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第七十七話

「あんたに記憶はないが、これからすべて思い出せる。全部だ。造り出されたときから全部だ」


 それを聞いてネネは気持ちが高鳴った。今までのストレスの原因である記憶喪失が解消されるというのなら、受け入れない理由がない。


「マジかよ。思い出させてくれよ」


 ネネはクリスマスプレゼントを受け取る直前の子供のように席を立ち、もう一人にせがんだ。一刻も早く記憶を取り戻したい。


「だがな、思い出したら最後、あんたは死ぬ」


 そんなことを彼女は真顔で言い放った。


「は? なにを言ってんだ」

「あんたは今、ハヴァに両腕もがれたうえにモツ晒して、そんでもってきたねぇ地面でくたばってる。覚えてるだろ。ああ何も言うな、事実はどうあがいたって覆せねぇ。世の中の道理ってやつだ」

「だったらどうすりゃいいんだよ。死ぬのが受け入れられないからって、永遠にあんたとおしゃべりしてろってのか? あたしは嫌だぜ」

「あたしからもそんなの願い下げだ。だからよ、もう一個オプションを用意してある。『能力の開放』だ」


 どくんと心臓が跳ねる。どんなものか聞かなくてもわかる。ネネの中で切れていた何かがつながったような気がした。


「あんたは一度死ぬが、人造人間としての能力を取り戻して蘇る。だが記憶は戻らねぇ。両方手に入れられるほどの余裕はねぇからな。さあ選べ。能力か、それとも記憶か!」


 もう一人のネネがすぐそばまで顔を近づけてくる。


「……選べだと? なめんなよ」


 ネネは立ち上がり、己の胸を叩く。


「あたしは人造人間ナンバー9、白銀ネネだぞ! 能力もねぇのに死ねるかよ!」

「よく言った! その言葉を待ってたぜネネ! あんたはどうしようもねぇ馬鹿野郎であたしはうれしいぜ!」


 もう一人のネネは邪悪な笑みを浮かべて壁を指さす。そちらを見ればいつの間にか壁に扉ができていた。そこから出ていけ、そういう意味なのだろう。


「行け、そうすりゃあ辛く苦しい日々に戻れるぞ。楽しんで来い」

「おうよ、くそ野郎」


 ネネに死ぬ気など毛頭ない。生きて、そしていつか記憶を取り戻す。人造人間はすべからく傲慢で自分勝手だ。そして誰もが強欲さを持ち合わせている。人造人間ネネはこれ以上なにも失いたくなかった。


 扉に向かって歩み始め、すぐにその足を止めて振り返る。


「そういやあんたはここにいるつもりか?」


 振り返るもそこにネネはいなかった。代わりに知らない女が立ってこちらを見ている。


「誰だあんたは」


 眼鏡をかけ、疲れ切った表情の女はやさしいまなざしでネネを見ている。


「あんた……どこかで会ってる、よな」

「私はあなたの中の思い出よ。いつか私が誰だか思い出してくれるかしら」


 知らない女はネネを追い払うように手を振る。


「ほら行って。仲間が心配してるわよ」


 記憶がないのだからどんなに頑張っても思い出せるわけがなく、ネネはおとなしく扉の先に進むことにした。


「行ってくるぜ」


 それだけ言うとネネは扉の向こう側へと消えた。


「私のかわいい子供。頑張ってね」


 女は一人その場に残された。さみしそうにネネの後ろ姿を見送って。






 ハヴァの放った光球は道路に対して破壊の限りを尽くし、やがて消滅した。

 この場において無事でいられた人物は三人。コンクリート、アスファルトを軽々とめくりあげるほどの攻撃を受けてなお、ハナとナナはそこにいた。残りの一人は攻撃したハヴァ本人だ。


「イーズ!」


 ハナの悲痛な叫びが雨の中を通る。彼はハナとナナを守るため、あえて光球の前に飛び出した。身を挺して三人分の威力を受け、そして塵のようにその体は吹き飛んだ。コンクリート造りの塀に激突して、体中から血を流して地面に崩れ落ちる。

 イーズは全く動かない。まるで死んでしまったかのようにピクリともしない。ハナは思わずそちらに駆け寄ろうとしてやめた。そうしてしまえばハヴァに背を向けることとなる。これ以上隙を見せてはならない。次に狙われるのはハナとナナなのだから。


「あいつ頑丈だな。俺の攻撃食らったら普通消し飛んでるぞ」


 ハヴァが顎をさすりながら言う。すでに彼は立ち上がり、逃げるも戦うも準備完了の状態であった。


「まぁあれだけ血を流せばすぐに死ぬだろ」


 ハナの中で何かが切れた。プチっと、そんな音が聞こえたような気がして目の前が歪む。鼓動が早くなり、息苦しくなる。


 彼女には守らなければならない決まりが二つある。


 まず一つ目。人造人間の能力をむやみやたらに使用してはならない。人造人間は一般に知られてはいけないからだ。ハナは今からこれを破る。

 そして二つ目。相手が人造人間であっても殺しはご法度。殺すことは簡単だが証拠を消すことはとても難しく、なによりも自分の心がすり減っていく。しかしハナはこれも破ろうとしている。

 イーズという男はハナにとって幼馴染であった。16年来の古い付き合いだ。その辺の人間とは命の価値がまるで違う。少なくともネネよりも大切な人間だ。そんな彼が死にかけているのならばハナは当然怒り狂う。



次回、白銀ネネが戻ってくる。

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