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族・月と太陽の交差点に潜む秘密  作者: ジャポニカダージリン
第1章
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始まりの声

考えたことあるだろ?人の心の声が直接聞けたらどんなに素晴らしい人生になるんだろうって。

昔聞いた話では、太陽の光ってもともとは金色なんだってさ。けど都合がいいからってその光が白く見えるように人の目は進化したらしい。

そんな都合のいい進化出来るならどうして人は他人の心が見えるように進化しなかったんだろう。言葉なんて曖昧なもん使うんじゃなくてさ。


「健太郎さんって絶対優しいですよね?」

言葉なんて嘘ばかりだ。

「健太郎さんの事好きな子絶対沢山いると思います!!」

その言葉を信じて裏切られて、また人を信じられなくなっていくんだ。

「え?!いいと思います。なんか大事にしてくれそう〜」

人ってあんなに残酷に嘘をつけるんだ。全力であの言葉を、あの笑顔を今度こそは信じてみようと思ったのに……


ここは秋葉原駅の改札前、


「だよな、セイヤってほんといい奴だよな!男の俺でもそう思うもん」


「健太郎さんも優しいですよ!!」


「あ、そう?」


「はい!」


「そっか〜。そうだ!また今度三人でこここようぜ」


「やった〜!是非是非!!」


「あ、あのさ……」


「はい?」


「ふ、二人で来る事とかは……?」


「えっっっ」

六月中旬、昼の猛暑にちりついていた大気も落ち着きを払い、少し寒いくらいの風がどこか懐かしさを感じさせる夕暮れ時。

大学時代からの友人と別れた後、たまたま帰る方向が一緒だった彼女に俺は、


「一目見たときから好きでした、付き合ってください!!」

意を決し、告白した。


「……」


「ほ、ほら彼氏募集中って言ってたし」


「……」


「それにほら、俺の事良さそうって言ってくれてたし!」


「あ、あれは、友人として……」


「お願いします!!」


「……ごめんなさい」


「……」


「あの、予定があるのでここで。今日は色々ありがとうございました」


「あぁ、うん……」

そう言って彼女ははんば強引に会話を終わらせると、一人で改札を通り、ホームの方へと小走りでかけていった。

一度も振り返らずに。

俺と帰る電車一緒ってさっき話したばっかだったんだけどな……


俺は今日、人生11回目の告白で11人目の女性にふられた。

ハハ、みんな俺の中ではトキメキ度日本代表のナデシコジャパンだったんだけどな……笑えないよな、キスどころか女の人と付き合った事すらない30超えたおっさんのフラれ話なんて。。

それでも聞いてくれ。

俺は彼女達が屈託なく笑っている顔を見て毎度思ってしまうんだ、

『もしかして今回はいけんじゃね?』って。

そしてボールを置いていざキックオフ。足元のボールでドリブルしながら正面にいる女性達に勝負を仕掛けてみると……皆身体も触れてもいないのにピッチに寝転がって大げさに怪我のフリ。

それを見たレフェリーは両手を上げる俺に笛を鳴らしてレッドカードを突きつける。

それで俺の試合はお終いだ。


今回は俺とは対照的に昔から女受けがいい大学時代の友人セイヤが、フラれすぎて戦意を損失し、自軍ゴール前に座り込んでいた俺を見兼ね「今回こそ決めろよっ」と与えてくれたイージーパスからのスタートだった。

セイヤの紹介でセイヤ・セイヤの女友達・俺の3人で昼前頃に秋葉原に集まり、試合は始まった。

……俺は全力で走った。雰囲気が崩れかけた時にくるセイヤのサポートを全身で浴びながら。

『この子を抜いてやる!!抜いて今度こそゴールを決めてやる!』っと。

けれどセイヤがいなくなった途端に今回もボールを取り上げられ、それ以上のプレイは続行不可能になってしまった。


『さっきはごめん!!突然驚かすような事して。彼氏は無理でも友達としてまた皆で遊んだり出来たらいいなと思うんだけど!』


「まだ既読つかないか……」

千葉方面行き総武線電車の中、スマホの画面を見ながら俺は一人ごちる。

セイヤに送った『ごめん、告白してふられた……』の結果報告LINEには秒で『ドンマイ。笑』と返ってきたのに、推敲に推敲を重ねた彼女への謝罪LINEには一時間経っても既読はつかない。

