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独りぼっちの紅い風 ~スモールアドベンチャー第四章~  作者: 山羊太郎
第一章 アクト・オブ・バイオレンス
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第八話

 朝。拓海は今まで通り自分の高校へと足を進める。ネネとの遭遇から二日がたっていた。


「なんでこんなことに……」


 彼はテンションが低く、猫背であった。すれ違う人たちや一緒に登校する生徒たちからの視線が痛い。


「おい拓海ィ。なんで高校行くのに元気ねぇんだ? あたしの見間違いか?」


 彼の隣にはネネがいた。制服を着て、拓海と共に登校しているのだ。


「見間違いなんかじゃないよ。ネネが俺の隣にいて一緒に登校してる。どうしてなんだ?」

「どうしてもなにも、なにがどうなってこうなったか、お前が一番わかってるだろうが。それともなンだ? あたしと一緒にいるのが嫌ってか?」


 ケンカ腰の態度で話しかけてくるネネの表情は、言葉から考えられないほど穏やかだった。まるで高校へ行くのが楽しみで仕方がないと言いたげな表情だ。


「なんでこんなことに……」

「同じこと二回言うな、殴るぞ」


 拓海は昨晩の出来事を思い出していた。

 拓海は昨日、普通に登校した。嫌な数学の授業を乗り越え帰宅した。そこまではなんでもない、これまでと同じいつもの日常だ。

 自宅のリビングにはネネがいた。拓海は話題もなくこれまで通りテレビを占領し、ゲームをしていた。

 しばらくゲームに熱中し、どれだけ時間がたっただろうか。空腹のせいでゲームプレイの調子が悪くなるくらいには時が過ぎていた。

「おい、拓海」


 ふと、いままで黙っていたネネが口を開いた。彼女はどこに行くこともなく、リビングで拓海の背中を見つめていた。彼にとって邪魔なだけの視線だ。なんだか緊張してしまう。


「な、なんでしょう?」


 コントローラーを持ったまま振り向き、ネネを見る。彼女はリビングのソファに座っていた。彼女にとってすることがないのだからそこにいるしかないのだ。


「明日からお前と一緒に行動することにしたから」

「そっか。わかった」


 そう言って拓海はゲームを再開しようとテレビを見る。

 凄まじい違和感が彼の心を蝕んでいくものの、あえて気にしないことしていた。考えれば考えるほどゲームに集中できなくなるからだ。

 しかし拓海のゲームのテクニックはひどく、知らないプレイヤーと対戦するにあたってあまりにも弱すぎた。そのせいで彼は嫌でも現実に引き戻される。


「あの……」


 テレビ画面を見ながら拓海は声を発する。


「なんだ、あたしに話しかけてんのか?」


 特になにをするでもなくネネは座って拓海のゲーム画面を見ていた。この返事ができないほど彼は忙しくない。


「俺、明日も学校あるんだけど」


 画面の向こうで拓海のキャラクターが相手プレイヤーによる華麗なコンボを決められて敗北した。


「高校だろ? 楽しみだな」

「ほら、ネネってどこの誰か分からないじゃん? だから俺の高校に来たら不審者になっちゃうんじゃないかなぁって思うんだけど」


 拓海はいい加減にゲームを止めてネネと話し合うことにした。もしかしたら彼女は世間一般の常識を思い出せないのかもしれない。


「ノープロブレム。だってあたしは……」

「待ってくれ、もしかして転入するとか言い出すんじゃないよな」

「明日からお前の学校に転入生として登校する」

「オーマイガッ!」


 なにをどうすれば記憶喪失の人間もどきを高校に入学させることができるのか。住民票はどうなっている? この家から通うなら白銀家との関係は?


 拓海の疑問は尽きない。


「ただいまぁ」


 丁度拓海の母親が買い物から帰ってきた。買い物バッグを持ちリビングに入ってくる。


「お母さん! 明日からネネが高校に行くって本当?」

「ああ、大きな声出さないでぇ。耳がキンキンするわぁ」


 帰宅早々迫りくる拓海に彼の母親は眉間に皺を寄せて彼に買い物バッグを押し付けた。食材を冷蔵庫に仕舞えという意味だ。


「ネネちゃんだってここにずっといたら腐っちゃうわ。まだ若いんだから学校くらいちゃんと通っておかないとね」

「なるほど、って理由が聞きたいわけじゃなくて!」


 言いながらテキパキと効率よく冷蔵庫に食材を片付けていく拓海。


「どうやったら知らない人を転入させられるのさ!」

「拓海くん」


 母親は急に真面目な口調になり語り始める。拓海の人生でここまでシリアスな雰囲気になったのはそう多くない。


「夢っていうのは必ず叶うものなのよ。強く望めばなんでも叶うの」

「なるほど、いいお言葉頂きました。それよりトリックは? まだ教えてもらってないんだけど」

「そんなことよりネネちゃん」


 急に名前を呼ばれ、ソファに座るネネは母親に顔を向ける。


「なんだ?」

「今から明日着ていく制服の裾合わせをしましょう」

「おう! 楽しみでならねぇぞ」


 どこから取り出したのか母親はネネの制服を手に持ち彼女に寄っていく。


「お母さん? まだ返事が……」

「あら拓海くん。女の子のお着換えの場にいるつもり?」

「あたしはそこまで気にしないが。こいつには裸まで見られてるし」

「そう言わないのネネちゃん。ウチの拓海くんの性癖が歪んだらどうするの」

「ははっ、そいつは一体どういう意味だ」


 にやにやしながら二人は拓海への冗談を言う。いくらでも続けていられそうな雰囲気だった。


「くそっ! 覚えてろよ!」


 これ以上この場にいてもどんどん拓海の株が下がっていくだけだ。拓海は捨て台詞を残して自室に退散した。

 それから夕食、風呂とあっという間に時間が過ぎ、拓海は結局ネネがどうやって高校に入れたのか聞かずじまいになってしまった。


麦焼酎が飲みたいなぁ

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