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独りぼっちの紅い風 ~スモールアドベンチャー第四章~  作者: 山羊太郎
第二章 デスウィッシュ~24区決戦編~
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第七十九話 イントロダクション

24区決戦編が始まります。ずっと戦ってると思うよ。

「まったく、正気じゃないわ」


 ハナは誰の耳にも入るような声でぼやいた。


「そうだよ、あたしは正気じゃねぇ。自分がまともだと思ってるやつもここにいるだけで漏れなくイカレ野郎さ」


 人をあざ笑うかのような言い回しと表情でネネが言った。何度目かわからないが、そろそろ慣れてきた。


 この場にはネネ、ハナ、ナナ、イーズ、そしてヘリパイロットのアルゴンがいる。

 あれからすぐに警察がやってきたので、ネネ達は面倒ごとが起きる前にハナの家へと引き上げた。そこで雨に濡れた服を着替えたり、または治療をしたりと準備を進めた。

 一同は現在、24区へ向けてヘリで向かっている。アルゴンには今日は無理をさせてしまっており、ハナとイーズはなんだか申し訳なかった。彼は長時間の操縦が得意ではないからだ。

 ナナは先ほどから何かを考えこんでいるようで座席に座ったままずっと自分の膝を見ている。今まで役に立ったことなどないが、果たして彼女はこれからどのように動いてくれるのだろうか、とハナは半分楽しみにしていた。残り半分は嘲りだが。


「それで、なにか計画はあるのか?」


 体じゅうを包帯まみれにして窮屈そうにしているイーズがネネに質問する。ハヴァの攻撃を一人で受けてまだ自力で動けるというのだから、まったくもって彼の耐久力は目を見張るものがある。人間離れといっていいだろう。


「計画だと?」

「まさか、無いなんてわけないわよね?」


 思わずネネが答える前に口を開いた。どうせネネのことだからノープランで24区に乗り込むつもりだろう。それでもなお、計画の有無を確認しておきたかった。自分で考えるのと、誰かが考えたものを改善するのでは労力が違う。


「あたりめーだ。奴らを皆殺しにして拓海を救う。それだけだ」


 ハナは天を仰いだ。彼女らしいといえばそれまでだ。


「わかったわ。でも相手は未知の人造人間たち。できるなら彼らに生きていて欲しいの。何か新しい情報が手に入るかも」

「そいつは保証できねぇ話だ。あたしの能力じゃあ、ついうっかり殺っちまうかもしれねぇ」


 ネネは誰が見てもわかる嘘をついている。彼女はつい、ではなく間違いなく殺すだろう。今のネネの原動力は怒りだ。24区の連中に散々自分の体を好き放題破壊されたあげく、果てに殺された。だからこれは正当な怒りなのだろう。


「それはそうと、ナナは何しにきやがった、あ?」


 ネネの怒りがナナへ飛び火した。突然名前を呼ばれ、慌てて顔を上げる。


「え、私ですか?」

「テメェ以外に理由なくここにいる奴なんざいねぇんだよ」


 アルゴンはパイロット、ネネは復讐、ハナとイーズは調査。さて、ナナは何がしたいのか、誰にもわからない。


「私は、みんなを助けたい」


 ネネの額に青筋が浮かぶ。だが何も言わない。


「これからみんなは日本から独立するために戦争する。そんなのっておかしいよ。平和に生きられる方法だってあるはずなのに。殺し合いだけが正しいって思いこんでるから、私はみんなを止めなきゃいけないの」


 まだ何も言わない。


「みんな家族みたいな存在だし、私には責任があると思って。ってなんでそんな怒ってるんですか?」

「きれいごと並べてるところ悪いが、さっきも言った通りあたしは奴らを皆殺しにするからよ。愛だ平和だと抜かすなら一人でやってくれ」


 そこで会話は終わった。言い返したいが、これ以上の対話が無駄だと悟ったナナが再び下を向き、ネネは腕を組んで目を瞑る。彼女は顔には出さないが相当な疲労がたまっていた。昨日の夜から腕が折れたまま動き続けてあげくの果てに両腕を失ったのだ。能力を取り戻したことで腕も元通りとなったものの、精神的な疲労はこの場の誰よりも強いだろう。


「ネネ、能力を使うのはいいけれど気を付けてね」


 ハナの声に片目を開けて無言で返事をする。


「あなたの力はまさに人外。能力の使い方をマスターするまでうかつに人に触っちゃだめだからね」


 ネネの能力は『力が強い』。シンプル故に危険極まりないものとなっている。ハナは自分の能力を完全制御できるので問題はないものの、もしもここにいるのが全盛期のネネだとしたら握手すら危険だろう。


「皆さん、もうすぐ到着しますよ」


 ヘリパイロットのアルゴンが機内放送で呼びかける。まもなく24区の上空に到達する。目的は白銀家の救出。ネネは相手の皆殺し。ハナは新型人造人間の調査。ナナは家族と呼ぶ彼らの説得。


「それじゃあ始めるか」


 唐突に包帯まみれのイーズが立ち上がり、どこからかパラシュートを取り出してきた。


「パラシュートの使い方を説明するぞ。これが無いとまともな着地はできないと思え!」


 やたらと熱のこもった声量で話すイーズ。以前パラシュートに関して何かあったのだろうか。


「いいや、必要ねぇ」


 ハナ、ナナそしてイーズは絶句した。ネネの言葉の意味はつまりパラシュートなしで降り立つということ。このまま24区のヘリポートへ着陸することが、どれだけ命知らずな行動か彼女はわかっていない。


「おいパイロットのあんちゃん、ここは24区か?」


 席を立ち、直接アルゴンに話しかける。声がかかるとは思っていなかった彼は驚きの声を上げた。


「え、えっと、24区の上空、ですけど、着陸は厳しいかもしれないですね。だから、えっと、パラシュートを使ってもらったほうがありがたいんですけど」

「バカが、必要ねぇって言ってんだろ」


 そう言ってネネはヘリコプターのドアを開けるとそのまま飛び降りてしまった。


「バカ!」


 慌ててハナもネネを追って、ヘリから飛び降りた。


「正気じゃないのはあいつらだろ……」


 その様子を見ていたイーズはあっけに取られる。


「これどうすっかな」


 ついでに余ってしまったパラシュートを見る。


「あの、よかったらそれ使ってもいいですか?」


 そんなイーズにナナが声をかけた。


「君は飛び降りなくていいのかい」

「私はあの人たちみたいに頑丈じゃないから」


 ナナはパラシュートを受け取ると装着し、ヘリから飛び降りた。まだ説明をしていなかったが、彼女が使い方を知っていることを願うばかりだった。


「みんな生きて帰れよ」


 闇に飲まれてすでに姿が見えなくなった三人を見送り、イーズは扉を閉めた。


「アルゴン、燃料はどれくらいある?」

「長くは飛べないね。一度補給に戻ってもいいかな」

「わかった。手早く済ませてまた戻ってこよう」


 かくして、三人の人造人間はそれぞれの目的のために、国の私有地へ無断侵入をしたのだった。


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