イオン
メッセ大通り下を流れる浜田川をわたり、片側5車線の巨大交差点にかかる歩道橋をわたる。降りて海側への歩道を歩いて数分、今右に見える巨大な建物が目的の場所だ。
「やっぱでかいなここは……」
「うわぁ〜おっきい……」
歩道から見上げると圧倒されるような感覚に陥るこの巨大建物は立っているというよりそびえていると言った方がしっくりくる。
建物側面にあたるこちら側の外壁に無数に取り付けてあるうねうねした排気ダクトなんかは巨大石油コンビナートを走るパイプラインのように分厚く重厚感がある。
道路沿いにある敷地内への入り口をおれ、まだ遠いエントランスまで続く歩行者専用道路を歩くとすぐに視界内に施設全体の景色を治ることが出来る。
敷地は広大で、右手に連なって並ぶモール群は一つ一つが大きすぎるため、こちらからみて最奥に当たる建物はぼんやりと断絶された風景を眺めているかのような錯覚に陥りそうになる。
まるで砂漠に突然現れたピラミッドを見るようだ。
遥か彼方の景色にぼんやり目をやっているとセナが駐車場側の近くのあるものに指をさす。
「あれ?健太郎さん、バス停があります!」
「あぁ、京成バスだっけ」
「えっ、民間の施設内なのにバス停があるんですか!?」
「バスは公共物ってイメージあるもんな、わかるよ。けど日本にはいくつか施設内にバス停を構えるショッピングモールがあるんだよ、東京のララポートとか、けど数えるくらいしかなかったと思うぞ」
「へぇぇ、凄い……」
バス停をみながらセナは深々と驚いている。
セナが驚くのもわかる。
施設のあまりの規模のデカさにセナのみならずリピーターである俺すら圧倒されてしまっているがそれもそのはず、なんてったってここはイオンモール幕張新都心!
おそらく日本人なら知らない人はいないであろう全国中にその名を轟かす、日本小売業界最大手イオングループの、国内164店舗あるイオンモールの中でもその旗艦店を名打つ店舗なのだ。
イオンモール株式会社が直接運営、管理を行っており、立体駐車場を含む床面積は約40.2万平方メートル、店舗面積は約12.8万平方メートル、イオンとしての大きさは埼玉にあるイオンレイクタウンについで二番目ではあるがテナント数はなんと約350店舗!
じっくり見て回るものなら1日で全ての店舗を周りきるのは不可能な程の数。
俺みたいなコンビニ商品で生活の全てが賄えるような男にはわざわざ足を使う必要もないなと普段は活用する事もないのだが、改めてくるとやっぱり込み上げてくるものがある。
ピラミッドやお城や宮殿など、人は何故か巨大な建造物を前にすると胸をときめかしてしまう習性があるのだが、ショッピング施設とはいえこの大きさになると等しくグッとくるものがある。
よく人がこんなもの作り出したもんだ。
そんな高揚感を抱えながら、色のついた歩道を進み、流線型の丸みをおびた巨大建造物の入り口の自動ドアをくぐっていく。
風除けのための二重扉構造になっているエントランスの二枚目の自動ドアを抜けると視界は外とガラリと代わりはっと息が漏れる。
先が見通せないほど店内は広く、床や外壁はピッカピカに磨かれており、綺麗な内装と賑やかな雰囲気が相まって自分が特別な場所に来たのだという高揚感が胸の内から沸き起こってくる。
店内ではまず左手に佇むサービスカウンターのお姉さん達に意識がとまる。
美しい。。
サービスカウンターに佇む受付のお姉さんは白い帽子と黒のワンピースの制服を細い身体のラインにフィットさせるように着こなしているのだが、これが非常にエレガンスな雰囲気を醸し出す。エレベーターガールやバスガイドさんに対するのと同じ憧れのような感情を抱いてしまう。
特に買い物の目的がない俺はお姉さん達には直の視線が向かないよう横目でサービスカウンターを通り過ぎてから胸元のセナに話しかける。
「なぁセナ?」
「なんですか?」
「美しいな……」
「はい?何がですか?」
セナはポカンとした顔で俺を見上げている。
なんだ、わかってないのか。まあ同性のセナからするとあまり興味が湧かないものなのかもしれないな。
「ほら、サービスカウンターの人達だよ」
「あー、綺麗ですね!」
「だろ?やっぱりその場所の顔っていうの?サービスカウンターとか企業の受付とか、綺麗な人が佇んでいるとそれだけでいい所にきたって感覚になるよな」
「むぅ〜、確かに美しさは人を魅了する力があります」
セナはしぶしぶといった様子で同意。
なんだ?彼女達の美しさに嫉妬してんのかな?
