える。
えっリカちゃんくるの?やたっ!!
そう一瞬喜びかける俺であるがしかし、部屋から出るなだと?トイレすら……
優子のやつ以前はこんなこと言わなかったのに……
こいつとはセナとのあの契約の一件以来、深い渓谷のような距離間が出来てしまっている、崖上の妹は谷底で蠢く俺に侮蔑を抱き、俺は引目を感じてしまっているせいで抗う事が出来ず、
上から振ってくる理不尽なゴミや石を見て見ぬふりして生活しているような状態になってしまっているのだ。
はぁ〜、会社でも家でも、俺の生き方ってこんなのしかないのかね、やになるぜ……
実際にはリビングに妹が来れば先住者の俺は息を殺してただ時が過ぎるのを待ち、廊下で邪魔と言われれば黙って道を譲るような状態だ。
家での俺の安息の地はもはやトイレとこの6畳の自室だけ……そのトイレすらも奪われるのか。。
あぁ、神よ。俺の兄としての最低限の威厳はもはや完全に失われてしまいました、あのクソフィギュアのせいで……
「なんだよ、何しにくんの?」
「別になんだっていいじゃん。とにかくリカがいる間部屋から出ないでね?」
「お、おお」
優子の激しい剣幕にけおされて俺はつい頷いてしまった。いいのか、これで……?
まあ、部屋でフィギュアと口づけしてるような兄を親友に近づけたくないって気持ちもわからんでもない。それでなくてももともと人に自慢できるような兄でもないからな。
用件を済ました優子がきつくドアを閉めながら部屋を出て行った後、しみじみそんな事を考えていると、
「冷たくされちゃいましたね。」
セナが話しかけてきた。
「主にお前のせいなんだけどな。」
「むぅ〜、少し罪悪感じてます。お二人の仲を悪くする形になってすみませんでした……」
セナは少し項垂れながら謝る。どうやらセナの奴もあの一件ではちゃんと負い目を感じているみたいだな。よしよし、いい傾向だ。
「ほほう、殊勝な心がけだな。お前でもあったのか罪悪感」
「あ、当たり前じゃないですか!」
「どうだかな〜、なんたって人に無理やりキスを強要するような卑劣感だからな、いや、卑劣女かな」
「……」
「ま、これからはその正直な気持ちに素直になれるよう心がけるんだな。ははは、は……!?」
いかん、つい調子にのっていると、セナの顔が曇っているのに気づく。ヤバ、言いすぎた!
こいつ、結構短期。で、キレると性格変わっちまうんだ。普段から何気に無配慮なやつだけど、一度イラつかせるとこちらの精神を屈服させるまであの手この手で嫌がらせのような攻撃を仕掛けてくる。
危険だ、非常に危険だ。このままでは朝から俺の精神が曇天になってしまう。って事で
「まて、それよりいいのかよ、このままリカちゃんが来たら今日一日俺と部屋の中で待機ってことになりかねないけどお前は退屈じゃないのか?」
俺はセナの気分を晒すべく話題転換を試みる。
あくまでセナの事を気遣っていますよという意思が伝わるような形で。
「確かに……休日なのに勿体ないですね、せっかくなんでお出掛けしたいかも」
セナは俺の言葉を迷わず肯定している。
傷つくなぁ……そんなことないですとかちょっとはフォローしろよな?そう思う俺であるがここで熱くなってはいけない、クレバーだ健太郎よ、必殺の機嫌逸らしは冷静でなければ成功しないのだ。
「よし詳しくは外で聞く!!だからまずは外に出る準備をさせてくれ、セナも行きたいところあるって言ってただろ、な?」
「そうですね。なるべく早く済ませてくださいね、あ、あとサイフなどの忘れ物に注意してくださいね」
こうして多少イラッとはしたもののセナの気分を逸らす事に成功した俺は急いで出かける身支度をする。顔を洗って着替え、普段は使わないトートバッグにセナを入れて玄関を出たところで
「あ、おはようございますお兄さん」
「あ、リカちゃん……」
不慮の事故ではあるが、出会ってしまった……突然俺が飛び出してきたもんだかろ彼女は少し驚いているが、その姿もカワイイ……
肩まで伸ばした艶やかな黒髪、キラキラと輝く切れ長の大きな瞳、純白のワンピースからスラッと健康的に伸びた白い手足。小さく形の良い頭の上には小さな麦わら帽子を載せている目の前の女の子は井上リカ。
優子の幼馴染で、二人が幼稚園の頃からの知り合いだ。
昔はお兄ちゃんお兄ちゃんってうちにくれば俺の背中追っかけてきてほんとにもう一人の妹のような存在だった。
そんな彼女も16歳。
以前から可愛いかったのだが、少女のあどけなさに大人のスタイリッシュな魅力が加わり、モーツァルトのシンフォニーのごとくカワイイと綺麗が調律されたハーモニーを醸し出してしまっている。
か、カワイイのだが……心の準備が出来ていない今、目を合わせたら、この高なる感情を隠しきれない……苦しい……
「あの、どうかしたんですか?」
リカちゃんに不安そうに訪ねられ、俺の心境はいよいよ窮地に陥る。
恋に不器用な小学生のようにこれ以上目を伏せていても、精神も成長しているであろう彼女には容易に心境を看破されてしまう……!!
ここは前に出なくては!