これ避けられてるよなぁ、二発目送るか??いや、予定あるって言ってたし、携帯見れてないだけかもしれんからもうちょい待った方がいいか……。

幕張へ向かう車内で何回確認したのかわからないLINEアプリを閉じ、スマホをポケットに入れると、頭の中ではふられてからずっと続いている今日の失敗の原因探しが再開される。

どこがいけなかった?!あれか?あの時か?いや、もしかしてあんな事言ったから?そもそも最初から興味なかった?なら何故わざわざ俺に彼氏募集中なんて……わからん。

これはネットで誰かに聞くしかないなと再びスマホを取り出し、Yahoo!を開く。

そしてそこで目に止まったニュースの見出しには、

『メッシまたしてもハットトリック!!脅威の11人ごぼう抜き!!!!』


いいよな……俺にもメッシみたいな運動神経があればこんな惨めな想いせずにもっとうはうはの人生を送れたんだろうな。

ゴールを決めて天を仰ぎ見るスター選手のニュース記事を観ながら俺はうつむき、底へ底へと落ちていってると、


「落ち込んでいてもしょうがないですよ!」

え、誰かなんか言った?

一瞬、俺の心を読まれたかのような驚きでビクッと辺りを見回してみても誰かが話している様子はない……気のせい?


確かに何か聞こえた気がするんだけど……高くて可愛らしい声で……

ま、いいや。

俺は気を取り直し、いつも通りマイアカウントでyahoo知恵袋を開く。

タイトルは、ポチポチ、

『女性の心理がわかりません……』と、

え〜っと、それから本文は、

『女性の……』


「駄目ですよ!そういうのは誰かに言葉で教えてもらうものじゃないと思います」


ッ……!?やっぱりいる!!俺の行動をみてツッコミ入れてきてる奴が。しかも女の子!!

キョロキョロ、

俺は左右に首を振ってあたりを見回し、

(この子か……?!)

斜め前に座っている中学生くらいの女の子にあたりをつけるが……キョトン。

目があった女の子は首を傾げてハイッ?て顔をし、その隣の厳格そうな父親らしき男からは訝しげな目で睨みつけられ、俺はサッと顔を逸らすーー


(き、気のせいか……?)

そう思い再びスマホに目を向けると


「ここです、ここ!」


俺は再度声の聞こえてくる方向に目を向けると、そこには今日秋葉でたまたまみんなの前で「俺とってみせるわ!」とネタで挑んだクレーンゲームでこれまたたまたま落としてしまった美少女フィギュアが座っている。

……まさかな、そんなわけあるか!それにしても何だったんだろ?幻聴かな?俺の頭はついにリアルに見切りをつけちゃったのかな?


「ふぅ、この歳で幻聴か、いかんな」俺がそう一人ごちると、


「幻聴じゃありません。気づいたんです、『声』に!!」


バッッ。

俺はそのフィギュアを持ち上げ、まじまじと小さな顔を覗き込む。するとフィギュアはーーパチリッ!

ウィンクしたっ!!?


「うげ!!」


「あっ、ちょっと!!」

俺は驚いて反射的にそのフィギュアを投げ捨ててしまい、クナイのように一直線に飛んでいったフィギュアはーーバチンッ!!


「ああんッ……!」


正面の吊革にもたれていた妙齢のOLさんのお尻に突き刺さるように当たってしまった……

そして驚いたOLさんが妙に艶っぽい悲鳴を上げちゃうもんだから、周囲の乗客は一斉に俺の方へ顔を向ける。

先程の父親らしき男からは『やはりかっ!!』というような何か確信めいた怒りの視線を向けられている。

やばいやばいやばい!

俺は焦りながらフィギュアを拾って、「す、すみません、手のひらに虫が止まったもので、ビックリして、あ、よく見たら埃でしたハハ、ハハ……」と咄嗟の嘘をつき、そっこう次のホームで降りた。

