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独りぼっちの紅い風 ~スモールアドベンチャー第四章~  作者: 山羊太郎
第二章 デスウィッシュ~24区決戦編~
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第九十三話

シドナムの終わり。

「俺はな、ボス。あんたを信じてたんだよ」


 怒る様子もなく、ハヴァはただ語る。


「前のところで失敗作扱いされてよ、生きる価値なんてないと思ってたところにあんたが救ってくれた。だから俺は今まで頑張ってきたんだ」


 なんとかこの場から逃げ出そうと、シドナムはハヴァの服を掴んで抵抗する。だが肺が片方潰れた状態で、ただの人間に何ができるのだろうか。


「でもやっぱり俺は失敗作でいいや。何もかも投げ出して、自分の欲望に忠実で、強い奴と戦うだけの戦闘マシーンでいいんだ」


 人造人間はすべからく自己中心的である。そんなことを聞いたのはいつだろう。ただの人間なんかに人造人間を7体も扱えるものか、そう罵られたのはいつのことだろう。


「くそロシア人め……、全員、不良品じゃないか」


 お前には無理だ、あきらめろと言われれば、彼は逆に燃えて挑戦したくなるタイプだった。だから見栄を張って新型人造人間の管理をして見せると言い切った。だが現実はそうはならなかった。最後は全員がシドナムの命令を無視し、戦闘している。残されたハヴァも戦いへの欲求を我慢できなくなり、このあとどうなるかはおそらく本人にもよくわかっていないだろう。


 シドナムは自分の指先が冷たくなっていくのを感じた。血が流れて止まらない。


「地獄へ落ちろ、人造人間め」

「先に待ってろ、クソ人間が」


 青白い光の刃が消え、支えを失ったシドナムの体は糸の切れたマリオネットのように力なく床に崩れ落ちる。彼はそれきり動くことはなかった。永遠に。


「この五年間、テメェといてもあんまり楽しくなかったよ。そこで腐りな」


 両手に付いた大量の血を払い落そうとするも、人間の血は簡単に落ちない。粉になって消えるのは人造人間だけだったのを思い出してハヴァは舌打ちをした。


「ネネ。イカレた暴力女。あんたは俺が殺す。ああ、楽しみすぎて俺もおかしくなりそうだぜ」


 雨風が吹き込む割れた窓ガラスを見てハヴァは一人呟く。このガラスを変えるのにどれだけ苦労したなんて今となってはどうでもいいことだ。


 ハヴァの戦闘欲は爆発寸前だった。





 東京24区埠頭。荒れる海のそばにてナナと海起は戦っていた。


「やめて! 戦いたくない!」

「だったら私を殺しなよ!」


 ナナを本気で殺そうと、先ほどから海起は海水を操って、それを高く練り上げていた。十数メートルにもなる巨大な水柱を何本を作り出し、ナナを押しつぶそうと港へ叩きつける。

 だが当たらない。ナナは必死になって地面を転がりまわり、のらりくらりとかわす。これだけ巨大な水分を一度に操作するのだ、海起の集中力とナナへの憎しみは半端ではない。だがあまりに規模を大きくしすぎたせいで精度がかなり悪い。ナナの知る海起はもっと繊細に水分を操っていた。


「どうせできないくせに!」


 ヒステリックに叫んで、彼女は水柱を一つにまとめた。直径20メートルは超えるであろうそれはまるで一つのビルようであった。この島における第三の建築物そのものだ。


「うあ……」


 見上げるほどに高いそれを前にして、ナナは呼吸を忘れた。もしこれが港に叩きつけられたとしたら一体になにが起きるのだろうか。港そのものがまず破壊されるだろう。ナナの体はどうなるのか考えるまでもない。


「死ィねえッ!」


 海起にためらいはなかった。両手を振り下ろし、水柱を傾ける。


 ゆっくりと、ナナへ向かって殺人的な水流が倒れ掛かってくる。否、それは遅く見えるだけで実際のところは高速で迫ってきていた。体積が大きくなればなるほど動きが遅く見えるが、それの速度は加速し続け破壊力を増していく。


 死ぬ。そんな言葉がナナの頭をよぎり、震える体を無理やり動かした。


 彼女はBTUのワッペンを拾ったコンテナの中へ逃げ込み、扉を閉めた。体を固定させる時間はなかった。すぐにコンテナはひっくり返り、ナナの体は飲み終えたサイダーの瓶のビー玉を振ったようにあちこちにぶつかる。コンテナの中に何もなかったのが幸いであった。硬いものが入っていたならばミキサーの如く体を少しずつ刻んでいただろう。


 だがそれでも全身を打撲し、体じゅうの骨は悲鳴を上げ、中には折れて皮膚を破って飛び出し、コンテナは終わりを感じさせず激しくシェイクし続けている。


 地獄のような時間はそう長く続かなかったものの、ナナには十分すぎるほどの苦痛を味わうこととなった。


「こんなもんで死ぬわけがないでしょう。出てきなさい」


 水柱が消えたころ、ずぶ濡れだが無傷でいる海起がコンテナへ声をかける。辺り一面は水圧ですべてが押し流され、コンクリート造りの脆い地面はほとんどが崩れてひび割れている。


「……ちょっと待って」


 恐怖を乗り越えたわけでもないが、冷静な様子でコンテナの中からナナが言う。姿は見えなくとも、中で彼女の全身がぐちゃぐちゃになっているのは海起にはすぐに分かった。すぐに自己再生の残酷音がしてナナのうめき声が聞こえた。


「痛かった。すごく、痛い」


 コンテナの扉が内側から開かれて中からナナが出てきた。服はボロボロでも体は健康体に見える。


ナナvs海起

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