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第七十二話

「車に向かったわよ」


 イーズの言葉が気になり、ハナはそう返した。それにしても違和感がある。ネネは外に出たはずだ。イーズがここにいるということはどこかで彼と必ずすれ違っているはず。


「俺ネネのこと見てないけど」

「あいつ!」


 違和感が確信に変わった。ハナは立ち上がり、大慌てで階段を駆け下りる。廊下から玄関を見る。なにもない。反対側のリビングを見る。


「なんてこと……」


 リビングの窓が開け放たれている光景が目に入った。これはつまり、ネネは玄関ではなく、そこから出て行ったということだ。あの傲慢で短気なけが人はイガラシク以外に行かなければならないところがあるらしい。


「ハナ!」


 遅れて続いてきたイーズもネネがどうしたのか瞬時に理解し、玄関へ向かう。


「急いでネネを探して!」


 空きっぱなしの窓から見える外は雨が降っていた。


「あいつ自分がどれだけ危険な状況かわかってないのかしら!」


 大きすぎる独り言とともにハナは傘も差さずに玄関から外へ飛び出した。





「体が寒い。血が足りてねぇ」


 ふらつく足でネネは白銀家へと戻るべく歩いていた。靴はなく、裸足で濡れたアスファルトを進む。24区の時に来ていた手術衣は捨て、ハナから借りたパーカーを素肌の上に羽織っているのみだ。下着も借りたがサイズが合っておらずきつい。ズボンをはき忘れたのは今更後悔したところで遅いだろう。それ以上に寒いのは出血が多すぎるからだ。自分が一番わかっていた。


「拓海、()()()()()()()()()()()


 いくらハナの家と拓海の家が近くにあるといっても全身がくまなくびしょぬれになるのは避けられなかった。髪の毛から水滴を垂らしながらネネは拓海の家のインターホンを押す。


「くそっ、なんだよ」


 拓海は出てこなかった。それもそのはず、現在彼は母親とともにドライブに出かけている。駐車場を見るといつも置いてある車がない。あまりにも使わないので故障車かとネネは思っていたほどだ。


「こんなタイミングで出かけるとか運悪いな、あたし」


 玄関を壊してしまおうかと考えたがそこまで体力が残っていなかった。ネネはおとなしくハナの家へ戻ろうと、はぁ、とため息をついてから玄関の扉へ踵を返す。


「よう、ネネ」


 いつの間にかネネの背後に誰かがいたようだ。ネネと目が合うとその人物は片手をあげてあいさつしてきた。


「テメェは……ハヴァか」


 ついさっき会ったばかりだからあいさつはしない。敵同士で仲良くするのは気分が悪くなりそうだ。


「なんでここにいやがる」

「言っただろ、お前をすぐ連れ戻すって」


「あれから一時間も経ってないぜ。流石にせっかちすぎやしねぇか?」

「そうは言ってもなぁ、俺も明日でいいかって思ってたんだけどよ、ボスが今すぐ連れてこいってうるせぇんだわ」


「あたしを逃がした意味がまるでねぇな」

「まったくだぜ。というわけでネネ、俺と一緒に行こう」


「嫌に決まってるだろボケナス。人様の腕千切っといて誰が仲間になれだ。なめんな」


 ネネはハヴァから距離を取りつつ道路へと出ていく。この場面に白銀家とその敷地は巻き込まれるべきではない。


「ネネの腕切った医者どもはあんたが殺しただろう。ボスは医者どもが治療すると思ってたらまさか腕をもぐとは思わなかったって言ってたぜ」

「だとしても目ん玉潰す指示出したのは変わりねぇ。どう言い訳したところでどこにも行かねぇからな。あたしは見ての通り死ぬほど疲れてんだ、わかったら消えてくれ」


 一瞬、ネネの体がふらつく。気を抜いたら気絶しそうなくらい疲弊し切っている。もう雨風凌げる場所ならどこでも眠れるかもしれない。


 ハヴァはぼりぼりと頭をかく。強情なネネにかなり困っている様子だ。


「そうか。やっぱり簡単にはいかねぇよな」


 彼は少しだけ目を瞑り、すぐに目を開けると自分の手のひらを見つめた。


「俺はネネのことを家族だって思いたかった。ただの人間とは違って数が少ない俺たちだから、ちょっとでも多くの人造人間と一緒にいたいんだ。人造人間って自分勝手な奴らばっかりだし俺もそうだと思う。でもこの気持ちは本気なんだぜ。だからよ……」


 ハヴァは手を強く握りしめてネネをにらみつける。


『能力開放』


 さっと手を払い、青白い縦一閃がネネへ向かう。ネネはそれを避けられなかった。恐ろしく速いわけではなかったが、体がすでに言うことを聞かないのだ。縦一閃はネネを通り抜けるとそのまま虚空に消えた。


「なっ」


 ネネは言葉を失った。体が急に軽くなったからだ。左腕を無くし、バランスが崩れかけていた体が急にまっすぐになる。ばしゃり、とネネの右側でなにか重いものが落ちる音がした。雨が降っているせいで水たまりが跳ねて足に直撃する。

 なにが起きているのか、頭では理解せずとも体が悲鳴を上げ始めていた。現実を見ろとネネの本能が警告を発する。

 

残った左目で右を見る。鼻が邪魔でなにも見えない。



 顔を動かし、下のほうを見た。


「あっ」


 一本の腕が、ネネの足元に落ちていた。なぜここに人の腕が落ちている。


ネネは左腕と右目を失った。次は何を喪失したのか。

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