そうして次の電車を待っていると、

「ちょっと酷いじゃない!!急に投げるなんて!」

またフィギュアが話しかけてくるのでいても立ってもいられなくなった俺はもうなりふり構わずキヨスクから出てきた土方風のおじさんに


「すみません!聞こえますか!?この人形が喋ってるの?」


と喋りかけると、初めは驚いてたおじさんはフィギュアを持つ俺をジロジロと二度見した後、ヘッと笑うような声をもらし、


「アンちゃん、駄目だぜ?アニメばっか見てたら、たまには体動かさねーと」


とドスの効いた声で見当違いなアドバイスを与えてくる。


「あ、すみませんでした……」

駄目だ、やっぱ幻聴だ、怖い怖い。どうしようこれ……

明日になっても幻聴が続いてたら病院行かなきゃ。。

確かヘビに噛まれた時ってヘビも持ってかないと駄目なんだよな、こいつも捨てるわけにはいかないぞ。

俺はこの気味の悪いフィギュアを見ているのが嫌なのであたりを見回しーーあれだ!!ホームに落ちてたキヨスクのビニール袋を拾ってその中にフィギュアを放り込み、しっかりと固結びする。中からぎゃあぎゃあ聞こえてくるけど気にしない、気にしたら負けだ。

ふと気づくと、反対側のホームから俺を見ていた土方風のおじさんは、ウィンクしながらサムズアップしてくる。

違うっつーの!!


とにかく気を紛らわせるために俺はさっきから震えっぱなしの手でポッケからイヤフォンを取り出し耳に差し込む。そして、震えのせいで何度もパスワード入力をミスった後なんとかスマホのミュージックアプリを開き、スイースイー、『脳を整える、モーツァルト、癒しミュージック集』これだなっっ。

そうして俺はイヤホンの音量をMAXに上げ、フィギュアの入ったキヨスクの袋を鞄に詰め込み帰路についた。


家に着き、親にも言えない悩みを抱えてしまった俺は、顔を合わせたくないのでそ〜っと自分の部屋に向かう。

そして、部屋のちゃぶ台の上にキヨスク袋を置き、しばらく目を瞑って、『きっともう大丈夫、もう大丈夫!』と自分に言い聞かせて心を落ち着かせてから、自分の脳の改善を確かめるべくキヨスクの袋を破って恐る恐る中を覗いてみると、


「あ、やっと話を聞いてくれる気になったんですね!」


やっぱり喋ってる……しかも今度は俺の方に顔を動かしながら。モーツァルトでも駄目だったか。

多分、このフィギュアはこのまま袋に閉じて部屋に置いてある学習机の引き出しの奥にしまわないと駄目だ、でないと幻聴は悪化する。

血の気の引くような恐怖を感じながら、俺は再び袋を閉じようとするがーー

俺の動作を見上げるフィギュアと目があい、恐怖で咄嗟に目を背ける。

そして目をそらしたまま手探りで袋を縛ろうとするが……

なんだか今のフィギュア、怯えたような目をしていたような……

破れた袋の端と端をつま見かけていた手はふと浮かんだ思考と同時にピタリと動きをとめる。

しかしただの思い過ごしだとかぶりを降った後、再び指先を動かそうとしたとするのだが再び別の思考が頭に浮かぶ。

……わからない。何故だかわからないけどこのまま指を動かしてはいけない気がする。

……もう一度確かめたい。


俺は激しい恐怖を伴ないながらも、罪悪感からなのかそれとも好奇心なのかわからない感情に従うように袋の両端を広げて再び中を覗き込んでみる……


「あ、あの〜、やっぱり、君が喋ってるの?」


「……!?えっ、なんで……!?じゃなくて!!ハイ!!私です!私の声が聞こえますか!?」

フィギュアは俺の目を見ながら言う。切望に満ちた瞳で。

その目を見て非常に奇妙な事ではあるが、俺にはそれがどうしても幻覚の類には思えなくなってきた。ヤバい。

な、なるほど……ここまで来たら受け入れなければならないのかもしれない、このイマジナリーな世界を。

それにだ、本当に万が一だが精神とは別のオカルト的な謎の超常現象が俺の身にふりかかっている可能性も微レ存だ。どちらも怖いがこれは現実世界的な恐怖なのでまだ耐えられる。