セナの反応に若干違和感を感じるけどまあいいや。
そんな気にするな、外見だけならお前も彼女達にひけをとらないくらい可愛いぞ、外見だけなら。
「だよな、美しいけど手に入れる事は出来ない、だから憧れる。そんな魅力あるよな、ああいう人前に立って働く女性って」
それはいわば男の憧れ。男達の視線を浴びる女性はより強い輝きを放って男達を魅了する。まるで博物館で厳重に飾られている宝石のように。
この知的好奇心をくすぐる話にはセナも賛同してくれるだろう、そう思ったのだが、
「はぁ……やっぱり健太郎さんって馬鹿なんですよね」
しんどって感じのローテンションでセナは答えてくる。うわ、しんど、こういう求めてない反応こっちもしんど。
「は?なんだよ突然」
「いいですか健太郎さん?」
「はい」
「異性の私にそんな事話して私が楽しくなると思いますか?」
「え、ならねぇの……?」
セナははぁっと先ほどよりもデカいため息をつく。
どうやらマジみたいだ、つまらんのか、この話、マジか……
「なるわけないじゃないですか!よくそんなしょうもない話題を真顔で提供出来ますよね」
「え、けど優子とかは普通に話にのってくれたりすると思うけど……」
昔の優子だとうおーお兄ちゃんすごい!とか言ってくれたんだけど、うん、もうだいぶ昔の話になるが。
しかしセナは違うようで、
「もう馬鹿、だから疲れるんです、とにかく行きましょう、ほら、健太郎さん朝から何も食べてないじゃないですか」
「お、おぅ……」
そうセナが指差し、無理やりこの話にストップをかけてきた。そして俺は視界の先にみえるエスカレーターへと無言で向かう。
広々とした店内にひしめく綺麗なテナントに囲まれ、俺のはたを通り過ぎていくカップルや子供達の顔は明るい笑顔に包まれているが俺の心は暗い…
俺は中央吹き抜けをつっきるエスカレーターの手すりに手をかけながらおもう。
わからん……俺が興味ある事でも他の人は興味がない事がある。
こんな当たり前の事は流石の俺でもわかる。
けれど、世界の真実を掘り出そうとする行為に興味を示さない、この心境が俺にはわからない。
俺は先程のようなふとした疑問について考える事には金塊を掘りだすような楽しみを感じるのだが、セナはというとまるで余計な事にエネルギーを注ぎたくないといわんがごとく俺の会話を無理やりに断ち切ってしまう。
そして俺の中にはふつふつと怒りが湧いてくる。
一緒にいる意味あるのかこいつと。
しかし離れれば死ぬ。セナを責めるともっと責められる。セナの前でハクリュー達に話を持ってくとセナはスゲェ不機嫌になる。
気分を変えて別の話題でセナと仲良くする気も起きない。
なので黙るしかなくなるのだ。
ウィンウィンと上へ向かうエスカレーターとは逆に目の前の白壁は下へと流れていく。
あーいやだいやだ、やっぱリカちゃんだけなんだよ俺の話をわかってくれるのは。
だから俺リカちゃんが好きなんだよ。
今わかった、俺がリカちゃんの事好きな理由。
セナのおかげだ。
「おいセナ、聞いてくれ!!」
「はい、なんですか?」
セナも喜んだように目を大きくして俺に顔を向ける。
こいつも気まずかったのかな?
けど今はそんなことより、
「俺わかったよ!なんでリーー」
「あ、ほら健太郎さん!二階に着きましたよ!」
「む、ほんとだ」
俺達は食事をとるべく3Fのフードコートに向かっている。なので2階では降りずに隣の上がりエスカレーターに乗り換える。
「よいしょ、でだセナ!俺わかったんだよ!」
「何食べますか健太郎さん!もうすぐフードコートですよ!!」
むむ、またしてもセナは俺の話を妨害にかかってくる。それも凄い圧力で。
これが気圧されるってやつか……気迫だけならこの間の男より強いかも……
「とりあえず幸楽苑かな……」
一応質問には答えるが、しかし負けてなるものか、俺も今伝えたい事がある!
「それより聞けってセナ、俺わかったんだよ!!」
俺は気力を振り絞りセナの勢いを押し返す!
すると、セナも
「……はい、なんですか……」
っとようやく話を聞いてくれる姿勢をとってくれた。
よし聞いてもらうぞ!!俺がなんでリカちゃんの事好きなのか!!
そう思い、一息吸うために顔をあげて、見えてきた3階フロアにチラリと目をむけた瞬間、、突然俺の身体は稲妻に撃たれたように硬直してしまう。
ーー視界の隅にとんでもない光景を捉えてしまった。
「……どうしたんですか、健太郎さん?」
動かない俺を不審に思ったのかセナが話しかけてくる。
「あ、ああ、いや、なんでも……」
セナに見られるのは恥ずかしいので俺は視界に捉えたものを隠そうとするのだが、動揺でそれもうまくいかず、気になったセナも先程俺が目を向けていた方向に顔を向けてしまい、
「まぁ……」
俺と同じように驚き両手で口を煽う。
「健太郎さん、あれって……」
「リカちゃん……だな、それと足人……」
なんとはるか前方でリカちゃんとタルトが隣り合って店の商品を眺めている。
よりにもよって幸楽苑の前で。
ま、マジかよ……けどあの横顔は間違いない。
なんでここにいるんだよ、
「ど、どうします!?健太郎さん!?」
あせりながら服を引ってくるセナ。
どうするって、どうすりゃいいんだよ……
エスカレーターはもう終わりに近づいている。
まずい、どうしよう……




