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独りぼっちの紅い風 ~スモールアドベンチャー第四章~  作者: 山羊太郎
第二章 デスウィッシュ~24区決戦編~
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第九十一話

決着。ハナVS鏙。

「よっぽど動きたくないみたいだな」

「それはどうかしら」


 機械音声がハナの口元から発せられる。彼女の能力はこれで終わりではない。本質はこれからだった。

 ハナは機械を取り込み、自分のものとすることができる。拳銃から砲台まで、機械的なものなら自分の体を変化させて自在に再現ができるのだ。それを一度に再現したとなれば、彼女の体重はいかなるものになるだろうか。


「……は?」


 鏙から余裕の表情が消えた。ハナの体じゅうから人殺しのための機械が生え、彼に向けられているからだ。


「一回だけ死んでくれる?」


 銃弾。無数の銃弾が一斉に火を噴き、鏙を細切れへと変化させようとする。


「甘ぇ!」


 だがそれでも鏙は能力を使って銃弾一つ一つを危うげながらも止め、間一髪無傷を保つ。ハナの体から発射されたものなら不可能はなかった。

 すべての銃弾は鏙の目と鼻の先で止まり、その場で静止する。


「まだ終わりじゃない!」


 これだけの銃弾を止めて、鏙の集中力はハナ本体にすら及んでいた。能力の解除はしておらず、状況は何も変わらない。




 はずだった。




 鏙は己の目を疑う。能力で確実に、堅実に、ハナの体を止めているはずなのに、彼女はあろうことかこちらに向かって歩いてきているのだ。


「なぜだ! なぜ動ける!」

「どうやら、ある程度重ければ、はぁ、あなたの能力が効かなくなるようね、ああ、くそ、重い」


 一歩だけ進んだ彼女の足元は深く陥没し、相当な重量が発生しているのだと確認できる。それは鏙の操れる最大重量を凌駕し、今やハナの体重はトラックよりも重いものとなっている。

 そんな体重から繰り出されるパンチはどれほどのものか、考えただけで鏙は怖くて動けなかった。


「う、うおおおおあああああああ」

「鉄拳食らっとけ!」


 ハナの拳が鏙の顎に命中する。いとも簡単に彼の顎は粉砕、弾け飛び、それでもなお威力は落ちず、鏙の体は大きく後方に吹き飛ぶ。それはまるでトップグレードの車にはねられたかのような威力であった。

 鏙はエントランスの残ったガラスを割り、外に飛び出して太めの樹木を真っ二つに折って、めちゃくちゃに体をよじらせてからタイル造りの歩道の上でぼろ雑巾のように叩きつけられた。もはや彼に意識はなく、しばらくは目を覚まさないだろう。


「ぜぇ、ぜぇ」


 肩で息をするハナは能力を解除して両膝をつく。これほどの能力の酷使は体に悪い。こんなところで休んでいる場合ではないが、それでも少しだけ休まなければ途中で倒れてしまう。


「ネネ、あとはよろしく」


 ばったりと仰向けになってハナは寝た。大の字になって意識を手放す。






『ぎゃあああああ』


 ツインタワー六十四階。尋問室ではハヴァによる白銀海への拷問が続いていた。彼女の息子である拓海は一定の間隔ののち体を破壊され、そのたびにスピーカーを通じて彼の絶叫が海の耳に入ってくる。


「あ……、あ……っ!」


 致死量の自白剤を打たれてもなお、かろうじて考えるだけの意識を保っていた海は、この叫び声に精神を摩耗していく。


「そろそろ自己紹介してくれないかな」


 シドナムが二本目のタバコに火をつける。彼女が自白するまでいつまでも待つつもりだった。


『痛あああっ、があああああ、あああ!』


 息子の悲痛な叫びが彼女の意識をはっきりさせていく。同時に鼓動が早くなり、視界が歪む。


「うあ、あああ、ああああ」

『いぎっ、ぎあぁぁ!』

『おいシドナム、もう爪なくなっちまったぞ。次はどこだ?』


 拓海を痛めつけるハヴァがこちらに語り掛ける。シドナムは静かに『指先』とだけ伝え、再び拓海の恐怖する声が響き渡る。


『やめ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! やめ、あがっ、ううっ!』


 ミシリ、そんな音が海の耳に入る。それは指先の骨が折れた音のように聞こえた。


「なんで答えないんだ? 答えるだけであんたのかわいい息子さんはこれ以上傷つかないんだぞ。心も体も」

「私は、私は約束したんだから。あの人と」

「どんなクソ約束か知らないが、そんな約束なんて破っちまえ。ほら、早く言わないと息子さん、本当に歩けない体にされちまうぞ」

『ううわあああああッ、あがぁッ!』


 海が強く目を瞑る。傷つく拓海を思い、心を決めた。


「ごめんね、約束、守れなさそう」


 シドナムが笑う。確信したのだ。海の心が折れ、こちらにすべてを話すだろうと。

 だがそうはならなかった。


「ごめんね、こいつらみんな殺すから、拓海くんのために」

「……は?」


 海がそう言うと、シドナムはくわえていたタバコを床に落とし、目の前で起きていることを必死に受け入れようとした。


「ふぐっ、うぐぐ」


 先ほどから黙ってい見ていただけの変態研究員の首がゆっくりとねじ曲がっていく。だんだんと角度をつけて、人間の限界間際まで曲がる。それは山羊ならできる芸当だろう。しかしながら彼は人間だ。正真正銘の一般人だ。


「あ、痛い」


 だから痛々しい音を響かせて真後ろを向くことなど、不可能なのだ。


「助けっ……!」


 小気味の良い音が聞こえ、それっきり研究員は何も言わなくなった。もし、もしも彼の首の骨が折れたのならばこのまま窒息して意識を失い、死に至る。これを避ける方法はない。


最近断酒中です。アル中になったら怖いからね。酒飲みたい。

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