俺はそう思い直し、今にも卒倒しそうな恐怖心を堪えながらフィギュアとの会話をほんの少しだけ続けることにする。


「で、でもやっぱ幻聴なんですよね?それとももしかして幽霊……」


「ち、違います!幻聴でも幽霊でもありません!あなたは今ちゃんと私と言葉を交えてるんです……信じてもらえませんか……?」

目の前のフィギュアは首をブンブンと振りながら幻聴とは思えないくらいハッキリとした声で答える。

これは幻聴ではなくやはりオカルト…?!クッ現実との見境がわからなくなってくるぞ……

理性を失わないように気をしっかり持たねば。


「信じろって言われても、そういう病とかって自分じゃわからないらしいじゃん。昔ポストにずっと喋りかけてる人とか見たことあるけど、俺もああいう感じなんだろ??」

そう考えるとやはり怖い……

今まさにフィギュアにまじまじと話しかけてる自分を客観視すると、いよいよ俺の目の前が真っ暗になってくる。

フィギュアは何度も違うと言ってくるが、到底信じる事はできない。信じきったら終わる。いろんなものが。

だめだ、頭がクラクラして来た、これ以上はフィギュアの話に付き合わない方が身のためだ……

そう考えた俺は咄嗟にスマホに手を伸ばし、電話アプリを開く。


「すまん、きゅ、救急車を呼ぶからな!?番号は、何番だっけ……?なぁ、ちょっとあんた、救急車の番号って……って馬鹿か俺は!?」


幻覚に話しかけるなんて何をやってるんだ俺は……

自分の愚かさに気づいた俺は、質問に答えようとしているフィギュアよりも早く電話アプリのキーパッドの1・1・0のキーを押し、発進ボタンを押そうとした瞬間、


バンバンバン!!

何と目の前のフィギュアが机の天板を両手で叩き出した!!

「あー、もう!めんどくさい!!じゃあ、今から私が実在してるって証明するから!……健太郎?アナタ妹がいるわよね?」

妹?確かにいるがそれがなんだって言うんだ……?

しかしフィギュアが机をバシバシたたいたおかげで俺は少し冷静さを取り戻し、自分が危うく警察を呼びかけていた事に気づいたので、指先の1mm下にある発信ボタンから指をさっと引き戻す。危な……


「ま、まあいるけど、それが?」


「……じゃあ今日あなたが秋葉原で遊んでる間、その妹さんがあなたの部屋に入って押し入れの中にある数学の青チャートを持って行ったみたいだから確認してみなさい!」


フィギュアは俺に押し入れの中を覗いてみろと押入れのある後ろ側へと親指を立てた右手をクイクイと動かす。

……マジで……?いやいやいや、考え直せ。

こんな事言ってるけど、これはきっと俺の潜在意識が生み出した今最も恐れてる事とかだろうね。

何故ならあの参考書の奥のページには俺が昔から密かに想いを寄せるあの子の写真が隠されているから……

だから押し入れにはボロボロになった青チャートが置いてあるはず……そうだ、確かめればいいんだ。

俺はよっこいしょと立ち上がり、

得体の知れないものに命令される恐怖を感じつつも、大丈夫、幻聴は物理的には影響は及ぼさない。

と一縷の希望を自分に言い聞かせながら押し入れの引き戸を開き、そーっと青チャートの置かれてる箇所を覗き込むと……アレ?

ほんとだ、入ってない……

先週開けた時はあったはずなのに……


「言ったとおりでしょ?」

フィギュアは得意げな笑みを浮かべながら俺に話しかけてくる。


「いや。まてまて、俺がどこか別の場所に片付けただけかも知れん。こんな事でハイそうですかと認めてたら世の詐欺師達のカモになる」とフィギュアに反論しながら別の場所にないかと押入れの中の書物や使わない雑貨品などの中をゴソゴソと探っていると……


ガチャリ!!


「うわ!!いたの!?」


妹の優子が突然部屋のドアを開けてきた。

俺がいないと思っていたらしい優子は、まるで幽霊に出会ったかのように押し入れ前から首だけを振り向かせてる俺を見て驚いている。

驚きたいのはこっちなんですけど。。


「なんだよ、その驚きかた?俺が自分の部屋にいちゃ悪いかよ?というか……お前、手に持ってるそれって……」

見ると左手でドアノブを握ったままの優子のだらりとのびた右腕の先の手には今まさに探している青チャートが掴まれている。

え、うそ……って言うか写真は!?


「ん?あぁ、今日数学の宿題してたから」

青チャを見る俺の視線に気付いた優子は平然と答えるが、それよりも写真、写真はどうなんだ!?


「そ、それだけか?お前の言う事はそれだけなのか……??」

俺が写真の事は伏せつつ、案に心配事の探りを入れると、


「ハァ?ってか帰ったなら帰ったって言ってよね?これ返しとくから!!」


ドン!!ガチャンッッ!!


優子は俺の手に直接渡さず自分の足下に青チャートを落とすと、勢いよく扉を閉めて部屋から出ていった。

何故か怒りながら。

俺なんか悪い事したか……?

それよりも写真写真!!