「いや、ちょっと太陽が眩しくてさ、ハハっ」
「ああ、ほんとに、私もここにくるまでに少し汗かいちゃいました」
そう言ってリカちゃんは白いワンピースの胸元を掴んでパカパカ前後に引いたら戻したりするのだが、いかん、いかんですよその仕草は……
俺は彼女の男心の醜さを知らない無邪気な行為のせいで再び押し黙ってしまう。
「どうかしましたか?」
「あ、いや……」
二重瞼の整った瞳に見つめられ、俺はなんとかそう答えることしか出来ない。
リカちゃんは南国の砂浜のように清涼感のある白肌にサラサラの黒髪をなびかせながら不思議そうに顔を傾けている。うう、見つめないで……
いつからだろう、男なら誰でも魅了されるであろうこの美少女に、二回り近く歳の離れた妹の親友である彼女に、俺は、恋心を抱いてしまっている!
ああ主よ、こんなむごい話があるでしょうか!?
こんな、こんな、絶対に抱いてはいけない感情を私に抱かせるなんて……
「これからお出かけですか?」
「あ、ああ。ちょっとね」
「そっか、残念です……久しぶりにお兄さんにも会えると思って楽しみにしてたんですけど」
「え、そうなの?」
「もう、当たり前じゃないですか!」
リカちゃんはそう言うと脱いだ麦わら帽子のつばを胸元でいじりながら残念そうに押し黙ってしまう。
ほんまええ子やで……
この井上リカは外見だけでなく。性格までめちゃええ子。何ぞ社交辞令がここまで様になる子がおる乎?いやおらん。
少なくとも俺の知り合いには。
様になる社交辞令ってのは嘘に思えない。だからこちらも幸せな気持ちになるものだ
「ほんと、リカちゃんくること知ってたらプリンでも焼いて待ってたんだけどね」
「プリンですか?お兄さんが焼いてくれたプリン絶対また食べたいです!次はお兄さんにも知らせてくれるように優子に伝えるようにしますね」
「あ、あぁ、そうだね……」
いやぁ、伝わってるんですけどねしっかりと。
ちなみに彼女とは以前、俺がテレビ紹介見て何となく作りたくなって焼いたプリンを第三者の評価を得ようとその時うちに来てた彼女に食べてもらったら思いの外喜んでくれたという過去がある。
「けどまあ、あまり無理はしなくていいから」
「無理なんてありませんよ、ふふ。ところで今日は遅くまで帰って来ないんですか?」
「そ、そうだな……東京まで行くから帰るの遅くなるかな、色々回るだろうし」
「そうですか……」
そう言ってリカちゃんは再び黙って俯いてしまう。
あれ、なんかほんとに残念がってくれてるような……?ま、きっと気のせいだろう。男というのはそういう曖昧な反応を簡単に都合のいいように解釈する生き物だからな。き、気のせい気のせい
「そ、ま、邪魔ものはいないし気楽に楽しんでってよ」
「邪魔者なんて……お兄さんがいた方が私、楽しいですから」
……あぁ、つくづくいい子だよ。こんなに優しくしてくれるのこの子だけだよ。神よ、俺はまだ女性を信じてもいいのだろうか。。
『いいのですよ、信じるものは救われるのですから!』
!?まさか神様なのですか?どこにおられるのですか?
「あの。お兄さん??」
あ、ヤバ、マジもんの幻聴が聞こえてた。
「あ、いや、ありがとね、じゃあ謹慎が開けたらまた話でも付き合ってよ」
「えっ、謹慎ですか??」
「あ、なんでもないから、こっちの話」
とリカちゃんとのたわいなくも心地のよい会話が続いていると、
ガチャリ!!
優子が玄関口から出てきて、
「ちょっと、そんなとこで健太郎さんと話してないで早く家入りなよ、外暑いでしょ?」
と俺の方を向く時は半ギレの目で言外の意味を含んだ事を言ってくる。
『早く行けよ』だ。
俺への呼称がアニキから健太郎さんに変わっている事に物凄い距離感を感じる。
「ハイハイ、じゃ行ってくるよ」
「はい、ではまた」
家を出た後、俺は海浜幕張駅の方へ向かう。海浜幕張は再開発都市なだけあって立ち並ぶビルは洗練されていて街並みも広くて綺麗。ムラなく舗装された歩道を歩いていると近くの海からはほんのりと涼しい潮風が吹いてきてとても心地いい。普段は最寄りの幕張駅を使って東京まで出るのだが、休みの日はこっちの駅を使う方が気分がいいのだ。
「リカさん、キレイな人ですね」
側にある巨大なイオンモールを見ながら歩いていると、セナがトートバッグから顔だけ覗かせて話しかけてくる。
「そうだな。わかってるとは思うけど、妹はもちろん本人にも絶対に内緒だからな」
「そうですね、今は妹さんとの仲の事もありますし、それには私も一因があるので出来るだけ早く元の仲に戻ってほしいと思ってます。多分、リカさんの方は心配ないと思うんですが……」
「ん?」
「あ、いえ、なんでもないです」
ふーん。それよりも、妹と仲が悪くなったのは一因じゃなくて原因だっての。
しかしここで朝の悶着をぶり返すのも面倒だから大人対応だ、クレバーだぞ健太郎。まだ水面下ではセナの火は治まっていないだろうからな。
「ところでどこに行くよ?行きたいところがあるんだろ?」
「えっと、まずは秋葉原に行きたいです」
続く。




