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第六十一話

「さてと」


 ハナが拓海の隣に座る。向かいのソファにナナが座っていた。ナナと目が合い、拓海は思わず会釈する。


「みんな知っての通りネネが拉致られた。どこの誰かわからない人造人間によってね」


 テーブルに足を組んで乗せるハナ。わざと乱暴に足を乗せたようで大きな音がリビングに響く。


「うっ」


 そのせいでジュースを飲もうと手を伸ばしかけたナナが怖気づく。


「あの人造人間は私達イガラシクの関知しない未知の人造人間なの。つまり完全にアンノウンってわけ。わかる?」


 ハナの目線はナナにある。明らかに威圧している。それもそうだろう。ナナはあの襲撃者達のことを知っていた。ここにいるのは生きている情報源だ。


「はい」

「それで私の言いたいことは一つ。残念ながら一個だけ。それをあなたはとても良く理解しているはず。私はそう信じているわ」


 わざわざ遠回しに言う辺り、ハナはネネと同じく性格が悪いのか、それとも相当苛立っているのか、もしくは両方か。


「あの人たちは私の家族です。今はもう違いますけど」

「続けて」

「私たちは東京24区で実験されていました。人を殺すための力を持ち、そして傷つけられてもすぐに再生します。人間の臓器の研究のために私たちはそこでずっと過ごしていました」


 あまりニュースを見ない拓海ですら東京24区を知っている。医療の発展のために作り出されて人工島だ。国家機密を扱うとのことで関係者以外立ち入り禁止になっている。ナナがそこにいたとなれば外国からやってきたと言われるよりも説得力がある。


「私たちの生まれはもっと別のところなんですけど、24区へ売られたんです。自分たちがどこの誰かよくわからないままあの島で育って、血はつながっていないけどみんな家族みたいなものなんです」

「家族とか、売られたとか、胸糞悪いからその話は飛ばしてくれない?」


 今まで以上に攻撃的な発言をするハナに、拓海は正直嫌悪感を抱いた。怒り狂う内容でもないというのに、なにが彼女の癪に障るのだろうか。いつか知りたいが、しかし今ではないので拓海は黙っていることにした。


「ええと、じゃあたぶんネネさんは24区にいます。でもそこへは簡単には行けないと思います」

「なんで? 世界に誇るリニアモーターカーがあるんでしょ。偽物のIDを用意すればいいだけじゃない」


 24区へは海底トンネルを通るリニアモーターカーを使う必要がある。イガラシクのルートを使えばなんとかなるとハナは睨んでいた。


「その、昨日私が壊しちゃったんです。急に止まれなくてホームごと」

「はぁ」


 片手で目頭を押さえるハナ。科学技術の結晶が壊されてしまったことによるショックではなさそうだ。


「わかった。あの島への行き方はなんとでもなるわ。それよりも」


 ハナは机に乗せた足を下ろし、前傾姿勢になった。膝の上で両手を組み、じっとナナを見つめる。


「あなた含めた24区の連中は新型の人造人間ってことでいいのよね」


 ナナがうなずく。


「はい。みんなそれぞれ別の能力を持っていて、それとは別に自己再生ができます」

「能力が二つあるの? ああ、なんてこと。それじゃ対策のしようがないじゃない」

「あの、ハナ先輩、対策ってなんのことを言ってるんですか」


 今まで黙って話を聞いていた拓海が手を上げた。


「決まってるじゃない。ネネを取り戻しに乗り込むのよ。初期型と通常型の人造人間なら情報があるのに、これじゃあ丸腰と変わらないわ」

「あの24区ですよ! ハナ先輩が行くんですか?」

「違うわよ。イーズがもう動いてるわ」

「え、そういえばあの人の姿が見えない」


 イーズはハナ達と一度この家に戻ったあと、すぐにどこかへ行ってしまった。また戻って来るのかと思っていたが、ハナの言い方からするにすでに行動に移しているらしい。


「さて、ナナちゃん。私の友達がもう24区へ向けて移動しているの。できれば情報がたくさん欲しいんだけど、もっと話してくれるかしら?」

「それなら、条件があります」


 消え入りそうな声でナナが言う。


「条件? あなたそんな立場なのかしら」

「知ってることを全部話すので私もなにか手伝わせてください」


 ナナの言葉を聞いてハナは無言のまま驚いたような表情を作った。拓海からはこれはわざとではなく本気の顔のように見えた。


「手伝う? 本気? 普通ここは命だけは助けてほしいって言うところじゃない?」

「そうじゃないんです。どうせ死んでも生き返れるしそこは関係ないんです。あの人たちはこれから世界にケンカを売ろうとしているんです。それを止めないとみんな殺されちゃう」


 ハナは考えた。今まで対応したろくでもない人造人間たちは皆そろって世界に不満を持って動いていた。今回の件もそうだ。しかしそれを止めようとする人造人間は一切いなかった。人造人間というのは自分勝手で自己中心的な性格が多い。ハナ自身も自分のために人造人間の管理と、そしてネネの世話をしている。

しかしハナの目の前にいる幼い人造人間の子供は自分のことよりも誰かのことを気遣っている。


「面白いこと言うわね」


 もし言葉の裏に人造人間の世界認知の危機を憂いていないのであれば、ナナの心はとても人間的だ。今まで出会ったどの人造人間よりも人間に近い。


「わかった。全部話してくれたらあなたをこちら側の仲間にする。そしたら一緒に24区に乗り込みに行きましょ」


 先ほど拓海が見た怖いハナはそこにはおらず、高校で見るお姉さんのハナがナナへと手を伸ばしていた。


続く。

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