俺は急いで床下の青チャートを拾い上げ、例の写真があるページをめくって見ると、あ、ある、写真、ちゃんと。動かされた形跡もない!!基本俺に感情を押さえ込むを事をしない優子の言動からも多分写真は見られてない。

俺が青チャの紙面の奥の隙間に差し込んで動きを止めてある写真を見ながらほっと胸を撫で下ろしていると、


「ね?言ったとおりでしょ?」


フィギュアがなんか話しかけてくるが、無視無視。

それよりも優子のあの反応である。

歳の離れた妹は高校二年生の絶賛思春期真っ盛り。

冴えない兄を普段から人間以下のように扱い、俺の尊厳をことごとく打ち砕くかのように振る舞ってくる。部屋に勝手に入っても謝りもしない。そもそも俺に対して罪悪感という概念が存在しない。

家庭から社会への巣立ちを目指す青少年なら普通の反応なのだろうと頭では理解出来てもやはり傷つく……

一応必要最低限の会話はしてくれるから本気で嫌われているわけではないと思うのだが……


俺は押し入れの奥から古ぼけたアルバムを取り出し、左手に抱えながら一枚一枚ゆっくりとページをめくり、昔の可愛かった頃の優子の写真をしんみり眺めていると……


「もしもーし?聞こえてますかー?ちょっとー!!」

後ろの方から俺の美しいノスタルジーを遮断するフィギュアの声が聞こえてくるよ。


「うっせーな!お前のせいで今こっちは大変なことになりかけたんだぞ?ちょっと静かにしてくれよ!!」


「気持ちはお察ししますけど、妹さんが参考書を持っていった事と私は何も関係がありませんから!!」


イラッ。

俺の情緒を雑に扱う発言にはムカつくが、今のは確かに八つ当たり。

フィギュアが真っ当なことを言っている。俺はやり場のない怒りを堪えながら先程から話しかけてきてるフィギュアをジト目で見ると、

「あ、ひどい、今フィギュアが真っ当な事言ってるって思いましたね?」


「あれ、口に出てた?」


「いえ、顔がそう言ってましたよ。フフ」


そう言いながら可愛らしく笑うこのフィギュアをみるとなんでか少し心が落ち着いてきたので、


「それはそうとなんでさっき妹が俺の参考書を持ち出してたこと知ってたんだ?」とドアの前に落ちてる青チャを見て先程生じた疑問を聞いてみる。


「聞きましたから」


「聞きましたって誰に?」


「そちらのタンスの上に置いてあるモンスターのお人形さんから。え?ヤドランさん、というお名前なんですね。先程はありがとうございました、私は……」


「まてまてまて、勝手に話を進めるな!!」

驚きに驚きをかぶせられもうついていけないかも……

何?それ喋るの?

そう思いながら俺がタンスの上に飾ってあるポケットモンスターのキャラクターであるヤドランのぬいぐるみをみると


「何かようかダオ?」


「うおっ!!」


ドサッ!!


俺は身体をこちらに向けながら話しかけてくるぬいぐるみを見、驚きのあまり情けない悲鳴をあげながら床に尻餅をついてしまった。

ほんとに喋ったよ……


「これで信じてもらえました?」


「あ、あぁ……さっきよりは……けど今までこのヤドランが俺に話しかけてきた事一度もないんだけどなんで急に話せてるんだ?」


「フフっ。それは後で説明しますね」

そう言いながらフィギュアはパチリとウィンクをする。

うっ、ちょっとカワイイ……


「じゃあ俺の名前もそこのヤドランの人形から聞いたのか?」


「健太郎さんのお名前は今日一緒に遊ばれてた女の人がそう呼んでいるのを聴きましたので」


「あ〜なるほど……ってじゃあ今日一日の俺の行動も全部……」


「はい、私を拾ってくださった後の事は全て……」


ヒェ〜恥ずかしい!!俺が今日出会った子に告白した事や振られた事も全部見られてたのか……!?

まだフィギュアの言うことを完全には信じきれていない俺だが、湧いてくる恥ずかしさに居ても立っても居られなくなり、幻聴もどきのフィギュアに半ギレで質問する


「そ、そもそもなんなんだよお前は?」


「はい。では今からそれを説明させていただきますね!」

そう言ってコクリと上品に頷いた美少女フィギュアは丁寧な口調で話し始める。

これから起こる、俺の人生に大きく関わる面倒な事を。


考えた事ないだろ?フィギュアの声が聞こえたらどんなにめんどくさい人生になるかなんて。



続く。


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