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独りぼっちの紅い風 ~スモールアドベンチャー第四章~  作者: 山羊太郎
第二章 デスウィッシュ~24区決戦編~
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第八十四話

血の気多め。

「十発も必要なかったね」


 またしても姿を現すオルビド。ネネが殺される光景を見ていたハナはどうしても信じられなかった。まばたきをした瞬間にはそこにそいつがいる。光学迷彩にしても性能が良すぎる。ハナは能力を使い、機械化した眼球は熱探知ができるようになっていた。それでもなお、オルビドは見えなかった。温度すら消えていた。


 ならばと思い、別の機能も使った。相手の心音を可視化する特殊な装置を模倣したものだ。これで壁の向こうの相手すら位置がわかる。昔見た映画から着想を得たものだが、これがなかなかどうして戦闘に便利で、ハナ自身のお気に入りのテクニックでもある。


 しかしこの透明女は心音すら消してしまっていた。まったく見えない。能力を使っている間、この世に存在すらしていないのかと勘ぐってしまう。


 思い起こせばネネを殺した際、銃声がしなかった。それはつまり、音すら消せるということだ。彼女が持っていた拳銃にはサイレンサーはついていなかった。


 これが新型人造人間の能力なのかと、痛感せざるを得なかった。


「さて、ネネを殺したし次はあんたかな」


 オルビドはこちらに向き直り、銃口を向ける。


「ちっ」


 思わず舌打ちをする。ただの銃口ならまったく怖くない。見てから避けるなど造作もない。しかし、見えないところからの銃撃が来るのかと思うと、恐ろしくてたまらない。


「私は今から消える。あなたも殺されて消える。それでおしまい。そのあとはネネの死体が消えるまで、気が済むまで壊す」


 オルビドの声が震えている。怖いのではない。ハナを殺せばネネの死体に徹底的に復讐できると考え、それだけで興奮しているのだ。


「勝手に殺すんじゃねぇよ」


 肉体が再生し、不快音をまき散らしながらネネは意識を取り戻した。


「あれだけしたのにもう動けるなんて」


 ハナに向けていた銃口をネネに向けなおすも、わずかに遅く、オルビドはネネに足払いをされてその場に倒れる。


「倍返しだ。殺して殺る」


 無様に倒れたオルビドへ反撃するべく起き上がるも、ネネよりも相手のほうが早かった。彼女は体じゅうのバネを使って倒れたままネネから大きく距離を取り、すぐに立ち上がる。拳銃を得物にしてはいるものの、オルビドの身体能力は人並み以上に驚異的だ。


「野郎」


 怒りに歪ませたネネの顔は再生し、すでに体は綺麗そのものだ。


「よかった」


 歪んだ笑みを浮かべるオルビドは拳銃の弾倉を入れ替え、少しだけ弾の残った弾倉がコンクリ造りの地面に音を立てて落ちる。


「私のホフマンを死なせた恨み、まだまだ晴らせそう」

「それは大変なことだな」


 指を鳴らすネネ。


「憎しみの連鎖はどこかで止めなきゃならねぇ。そいつはできる限り早いほうがいい。だからテメェはここで殺す」

「そうね。あなたたちを殺したら連鎖は終わる。お願いだから死んで。私のために跡形もなく、私の心の平穏のために死ね」


 スライドを引いたオルビドを最後に、ネネとハナは彼女を認識できなくなった。本当に、違和感のある消え方だった。おそらくそれに秘密はないだろう。なぜならそういう能力なのだから。消えるという概念すら当てはまるのか怪しい、彼女の見えなくなる力は、その違和感すら能力の一つなのだ。


「ハナ、来るぞ」

「私は大丈夫。そっちこそ簡単に死なないでよね」


 消えたオルビドを警戒し、二人は背中を合わせ周囲をカバーする。


「どこにいやがる」


 嫌な汗が背中を流れる。ネネは緊張していた。同じくハナも緊張しているはずだが、背中に感じる彼女の息は恐ろしく普通で、それがまた異常であった。いつどこから撃たれるかわからない状況で、それでもなおまともな呼吸を保っていられるのは異常以外の何物でもない。


 ふと、ハナが動いたのが背中越しに感じ取れた。素早く小さい動きをした。まさか撃たれてしまったのではないか、そう思い振り返る。


 ハナは片手を上げていた。自分の顔の前にやり、機械化した手を握っている。ゆっくりと手を開く。カランと音を立てて銃弾が地面に落ちた。


「ネネ、あいつ銃声も消せる。気をつけて」


 言うや否や、ハナはもう一度銃弾をキャッチした。目にもとまらぬ速さとはこういうことを言うのだろう。


「ぐおっ」


 うっかりしていた。ネネはハナに気を取られ、腕を撃たれた。肉が弾け飛び、血の煙を吸い込み思わず顔を歪ませる。


「が、ぱっ」


 下顎が吹き飛んだ。そして撃たれたことに気が付く。


「おごご」


 残った舌を支える箇所がなくなり、だらんとぶら下がってろくに発音ができない。ハナはおそらくネネが撃たれていることに気が付いているだろうが、音のない銃弾を受け止めるので精いっぱいのようだ。


「んんん!」


 ぞぞぞ。肉体再生の音は耳が千切れたためちゃんと聞こえないが、それでもいい気分がしない。


「マジでムカつくぜ」


 傷が治っていく間も別の個所が撃たれ、まるでジリ貧であった。


 ところで、ハナはなぜ命を奪い取る銃弾を避けられるのだろうか。脳漿をぶちまける刹那にそんなことを考えた。


 姿も見えない、音もしない、発射されてから見える銃弾からどうやって無傷でいられるのか。音よりも速いそれをいかなる手段を以てして無事なのか。


(見えない、聞こえない。そいつがヒントなのは違いねぇんだが)


 地面に倒れ伏すよりも早く復活、再び立ち上がりそしてまたしても凶弾による死を迎え、そして復活。


 そんな流れを数回繰り返すうちに理解してきた。ネネとハナの違いは何か。長く生きているとか記憶がないのはこの場合は関係ない。戦いにおいて、立ち続けられる者とそうでない者。躱せる者と撃たれる者。痛まない者と血を流す者。その違いはごく単純で、決定的なことであった。


 頭から血を流し、目に入る。手の甲でこすり血をふき取るネネの手が撃たれた。


続く。

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